水中の世界で数mmの分解能まで3次元計測する 高精度水中レーザースキャナ 「 ULSシリーズ」 ~新たな水中の世界を視るために~
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はじめに
高精度水中レーザースキャナ「ULSシリーズ」は、水中で緑/青色のレーザーを照射することで、ソーナーの数百倍の分解能で3次元の点群データを提供できる画期的なシステムです。水中構造物のメンテナンスを行うための正確かつ詳細なデータが得られる計測技術は、現在大きな注目を集めています。
水中構造物を「測る」
陸上で「最先端の測量」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのはドローン測量ではないでしょうか。現在、日本のあらゆる現場でドローンによる3次元計測が行われており、陸上の世界の3次元データの需要は一気に広がりを見せています。では、水中の世界はどうでしょうか。日本では、橋脚やダムのような水中構造物の社会インフラは、建造されてから数十年経っているものが多く、経年劣化を評価するための水中計測技術が求められています。また、日本周辺での洋上風力発電の建設プロジェクトが進行しており、建設時およびメンテナンス時における海底起伏の状況把握、パイルの状況診断など、水中を高精度かつ高分解に計測する技術が求められています。このように水中構造物を測るニーズは年々高まりを見せており、水中計測技術への要求は高くなっています。
水中における「音波」と「光」の違い
現在の水中計測のほとんどが超音波を用いたソーナーです。ソーナー(マルチビーム測深機など)の利点は、「水中で音波が減衰・散乱しにくい」「水の濁りに強い」など水中環境の影響を受けにくく、安定した長距離計測が実現できることにあります。
一方で光を利用した水中計測は長距離計測には不向きですが、数mmの空間分解能での3 次元計測が可能で、さらにソーナーの数十~数百倍の密度でデータ取得ができます。そのため、水中レーザースキャナはこれまで識別できなかった数mm~数cmの水中の世界を3 次元で可視化することができます。また、レーザースキャナによる3 次元計測のメリットは、水中写真では判別できない奥行き方向の凹みや傷が客観的に評価できるため、異常箇所の見逃しを減らすことができることです。ただし、水中での光の弱点として「水の濁りによってレーザー光が散乱する」「周辺光がデータのノイズになる」など使用環境が限られるため、さらなる技術発展が期待されます。
高精度水中レーザースキャナ「ULSシリーズ」
東陽テクニカは2017 年、カナダ2GRobotics 社が開発した高精度水中レーザースキャナ「ULSシリーズ」の販売を開始しました。この「ULSシリーズ」は、最先端のレーザー技術を用いて開発された世界初の商業用水中レーザースキャナです。アプリケーションによって「ULS-100」、「ULS-200」、「ULS-500 Pro」( 図3)および「ULS-500 Micro」の四つのモデルから選択でき、最小分解能0.25mm( 計測距離0.13mの時)、最大サンプルレート172,480 点/ 秒の水中高精度計測を実現しています。レーザー波長は、水中での透過率が最も高いと言われている青~緑(440~532nm)の光を用いており、近距離用「ULS-100」はレーザークラス1、最大20mの距離まで計測可能な「ULS-500 Pro」はレーザークラス3Bを使用しています。さらに2GRobotics 社では、水中高精度計測のニーズが高い原子力分野で使用するために耐放射性を備えた「ULS」も開発しています。
「ULSシリーズ」の構成部品は、レーザー部とカメラ部に分けられ、計測原理は以下の通りです。レーザーは扇形状に50 度の幅で照射され、レーザーがターゲット表面で反射する投影面をカメラ部(CMOSセンサ)で同時に多点(数百点~数千点)撮影します。このとき、レーザー部とカメラ部の間の距離が既知なため、カメラ部から撮影された反射の角度に基づいて、ターゲットまでの距離が計算されます。これは三角測量と同じ原理です。また、測定距離ごとにゲートを設けたり、レーザーが照射されていないときにもカメラ部で撮影し周辺ノイズを減らしたりすることでデータ品質を高める機能を持っています。
水中レーザースキャナの調査現場
水中レーザースキャナは、ダムの堤体や岸壁のクラック診断、配管内の歪み計測など水中構造物の経年劣化評価のほか、原子力発電所のプールにおけるクラックの調査にも使用されています。また、遠隔操縦機(ROV)および自律型海中ロボット(AUV)に、慣性航法装置(INS)やドップラー速度ログ(DVL)といったロボット自身の水中位置を算出するためのナビゲーション装置とULSデータを組み合わせることで、水中でGNSS1)データを受信できなくても、海底数千mの海底ステーションやパイプラインの高精細水中レーザースキャナデータに位置情報を付与することが可能です(図4)。
一方、水中レーザースキャナによる水中考古学調査は数多くの実績があり、現在進行している調査プロジェクトの一つとして、1912 年に沈没したタイタニック号の3 次元計測があります。2021年、米国OceanGate社の有人潜水艇「Cyclops 2」に2G Robotics社「ULS-500 Pro」を搭載することで、タイタニック号のレーザースキャナ計測を行う計画です。「ULS」を用いることで、ミリオーダーの空間分解能での3D仮想モデルが作成可能となり、時間の経過とともに衰退するタイタニック号の客観的な3 次元の評価が行われる予定です。
1) Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)