水中光通信モデム開発の背景/海洋業界での実用例
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水中における無線での情報伝達方法として、青色LEDを用いた水中光通信技術に注目が集まっています。当社が取り扱っている製品、およびその興味深い事例をご紹介いたします。
水中における従来の情報通信
近年、モバイルデータ通信、光回線技術の普及により、私たちの日常生活にはパソコンや携帯電話を含むガジェットによる情報伝達が根付き、日々の仕事や快適な暮らしを支えています。一方、当社海洋計測部が相手にする「海(水中)」の環境下において、光や電波は減衰が激しく長距離伝達に向かず、有効な手段とされていません。そのため、水中では粗密波の音波を用いた通信(音響通信)が一般的に使用されています。ただし、音響通信を用いた通信速度の限界は10kbps(レンジ:数十m)とされています。携帯電話で音声通信をエンコードするのに必要な通信速度が約9.6kbpsと言われていることからも、音響通信の速度が陸上における電波より格段に低いことは明らかです。
そのため、AUV(自律型海中ロボット(無線操作))や海洋環境観測プラットフォームに海上からデータを伝送する際は、低い通信速度を前提として、送るデータ容量を制限していました。このように音響通信による通信速度に制限があるのが当たり前とされているなか、青色LEDを使うと従来の光通信の手法と比較して水中でのデータ伝送距離が長くなることが判明しました。図1は光、電波、音響を用いた水中通信の通信距離とデータレートを示しています。英国Sonardyne 社は、青色LEDのこの特性に着目し、水中光通信モデム「BlueCommシリーズ(以下、BlueComm)」を開発しました。
BlueCommのラインアップ
Sonardyne 社は2012 年から実海域試験を通して4種類のBlueComm製品群を開発し、海洋業界においては光通信モデムのパイオニア的な存在となっています。表1のとおり、モデル「200」では最大レンジ150m、またモデル「5000」では最高1Gbpsの通信速度という業界最高水準のラインアップを揃えています。
2019年にリリースされた新モデル「200UV」は、水中光通信においてノイズ要因となる自然光の影響を最小限にとどめるために開発されました。他のモデルと異なり自然光に占める放射照度の割合が低い405nmの波長を使用しているため、ノイズ源が少ない状態で通信を確立できます。また、405nmは紫外線領域のため傍受されにくい特性を持ち、防衛分野での活用も期待できます。
BlueCommの実海域での運用
BlueCommは本来船上からマニュアル操縦できないAUVの無線操縦、AUVによる海底観測機器からの高速データダウンロード、AUVから海底ドッキングステーションへのデータアップロードなど、さまざまな場面で実運用が始まっています。2019 年には、セーシェル共和国で水深135mまで潜航した水中有人ロボットから水中無線技術を介した世界初の生中継(セーシェルの大統領が出演)を実現しており、世界35億人に視聴されました。今後、水中光通信技術を用いることで、従来不可能とされていたさまざまなアプリケーションが生まれることが期待されます。