特殊形状建物~スタジアム、地下鉄、空港~
5G・無線LAN設計への挑戦
3DモデリングRF伝搬設計シミュレータ
カナダで生まれた「iBwave Design」の紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 課長 徳道 宏昭

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目次
  1. ビッグイベントが待っている
  2. 見えないものを設計する
  3. 安全・保全へと拡がるIoT利用
  4. 従来の無線サーベイだけでは不十分、新たな無線設計技術が求められる
  5. カナダで生まれたRF伝搬の空間設計シミュレータ「iBwave Design」
  6. 無線で変わる私たちの暮らし

2020年の東京オリンピックや、今後招致しようとしている各種競技のワールドカップに向け、国内の競技スタジアムやコンベンションセンターの整備が盛んに行われています。モバイルネットワークは、「つながる」だけでなく「快適さ」を求められる時代へと変化しつつあります。

ビッグイベントが待っている

スマートフォン(スマホ)を片手にスポーツ観戦、そんな姿はもはや珍しくもない光景です。選手の経歴や得点を入れた瞬間のリプレイ映像などを、手元で鮮明なディスプレイで簡単に見ることができるのです。こうしたサービスが実現している背景にはモバイル通信技術の目覚ましい発展があります。スマホの出現により、その変化が一層加速されたことは皆さまの記憶にも新しいところではないでしょうか。サービスを提供する側と受ける側をつなぐもの、それが「通信」です。大型施設におけるスポーツ観戦の場では、限られた空間に集まった数万人の観客に、快適な通信環境をリアルタイムで提供する必要があります。数年後に開催される東京オリンピックやラグビーワールドカップに向け、日本国内でも新たな利用シーンに向けた通信設計が今まさしく始まっているのです。

見えないものを設計する

通信には大きく分けて二つの種類があります。「有線」と「無線」です。「無線」には異なる周波数帯に割り当てられた、さまざまなサービスが存在します。その例として「LTE」「Wi-Fi」といった技術用語を目にする機会も増えています。これらサービスの当初の目標は「つながる」ことであり、電波のカバー範囲を日本全国すみずみまで拡大することでした。そうした中「スマホ」や「クラウド」の出現によって、多種多様な動画配信サービスや情報共有サービスが次々と提供され、「快適さ」向上と、そのためのさらなる技術革新が求められるようになり、現在多くの企業が「5G」の実現に取り組んでいます。私たちの生活空間には実に多くの電波が飛び交い、電波干渉が常に起きている空間では、通信速度が低下し人口密集地域ではつながらないことも珍しくありません。より質の高い無線サービスを提供するためには、目に見えない事象を可視化し、「快適さ」を設計しなければなりません。それが、RF(Radio Frequency)伝搬設計です。

安全・保全へと拡がるIoT利用

さて、「IoT(Internet of Things)」と聞いて、皆さまはどのようなイメージをお持ちでしょうか。この分野でも無線技術は重要な役割を担うことになります。その利用範囲は、工場設備の制御や商業施設のメンテナンス、防災保全の監視、と幅広いものになってきています。IoT利用では、低消費電力、低遅延通信、多接続性、常時接続が重要なキーワードとなります。BLE(Bluetooth Low Energy)も注目されるIoT無線技術の一つです。

そして、5G無線もこの分野を見据えた技術として注目されています。その通信速度はLTEの100倍、遅延は1/10になるといわれています。これらの無線技術の進歩が私たちの未来を大きく変えていくのです。同時に、その通信品質への意識も大きく変わることになるでしょう。「快適さ」だけではなく、人命にも関わる「安全・保全」といった観点からも、「つながる」という役割は確実に担保されなければなりません。

従来の無線サーベイだけでは不十分、新たな無線設計技術が求められる

これからの無線技術利用に共通することは、限られた空間の中で膨大な数の端末が集中してリアルタイムに使用されることです。この条件下で引き起こされる電波干渉は、従来の経験値や2D(平面)での無線設計では予測不能です。スタジアムなどの個性的な形状をした建物では、建築素材の特性や人が中に入ることで起こる電波回折・反射・透過なども考えなければなりません。また、設計範囲が広いため、現地で無線サーベイを繰り返し実施することは、多くのリソースと時間を要する割に、利用シーンとは異なる環境(人が入っていない状態など)のため、RF伝搬の設計として現実的ではありません。

図1:フットボールスタジアムの無線設計

カナダで生まれたRF伝搬の空間設計シミュレータ「iBwave Design」

「iBwave Design」は、今まで数々のオリンピック会場をはじめとする競技場や公共施設でのRF伝搬設計に使われた、 3Dモデリング RF伝搬設計シミュレータです。大規模で複雑な構造を持つ屋内のアンテナ設置シミュレーションを得意とし、無線サーベイツールの「iBwave Mobile」と連携することにより、実環境と整合性のある設計シミュレーションが可能です。専用のクラウドを経由することで、フィールドエンジニアが得た電波状況の測定情報は現場の画像や映像、音声、報告書と共に、アンテナ設計エンジニアと常に共有することができます。

また、世界中の膨大な数の顧客によってその有効性を実証・信頼されてきたシミュレーションエンジンを活用することで、建設工事の前にモバイルネットワークの受信範囲とスループットの設計シミュレーションができます。こうした市場で最も先進的なキャパシティ分析機能を用いて、個々のお客様の要望するパフォーマンスとの整合性を検証できるため、コストのかかる導入後の仕様変更を避けることができます。

図2:新国立競技場の3Dモデリング

無線で変わる私たちの暮らし

今後私たちの周辺では、目に見えない多くの無線技術により、人の手を介さない自動化システムが普及するでしょう。そこに求められることは、確かな「品質担保」に他なりません。多くの技術革新の裏で、事前検証が何度も繰り返され技術が実証されて初めて、品質の高いサービスが実現するのです。今回紹介した「iBwave Design」は、無線設計を論理的にかつ実データに基づいた情報を統合することで「曖昧さ」を徹底的に排除し、「快適さ」「安全・保全」へとつながる「確かさ」を提供する設計ツールとして、今注目されています。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システムソリューション部 課長

徳道 宏昭

1993年入社以来25年間、情報通信分野において通信障害解析や伝送機器品質測定に従事。
最近は5Gや自動運転の分野に注力。