電源装置使用時の電圧降下の計算とリモートセンス

電源装置使用時の電圧降下の計算とリモートセンス

電圧降下の計算

電源装置を使用するうえでよく直面する問題の1つは、電源装置を測定対象のデバイス(DUT)または対象のシステムに接続する際に、電線による電圧降下をうまく考慮できず、意図した電圧を印加できないことです。負荷に大きな電流が流れると、電線による電圧降下が大きくなり、テスト対象のデバイスの故障やシステムの誤動作の原因になる可能性があります。

ただ、実際には電線による電圧降下は、非常に簡単に計算ができます。

E = 2 × I × R

この式は基本的にはオームの法則ですが、電源装置を負荷に接続する際は2本の電線があるため、電源装置と負荷の間の電圧降下Eは、オームの法則を使用して通常計算する値の2倍となります。Iはテスト中に測定対象デバイスの負荷によって流れる電流で、Rは電線1本あたりの抵抗です。この計算を行うときは、DUTまたは負荷が引きこむ最大電流で計算する必要があります。この計算で得られた値が、そのシステムの電圧降下の最大値となります。

最大電流がわかったら、電線の抵抗を把握する必要があります。右表に一般的な銅線の各サイズの100フィート(約30.48m)あたりの抵抗を示しますので、参考にして計算を行ってください。たとえば、サイズがAWG12(約3.3SQ)で長さが10フィート(3.48m)のケーブルの抵抗を計算すると、0.162 / 10=0.016Ωとなります。許容電流の列は、記載の電線サイズが安全に使用できる最大電流値を示しています。 それでは、実際に例を使って電圧降下を計算してみましょう。サイズがAWG12で長さが10フィート(約3.48m)の電線を使用し、負荷の消費電流が20 Aの場合、電線による電圧降下は次のとおりです。

E = 2 × I × R = 2 × 20 × (10/100 × 0.162) = 0.65V

計算で電圧降下がわかったら、この値がアプリケーションで許容できるかを考えます。もし許容できない場合は、電線のサイズを大きくして電圧降下を減らすか、リモートセンス機能がある電源装置を使用して電圧降下を補正します。

※ 本資料は米国AMETEK Programmable Power社の資料に基づくため単位がフィート表記ですが、実際には「電線 抵抗値」などのワードでWEB検索するとメートル表記の資料が出てきます。

リモートセンス

前項の通り、負荷に大きな電流が流れると負荷の両端の電圧降下が大きくなり、測定対象のデバイス(DUT)の故障や誤動作の原因となる可能性があります。 この問題の解決策の1つが、リモートセンスを使用することです。負荷に対して、電流を流すリード線とは別の2番目の電線(センスワイヤー)を追加で接続することで、適切な電圧がDUTまたはシステムに印加されていることを確認できます。

電圧降下の計算方法は前項記載の通りです。たとえば、サイズがAWG14の電線を使用していて最大15 Aが負荷に流れる場合、長さ10フィート(約3.48m)での電圧降下はわずか0.385 Vです。
しかし、一部のアプリケーションではこの0.385Vが許容できない場合もあります。

電圧降下を補正するために、リモートセンスと呼ばれる機能を使用します。リモートセンス機能を使用する場合、電源装置は出力端子の電圧ではなく、リモートセンス入力の電圧に基づいて出力電圧を調整します。電源装置と負荷の間の電圧降下を補正するため、出力は負荷が必要な電圧よりも高くなります。リモートセンス機能を使用する場合、センスラインという電源装置から負荷へもう1セットの電線を追加します。接続方法は図1の通りです。センスケーブルを負荷の電源入力端子と電源のリモートセンス入力に接続します。さらに、ケーブルシールドの一端をセンスコネクタの近くのアースに接続します。もう一方の端は接続する必要はありません。

図1:リモートセンス使用時の接続方法

適切なケーブルを選びましょう

AMETEK Programmable Power社の電源装置では、リモートセンス入力の入力インピーダンスは通常1kΩです。つまり、センスラインに流れる電流は非常に少なく、センスラインの電圧降下は非常に小さくなります。センスラインの電線サイズを選ぶ際は、電圧降下が100 mV未満になることを確認してください。流れる電流量などにもよりますが、通常24 AWG~18 AWG程度の電線が必要な場合が多いです。また、負荷回路からの放射ノイズを最小限に抑えるため、リード線とセンスワイヤを図1のように、できるだけ短くし、シールドされたツイストペアケーブルを使用する必要があります。ツイストペアケーブルを使用することで、ノイズが乗るのを防ぐだけでなく、リード線とセンスライン間のカップリングも減少させることができます。また、高ノイズ環境ではセンスワイヤのシールドも行ったほうが良いでしょう。

電線をツイストにすることで、ケーブルの寄生インダクタンスも減少します。 これにより、高周波におけるソースインピーダンスを低く維持することができ、電源の動的な応答性能が向上します。また、インダクタンスを低く保つことで、負荷電流の変化による高周波電圧スパイクの防止にもなります。

インダクタンスを低く保つほうが良いもう1つの理由は、電源装置の出力と負荷の間のインピーダンスにより、(本来電源装置が持つリップルとノイズに比べて)リップルとノイズがより悪化する可能性があるためです。もしこれがアプリケーションの問題である場合は、高周波電流をバイパスするために負荷端子にバイパスコンデンサを追加すると良いでしょう。

線による電圧降下を正しく理解し、リモートセンス機能を使用する際はリード線とセンスワイヤの両方に適切なケーブルを選択および使用することにより、DUTや対象システムに最適な電圧で品質良く電力を供給することができます。

※「リモートセンス」という言葉は「リモートセンシング」とも言います。
 どちらもよく使用されますが、本資料では「リモートセンス」に統一しています。

参考資料

AMETEK Programmable Power社のブログ
①「How To Calculate Voltage Drop to Prevent System Problems」
②「Remote sensing compensates for power lead loss」

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株式会社東陽テクニカ eモビリティ計測部