今なぜサービスサイエンスが必要なのか
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永く続いてきた製品中心のビジネスは終わりを告げ、これからはサービスがすべての世界になっていきます。このため、ビジネスに携わる人々は、サービスのプロになる必要があります。サービスのプロになる努力はいろいろありますが、急激に進化している「サービスサイエンス」を理解し、サービスビジネスを成功に導くことができるリテラシーを身に付ける努力は必須です。
日本はサービス産業が支えていく
日本を支えている産業は、製造業だと思っていませんか。自動車のように強い製造業もありますが、実は国民総生産の75%はサービス業が稼ぎだしています。残りの大半は製造業ですが、頑張っている製造業はサービス化に注力しています。農業や漁業も地元に観光客を誘致してサービス化を進めています。つまり、すべての産業がサービスに力を入れています。
永年にわたって製造業は「エンジニアリング」を研究し、科学的・工学的に生産性を高めてきました。しかし、サービス業は多様な上に「目に見えない」、「生産と消費が同時」、「在庫できない」、「受ける人によって評価が変わる」などの特徴があり、何かを変えていこうとする際、属人的な経験や勘に頼ることが多く、現状を系統立てて分析し対策を練ることがされてきませんでした。
そこで近年、サービスに科学的なアプローチを適用し、体系化し、科学的・工学的な分析を行う「サービスサイエンス」が注目されています。サービスサイエンスを推進する目的は、サービスを科学的に捉えることだけではなく、実際のビジネスで効率よく、付加価値の高いサービスを適切にお客様に提供していくことにもあります。
サービスサイエンスの重要性を理解する
筆者は、自然科学の進化プロセスを見習って、「サービスを分類する」、「サービスを分解する」、「サービスをモデル化する」ことによりサービスサイエンスを体系化してきました。植物学や生物学においては、研究は分類から始まっています。分類していくと、どの生物とどの生物が親戚だとか、どの生物はどの生物より進化しているかということが見えてきます。何も新しい発見にはつながらないかもしれませんが、とりあえずサービスを分類してみることにしました。
経済産業省関連のホームページにあった約450個の「日本のサービス業種名一覧」を分類してみました。すると、すべてのサービス業は、たった21個の基本サービスメニューから成り立っているとの仮説にいたりました。さらに分類すると「モノ提供サービス」、「情報提供サービス」、「快適提供サービス」に分類できることも分かりました。
分類の次は分解です。サービスの分解で最も重要なものは、「プロセスに分解」することです。この分解は誰でも馴染みがありますが、この他に「サービスの評価は、サービスの成果の評価とプロセスの評価に分解」されます。両方が高く評価されると、高い顧客満足を得ることができます。また、サービス品質は「正確性」、「迅速性」、「柔軟性」、「共感性」、「安心感」、「好印象」に分解すると、分かりやすく議論できます。
分解の次はモデル化です。自然科学では「ニュートンの万有引力の法則」のように、いくつもの法則が発見されています。サービスの世界には残念ながら法則はなさそうですが、サービスをモデル化することの効用は共通認識になっています。モデル化のスタートは、「サービス」という言葉を定義することです。日本語のサービスの意味合いには、「食後のコーヒーはサービスです」のように「おまけ」という意味もあります。そこで筆者は、『人や構造物が発揮する機能で、お客様の事前期待に適合するものを「サービス」という』と定義しました。つまり、サービスの本質は機能の発揮ですが、すべての機能の発揮がサービスではなく、お客様の事前期待に適合しているものだけがサービスと呼ばれるわけです。したがって、お客様の事前期待に適合しない機能の発揮は、「余計なお世話」、「無意味行為」、「迷惑行為」と呼ばれてしまうのです。
言い換えれば、事前期待を把握しないとサービスは提供できないということです。事前期待を把握せずに顧客満足を得ているのは、論理的には「まぐれ当たり」しているだけです。「まぐれ当たり」に頼っているのでは不安定であり、もしかすると余計なコストを使っているかもしれません。
サービスプロセスモデルは劇的な成果を創りだす
図は、会員制ホテルのお客様をお迎えするサービスプロセスモデルです。サービスプロセスには、サービス提供プロセスと顧客プロセスがあります。この二つのプロセスは、ほぼ同期して進んでいきます。あるホテルの支配人にこのサービスプロセスモデルを描いてもらいました。でき上がったモデルは、たった4行で終わっていました。「玄関でお客様をお迎えして」、「フロントにご案内し」、「今回の予約内容を確認して」、「お部屋にご案内する」となっていました。それを見た筆者は、「みなさんのホテルは、会員制ですよね。リピータで成り立っているのですよね。このサービスプロセスのどこで、またこのホテルにきたいなと思ってもらえるのですか」と訊きました。すると、支配人は面目ないとの表情になり、時間をかけて描き直してくれました。今度は、図のように、それなりに納得感のあるサービスプロセスモデルになっていました。サービスプロセスモデルのテンプレートを活用すると、サービスの設計が論理的かつ積み上げ型で行うことができます。サービスプロセスモデルの詳細に興味のある方は、参考文献をお読みください。
最初に述べたように、「すべてのお客様はサービス業です」といっても間違いではない時代に入っています。このため、サービス関係者はサービスのプロにならなければ、お客様の事前期待を把握して、高い顧客満足や感動体験を共創することができません。衛星放送のW社は、コンタクトセンターにサービスサイエンスを取り込み、受注プロセスを事前期待に合わせて改善しました。すると、一般的な月で契約締結率が150%になり、有力な番組がリリースされる月は200%になりました。劇的な成果だと思いませんか。
参考文献
「サービスの価値を高めて豊かになる」 リックテレコム 諏訪良武