VLBI(超長基線電波干渉法)技術とは?
本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
PDFダウンロード
PDFをダウンロードいただくには、会員登録が必要です
GPS技術等の発展により2点間の距離計測は比較的正確に行えるようになりましたが、東日本大震災の原因として注目されたプレート運動は、年間わずか数cmです。数千kmも離れた地点でプレートの動きを高精度に計測できるのはVLBI技術のみです。ここではVLBI技術の基礎を紹介します。
VLBIと は、"Very Long Baseline Interferometry (超長基線干渉法)"の略称です。はるか彼方にある電波星から放射された電波を、複数の電波望遠鏡で構成した干渉計を使用して精密に測定する技術です。超長基線とは、観測に利用する電波望遠鏡間の距離を表し、時には数千kmにも及びます。また干渉法とは、光の干渉現象の理解に用いられるヤングの実験で観測される、スリットを通過した光波が干渉し合って縞模様が現れる現象を利用したものです。
ヤングの実験では、干渉渦が観測できるようにスクリーンの位置(上図オレンジ色の線)を移動させますが、 VLBIでは上記のAとBの位置に電波望遠鏡を置き、電波星からの電波が干渉し合い、最も強め合う条件で生じた波形の振幅を測定します。 電波の干渉を測定するには、それぞれの電波望遠鏡に対し、共通の時間信号(クロック)を供給するケーブルが必要であったため、電波望遠鏡間の距離(基線)は限定されていました。しかしながら、周波数安定度の極めて高い原子時計(水素メーザー)やGPS信号が開発され、各電波望遠鏡どうしを極めて正確に時刻合わせできるようなったため、数千km離れた電波望遠鏡を用いた干渉計が構成可能となりました。この技術を超長基線干渉法(VLBI)と呼んでいます。 VLBI技術を用いることにより、アンテナ間の距離、すなわちアンテナが設置された大陸間の距離の変化(プレート運動)や地球回転を高精度に測定することができます。また、アンテナ間の距離をさらに離すことにより、地球規模の直径をもつ望遠鏡として構成することも可能です。これを応用すると、光学望遠鏡では観測できない地球から遠く離れた天体(ブラックホール等)の詳細を高分解能で観測できます。
VLBIの原理
VLBIでは、地球からはるかに離れた電波星(クエーサー)から発せられた電波を二つの電波望遠鏡で同時に受信します。電波星から発せられた電波は曲面波として伝搬していますが、遠く離れた地球への到達時には平面波としてみなすことができます。
伝搬してきた平面波(赤色破線)は、まずアンテナ① に到達します。次に、遅延時間が経過した後にアンテナ②に到達します。この遅延時間を計測し、それに電波の伝搬速度を掛けると直角三角形の一辺の長さが求まるため、アンテナ間距離が算出できます。アンテナ間距離を算出する原理は以下の通りです。電波源方向(単位ベクトル)を、光の速度をとすると、遅延時間は下式で表されます。
したがって、いろいろな方向にある電波星の電波を受信した際の遅延時間は下記の式で表されます。
ただし、実際に観測される遅延時間には、アンテナ間距離の誤差による誤差が含まれます。つまり、下記のように電波星の方向に応じた遅延時間誤差が実際の観測で得られることになります。
この遅延時間誤差は、電波星の方向に誤差が無いと仮定すると、下記で表されます。
遅延時間誤差とアンテナ間距離が1対1に対応するので、複数の星を観測して得られたが最小になる(アンテナ間距離)を算出します。逆に、アンテナ間距離が正確にわかっている場合は、遅延時間誤差が電波星方向(θ)と1対1に対応するため、電波星の方向を精密に測定したり、ブラックホール等の天体の詳細を観測したりすることができます。
微弱電波の検出
VLBI観測に使用する電波星は、地球から数十億光年の彼方にあり、地球上で受信できる電波は非常に微弱です。また、実際に受信する電波には、電波星以外からの電波や雑音が含まれており、例えば、地球の大気雑音、電波望遠鏡自体の雑音、受信機自体が発生する雑音等が挙げられます。このようなことから、VLBI観測では微弱な電波を、雑音を低く抑えながら、高感度で検出することが必須となります。これらを実現するために、受信器および増幅器は、極低温(絶対温度~10度)に冷却し、雑音をできる限り小さくしています。
これらの高感度の受信器と、パラボラ面の高い鏡面精度、精密な指向性を組み合わせることにより、 VLBI観測に使用される電波望遠鏡では、地球から月面までの距離ほど(約38万km)遠くにある携帯電話(約1W)から発せられる、微弱な電波でさえも検出できるだけの性能をもっています。