サンプル内部の極微細構造を切らずに見る技術
~X線マイクロ/ナノCTスキャナ~

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部 岩田 敏一

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目次
  1. 身近で活躍するX線CT
  2. なぜX線を用いた内部構造観察が必要なのか
  3. どのように内部を観察するのか
  4. X線CTの強み
  5. SEMに取り付けるX線CT~InSEM CT~
  6. SEM像とCT像
  7. X線CTの応用分野

1. 身近で活躍するX線CT

X線CTスキャナは、現在多くの病院に設置されています。実際にCT検査を受け、ご自身の体内の像を見られた方もいらっしゃると思います。また、CTでなくとも、人体のレントゲン検査や空港における荷物検査もX線を用いています。このように、X線を用いた内部観察は日常で触れる範囲でも多く活躍しています。

2. なぜX線を用いた内部構造観察が必要なのか

広く用いられている光学顕微鏡や走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)では基本的にサンプルの表面しか観察出来ません。内部構造を観察しようと考えた場合、サンプルを物理的に切断する必要があります。

しかし、人体などのそもそも切断できないサンプル、小さいサンプルで切断が難しい、あるいは切断する際に力がかかったりして状態が変わってしまうサンプルなどに対しては、この方法は使えません。また仮に切断できるものであったとしても、見たい場所で正確に切断するのは至難の技です。もちろん、一度切ってしまえば同じサンプルを何度も観察することもできません。

一方、X線は強い透過性を示すので、サンプルを通過することができます。その特長を利用し、サンプルを切断せずとも内部構造を観察することが可能です。

3. どのように内部を観察するのか

X線はサンプルを通過する際に、内部に含まれる材料によって減衰します。その減衰量は原子番号や密度等に依存します。検出器でその減衰量の差をとらえることで内部の構造を2次元的にとらえることができます。いわゆるレントゲン像です。

単純な例を申し上げますと、骨を観察した際に、X線は空気の部分ではほとんど減衰されず検出器では”明るく”検出され、リン酸カルシウムの部分ではX線が減衰されて”暗く”検出されます(図1)。

図1:マウス大腿骨のレントゲン像

検出器は4000×4000などのピクセルに細分化されており、サンプルによって減衰されたX線の強度をピクセルごとに検出します。

X線源、サンプル、検出器の位置関係がそのまま倍率になります。そのため1ピクセル当たりがどれだけの長さに相当するのか(何μmなのか)を簡単に求めることができるので、数値解析にまで応用できます。

CTとは、コンピュータ断層撮影法(Computed Tomography)の略です。

上記の説明の様に取得したレントゲン像をデータとして集め、コンピュータで処理することによって3次元のモデルを形成します。具体的には、サンプルまたは線源と検出器が回転することによってレントゲン像を180度または360度分集めてコンピュータで計算します(図2)。

図2:X線CT観察の模式図

そうしますとX線の減衰率が3次元の立体構造で表されます。この際立体構造は小さな立方体(ボクセル)の集合体となり、パソコン画面上で好きに断面を切って観察することも可能になります(図3)。

図3:ピクセルとボクセル

4. X線CTの強み

X線CTはサンプルの内部を非破壊で観察する顕微鏡ですが、それが高分解能で実現できます。さらに数値解析(表面積、体積、分散、配向性など)へ応用ができるため近年注目を集めています。

私どもが取り扱っているベルギーのBruker microCT社製のX線CTの分解能は数μm(マイクロメートル;1/1000ミリメートル)、機種によっては1μmを切っています。ヒトの赤血球の直径が7~8μm、厚さが2μm程度ですので、いかに小さいものが観察できるかご想像いただけると思います。 Bruker microCT社ではサンプルのサイズや分解能によって製品ラインナップを取り揃えています。その中でも、SEM中でサンプル内部構造の非破壊観察を可能にするマイクロCT SEMアタッチメント(以降InSEM CT)を次章でご紹介いたします。

5. SEMに取り付けるX線CT~InSEM CT~

走査電子顕微鏡(SEM)はサンプルに細く絞った電子線を照射し、サンプル表面から放出される2次電子等を検出して表面の形状を観察する顕微鏡です。また、電子線がサンプル表面の原子に衝突した際にX線(特性X線および連続X線)を発生させます。

