近未来のクルマを支える通信技術と新しく誕生した評価方法
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自動車における通信技術
今後10年間かけて実用化を目指している完全自動運転車およびテレマティクス端末を搭載した自動車が携帯電話網を用いる広域通信ネットワークは、通信する情報の大容量化・高速化などの実現により、自動車通信ネットワークの中心になると予想されます。
「コネクテッドカー」という言葉に代表されるように、自動車が外界と無線通信を行うことで多彩な機能が実現されるようになってきました。総務省が発表したITS(高度道路交通システム)の構想では、図1のように見通しの悪い交差点などで車両同士が無線通信によって情報をやり取りする「V2V」(車々間通信)、インフラからの情報(信号機情報、規制情報、歩行者情報など)を路側機から車両に対し電波による無線通信を介して送信する「V2I」(路車間通信)といった安全運転を支援する「V2X」の技術が紹介されています。
自動運転の実現にあたっては、周囲の障害物情報を取得するためにミリ波レーダーやライダー(LiDAR)などのリモートセンシング技術やカメラによる画像解析技術を用いますが、それに加えてセンサや映像では認識することのできない対象の情報をV2X無線通信によって取得し自動車の制御に活用します。
無線通信機能を有する自動車が通信をしながら走行する社会がすぐそこまで来ています。既に自動車メーカー各社は、将来の完全な自動運転車の実現を目指し、一部機能を実現させています。
クルマの未来は通信技術が支えることになるでしょう。車と通信の連携は必然となり、通信の高速化・大容量化・多接続化・低遅延化を可能にする5Gをはじめとする通信回線技術の重要性はこれまで以上に増していくことでしょう。特に、通信の大容量化を実現するために、複数のアンテナ間で通信を送受信させ複数の独立した伝搬路を形成させることで、通信容量を増大(マルチストリーム伝送)させたり通信エラーを少なく(シングルストリーム重畳伝送)したりすることのできるMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を使った無線機器が、これからの車に実装されていくことでしょう。
無線通信品質の評価
こうした無線通信性能を確実に担保するためには、無線通信品質に対する評価が極めて重要であり、需要は増大しています。特に自動運転を目的とした無線機器を実装するには、安全性に直結するため絶対的な通信性能の保証が必要です。しかし、車載無線機器の性能を評価するにあたり、金属製の大きな車体や車内に実装されている他の電子機器による干渉を無視することはできません。そのため、できる限り実環境を正確に模擬した状態で試験を行い評価する必要があります。また、MIMO技術対応の無線機器が実装されている車に対しては、MIMO機能によるスループット性能(通信データの伝送容量)を評価するMIMO OTA(Over The Air)試験で評価する必要があります。
無線デバイスのアンテナを経由して接続し性能評価することをOTA性能試験と呼びますが、この試験にはいくつか方法があります。マルチプローブ法、リバブレーションチャンバー法、そして2ステージ法(Conductive Two Stage(CTS)法)などです。最も一般的なマルチプローブ法では自動車の大きさに対応するため測定システムが大規模なものとなりコストが上昇します。そこで、General Test Systems社(中国・深圳、以下GTS社)は、自社開発したRadiated Two Stage(RTS)法を自動車用MIMO OTA試験に適用することにより、コストの削減を図ることができる新しい自動車OTA測定ソリューションを提案しています(図2)。
RTS法は、CTS法を改良した2ステージ法の一つであり、CTS法のすべての利点を踏襲しながら、問題点を解決した方法です。GTS社から標準化団体である3GPPに提案され、2018年3月に新しく規格(TS 37.544 v14.5.0 (2018-03))に追加されました。
CTS法によるMIMO OTA試験
CTS法は、まず第1ステージで、 MIMO無線機器のアンテナパターンを測定します。MIMO OTA伝搬チャンネルモデルに、測定されたアンテナパターン情報を組み込みます。信号、無線伝搬チャンネルモデル、および無線機器のアンテナパターンによって決定されるMIMO受信機への入力信号は、基地局シミュレータとチャンネルエミュレータによってエミュレートされ、その後RFケーブルを介してMIMO受信機に伝導的に供給されます。
