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材料内部の3D構造を“見る”
TESCAN AMBER シリーズ FIB-SEMシステム

ライフサイエンス&マテリアルズ 出口 匡

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
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目次
  1. はじめに
  2. FIB-SEMによる3D解析
  3. Xeプラズマイオンビーム
  4. おわりに

今回ご紹介する製品は、マテリアル研究やデバイス故障解析などで多く使用されているTESCAN ORSAY HOLDING, a.s(. 以下TESCAN社)の、集束イオンビーム(FIB)と走査電子顕微鏡(SEM)が一体となったFIB-SEMシステムです。材料の微細組織を3次元的に観察する手法を主に紹介します。

はじめに

材料内部の微細構造を3 次元的に解析するニーズは年々高まっています。例えば電池材料の開発では、電極中の電子やイオンの通り道となる空隙の分布を知る必要があります。タイヤで用いられるゴム材料も、ポリマーや充填剤などの配置が低燃費化の度合いや耐摩耗性能を左右します。

しかし、3 次元の内部構造を直接観察できる顕微鏡はありません。

多くの場合は、3 次元の情報を得るために、たくさんの2次元のイメージを連続取得しそれらを結合させる手段を取ります。透過イメージの場合はトモグラフィ(断層撮像)法、反射イメージの場合はシリアルセクショニング法が採用されます。私たちの生活に身近な、医療で用いられるCTやMRIは前者のトモグラフィ法に該当します。ここで紹介するFIB-SEMシステムは、集束イオンビーム(FIB)と走査電子顕微鏡(SEM)が一体となった装置ですが、後者のシリアルセクショニング法によって3D 解析が行われます。FIBによる切削とSEMによる観察を繰り返し、連続取得された画像から3次元像の再構築を行います。これによりnm(ナノメートル)レベルの空間分解能で、数μm(マイクロメートル)からサブmm(ミリメートル)のスケールで3 次元情報を得ることができます。

近年のさまざまな技術の進化によって精密な連続画像の取得や再構成が容易になり、FIB-SEMは3D 解析ツールとしても広く使われるようになりました。特定箇所の故障解析や薄膜試料の作製だけでなく、3D 解析ツールとして材料科学、地球惑星科学、生命科学の研究分野において適用されています。

図1:FIB加工中のFIBとSEMのカラム配置(左)とシリアルセクショニング(右)の模式図

FIB-SEMによる3D解析

FIBは細く絞ったイオンビームを試料表面に当てることによって試料を構成する原子をはじき出す(スパッタリング)現象を利用し、表面の切削を行います。一方SEMは細く絞った電子ビームを走査し、試料表面から飛び出してきた二次電子や反射電子を捉えることで表面の凹凸や組織を観察します。また、SEM 観察においては、同時に放出される特性X 線による主成分元素の分析(EDS)、電子線後方散乱回折による結晶方位の解析(EBSD)が可能です。TESCAN 社のFIB-SEMシステムでは、SEMカラム(鏡筒)が水平面に対し垂直に、FIBカラムはSEMカラムに対し55 度傾斜して配置されており、FIBカラムに対して垂直になるよう試料ステージを55 度傾斜させた状態で切削・観察を繰り返します(図1)。その繰り返しを等間隔で行うことにより得られた連続画像を、コンピューターで3 次元に再構築し、そしてその再構築像から任意の位置や角度の情報を抽出して解析を行います。

リチウムイオン電池材料の3D 解析を行った例を紹介します。図2は、さまざまな充放電試験を行った後の、正極材中の活物質、空隙の3 次元再構築像です。充放電プロセスが進むにつれて粒子単位で劣化が進んでいる様子が分かります。

図2:リチウムイオン電池正極材中の活物質(左)、空隙(右)の各充放電サイクルにおける3次元再構築像。
Song et al. 2015より引用、加筆。

Xeプラズマイオンビーム

切削の役割を担うFIBのイオン源はGa(ガリウム)の液体金属イオンを用いるのが一般的です。Ga 液体金属イオンは微細にビームを制御できる利点がある反面、使用できるイオン電流が最大でも100nA(ナノアンペア)と制限されて切削に時間を要するため、切削範囲を数10μm以内と狭くせざるを得ないという弱点があります。3D解析においても局所的になるため「木を見て森を見ず」というケースがありました。最近では、最大2μA(マイクロアンペア)までの高電流が使用できるXe(キセノン)プラズマイオンによるFIB 切削が注目を集めています。TESCAN 社では、このXeプラズマFIBを装備したFIB-SEMシステムをいち早く市場に投入しました。これにより、切削範囲最大1mmまでの高速加工が実現し、3D解析においてもさらに体積を広げることが可能になりました。

XeプラズマFIBによる3D 解析技術を、大きな構造を持つ半導体のパッケージングに適用した例を紹介します。図3は、はんだバンプ1)で接合されたTSV(シリコン貫通電極)の、反射電子とEDSの元素マップによって得られた3次元再構築像です。はんだバンプの樹状構造などの形態情報や各部位の接合状態を知ることができますが、解析ボリュームは180μmにまで及んでいます。

XeプラズマFIBのその他の特長として、イオン種として加工対象の試料に対して化学的な変化を与えることのない希ガスであることと、試料に衝突した際の影響範囲が小さいことが挙げられ、汚染やダメージの少ないビーム技術としても認知されています。

図3:はんだバンプで接合されたTSV(シリコン貫通電極)の反射電子(左)と、EDSによるNi (緑)、Sn(赤)、Cu(黄)、合金相(青)の3次元再構築像(右)。

おわりに

未来の材料は高機能化に向けてますます内部構造の微細化が進み、メゾスケールで解析することが可能なFIB-SEMシステムのニーズはますます高まると考えます。東陽テクニカは、さまざまな材料の内部構造を3 次元的に理解することが可能なTESCAN 社FIB-SEMのデモ機を準備し、最新技術を国内のお客様に紹介しています。TESCAN 社のシステムは世界80か国以上で3,000 台以上の納入実績があります。日本においてもお客様のご要望を汲み取り、科学技術の発展に貢献してまいりたいと思います。

1) はんだメッキによって形成された突起状電極

筆者紹介

ライフサイエンス&マテリアルズ

出口 匡

2019 年東陽テクニカ入社。1998年以来、各種顕微鏡や元素分析装置の営業・マーケティングに従事。現在は電子顕微鏡・集束イオンビーム装置の営業を担当。