電気化学反応の反応速度測定 LevichおよびKoutecký-Levich分析ツール
I– はじめに
EC-Lab v11.00以降では、LevichおよびKoutecký - Levich分析ツールを利用できます。
本稿では、これらの分析で実施する事柄および得られる情報について説明します。
図1:一様に回転するディスク電極での流体の動き。
VXは流体の軸流速度
BioLogic社のBluRev RDE 回転電極システムと電気化学計測器を併用すると、回転数により対流の速度を制御して電気化学測定が行えます。そして、酸化還元反応に含まれる化学種の定常状態での物質移動などの解析が行えます([1,2])。
回転ディスク電極近傍の溶液の更新は、電極に対して垂直方向への溶液の対流により発生します。溶液はその後、遠心力によりディスク電極外側へと運ばれます(図1)。
対流を制御し、定常状態で電気化学計測および解析を行うことは、酸化還元反応を速度論的に評価することになります。また、対象の化学種および酸化還元反応の速度論的因子の特定にいたるいくつかの関係を推定することもできます。Levich分析では、電気化学活性種の拡散係数を特定できます。また、Koutecký-Levich分析では、反応の速度定数および対称性因子等を特定することができます。
II– 回転ディスク電極に関する実験: LEVICHプロット
Ⅱ-1. 目的と原理
本実験の目的は、酸化還元種の拡散係数または濃度を特定することです。
RDEでは、電流密度i = I/A(Aは電極の面積)が次のように表現されます。
(還元種Rの酸化の場合)、
(酸化種Oの還元の場合)。
idRとidOはそれぞれ、酸化反応および還元反応における物質移動が制御された電流密度です。nは反応に関与する電子の数、Fはファラデー定数(96500 C/mol)です。RbulkおよびObulkはそれぞれ、単位をmol/cm3とする化学種RおよびOのバルク濃度です。DRおよびDOはそれぞれ、単位をcm2/sとするRおよびOの拡散係数です。νは電解液の動粘度係数(cm2/s)、ωは回転速度(rad/s)です。
物質移動が制御された定常電流の値を回転速度の平方根の関数としてプロットすると、グラフは直線(Levichプロット)になり、勾配はLevich勾配と呼ばれるものになります。
この勾配の傾きは、以下のようになります。
(酸化の場合)、(還元の場合)、
これらの式から、化学種の濃度および電解液の動粘度係数がわかれば、酸化還元種の拡散定数が得られます。
Ⅱ-2. 実験
使用した電解液には、0.01mol/LのK3[Fe(CN)6]と0.25mol/LのKClが含まれています。電解液の温度が20°C、動粘度係数が10-6cm2/sであるとします。RDEの電極材料はPtです。
ディスクで発生する反応は次のとおりです。
EC-Labソフト上で、「Levich plot」の測定テクニックを選択すると、Levich実験の実施に必要な一連の測定がロードされます(図2)。
図2:〔Levichプロット〕の実験
BluRev RDE 回転電極システムを使用する場合には、ソフト上で回転数の制御も可能です。(別途接続ケーブル必要)
LSV測定では、図3に示すパラメータを入力する必要があります。(この測定系でのOCVは、約0.3~0.5V/SCE)
図3:LSV手法で入力すべき設定値
実験結果を図4に示します。
(C:Users...DocumentsEC-LabDataにも格納されています)
図4:FeⅢの還元におけるLevich plotの実験結果
(反応が物質輸送に支配される領域では電位に依存しない定常電流が観察される。)
回転速度が遅いと、ヒステリシスが見られます。
これは、実験が定常状態にない(掃引速度が速すぎることに起因する可能性が高い)ことを示しています。回転速度が増すと、定常状態になる傾向が見られます。
Ⅱ-3. 分析
〔Levich Analysis〕ウィンドウを開きます(図5)。
図5:〔Levich Analysis〕ウィンドウ
図6:Levich分析パラメータ・ウィンドウ
図6で示すパラメータ(動粘度、電極の表面積、FeIIIの濃度)を入力します。
(拡散係数は分析によって計算されます)
図6で示すLevich式は、係数以外、式(1)および(2)と同じです。
係数が異なるのは、
前述の式がEC-Labソフトで使用されているように、回転/分(rpm)の回転速度として記述されているためです。
拡散係数は、計算対象の値であるため選択する必要があります。
[Calculate]をクリックすると、
Levich曲線(実験点と最小二乗回帰曲線)が表示されます(図7)。
