矩形波インピーダンス測定の基本原理
本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
PDFダウンロード
PDFをダウンロードいただくには、会員登録が必要です
電池の評価手法の一つとして電気化学インピーダンス測定法(EIS法)があります。この手法では、周波数応答アナライザ(FRA)を使用して電池のインピーダンスを測定するのが一般的ですが、ここで紹介する「矩形波インピーダンス測定法」(Square-EIS法)1)では、電池をはじめとしたさまざまな電気化学セルに矩形波を印加することでインピーダンスを測定することができます。FRAを使用できない環境での測定など、応用が期待されています。
1) 学校法人早稲田大学の特許。特許第6226261号。公開特許公報 2014-126532。
電気化学系のインピーダンス
EIS法は、微弱な交流信号を入力した際の応答信号からフーリエ変換によって電気化学系の複素インピーダンスを得る測定手法です。 FRAを使用したEIS法では、測定対象周波数の信号(サイン波)を電池に印加しその際の応答信号を測定してインピーダンスを算出します。そのため、測定対象周波数の数だけ、印加・測定が必要となります。
これに対しSquare-EIS法では、励起信号としてある周波数の矩形波を電池に印加し、その際の応答信号を測定します。1回の矩形波印加で広い周波数範囲のインピーダンスを得ることができるため、測定に要する時間を短縮することができます。(短縮の手法として、他にもホワイトノイズやマルチサイン波を用いる手法などがあります。これらの手法は、複数の周波数成分を含む信号を用いて複数のインピーダンスを一括で得る手法として、1982年に早稲田大学 逢坂教授らにより報告されたFFTインピーダンス法などの研究をもとに発展・実用化された手法です。)
矩形波インピーダンス測定
矩形波をフーリエ級数展開すると下の式になります。
この応答信号には矩形波周波数とその奇数次高調波の成分が含まれています。よって、この応答信号から、矩形波周波数とその奇数次高調波のインピーダンスを得られます。つまり、一つの周波数の矩形波を印加することで、多数の周波数のインピーダンスを得られます。
機器構成
FRAを使用したEIS法では、電池にサイン波を印加するため、ポテンショガルバノスタット(PGS)を使用するのが一般的です。これに対し、Square-EIS法では、生成・印加がより簡便な矩形波を利用するため、FRA機能のないPGSやパワーコントローラなどでも印加できます。そのため、実際の電池の使用環境により近い状態での測定や、大容量・低内部抵抗の電池での測定への応用が期待されています。
Square-EIS法での測定に必要な機器は以下の通りです。
・応答信号を測定するためのデータロガー
・矩形波を印加するためのPGSまたはパワーコントローラなど
・フーリエ変換、インピーダンス算出などを行うためのPCとソフトウェア
<実データ解析例>
図2は、同じリチウムイオン電池を、FRAとSquare-EIS法の両方で測定した結果です。 Square-EIS法でも、FRAを使用した測定とほぼ同じ結果が取得できています。
※このたび当社は、早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構の技術支援をいただき、矩形波インピーダンス測定を行うソフトウェアを新たに開発しました。
※執筆にあたり、早稲田大学の横島 時彦教授にご協力いただきました。
参考文献:
T. Yokoshima, D. Mukoyama, T. Osaka, et. al., Electrochimica Acta, Volume 180, 2015, pp.922-928.