酸性溶液中における鉄電極の腐食電流測定
I- はじめに
腐食電流は、腐食速度などを算出するために使用します。本資料では、EC-Labソフトウェアの解析ツールである、Tafel fitおよびRp fitを使用して腐食電流を特定する方法を示します。
II- 実験条件
- 作用電極: 鉄製のRDE(回転ディスク電極)、動作範囲: 0.0314cm2、電極の回転速度: Ω = 800rpm(回転/分)
- 対電極: プラチナ線
- 参照電極: 飽和カロメル電極(SCE)
- 溶液: HCl(0.1M)
III- 手順の説明
図1 – LPの[Parameters Settings]ウィンドウ
図2 – 定常状態曲線I対EWE
電流は、掃印速度が遅い(10mV/s)リニアスイープボルタンメトリ(linear sweep voltammetry:LSV)を使用して測定しました。電位は-0.6~0V/SCEの範囲で掃印しました。
EC-Labで使用したテクニックは、Linear Polarization(図1)です。パラメータの設定値は次のとおりです。
[Parameters Settings]タブ内:
· 第1ブロック: デフォルト値
· 第2ブロック:
⇒ Scan EWE with dE/dt = 50 mV/s from EI = -0.6 V vs. <None> to EL = 0 V vs. <None>
⇒ Record <I> over the last 100 % of the step duration, average N = 50 voltage steps
⇒ with I Range = Auto and Bandwidth = 5 – medium
注: [Advanced Settings]タブでは、EWE maxとEWE minをそれぞれ+1Vおよび-1Vに設定しました。これにより、電位ステップの分解能を300μVから50μVにあげることができます(『Technical Note #8 – Adjustment of the potential control resolution』を参照)。
IV– Stern法(Tafel fit)
図3 – Tafel Fitによる分析
Stern関係は、次のように記述できます。
log |I| vs. EWEを示すグラフから、簡単な分析により、Icorr、Ecorr、βa、およびβcの値を特定することができます。 Tafel fit(EC-Labのグラフ分析ツール(『Quickstart – Analysis Graph Tools』を参照))では、これらの値を自動的に特定できます(図3)。
注: 腐食速度は、当量(反応に関与する電子の数で原子量を割った値)、物質の密度、および活性界面積の値を入力すると、特定できます。
V– SternおよびGeary法(Rp fit)
図4 – [Rp fit analysis]ウィンドウ
分極抵抗の式は、次のように定義できます。
ここに、
これは、E = Ecorrの場合、次のようになります。
そして、Rp,Ecorr、βa、およびβcの値がわかれば、次の関係からIcorrの値がわかります。
Rp,Ecorrの値は、腐食電位周辺のEWE vs I グラフを表示し、曲線の勾配を計算するだけで特定できます。
Rp fit(EC-Labのグラフ分析ツール(『Quickstart – Analysis Graph Tools』を参照))では、Rpの値を自動的に計算できます。また、ターフェル係数βaおよびβcがわかれば、腐食電流Icorrを特定することもできます。ユーザは、近似を実行する前に、これらの値を[Rp fit analysis]ウィンドウ(図4)に入力するだけで済みます。
VI– 結論
Tafel fitで得られた腐食電流と、Tafel fitで得られたターフェル係数βaおよびβcの値を使用し、Rp fitで得られた腐食電流を比較すると非常に近い値になりました。
- Tafel fitの場合: Icorr = 0.347μA
- Rp fitの場合: Icorr = 0.355μA
また、Tafel fitを使用して、腐食速度を求めることもできます。本実験で得られた値は、次のとおりです。
- 腐食速度 = 0.130mmpy
参考文献:
Traité des Matériaux, 12, Corrosion et Chimie de Surfaces des Métaux, D. Landolt, ed., Presses Polytechniques et Universitaires Romandes, 2003.
Cinétique électrochimique, J.P. Diard, B. Le Gorrec, C. Montella, ed., Hermann, 1996, p. 204.
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