InSEM CTでは、サンプルの代わりにターゲットと呼ばれる金属に電子線を当てます。その際に発生するX線をサンプルに当て、サンプルを回転させながら透過像をとり、 CT像として再構成します(図4)。

電子線が細く絞られているため、そこから放出されるX線も細く絞られており、高分解能なCT観察が可能です。InSEM CTでは最高0.4μmの空間分解能を実現しています。

図4:InSEM CTの構造
①対物レンズ ②電子線 ③ターゲット ④X線 ⑤サンプル ⑥2次元X線検出器

6. SEM像とCT像

SEMによる表面観察とCTによる3D観察では得られる情報が変わってきます。CTの分解能はSEMには及びませんが、3次元で内部を観察することができるため、表面観察だけでは得られない有益な情報を与えてくれます。図5は掃除機の使用済みフィルタに付着したダストをSEMとInSEM CTでそれぞれ観察した像です。

表面だけしか見られないSEM像ではダスト(粒子)がどこまで入り込んでいるかを確認することはできませんが、CT像ではそれが明確に確認できます。

図5-1:フィルタ表面のSEモードによるSEM像

図5-2:マイクロCT SEMアタッチメントによる再構成の結果。
フィルタ材料が銀色、高密度粒子を赤色で表示しています。
(左) 前面から見た3D像(中) 裏面から見た3D像(右) 側面から見た3D像
ほとんどの粒子はフィルタの表面(側面から見た3D像の左側)で吸収され、フィルタ材料を透過していないことが分かります。

7. X線CTの応用分野

今やX線CTは医療分野をはじめ様々な分野で使用され、応用範囲がますます広がっています。おわりにCTが使用されている事例をご紹介いたします。

(1)高分子材料~フィラー~

高分子材料(プラスティック)には強度や熱伝導性などの機能性を高める目的で、フィラーと呼ばれる粒子や繊維を充填させています。

ボーイング787の機体で利用されたことでも知られるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスティック)がこの例です。軽くて強くさらに錆びない特性を持つCFRPは飛行機の機体に最適な材料でした。CFRPは今後自動車などの様々な分野での応用も期待されています。

特性を評価する指標として、充填された炭素繊維の長さの分布、充填具合や配向性がX線CTで数値的に評価されています。

CFRPの3D観察像(樹脂:茶色、炭素繊維:緑色)

(2)プラスティック成形

プラスティック成形加工の分野では寸法や構造が設計通りにできているか、冷却過程による応力集中などで割れなどが起こっていないかなどを確認しています。成形条件出しにフィードバックをかけることも考えられています。

プラスティックコネクタの3D像

(3)電子部品

電解コンデンサなどの電子部品においては、電極間距離などが設計通りに正しく作製されているか、ショートや断線していないかなどを確認することが可能です。また、不良が起こった際に非破壊で観察できますので、状態を変えずに解析が可能となります。電子部品に近い材料として電池がありますが、先日のボーイング787のトラブルにおいてはリチウムイオン電池内部をCTで検査するということも行われました。

電解コンデンサの観察(断面解析)

電解コンデンサの観察(微細部拡大)

(4)ライフサイエンス

馴染みの深い医療分野ですが、マイクロCTを研究分野でも骨が盛んに観察されています。病気は骨を観れば分かると言われるほど骨の構造は様々な病気と密接に関連しています。

マイクロメートルレベルの高分解能で観察できるという特長を生かし、マウスやラットの小さな骨などが対象となります。

マウス全身のCT像

マウス大腿骨の高分解能観察(断面解析)

(5)食品

空気の割合・大きさが食感を左右する食品分野、特に食パンやクッキーなどの小麦粉系、アイスクリームやクリームなどの乳製品に対して観察や解析が行われています。

ホイップクリームの3次元観察像

(6)微化石

微化石の立体構造を可視化することにも役立っています。微化石は大きさが1mmを切るようなものもあり、切断などの加工が困難です。最近では3Dプリンタなどと組み合わせるケースも出ています。

放散虫の微化石

(7)文化財

木材の年輪などから歴史を紐解くという研究も行われております。貴重なものでサンプルを切断しづらい、あるいは力を加えて年輪などを痛めずに観察したいという要求にX線CTは応えてくれます。

木材の3D観察像

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 分析システム 営業部

岩田 敏一

2007年入社。以降SEMなどの顕微鏡を中心に表面分析装置の販売を担当。大学時代は原子力関連材料の物性を研究。