自動車ドアの最新技術を聞く ~軽量化とドア閉まりについて~
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お客様のご要望にお応えするより良いドア開発設計を目指す
——:ご多忙のところお時間を頂戴し、スズキ株式会社様の自動車ドア開発設計の現在について、また今年(2016年)から日本の自動車メーカー主催で開催されるようになった「ドアサミット」についても、お話を伺えれば、ありがたいと思います。
西村浩司氏(以下、西村):承知しました。では最初に、スズキのドア開発設計についてお話をしたいと思います。ドアは単品で販売しているものではなく、クルマを構成するひとつの部品です。そのために私たちドア開発設計は「お客様のご要望にお応えするための技術開発」をするために、つねにクルマ商品全体に対してお客様がどのようなご要望をもっていらっしゃるか、というところから、ドアの開発設計をしなくてはならないと考えています。自動運転や環境性能などお客様の多種多様なご要望が高まり、クルマに新たな価値が求められている時代ですから、お客様のご要望に、迅速かつ確実にお応えしていかなければ、商品の魅力が増さず、市場競争力が低下してしまいます。その大きな取り組みの中で、ドア開発設計が直面している課題をお話したいと思います。
——:そのほうが理解しやすいと思いますので、お願いします。
西村:クルマのドアについて、すべて説明するには、たいへん長い時間が必要ですので、具体例をひとつお話します。たとえばドアは、クルマに乗るすべてのお客様が、最初にさわる部品なのです。降りたあとはドアを閉めるので、最後にさわる部品でもあります。お客様がクルマを買われるとき、試乗されると思いますが、ここでも最初にさわるのがドアです。だからドアを開けたときの印象が、そのクルマ全体の第一印象になってしまうところがある。したがって安全性が高いことを実感してもらい、開けて閉める基本的な操作が快適にできることも実感していただきたい。この安全性と快適操作性は、ドアの普遍的な技術です。だから広く深く持続的に研究開発をしなければならない技術です。
——:それがひとつのドアの技術の基本になる。では、現在の課題は、どのようなものなのでしょうか。
西村:はい。近年は、お客様の多種多様なご要望が高まっているので、ドアについても、たとえば高いレベルの静かな車内を求められるお客様がいらっしゃいます。そのご要望に応えるためには複合的な技術が必要なのですが、外からの音を遮るために気密性の高いドアを設計しようと、私たちはまず考えます。ところが気密性の高いドアは、室内の空気に押し返される傾向にあるのです。そこで閉まりやすさと気密性を両立させるドアを実現したいと考えるわけですが、そのためには新しい技術を開発しなければ実現できません。このような新しい技術開発への挑戦と、普遍的な技術のさらなる進化の両方を、同時に推進していかないと、現在のお客様のご要望にお応えすることができません。お客様がクルマに求められる、さまざまな新しい価値が、急速に増えている時代だからです。
すべてのお客様にご満足いただけるドアでありたい
——:そのような時代にあって、良いドアとは、どのようなものかという質問が浮かんできました。
西村:うーん。一言でお答えするのが、とても難しい質問です。すべてのお客様にご満足いただけるドアが、良いドアだと思うのですが、それを短時間で説明するのは、とても難しいです。
——:弊社では2015年末からイージーメトロロジー(EZ Metrology)社のドア計測器を販売していますので、ドアについて学びたい一心で、難しい質問をしてしまったようです。ご容赦ください。
西村:なるべく簡潔に説明してみたいと思います。良いドアとは、当然のことですが、何よりも安全性能がきわめて高くなければならない。次に、開ける・閉める・閉まったときの音、が三大要素になると思いますが、この三つには地域性があります。たとえば日本のお客様が「このドアは開けやすいし、閉めやすい。音もいい」と言ってくださっても、他の地域や国では「ちょっと違う。もっとよくしてくれ」というお客様がいらっしゃるわけです。これは社会文化的な環境が違うところからくる感じ方の差異、つまり好き嫌いの差異と言っていいと思います。
——:クルマはグローバルな商品だから、多様性が求められる。では、その中でスズキ様が考える良いドアというのは、どういうものでしょうか。
西村:これもまた、短時間でお答えするのが、難しい質問です。繰り返しになりますが、安全性能が高いこと。開ける・閉めるが確実で操作感が良いこと。閉めたときの音が良くて、余韻すらも楽しめるような音であれば、なお良いです。それから重要なのは、見た目の質感と、さわったときの感覚が良いことです。もっと言えば、ドアひとつで、クルマ全体の価値を押し上げるような、お客様に満足していただけるドアでありたいと、私は考えています。
——:「ドアひとつで、クルマ全体の価値を押し上げる」ということの具体例を、ひとつ教えてもらえますか。
西村:いまの時代は、より燃費の良い自動車が、お客様から求められています。そのためには効率の良い原動機を開発する以外にも、たとえば車体を軽量化するということが必要です。冒頭に申し上げたように、ドアはクルマを構成する、ひとつの部品ですから、車体を軽量化するために、ドアの開発設計者が挑戦しなければならないことは、より軽くて丈夫なドアを開発することです。軽量化は、とても挑戦しがいのある技術開発ですから、粘り強い努力で、これを実現しようと取り組んでいます。
——:自動車のドアについて関心をもつと、このドアは閉まりやすいとか、この音は重厚で良い、などと気がつくようになります。それらの機能や感覚すらも技術開発されたものなのですか。