第2ステージでは、DUT(被試験体)へRFケーブルを直に接続するため、スループット試験を行うために電波暗室を使用する必要はありません。
第1ステージ:従来の一般的な電波暗室で複数のアンテナブランチの放射特性を試験します。その測定システムは、送信と受信の両方の放射性能に対して完全な3次元アンテナパターン測定を実行し、二つの直交直線偏波成分(一般にθ偏波とφ偏波)を測定する必要があります。互いに独立したアンテナパターンを測定するために、DUTはアンテナの振幅と相対位相を測定します。
第2ステージ:第1ステージで測定したアンテナパターンをMIMO伝搬チャンネルモデルと組み合わせます。MIMOチャンネルモデルをチャンネルエミュレータにてエミュレートし、RFケーブル接続を使用してOTAスループットテストを実行します。
図3はCTS法によるMIMO OTA試験の測定システム図です。CTS法の第2ステージは、伝導でスループットを測定します。RFケーブルをDUTに接続する必要があるため、伝導測定が放射テストを完全に代用できないという問題があります。通常の動作モードでは、無線機器によって生成されたノイズおよび干渉波が無線機器のアンテナ結合によってMIMO受信機に供給され、潜在的にMIMO性能に著しく影響します。そのノイズ/干渉波は数dBにもなる可能性があり、無線機器の開発段階では10dB以上の干渉による感度劣化が一般的に観測されます。しかし、伝導試験においては、無線機器のアンテナがバイパスされるため、DUTのアンテナ結合を介して引き起こされるMIMO受信機に生成されるノイズ/干渉波がほとんど無視されてしまい、実際の測定値はノイズ/干渉波がない場合の測定結果と同じになります(図4)。
伝導スループット試験のもう一つの問題は、ペアになるMIMO受信アンテナの相関を含まないことです。これらの要因は、MIMO性能テストに大きな影響を与える可能性があります。これまで述べてきたように、CTS法の試験結果は、信号相関、自己生成ノイズおよび干渉波の影響を反映していません。さらに、実施された試験は、アンテナ伝送路インピーダンスの不一致による矛盾を招く可能性もあります。
RTS法によるMIMO OTA試験
RTS法は、試験信号が電波暗室内のDUTにOTAで供給されます。このシステムでは、測定アンテナの数はMIMO受信アンテナの数に等しいかまたはそれよりも多くなります。
第1ステージ:CTS法と同様に方位角と仰角を使ってDUT複素アンテナパターンを測定します。
第2ステージ:電波暗室内の測定アンテナから、測定空間およびDUTのアンテナまでのRF経路に相当する部分の逆行列を計算し、このRF特性をキャンセルさせるように試験信号を生成します。DUTを電波暗室(送信アンテナに対して位置と方向の両方)に固定したまま、送信アンテナに信号を供給してMIMOスループット試験を実行します。
2x2MIMOスループット試験構成では、一つの測定アンテナの水平および垂直偏波を二つの独立した測定アンテナとして使用することができます。RFケーブルではなく空間を介して試験信号を送信することによりDUTのアンテナは接続されたままとなり、MIMOスループットは中断することなく測定され、感度劣化と自己干渉の影響を評価することができます。
第2ステージでDUTへのケーブル接続がないため、DUTは試験全体の影響を受けず、電波暗室に設置したままで測定できます。このように、RTS法のプロセスは完全に自動化することができ、中断やオペレータの介入なしに連続的かつ円滑に二つのステージを実施することができます。RTS法の全体的なセットアップを図5に示します。
理想的ソリューションRTS法
MIMOスループット性能試験のための革新的なRTS法は、CTS法のすべての利点を維持したまま、その主要な欠点を克服しています。また、マルチプローブ法との高い相関結果を提供でき、コスト効率もはるかに優れています。研究開発からコンプライアンステストまでのさまざまなアプリケーションにとって理想的なソリューションで、今後開発が加速する自動運転車の開発・検証に役立つ測定法です。
当社は車載通信システムの評価を通じて、便利で安全な近未来のクルマ社会の実現に貢献してまいります。