3Dリアルタイム海底地形計測と水中バイオマス解析が可能な高性能水産資源調査3Dソーナー「SeapiX」

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部 前田 文孝

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目次
  1. 水産市場と混獲低減政策
  2. 魚群探知機による資源量評価手法の問題
  3. マルチビーム測深機による地形と生態系の評価
  4. 高性能水産資源調査3Dソーナー「SeapiX」
  5. 「SeapiX」によるこれからの新しい漁業資源調査手法

欧州では漁業乱獲による水産資源の減少を懸念し「混獲低減政策」が提唱されていますが、魚種を正確に判断し捕獲することは非常に難しいものです。効果的に魚種を判別し、適切な漁業を支援するための高精度計量魚群探知・海底地形計測技術が、現在大きな注目を集めています。

水産市場と混獲低減政策

世界の水産市場は漁業水産だけで1,240億ドル、日本でも2兆円近いマーケットがあります。一方、国連食糧農業機関(FAO)の報告によれば、世界の漁業活動において年間漁獲量の40%が「取りすぎ」「混獲」などによって廃棄されていて、水揚げが無駄になるだけでなく、種の減少や絶滅など生態系の破壊や漁獲量の減少を引き起こす原因になります。

EUでは2017年1月より混獲低減政策を打ち出しています。世界規模での水産業の持続的発展のために資源量を効果的に把握し、乱獲を防ぐための方法を構築することが、漁業者にとって重要となっています。

魚群探知機による資源量評価手法の問題

日本では、1970年代から魚種判別や資源量評価に魚群探知機を使用する方法が用いられてきました。

魚群探知機は、送波器から放射された音波が対象物に当たり反射・散乱を起こし受波器へ戻るという過程の中で対象に固有の反射・散乱強度を計測して魚種の判別を行う装置です(図1)。近年、出力音波強度の正確な校正方法が確立し、高精度に魚種判別ができる計量魚群探知機が開発されました。しかし、これらは送受波器直下の海底情報は1点しか得られず、しかも音波反射・散乱強度の解析は調査後にしかできません。さらに、点計測の連続による線状計測には隙間があり、推定補間することでしか評価できないため、海中に広く分布する水産資源について正確に分布面積・体積の調査・評価ができません。加えて、結果を得るために煩雑な解析が必要なことから、漁業者にはほぼ使われませんでした。

図1:従来のシングルビーム(1チャンネル)計量魚群探知機のイメージ(左)と、計測で得られるデータ(右上)および調査結果の例(右下)

マルチビーム測深機による地形と生態系の評価

計量魚群探知機の発展と同時期に、持続的発展が可能な社会の構築のために、海底の地形とそこに棲む生物の資源量との生態学的な研究が始まりました。ここ10年ほどは、海底地形を短時間で高精度かつ広範囲に計測できるマルチビーム測深機の普及により、漁業資源と海底地形の特性などを調べる調査研究が飛躍的に進みました。計量魚群探知機とマルチビーム測深機は同じ超音波を用いていますが、前者が音波の強度のみを扱い、後者は海面から海底までの深さを測るために音の到来方向と伝播時間を深度に変換する、というシステムの違いがあります。

高性能水産資源調査3Dソーナー「SeapiX」

当社は、フランスiXBlue社が開発した高性能水産資源調査3Dソーナー「SeapiX」の販売を2016年に開始しました。このソーナーは、マルチビーム測深機に計量魚群探知機の機能を持たせることに成功した製品です。

大きな特長として、次の3つの機能を持っています。

・計量魚群探知機の4,000倍の高密度・高精度海底地形計測が可能で、かつ1.6°×7.5cmの空間計測分解能で生物種の特定とリアルタイムの3次元資源量分布の算出が可能
・GNSSにより高精度で調査データの位置と深度を記録するGUIベースの統合型海図情報表示機能(GECDIS)を搭載
・ソーナー内に組み込まれた動揺センサによるリアルタイム・高精度の動揺補正

これらの機能により、調査者は地形データやエコー(反射散乱音波)をリアルタイムかつ3次元で確認しつつエコー解析をその場で行うことができます。

測深機としては最大深度1,000mまでの水深を計測でき、また水平計測分解能は従来の計量魚群探知機よりも性能比で20~50倍程度向上しています。

具体的には、一度に計測できる空間は図2(左)のような四角錐の計測領域であり、これに対して約4,000点の測深点を得られる精度で、IHO(国際水路機関)の定める「特級」または「1A級」の要求水準での海底地形計測が可能です。さらに、地理参照バイオマス解析機能(GBA)により、同じ空間計測分解能で魚群や海底底質の音響解析が可能で、生物種や面積・体積分布の3次元情報をリアルタイムに得ることができます(図2(右))。

図2:「SeapiX」によるマルチビーム測深・広範囲高精度の音響計測調査イメージ(左)と、計測で得られるデータ(右上)および調査結果の3次元空間マッピングの例(右下)

「SeapiX」によるこれからの新しい漁業資源調査手法

「SeapiX」は、調査者が目的とする魚種の棲息場所の特定や漁業者が目的とする魚種のみを調査して、その場で選定捕獲するといった操業が1回の調査で簡単にできます。また、大海原にどんな魚種がどの辺りに存在するか、資源量はどの程度か、などについての情報も「SeapiX」は簡単に調査することができます。

このように、「SeapiX」によって漁場で適切な魚種判別を効率よく行えるようになると、精細な3次元資源量分布のマッピング情報を海底地形と同時に得ることができ、それを基に特定魚種の生態系の解明や必要な魚種のみを捕獲するといったことが可能になります。これにより、特定魚種の取りすぎや混獲を未然に防ぐことができ、今後の水産業の持続的発展の可能性が高まると考えられます。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 海洋計測部

前田 文孝

メーカーおよび音響工学の研究職を経て2014年入社。水中音響製品の技術提案や販売を担当し、 2017年より水産音響製品の販売に従事。