東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニーのサービス提供プラットフォーム 「TOYOクラウド」とは

株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー 高須 俊介

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目次
  1. はじめに
  2. サービスサイエンスとプロセス品質が重要
  3. サービス提供プロセスのインフラ「TOYOクラウド」
  4. Salesforceのサービスクラウド上に構築されたフロントエンド部
  5. AI開発機能を含んだバックエンド部
  6. セキュリティに関連したサービスの提供
  7. TOYOクラウドを利用したサービス提供例
  8. TOYOクラウドはサービス提供の共通基盤

はじめに

当社は長年にわたり海外の優れた電子計測機器・サービス・技術を日本に紹介・提供してまいりました。これまで培ってきたノウハウを活かし、より細やかにお客様のニーズに応えるために、セキュリティ&ラボカンパニー(以下SLC)を組織し、サービス提供を中心とした新たなビジネスを立ち上げました。そして、SLCがサービス提供を行なうために開発しているIT環境が、「TOYOクラウド」です。本稿ではこのTOYOクラウドについて概説します。尚、TOYOクラウドは常に進化しており、現在も開発中です。本稿で述べる機能には、将来提供する予定のものも含まれていることをご了承ください。

サービスサイエンスとプロセス品質が重要

SLCが新たなビジネス分野に取り組むにあたって目指しているのは、より高い品質のサービスを提供することです。それを実現するために「サービスサイエンス」を導入しています。

サービスサイエンスでは、サービスの品質を二つの面で捉えています。サービスの結果についての品質を問う「成果品質」と、それをもたらす過程の品質を問う「プロセス品質」です。

計測機器のような製品を販売する場合で考えてみると、販売する製品そのものの品質が「成果品質」にあたり、その製品を入手する過程の良し悪しが「プロセス品質」にあたります。

その製品自体がいかに良いものであっても、製品についての情報が欲しいときに得られなかったり、納期が遅れたり、納期遅れの情報が適切な時期に伝えられなかったりなど、製品が提供される過程に満足を得られなければ、お客様の不満は大きくなることでしょう。

ましてや、製品提供のように具体物がないために成果の形が見えにくいサービス提供では、この「プロセス品質」がより重要なものとなります。

サービス提供プロセスのインフラ「TOYOクラウド」

各種サービスにおいてお客様に満足いただける「プロセス品質」を実現するためには、共通のインフラストラクチャが必要と考えました。最新のIT技術を利用して実現した独自の共通基盤、それが「TOYOクラウド」です。

TOYOクラウドはフロントエンド部とバックエンド部の二部構成で、最新のクラウド環境の上に構築しています。フロントエンド部はSalesforceのサービスクラウド上に作り上げており、サービス利用者の情報や利用量ならびにスケジュール管理などの一般的な共通機能と、会話型のコミュニケーションといったお客様との直接のインターフェースを提供します。一方、バックエンド部は、当社独自の最新のAI技術とビッグデータ分析機能を提供するために、フロントエンド部とは独立したクラウド環境の上に構築しています。当社のエンジニアが、より高いサービス成果を作り上げるための縁の下の力持ちとして働きます。作り上げたサービス成果物はフロントエンド部を介して、お客様に提供します。

Salesforceのサービスクラウド上に構築されたフロントエンド部

TOYOクラウドでは「プロセス品質」、すなわち、迅速性、柔軟性、安心感を提供することを重視しています。

まず、できるだけ「迅速」にサービスの提供を開始することです。お客様の求めるサービスは常に変化しています。どんなに良い成果品質のサービスであっても、お客様の必要とする時期に提供できなければ、満足いただくことはできません。立ち上げ時の最初のサービスメニューから、今後増やしていく予定のものについても、旬なサービスを素早く展開するためには、できるだけ迅速にサービスの提供を始めるということが重要です。

次に柔軟性です。IT技術の進歩は早く、常にその機能は新しくなり、性能は高くなっていきます。例えばネットワークの保守サービスで障害アラームの通知に、かつてはポケベルやショートメールなどが使われていましたが、それが携帯電話やメールの通知に代わり、今ではスマートフォン上でのSNSが望まれるようになりました。 TOYOクラウドはそうした変化に「柔軟」に対応します。

そして、安心感。サービスをいつでも何処でも安心して利用できることが望まれます。すなわちWeb上のクラウドをベースとしたセキュアなサービス提供ができる仕組みが必要であると考えました。

しかし、一から自前で環境を構築すると、その開発や保守のために多くのエンジニアリソースが必要になります。SLCのエンジニアが提供するサービス内容の作成に集中できるように、できる限り既存のサービスを利用することを方針としました。

これらの条件を検討した結果、フロントエンド部はSaaSとして定 評のあるSalesforceを利用して構築することとしました。この環境ではお客様向けのヘルプデスクと問い合わせの管理、プロジェクトの進捗状況をリアルタイムに可視化して提供するポータルなどをPCやスマートフォンを介してセキュアに利用することができます。また、SLCエンジニアもこのフロントエンド部を利用して、世界中のパートナー企業とコラボレーションでき、顧客の管理やプロジェクトの管理も行うことができるので、自らのサービス提供に集中することが可能となりました。もちろん提供するサービス毎にお客様へのインターフェースなどは異なり、個別に作り込む部分はありますが、このフロントエンド部を共通基盤とすることで、短時間で開発してサービス提供をすばやく始めることが可能になります。

