動力の歴史を変えるモータ開発の最前線
~トップランナーモータ、超高速モータ:省エネと高性能モータ開発のためのトルク計測~

株式会社東陽テクニカ 営業第2部 小島 健介

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目次
  1. はじめに
  2. トップランナーモータ
  3. 高精度のモータ効率測定装置
  4. トルクの再現性:ヒステリシスブレーキの動作原理
  5. 連続の高出力:空冷式ヒステリシスブレーキ
  6. 高精度なトルク計
  7. システムアップ・自動試験
  8. 超高速のモータ開発現場
  9. おわりに

はじめに

10年、20年前のモータは一定回転数で回ること、トルク・回転数・出力の特性が規定のものであることが求められました。しかし、世界的に持続可能なエネルギーの消費や安心・安全が求められ、近年のモータは、高効率・低消費電力・静音・均一なトルク・速い応答・フェールセーフなど、使われる場面に応じて様々な性能が必要とされるようになりました。

このように世界の動力が変化している背景には、エレクトロニクスの分野の飛躍的な発展があります。モータというと昔は機械関係のエンジニアが開発する回転機械というイメージでした。しかし、今は試作品を作らなくても、机上でのコンピュータ計算だけで求める性能のモータを設計することが可能になり、ソフトウェアのエンジニアや電子回路設計の技術者も数多くモータの開発に携わるようになりました。その結果、近年はあらゆる動力にモータが使われ、動力の歴史を変えると言ってもいいほどの変革が起こっています。例えば電気自動車に代表されるように、ガソリンエンジンの動力と排熱ではなく、電池とモータで動く車が実現され、様々な駆動機械が電動モータに置き換わっています。

トップランナーモータ

日本では、1998年の省エネ法の改正によりトップランナー制度が導入され、自動車や家電製品など大量にエネルギーを消費する特定の機器を対象に、エネルギー消費効率の向上が推進されています。その結果、エアコンや冷蔵庫などの家電製品は10年前に比べて 5割以上の省エネな製品が販売され、民生品による消費電力の削減に貢献してきました。省エネ家電のエコポイントや燃費の良い自動車に対するエコカー減税を利用された方も多いのではないかと思います。

そして、2015年4月より、このトップランナー制度が三相誘導電動機(産業用モータ)に適用され、日本国内のエネルギー消費を削減することが期待されています。 三相誘導電動機は世界の消費電力量全体の40 ~ 50%を占めるといわれています。省エネ技術が進んでいるはずの日本でも、未だにIE1クラス(7.5kW出力で87%効率) が全体の99%を占めています。欧米ではすでに高効率なモータ導入の規制が開始されており、アメリカではIE2クラスとIE3クラスの普及率が合わせて70%となっています。トップランナーモータ制度では、IE3クラス(7.5kW出力で90%超の効率)が求められます。IE1とIE3の差はわずか3~5%という値ですが、それでも全てがトップランナーモータに置き換われば、日本全体の消費電力が1.5%低減するという大きな変革です。

IE3クラスに対応したモータ効率の算出については JIS C 4213 で規定されています。これは、真の効率を算定することの不確かさが'低'の方法としており、モータにかけている負荷の大きさを高精度のトルク計で直接測定することを要求しています。

高精度のモータ効率測定装置

当社が取り扱っているMagtrol社は、これまで数十年にわたって高精度のトルク計測と安定したブレーキ負荷装置を組み合わせたシステムを提供しており、モータトルク計測の分野では世界をリードする会社です。当社が国内へ納入したシステムは、高精度な測定・制御ができるためトップランナーモータの開発現場だけでなく、幅広い分野で省エネに貢献するシステムとして活用されています。

モータの効率を精度よく測定するには、図のようにヒステリシスブレーキとトルク計、電力計などを接続したシステムを使用します。

そして、特に高精度の計測システムには以下の性能が求められます。

・モータの性能に応じた一定のトルクを再現性よく与えること(回転数や温度の変化に影響を受けないこと)
・モータ内部の温度が安定するまで1時間や3時間の間、連続でトルクを加え続けること
・モータや負荷装置の温度変化でトルク計測の精度に影響がないこと

トルクの再現性:ヒステリシスブレーキの動作原理

ヒステリシスブレーキは、電磁ブレーキの一種です。円筒状の鉄製ロータと、歯型形状のステータで構成されます。コイルに電流を加えるとステータが磁化し、ロータとの空隙に磁界が発生し、磁気摩擦がブレーキ力となります。

ヒステリシスブレーキを使うことの利点は、発生するトルクが回転数に依存せず、コイルの電流に応じた出力となることです。このブレーキは再現性の高いトルクが容易に得られることから、張力制御の分野にも広く活用されています。

