自治体や工場などで期待の「ローカル5G」
――ネットワークの強みに新しい価値を加えた参入戦略を聞く

日本電気株式会社 ワイヤレスアクセスソリューション事業部 事業部長代理 田上 勝巳 氏
株式会社東陽テクニカ 取締役 小野寺 充

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目次
  1. NECがローカル5G事業を推進する意味と狙い
  2. 人口減少・人手不足に悩む地域の課題解決にも期待

通信キャリアが提供する5G サービスに加え、地域や個別ニーズに応じて企業や地方自治体などが限られたエリアで5Gを活用できるようにする「ローカル5G」が2020 年にも提供される予定です。ローカル5G 事業を推進するNEC において、ワイヤレスアクセスソリューション事業部 事業部長代理を務める田上 勝巳氏に、その事業戦略を伺いました。

NECがローカル5G事業を推進する意味と狙い

小野寺:昨今5Gへの期待が高まっていますが、NEC 様は重要なプレイヤーの一社ですね。

田上:当社は、2018 年に発表した「2020中期経営計画」で「ネットワークの強みの展開」を宣言し、5G/IoT 時代に向けたテレコムキャリア事業の構造改革を発表しました。その狙いは大きく二つあります。一つは、通信キャリア向け事業においてこれまで主軸としてきた基地局事業などのネットワークインフラ領域に加え、ソフトウェア・サービス領域を拡大し、通信キャリアが提供する5Gの進展と価値拡大に貢献すること。もう一つは、長年にわたり通信キャリア市場で培ったネットワークの強みを活かし、エンタープライズやパブリック(地方自治体や電力/交通事業者など)へも顧客セグメントを広げ当社の総合力とパートナリングを最大限に活かしてデバイスからオペレーションまでバーティカルなサービスを提供することです。

2020中期経営計画で「ネットワークの強みの展開」を宣言

「超高速・大容量通信」「多数同時接続」「超低遅延」を特長とする5Gは、人だけではなく“モノ”もつなぐことにより本格的なIoT 時代の到来を促すと言われています。そこでは我々の“つなぐ”というアセットを、多方面で活用できると考えており、中でも注力している「ローカル5G」については、お客様に対してネットワークの設計や構築・運用サポートの面までも支援していきたいと考えています。

小野寺:従来から御社は、通信領域で基地局装置などのハードウェアで圧倒的な強さを発揮してきました。さらにビジネスを拡大する手段の一つがローカル5Gなのですね。

田上:そうです。我々のビジネスユニットではエンタープライズやパブリックというのはこれから開拓する顧客ですが、当社全体では既存の顧客であり、長年ソフトウェアやサービスなどを提供しながら信頼関係を築いてきました。そこで、NECとして部署の連携を強化し、それぞれの強みを生かして顧客に新しい価値を提供していきたいと考えています。

人口減少・人手不足に悩む地域の課題解決にも期待

小野寺:ローカル5Gのニーズはどこにありますか。

田上:個人的な見解では、通信キャリアが提供する5Gサービスは、コンシューマー向けには人口の多い都市部を中心に展開され、法人向けにおいても全ての企業や自治体からのニーズに対してカバーできないと考えています。そのため、例えば地方の大規模農場で5G/IoTを活用したいというニーズがあっても、当面は難しいのかなと思います。企業や自治体がすぐに5Gを使って何かをやりたいとなっても、通信キャリアの展開計画次第となりますが、ローカル5Gであればそうした縛りはあまりありません。

小野寺:日本では大都市圏と人口の少ない地域とでは地域特性は異なります。過疎地域の人手不足をローカル5GとIoTを活用して解消できないかといったニーズもありそうです。

田上:それは重要なテーマの一つで、建設業界の例では、NECも2018 年に大林組様やKDDI様と連携して、ダムの建設現場で5Gにより複数の建設機械を遠隔操作し連携させる実証実験を行いました。警備業界も、過疎地域では緊急時に通報できる人が周囲に少ないことが課題で、その解決を目指した実証実験を2019 年2月にALSOK 様やNTTドコモ様と実施しました。これらの実験では通信キャリアに5Gネットワークを提供していただきましたが、今後通信キャリアがカバーしきれない地域でのニーズも当然あるでしょう。さらには、トンネルや地下空間なども対応が困難でしょうから当然ローカル5Gが有効なネットワークの選択肢となってくるはずです。

小野寺:小規模な無線ネットワークではWi-Fiが主流ですが、それと比較したローカル5Gの優位性を教えてください。

田上:Wi-Fiは手軽で低コストなのですが、QoS(Quality of Service)とセキュリティに関しては弱点もあるでしょう。例えば、2.4GHz 帯のWi-Fiでは、電子レンジなどからの電波干渉を受けやすく電波品質の低下や遅延が生じます。また、近くに設置された他のアクセスポイントから干渉を受けるリスクもあります。これがローカル5Gであれば、決めた敷地範囲外に電波を飛ばさないよう対策することが求められるので、データの局所性・安全性を担保し低遅延かつ高速なネットワークを活用できる、それがローカル5Gの優位性になります。Wi-Fiに限らず通信キャリアの5Gサービスとも決定的に異なることもあり、サービス開始前にも関わらず既に多くの引き合いをいただいています。

ただし、必ずしも5Gありきということではありません。新ブランド「NEC SmartConnectivity」のコンセプトでは、プライベートLTEやWi-Fiなども候補に含め、顧客ニーズに最適なネットワークを選択しインテリジェントに制御しながら提供していくというものであり、「人・モノ・コトが豊かにつながる社会」の実現に貢献していきたいと考えています。

小野寺:最後に、当社のような計測機器サプライヤに期待することはありますか。

田上:5G基地局の試験機だけでなく、基地局につながる有線側でデータを取得し解析するキャプチャ装置が今後必要になるでしょう。世界の計測機器メーカーとコネクションがあり、自社開発も可能な東陽テクニカには今後も大いに期待しています。

小野寺:本日はありがとうございました。

プロフィール

日本電気株式会社 ネットワークサービスビジネスユニット・ワイヤレスアクセスソリューション事業部 事業部長代理

田上 勝巳

1990年に日本電気株式会社に入社。入社以来一貫して第2世代移動通信システム(PDC、PHS)、第3世代移動通信システムの基地局装置開発に従事。第3世代システムにおいてはドイツシーメンス社との協業により、基地局システムのグローバル展開にも貢献。2005年から2007年にかけては、中央研究所・研究部長として第4世代移動通信システム(LTE)の標準化活動を推進。2007年以降モバイルRAN事業部にて第4世代移動通信システムの基地局装置開発に従事。2013年からは同事業部事業部長代理として、第4世代、第5世代の移動通信事業を推進。