図1:TOYOクラウドのフロントエンド部

AI開発機能を含んだバックエンド部

図2:TOYOクラウドのバックエンド部

現在は、2012年のディープラーニング(深層学習)の登場に始まった第3次人工知能(AI)ブームの中にあるといわれています。情報通信白書で述べられている「ICTによるイノベーション」や科学技術白書の「超スマート社会に向けてのコアとなる技術」を引くまでも無く、これからはAIをいかにうまく活用したサービスを提供するかがビジネスを成功させる鍵となると認識しています。このため、SLCは世界中から、既存の、そしてこれから得られるであろうAIを利用したツールを見出して積極的に利用します。また、TOYOクラウドのバックエンド部には、いろいろなセンサーからの情報を収集して一元的に保管する仕組みが作られており、これを利用して専門のAIエンジニアがAIアルゴリズム(モデル)を開発する機能を実装しています。ここで得られたアルゴリズムやその振る舞いに対する知識は、独自のAIツールの開発や既存AIツールの適切な利用のための評価と設定として活かされ、バックエンド部での効率の良い解析を可能にします。

主として当社のエンジニアが利用するために設計されているバックエンド部は、先進技術をいち早く取り入れることができるように、主にオープンソースソフトウェア(OSS)を用いて実現しています。

セキュリティに関連したサービスの提供

図3:TOYOクラウドによるサービス提供

SLCが提供するサービスの第一弾は、ITセキュリティに関連したサービスです。このサービスはITセキュリティに対する経験と知識を持つ当社のサイバーリスク分析(CRA)チームが海外のパートナーエンジニアと協力して提供します。

CRAチームは、顧客サイトの各種のセキュリティセンサーから送られる大量のセキュリティイベントデータと世界中のセキュリティエキスパート・パートナーから送られてくるサイバーセキュリティインテリジェンス情報とを、 TOYOクラウドのバックエンド部に組み込まれた最新技術のビッグデータ解析や機械学習技術を駆使して、照らし合わせて分析します。分析結果はクラウド環境にあるフロントエンド部を中継し、お客様のダッシュボード上にリアルタイムで提供されます。

お客様は、ダッシュボードを見ながらいつでもサービスの状況を知ることができます。また、同じダッシュボード上からサービス内容などについての問い合わせを行うことも、必要に応じてCRAチームと同じデータを参照しながらオンラインでチャットをして問題解決に結び付けることも可能です。さらに一般的な質問であれば、ダッシュボード上に組み込まれたSNSツールを利用してTSEC(TOYO SLC “Engage” Community;ティーセック)に投げることができるので、実用的なノウハウをコミュニティーで共有することもできます。 TOYOクラウドでは先進のツールを積極的に取り入れることによりこれらの機能を実現するとともに、社内でディープラーニングの手法に精通したエンジニアを育成しており、自らアルゴリズムの開発を行って、いろいろなツールから得られた情報を相互に組み合わせて情報の精度を改善し、新たな発見をすることで、新たなサービスを提供することを目指しています。

TOYOクラウドを利用したサービス提供例

最初に提供するサービスメニューの一つである、脆弱性診断サービスを例にして具体的に説明しましょう。

CRAチームはパートナー企業である米国のSpirent社やイスラエルのCyberHat社のセキュリティエキスパートと共同し、お客様のWebサイトやネットワークへの外部からの侵入攻撃を試みて、攻撃に対する耐性をある期間にわたって調査します。お客様は、調査の進捗をTOYOクラウド上のダッシュボードでリアルタイムに確認することができます。何らかの理由で調査のために行う攻撃の停止や中止が必要な場合は、いつでもダッシュボード上から指示することも可能です。

カレンダー上には提供されるサービスのスケジュールが表示され、日付をクリックすると状況が示されます。

調査が終了すると、ダッシュボードを介して調査結果のレポートが出来上がった通知を受けることができます。また、必要に応じてレポートを入手することも可能です。

図4:ダッシュボード

TOYOクラウドはサービス提供の共通基盤

ITセキュリティ関連のサービスから提供を始めますが、TOYOクラウドはセキュリティサービスに特化しているわけではありません。将来は当社の得意とする計測技術を基礎としてIoTも取り込んだビッグデータ解析や、AI機械学習を含むサービスビジネスへと拡大していくことを目指しています。当社が得意としてきた計測機器を中心としたモノや技術、ソリューションを提供するビジネスに加えて、SLCは『サービス』提供体として新たなビジネスにチャレンジし、モノが利用されること(サービス)で顧客価値を生み出します。TOTYOクラウドは、それを実現する鍵である新たな環境を提供するものです。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー VP CTO

高須 俊介

計測システムの開発を皮切りに、一貫して技術・開発畑を歩む。米国子会社の立ち上げ、事業戦略開発などを担当した後、現職にてサービスビジネスに挑む。