肺がんの早期発見を補助
過酷な業務に携わる医師を助ける最先端画像処理技術
本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
PDFダウンロード
PDFをダウンロードいただくには、会員登録が必要です
- 目次
肺がんは病気の進行が早いため、早期に発見することが大切です。その発見方法の一つが、X線を用いて体を輪切りの状態にして体内を観察することができるCT(Computed Tomography)検査です。CT検査では5mm以下の小さながんも明瞭に表示され、早期発見に貢献します。一方、1検査が非常に多くの画像で構成されるため、その多数の画像からわずかな病気を拾う医師の業務は大変な集中力と体力を必要とします。CT画像と日々向き合う放射線科の医師が抱える問題とその解決策について、医療の安全と質向上のため世界トップクラスの取り組みを実践している聖路加国際病院の先生方にお話を聞きました。
日本人のがんによる死亡者数を部位別に見ると、第1位は肺がんです(図1)。早期発見がとても重要な病気の一つですが、肺がんの早期はほぼ無症状であり、発見が遅れることが多々あります。そうした中でCT 検査により発見された肺がんは比較的早い段階であることが多く、その結果治療できたというケースも多く報告されています。そのため、通常の健康診断よりもさらに細かく検査を行うCTによる肺がん検診の取り組みが近年活発化しています。CT検査を含む人間ドックを受診している方も多いのではないでしょうか。また検診だけではなく、病院での一般的な診療においてもこのCTによる精密な検査はなくてはならないものとなっています。
このようなCT 検査の需要の高まりによりその検査数が増加するということは、その画像を観察してわずかな変化を発見し、それが病気かどうかを判断する(これを「読影」と言います)医師の負担が増加することにつながっています。CT画像の読影には豊富な解剖学的知識と経験を持つ放射線専門医および呼吸器専門医の力が必要です。この専門医師の数は限られているため、特定の医師に過剰な負担がかかっています。また、1 検査100~150 枚におよぶ膨大な枚数の画像を読影して病気かどうかの判断を行わなくてはならないため、その見落としの防止や読影時の心的負担も大きなものとなっています。
胸部CT画像の読影における課題とその解決策について、胸部画像読影の第一人者である、聖路加国際病院放射線科部長 栗原医師、および同科医長兼 胸部画像診断室 室長 松迫医師のお二方にお話を伺いました。
高まるCT読影需要と読影医師の負担
― 聖路加国際病院についてお聞かせください。
栗原先生(以下、栗原):聖路加国際病院は1901 年創立であり、西洋型の近代的な総合病院としては日本で最も古い病院の一つです。現在はベッド数が520 床です。毎日の外来患者数は平均2,550 人を超えていますので、ベッド数と比較して外来患者数が非常に多い病院の一つであると思います。我々が所属する聖路加国際病院の放射線科は一般病院としては大きな規模であり、聖路加国際病院本院、近くにある予防医療センター、さらに東京駅のそばにあるメディローカスという三つの施設すべてに対応しています。この三つを合わせますとかなり大きな所帯になり、撮影機器も多くあります。
放射線科医の人数としては現在医師14名に加え10名の放射線科専属レジデントがいます。さらに非常勤の先生方もいらっしゃいまして24 名プラスアルファのリソースで業務を行っています。
― 現在院内で実施されている放射線検査数についてお教えください。
栗原:本院におけるCT、MRI (MagneticResonance Imaging)は合わせて毎日200 件前後の件数があります。我々の施設は大規模な救急病院でもあり、年間1 万台を超える救急車が来るため、その関連の検査も非常に多くなっています。これらの背景もあり、年間でCT、MRI 合計で約5 万件になります。
― 読影支援システム導入前の御施設状況、課題についてお聞かせください。
栗原:私たちは聖路加国際病院本院の業務以外に、予防医療センターで低線量CTによる肺がん検診を相当数実施しています。およそ1日20~50くらいの件数をこなしています。これらが先ほどの日常診療のルーティン検査に加わり、毎日読影しなければいけない状況でした。一日の業務が終わった後、疲れた頭でそういったものを全部見ていくわけですが、検査数も多くそれを確実に拾い上げるという業務は医師にとって大きな負担になっていました。