西村:ドアは可動する部品ですから、開いたときや走っているときの動的評価、閉まっているときの静的評価、そしてボディーの一部ですからデザイン的な評価もする。そのような技術が集合していますから、幅広く奥深い技術で開発している部品だと思います。ドア開発設計者としては、ドアに関心をもっていただけると励みになります。ドアのすべての性能はもちろん、その音まで、技術者たちが考えて作ったものですから、お気に召さないところはあるかもしれませんが、それは技術者たちの努力と工夫の結果なんだなと思ってもらえると、ちょっと嬉しいです。
自動車メーカー主催による日本初のドアサミット開催
——:さて、次に伺いたいのはドアサミットの話です。今年(2016年)から始まったドア開発設計者が集うイベントですね。
西村:そうです。日本の自動車メーカーが主催し、今年は1月と5月に2回開催しました。5月の第2回には日本の自動車メーカー全社と日本のいくつかの部品メーカーのドア技術者40名以上が参加しました。ドア技術者のための国際ベンチマーキング会議としては「Doors & Closures in Car Body Engineering」が7年前から毎年1回ドイツで開催されていますが、日本では今年からドア技術者の集いが始まりました。
——:どのような内容の集まりになったのか、ご説明ください。
西村:自動車のドア技術に特化した技術講演をして、そのあとに参加者全員でディスカッションをするのが基本メニューでした。今年の講演は「ドアの軽量化技術について」と題してスズキがやらせていただきました。ディスカッションのテーマは「ドア閉まり・ドア閉まり音などの評価方法」や「ドアに特化した将来技術」でした。ドアに関連する最新の技術情報もお伝えしました。今年は御社がドア関連の計測器の情報を伝えてくれましたね。
——:このドアサミットは、西村様が開催を企画したイベントだと聞いております。どのようないきさつでドアサミットをしようと考えられたのですか。
西村:昨年、初めてDoors & Closuresin Car Body Engineeringに参加させてもらったのです。各国のメーカーの技術者による技術講演を聞いて、内外のドア技術者とディスカッションし、親睦会で親しく話をしました。私は初めて他社のドア技術者と意見や情報の交換をしたのですが、技術的な刺激をうけて考えが深まるし、技術的な好奇心がわいてきてワクワクしました。ひらたい言葉で言えば、楽しかったのです。しかし日本には、そのような場がありませんでした。日本でも自動車技術会ではエンジンやボディー、先進技術などのシンポジウムが開かれて、それらの技術者のコミュニティがあるようですが、ドア技術者が交流する場はなかったのです。私は日本にもドア技術者が集い語り合う場があったらいいなと素直に思いました。
——:発想の原点は、そこにあった。では、いかに展開なさったのですか。
西村:はい。御社が今年初め、イージーメトロロジー社のドア測定器のセミナーを何度か開催されました。私は興味をもって、そのセミナーに出席しましたが、そのときセミナーには日本のドア技術者が集まっているという当たり前のことに気がついたのです。それで、ここに集まっている人たちに呼びかければドアサミットが実現できるかもしれないと思って、御社へ協力をお願いしました。そこから第1回ドアサミット開催まで一気に動き出しました。実際に第1回を開催してみると、各社のドア技術者のみなさんの反応がすこぶる良かったです。
ドアサミット継続開催に向けて「日本のドアを良くしていこう」
——:私たち東陽テクニカのスタッフは、ドアサミット開催へ向けてのお手伝いをしながら、日本のドア技術者のみなさんの技術を語り合いたいという気持ちをひしひしと感じていました。
西村:ドアサミットをやりませんかという私の提案に対する反応は、想像以上に大きく熱心でした。私はドアサミットができたらいいなと思って提案をしただけで、実は各社のドア技術者のみなさんの方が、集い語り合う場を欲していたのだと思いました。そこで技術的な議論をして技術を深め、より多くの情報を収集して広範囲に考えたいと、多くのドア技術者が望んでいたのです。ドアはボディーの一部ですが、ドアにはドア技術者しか体験できない技術開発の難しさと苦労がありますから、そこはドア技術者だけで語り合いたかったのでしょう。私が何かをしたというより、提案のタイミングが良かっただけなのだと思っています。
——:今後のドアサミットの方向性を、どのように考えられていますか。
西村:現在は各社にドアサミットを担当する代表を決めてもらい、その人たちと打ち合わせているのですが、年に一回、第2回同様に5月の「人とくるまのテクノロジー展」にあわせて開催しようという機運が高まっています。活発に意見や情報の交換をして、語り合って刺激しあい、情報をわかちあうのは、もちろん意義のあることで、各社それぞれが競争力のあるドアを開発することに直接つながると思います。また交流を楽しむのも、ドア技術者たちの活性を生むと思います。そのうえでドアサミットは、発展的なテーマをもちたいのです。ドアサミットを継続的に開催していくためには意義のあるテーマが必要です。すでに何人かのドア技術者のみなさんから懇親会の場で「日本のドアを良くしていこう」というテーマをもったらどうかというご意見がでています。欧州や米国のメーカーに勝る日本の自動車ドアを開発するためにドアサミットがあるというテーマと位置づけです。無論、私も賛成です。
——:ぜひ弊社も積極的に協力をしたいと思います。また大いにドア計測器の情報もお伝えしたいと思います。
西村:さまざまなドア計測器で手軽に多種のデータが取れることは、技術開発や生産の合理性と品質を向上させることだと、ドア開発設計の一人の技術者として期待しています。ぜひドア計測器についての多くの情報をいただきたいと思います。
——:ドアサミットの発展を待望しております。本日はお忙しいところ元気で貴重なお話をありがとうございました。