余談ですが、Magtrol社のロゴである曲線は、「ヒステリシス曲線」と呼ばれており、約60年前の会社設立時に開発したヒステリシスブレーキに由来しています。

連続の高出力:空冷式ヒステリシスブレーキ

三相誘導電動機の効率を測定する際、モータに熱電対を貼り付け、内部の温度が安定するまで1時間や3時間といった連続でトルクを加える必要があります。

ヒステリシスブレーキは、トルクが発生すると

の式で表される出力を受けて発熱します。そのため、連続でトルクを発生させるには、この熱を冷やす必要があります。Magtrol社のヒステリシスブレーキは、ブレーキの内部を冷却するためにブロワ冷却式のBHBシリーズと、エアコンプレッサー式のAHBシリーズがあります。

ブロア空冷式ヒステリシスブレーキ BHBシリーズ

高精度なトルク計

モータ効率は、1%改善すれば極めて大きな効果であり、実際の測定は0.1% の桁が必要となります。Magtrol社のトルク計はフルスケール±0.1% という世界トップクラスのトルク精度であり、温度による変化も ±0.01% / ℃ となっています。

また、トルク検出部がアナログ回路で組まれており5kHzの帯域がありますので、トルクの変動成分も含めた評価ができます。モータの電流・電圧の変動成分とともに、トルクの変動成分も高い帯域で測定することで、より正確な効率の評価に繋がります。

両軸型トルクトランスデューサ TMシリーズ

システムアップ・自動試験

当社は、上記のブレーキ・トルク計などの機器の選定だけでなく、モータ固定台・軸合わせ・データ収集といった技術を蓄積し、お客様のご要求にあったカスタム試験ベンチを構築してきました。

カスタム試験ベンチ例

JISに規定された三相誘導電動機の試験は、複数のトルクの条件で測定を行うため、1回の試験が1日から3日ほどの長時間となることがあります。そこで、自動化により試験者の負担を軽減する対策も必要となります。

当社の取扱い製品のデータロガー・ソフトウェア等を組み合わせることで、この自動化を実現することができます。例えば、一定トルクで1時間の負荷を与え、モータの温度が飽和したことを判定した後、モータ入力端子の抵抗を自動で測定して結果をレポートにまとめるという一連の操作が自動化されます。

超高速のモータ開発現場

当社が取り扱っているMagtrol社の製品は、高精度のトルクに加えて、超高速のブレーキ負荷装置に強みがあります。 2014 年の夏、Magtrol 社は新製品の1WB27ダイナモメータ (10万rpm, 1kW, 0.15N・m)という世界初(※ Magtrol社調べ) のダイナモメータを開発しました。この製品を様々な分野で開発に携わる方々へ紹介しましたところ、「世界中を探しても他にない物だから購入したい」というご意見もあれば「、もっと高速でトルクの大きな装置がほしい」というご要望も多く頂きました。現状、Magtrol社ではこれ以上のハイスペックな製品の開発は厳しいのですが、私自身も「モータ開発の現場はそこまで進んでいるのか」と驚き、同時に日本の技術の高さを実感しました。

インターネットや技術誌をご覧頂くと超高速モータに関する様々な情報が得られます。特に私自身が接する機会が多い技術は、自動車の電動ターボチャージャーです。ターボチャージャーとは、自動車の排気ガスのエネルギーでタービンを回し、その力で圧縮された空気をエンジンに送り込むというエネルギーを再利用する仕組みです。その回転数は10万rpmや20万rpmという超高速になります。近年はモータの制御技術が進歩し、これを電動化することで排気ガスの流量が少ない場合でも電気でタービンを回すことができる製品の開発が盛んに行われています。

超高速ダイナモメータ(10万rpm)
1WB23/27シリーズ

Magtrol社では、より小型のモータ用にメガスピードダイナモメータ(35万rpm, 20W, 0.05Nm)という装置も扱っています。このアプリケーションは歯科用のエアタービンや微細加工用の小型モータです。このように超高速の小型モータはこれまでトルクを実測せずに製品化していましたが、この装置で実測をすることで設計通りの性能が出ているかどうかの評価が可能になります。

メガスピードダイナモメータ

おわりに

今後のモータ開発では、レアアースが含まれた永久磁石を使わないスイッチドリラクタンス(SR)モータや、高度な制御を行うことで効率アップをするインバータのように、様々な方法で省資源・省エネ・快適さを実現する技術が期待されています。 Magtrol社および当社は、高精度・高速のモータトルク計測分野のリーダーとして、動力の歴史を変えるモータ開発の最前線に求められる試験装置を提供し、日本の産業の発展に貢献していきたいと考えています。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 営業第2部

小島 健介

2003年入社。開発部にて情報通信・物性・回転機械の試験装置の開発を7年間担当後、現在は営業部にてトルク試験装置の製品主担当。