松迫先生(以下、松迫):私は2004 年に予防医療センターが今の向かいのビルに設置されたときに読影に携わることになりました。当時は今よりもさらにCTの読影件数が多い状況でした。なぜなら50 歳以上の方向けの検診ではCTはオプションでなく全員に実施するということを実践していたからです。当時1日100 件近くありました。2.5mmの薄いスライスを読影するということもあり、医師にとっては心的なストレスが非常に大きく、実際に読んでみると時間もかかるし大変だなと思いました。栗原先生もおっしゃっていたように、人間は疲れます。疲れてくるとどうしても一度見たものが本当に正しかったのかと不安になるという傾向が出てきます。それがさらにストレスになります。
CTであっても見落としやすい部分が二つあります。一つは気管支内の病変。もう一つは血管と同程度の径の病変です。薄いスライスで切るとドット状に見えますので非常に見づらく、見落としやすいのです。そのような病変の検出に苦労しました。
栗原:そういう状況の中で、我々の負担を減らすことができないかを考えていました。例えば読影の速度を上げる、あるいは読影の確実性を上げる、要するに見落としがないような状況を維持することを目指しました。そのためにいろいろな方法がありますが、やはり先進のテクノロジーを使って我々の業務をある程度バックアップできる技術が必要でした。
読影医の負担軽減のため、聖路加国際病院では胸部CT 読影支援システム(ClearReadCT-VS)を導入しました。このシステムは胸部CT画像から肺血管を透過した読影補助画像を生成します。現在、医師はオリジナル画像とともにこの補助読影を同時に表示し、読影を行っています。
心的負担の軽減と読影時間の短縮に大きく貢献
― システム導入後に感じたメリットについてお聞かせください。
栗原:そうですね。やはり結節(肺がんや肺結核などの病気が疑われる円形の陰影のこと)の描出についてですね。例えば検診において結節というのは5mm 以下のものはある程度無視し、6mm以上のものを主に検出します。それに対して一般診療においてはさまざまなシチュエーションがあります。例えばがんの転移検索においてはどうしても小さいものから抽出しなければなりませんので、5mm 以下のものについても見つけていく必要があります。そういった小さいものも、読影支援システムによる補助画像上では容易に確認することができます。これは非常に助かっています。思ったよりも多くの所見が出てきて大変だという側面ももちろんありますが、それも言い換えれば一般診療に対する適用性の高さが出ていると思います。この支援システムは非常に幅広く役に立っているので、どの画像に適用するのがベストであるということがなかなか言いづらいところですが、逆に言えば非常に守備範囲の広いソフトウェアだと認識しています。
松迫:このような読影支援技術は、とにかく使いやすいことが大切です。その意味でこの読影支援システムによる補助画像は、日常使用している画面上で見られることが非常に便利だと思います。また、多くの症例を見ていて感じるのはFalse Positive(偽陽性)、FalseNegative(偽陰性)が非常に少ないソフトウェアだと思います。慣れてくれば慣れてくるほど信頼度が上がってきますので、読影時に感覚的に分かってきます。そうすると検診のスクリーニングで使う場合には、むしろ補助画像から先に見てある程度おおまかに読影してしまうという方法も考えられます。
この読影支援システムによって助かっていることとして読影時間が明らかに短縮されたことも挙げられます。これはAJR(American Journal of Roentgenology)でも論文報告がありましたが、私自身読影実験によるものではなく実臨床において明らかに短縮したという感覚を持っていて、ありがたいなと思っています。一番ストレスになるのは、読影終了後に「疲労によって見過ごしていたことがなかったか」を心配してしまうことです。人間というのはどうしても疲れてしまいますので。そうなるともう一度読影しなければならない、というようなことが過去にありました。本システム導入後は補助画像を同時に見ていますので、「見過ごしている箇所はないな」ということを確認しながら進められます。この確認により迷いなく次へ行けることができ、心的なストレスは軽くなったと思います。そこがまた読影時間の短縮にもつながっているのだと思います。
