ネットワークのスケールアウトに欠かせないブレイクアウト技術とは?
今回は、ネットワークのスケールアウトに欠かせないイーサネットのブレイクアウトついて詳しく解説します。
企業や個人でネットワークの依存度が高まるにつれ、通信事業者やサービスを提供している企業は、より大きな帯域を必要とする高性能なサーバやネットワーク機器が必要となります。しかしながら、その度にネットワークをいちから再設計することは金銭的、時間的な面でのコストがかかり現実的ではありません。
最小限な機器投資でネットワークをスケールアウトできる技術として、イーサネットのブレイクアウトは注目されています。
イーサネットのブレイクアウトとは
イーサネットのブレイクアウトとは、分岐したケーブルを使うことでイーサネットの帯域を集約または分散する技術です。
接続はブレイクアウトケーブルを用いて行います。1対1の接続ではなく、以下のような1対nでの接続となります。現在データセンターで主流となっているリーフ&スパイン型と呼ばれるネットワーク構成でもこのブレイクアウト技術は活用されています。
この技術を使うメリットは以下のとおりです。
- 最小限の投資でネットワークのスケールアウトが可能
- ブレイクアウトに対応した機器は高密度となるため、電源、スペースなどの節約が可能
- 従来の低速なリソースの変更が必要なくそのまま活用
一方で懸念事項もあります。
- ブレイクアウトしているトランシーバ、AOC、DACのポートが1つ故障した場合、トランシーバまたはケーブル全体の交換が必要
- 故障した場合、接続しているすべてのポートに影響
- ブレイクアウトに対応したネットワーク機器が必要
ブレイクアウトが可能な規格
次にブレイクアウトが可能なイーサネット規格について、説明をします。
マルチモードの場合は、規格として40GBASE-SR4、100GBASE-SR4、400GBASE-SR4、400GBASE-SR8などが使用されます。ダイレクトに1対1で接続する場合も、ブレイクアウトして1対nで接続する場合も同じです。
シングルモードの場合は、少し違います。ブレイクアウトをする場合は、規格として40GBASE-PSM4、100GBASE-PSM4、400GBASE-DR4などが使用されます。40GBASE-LR4、100GBASE-LR4、400GBASE-LR8などは使用されません。その理由は、シングルモードファイバの多芯接続するためには、PSM (Parallel Single Mode)という技術が必要となるためです。規格が違うため、トランシーバも異なりますので、注意が必要です。
パケットキャプチャ製品「SYNESIS」のブレイクアウト対応
SYNESISは、当社で開発、製造、販売をしているパケットキャプチャ装置です。製品ラインアップの中には、ブレイクアウトに対応した製品もあります。
ルータやスイッチでは、ブレイクアウト製品が多く販売されるようになりました。しかしながら、SYNESISのようなパケットキャプチャ製品やモニタ製品のような計測器ではまだ対応していない製品も多いかと思います。このような計測器がブレイクアウトに対応していることのメリットは以下のとおりです。
- 回線速度別に機器を導入する必要がなく1台の機器で対応可能
- 将来的にネットワーク帯域を拡大した場合でも買い替え不要
- 複数箇所で同時に使用し比較することが可能
2023年2月時点でのSYNESISのブレイクアウトモデルでキャプチャできる回線スピードをまとめてみました。1台の製品で1Gから100Gまでの回線をキャプチャできるため、トラブルシューティングなどの用途でユーザ様に大変好評をいただいているモデルとなっています。
キャプチャラインスピード | SYNESISトランシーバ | フォームファクタ |
---|---|---|
100G x2 | 100GBASE-SR4 Multi Mode fiber |
QSFP28 / MPO12 |
100GBAE-LR4 Single Mode fiber |
QSFP28 / LC | |
40G x2 | 40GBASE-SR4 Multi Mode fiber |
QSFP+ / MPO12 |
40BASE-LR4 Single Mode fiber |
QSFP+ / LC | |
25G / 10G x2 | 25GBASE-SR Multi Mode fiber |
SFP28 / LC |
25GBASE-LR Single Mode fiber |
SFP28 / LC | |
10G / 1G x2 | 10GBASE-SR Multi Mode fiber |
SFP+ / LC |
10GBASE-LR Single Mode fiber |
SFP+ / LC | |
10GBase-T / 1000Base-T Copper |
SFP+ / RJ45 | |
25G x4 (Breakout Mode) |
100GBASE-SR Multi Mode fiber |
QSFP28 / MPO12 |
100GBASE-PSM4 Single Mode fiber |
QSFP28 / MPO12 | |
10G x8 (Breakout Mode) |
40GBASE-SR Multi Mode fiber |
QSFP+ / MPO12 |
40GBASE-PSM4 Single Mode fiber |
QSFP+ / MPO12 |
規格とは、「1000BASE-T」や「100GBASE-SR4」のようにどのような速度や方式で通信するかを表します。フォームファクタとは、物理的にどのような形状をしているかを表します。SFPやQSFP28などといったトランシーバの形状を指す場合もあれば、RJ45、LC、MPOといったコネクタの形状を指す場合もあります。
いずれにせよ、この両方が適切でない場合は、通信もしくは接続ができません。
また、シングルモードでブレイクアウトする場合は、LRではなくSPM4という規格で行います。トランシーバも異なりますので、注意が必要です。
イーサネットの規格や使用するアクセサリのフォームファクタは上記以外にもさまざま存在します。SYNESISも以前はCFP4対応の100G製品がありましたが、この規格は今ではほとんど見かけませんので販売していません。
最新のSYNESIS対応のイーサネット規格の詳細につきましては、以下よりお問い合わせください。
各社のブレイクアウト対応状況
ブレイクアウト対応のスイッチ等が発売されていますが、まだまだ普及しているとはいえない状況です。
そのことを示すように、2023年1月のJANOG51で、アリスタネットワークジャパン様が400Gbps以降の800Gbpsおよび1.6Tbpsの展開予測についてプレゼンテーションがありました。
プレゼンテーション後の議論で、ブレイクアウトについて各社からいろいろなコメントが出てきたことが非常に印象に残りました。
ネットワーク運用者、スイッチベンダー、サービスプロバイダーなどいろいろな立場から見たブレイクアウトはまだまだ課題があるにせよ、今後ますます発展していくことが予想されます。
今後の動向は随時チェックしていこうと考えています。
以下のリンクより発表資料等がご覧いただけます。現地での質疑応答含めたアーカイブ動画の視聴は、2023/2/28 23:59までのようですので、興味がある方はお早めに。
JANOG51 ムーアの法則による高速インターフェース展開予測2025/2026
あとがき
余談ですが「ネットワーク ブレイクアウト」で検索をすると、ローカルブレイクアウト(インターネットブレイクアウト)での関連記事が多く出てきますが、これは本記事とは別のブレイクアウト技術です。
コロナ禍でリモートワークが増えて、ニーズが高まったのでしょうか。本記事に関連する「ブレイクアウト」の情報より遥かに多い情報がアップされていたことに少し驚きました。
本記事に記載している技術は、現時点で私が調査した結果となっています。イーサネットの規格はたくさんありますので、よく使用されていそうなもののみを紹介しました。規格は常に進化していきますので、今後、800G、1.6TGなどが主流となったら、これらの規格も変わってゆくのかもしれませんね。
イーサネットの規格や歴史について深く知りたい方は、Ethernet Allianceのサイトがおすすめです。