図7:電位-0.05Vにおける物質移動を制御したことによる限界電流でのLevich曲線
(各回転数での限界電流値対回転角速度の平方根)
FeIIIの計算値は6.7×10-6cm2/sです。この結果を使用し、拡散係数がわかっていれば、化学種の濃度を計算できます。その場合、分析ウィンドウ(図6)で、計算対象のパラメータとして濃度を選択する必要があります。
Ⅲ– 回転ディスク電極に関する実験:KOUTECKÝ-LEVICHプロット
Ⅲ-1. 目的と方法
Koutecký-Levich外挿を使用して同じ結果を分析すると、反応の標準定数および対称性因子を特定できます。
Koutecký-Levich外挿の目的は、電位Enに対する電子移動電流Itを特定することです。
これを使用すると、反応(5)の標準電位E°がわかれば、対称性因子α(αr(還元反応)およびαo(酸化反応))および反応の標準定数k°を特定できます。
本法の流れは、以下の点にあります。
- 電位Enのrpmで表現された回転速度の逆2乗根の関数として電流または電流密度の逆数をプロットする。
- 得られた線を0まで外挿(ω-1/2 → 0、ω → ∞)し、電位Enの電子移動電流Itを得る。
- En(ターフェル表示)の関数としてlog|It|をプロットし、反応の対称性因子αおよび標準定数を得る(標準電位が判明している場合)。
Ⅲ-2. 分析
ここではLevich分析と同じデータを使用し、Koutecký-Levich分析ツールを開きます(図8)。
図8:Koutecký-Levich分析ウィンドウ
図9:Koutecký-Levichのパラメータ
図9の分析パラメータ・ウィンドウで表示されているように、
[Parameters]を入力し、[Calculate]をクリックします。
すると、2つの新しいウィンドウが開きます。
. それぞれ電位1/Iおよびω-1/2を選択。
. ターフェル曲線log|It|対E: 値Itは上記の1/I対ω-1/2曲線を電位ステップごとにω-1/2
→ 0で外挿することにより取得。
本計算は、選択した電位から直線のターフェルプロット(対数表示)が得られるのであれば、精度が高いと考えられます。図9の場合は、0.3~0.1V/SCEが大きすぎるかもしれません。
0.2~0.1V/SCEを選択すると、図12のように直線のターフェル曲線が得られます。
これらの電位領域の場合、k°およびαに対して計算された値はそれぞれ6 × 10-2cm2/sおよび0.526になっています。
k°が想定より大きい値になる場合は、たとえばRDEの電極表面の洗浄などで改善される場合もあります。
Koutecký-Levich法を使用した電子移動反応速度パラメータの特定はk° ≤ 数10-2cm.s-1の値、つまり反応速度が比較的遅い測定系に対して実行可能であることに注意する必要があります。k°が大きな値の場合、It-1の外挿値は0に近づき、その逆数値に対する不確実性が大きすぎてk°をうまく特定することができません。
詳細については、参考文献[1,2,4,5]を参照してください。
Ⅳ-結論
「Levich plot」手法とLevichおよびKoutecký-Levich分析について説明しました。Levich分析を使用すると反応種の拡散定数を特定できます。また、Koutecký-Levich外挿法を使用すると、反応速度が遅い測定系での対象の反応に対し、電子移動の反応速度パラメータを特定できます。
Ⅴ-参考文献
- J.-P. Diard, B. Le Gorrec, C. Montella, Ciné-tique électrochimique, Hermann, Paris, (1996) 120, 129.
- A. J. Bard, L. R. Faulkner, Electrochemical methods, Fundamentals and Applications, 2nd ed., Wiley, New York, (2001), 335
- Technical Note#21 “External device control and recording”
- F. J. Vidal-Iglesias, J. Solla-Gullón, V. Montiel, A. Aldaz, Electrochem.Com.15 (2012) 42
- J. Koutecký, B.G.Levich, Zhurnal Fizicheskoi Khimii USSR 32 (1958) 1565.
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