血管と病変を見分け、病変の見落としを防ぐ
松迫:図2の症例Aは血管の近くにある病変です。オリジナル画像で見ると、正常な血管と病変がまさに同じぐらいの大きさの結節状に見えますので、一見すると血管ではないかと勘違いしてしまうということで見落としやすいのですが、補助画像で病変がはっきりと見えています。これは結節性病変です。このように見落としやすいとされている血管とほぼ同径の大きさの結節も容易に見落とすことなく確認することができます。
気道内病変を見分け、病変の見落としを防ぐ
松迫:この読影支援システムの補助画像によるメリットとしては気道内の分泌物、貯留物がよく見えることです。どういうことかというと、血管をsuppress(透過)するということは、気道の中の物を浮き彫りにするということです。集中力の維持が難しいときに最も見落としやすいものの一つが気道内病変です。気道内病変で最も多いものの一つは扁平上皮がんだと思いますが、過去にこれを補助画像の併用で拾うことができたので「いや、これはすごいな」と思ったことがあります。それは本当に印象的でした。図3の症例BはCTの盲点の一つである気道内の病変が補助画像上で確認できた実例です。気道内はいろいろなところに広がっていきますので意識が散漫になりやすいです。全体を見ることがなかなか難しいと思います。
良性の結節もたくさんありますが、今回のような気道内を充填するような軟部陰影もきれいに描出されました。これは結論から言うと気道内の扁平上皮がんであり、おそらくオリジナルのCT 画像だけを見ていると見逃されていただろうと思われます。
一般診療における有用性
栗原:一般診療では病気の患者様が多いです。検診では比較的健康な方が多いのできれいな肺の中に病気を探すパターンが多いのですが、入院患者と外来患者の場合はもともと病気がある方に対して胸のCTを撮ります。病気がある中でさらに病気を探していくという作業になります。この読影支援システムは、例えば術後の肺であっても血管を透過してくれます。術後はいろいろな理由で肺全体がゆがみ構造が変わっている場合がありますが、きれいに血管だけを透過してくれます。そのような複雑な肺においても非常に役立つ技術だと思います。
疾患への応用へ
― 読影支援システムへ今後期待することを教えてください。
栗原:私自身は検診だけではなく一般の患者様にも展開したい、特に結節だけではなく肺炎様の影などのさまざまな肺疾患についてもVessel Suppression(肺血管透過処理)を適用できるのではないかと思います。まだまだこれは研究段階ではあると思いますが、結節ではない疾患への応用も可能ではないかと思っています。
さらに病気のdetection(検出)だけではなく、例えば病気の定量的な評価にも期待しています。定量的な評価をする際、肺全体の中の血管は意外に邪魔なのです。定量評価の際に血管の拍動により同じフェーズ、同じ状態でも収縮期、あるいは拡張期によって計測結果が違うことがあります。そういうのを全部、suppress(透過)することによって、病気だけを評価する「定量化」が可能ではないかなと思っています。また結節以外でびまん性(一か所ではなく広がりのある様子)の疾患の一つである肺線維症などの評価にも使えそうな気がします。それらについては今後、東陽テクニカと情報交換をしながら新しい使い方を検討してみたいと思っています。
※本インタビューの動画をこちらのURLからご覧いただけます。
https://www.toyo.co.jp/medical/casestudy/detail/CTVS01
胸部CT肺血管透過処理システム「ClearRead CT-VS」
聖路加国際病院では、東陽テクニカが国内で販売する「ClearRead CT-VS」を2017 年に導入しました。この「ClearRead CT-VS」は胸部CT画像の大部分を占める肺野内の血管影を透過させた読影補助画像を生成する画像処理技術です。
聖路加国際病院では、検診・一般診療における、院内で撮影されたすべての胸部CT検査に対し「ClearRead CT-VS」を適用し、日々の業務で活用しています。