電池内部の化学反応を見る
~電気化学測定システム~

株式会社東陽テクニカ 営業第1部 松井 俊文

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目次
  1. 求められる新型エネルギーデバイス
  2. 電池の研究動向
  3. 電気化学測定
  4. 今後の展望

求められる新型エネルギーデバイス

「再生可能エネルギー」や「クリーンエネルギー」から発電する技術が、盛んに研究されています。共に石油や石炭などの化石燃料に替わるエネルギーとして期待されていますが、両者には若干の違いがあります。再生可能エネルギーは、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの自然の力を利用するエネルギーであり、クリーンエネルギーとは作り出す際に二酸化炭素や窒素酸化物など環境を汚染する大気汚染物質を排出しないエネルギーです。クリーンエネルギーの中で自然由来でないもので注目されているのが燃料電池です。燃料電池に使用される燃料は水素であり、発電時に排出されるのは二酸化炭素や大気汚染物質が含まれず、水のみです。水から水素を製造することができるため、日本国内で生産が可能となると期待されており、化石燃料の購入に使用される費用を削減できるといった経済効果も注目されています。再生可能エネルギーの中で身近であるのが太陽電池であり、例えば太陽電池を家庭の屋根に設置し、発電した電力を家庭で使用し、余った電力を電力会社に売電することが可能な住宅が増えています。

このように再生可能エネルギーやクリーンエネルギーなどから生み出された電力をその場で使いきれるわけではないため、一時的に電気を蓄電する必要があり、それに使用されるものが二次電池です。二次電池は、充電・放電が可能な蓄電池・バッテリーのことです。

こうした再生可能エネルギーやクリーンエネルギー需要に対し、より小型・軽量で、より高エネルギー密度なエネルギーデバイスが求められ、盛んに研究開発が行われています。今回は次世代のエネルギーデバイスとして注目されている金属空気二次電池、燃料電池、色素増感太陽電池を取り上げて紹介するとともに、それらの研究開発に使用される当社取り扱い製品をご紹介します。

電池の研究動向

金属空気二次電池

二次電池は、モバイル機器や自動車、蓄電システムなどのさまざまな分野のバッテリーとして使用されています。電気機器の消費電力の増大や使用時間の延長ニーズなどから、常に大容量化の要望があるのはご存知の通りです。決まったエネルギー密度の電池を大容量にするには電池を大きくする必要がありますが、それでは大型になり重たくなってしまいます。二次電池の中で、大容量な電池として使用されているものがリチウムイオン二次電池ですが、両電極材の充放電容量に限界があり、かつ重量が重いという問題があります。電気自動車の航続距離を伸ばすなどの目的で、さらに小さい容積で大容量が実現できるより高いエネルギー密度の電池が求められており、それらの問題を克服する次世代型の二次電池の研究開発がさかんに行われています。

現在研究開発が行われている次世代型二次電池の一つに、金属空気二次電池があります。負極にリチウムなどの金属を用い、正極では金属イオンと空気中の酸素と化合できるよう触媒と多孔質層を用います。以下に、一例としてリチウム金属空気二次電池の模式図を示します。

正極に空気を使用することから、容量は負極の金属の量に依存します。また、負極に金属を使用していることから無駄な元素を使用しなくてもよく、軽くて大容量な電池を作ることができると期待されています。

金属空気二次電池以外にも、ナトリウムイオン電池、カルシウムイオン電池など現在、リチウムイオン二次電池に代わる様々な次世代型の二次電池が開発されています。

燃料電池

燃料電池(FC)とは、水の電気分解により水素と酸素を取り出すのとは逆向きの化学反応を利用して、水素と酸素から電気を得る “発電装置”です。電気を出して使い切る乾電池や蓄電を行える二次電池とは違い、燃料が供給される限り電気を生み出せます。発電により得られる電気以外の副生成物が基本的に水だけであることから、次世代クリーンエネルギーとして注目されています。

簡単にFCの発電の仕組みを紹介します。右図はFCのうち固体高分子形燃料電池(PEFC)の模式図です。FCの負極側に水素ガス、正極側に酸素ガス(実用では空気)を供給します。水素ガスは中央にある電解質膜付近の触媒層でイオン化され、水素イオンとなります。正極と負極を隔てている電解質膜は水素イオンだけが透過できる性質をもっており、負極でできた水素イオンは電解質膜を通って負極から正極側へ移動します。 正極側では、負荷を通して移動してきた電子により酸素ガスがイオン化され、できた酸素イオンは電解質膜を透過してきた水素イオンと結びついて最終的に水が生成されます。そのようなサイクルが連続的に起こることで発電します。

2015年からは燃料電池車(FCV)が一般販売される予定です。FCVは、電気自動車が電池容量の制限でガソリン車に比べて航続距離が短い弱点がなく、ガソリン車の代替となる性能を有しています。

色素増感太陽電池

現在市販されているシリコン系の太陽電池は、人件費の安い中国や韓国などに製造拠点がシフトしております。日本が太陽光発電の市場でリードするためには、より発電コストの安い次世代型の太陽電池を開発する必要があります。次世代型太陽電池の候補の一つが、色素増感太陽電池です。色素増感太陽電池は、材料が安価なことやプリント技術で作成できるなどから、シリコン系の太陽電池よりも低コストで製造することができると期待されています。また色素を用いるためカラフルなものを作製することができ、インテリアとして使用できる太陽電池を作製可能であることも魅力の一つです。ただし、シリコン系のものと比較して、現状では効率が半分程度しか出すことができず、また寿命も実用化レベルには達していません。そのような問題を克服すべく、高効率化や長寿命化の研究が盛んに行われています。以下に、一般的な色素増感太陽電池のデバイスの模式図を示します。

負極(マイナス極)として透明導電膜に、太陽光が当たると電子が励起される色素を化合させたナノ多孔体を持った酸化チタン、正極(プラス極)には白金、その間をヨウ化物イオンが溶けた電解質で満たした構造になっています。高効率化や長寿命化のため、より多くの波長の光を吸収できる色素や、イオン導電率がより高い電解質、太陽光が長時間当たっても壊れない材料の開発が行われています。

電気化学測定

ポテンショ/ガルバノスタット

二次電池は化学反応を用いて蓄電・放電を行うデバイスです。燃料電池や色素増感太陽電池は、化学反応を用いて発電するデバイスです。そのような化学エネルギーや光エネルギーを電気エネルギーに、または電気エネルギーを化学エネルギーに変換できるデバイスは、電気化学デバイスと呼ばれています。それらを開発する際には、電気化学測定という手法が用いられます。

電気化学デバイスを開発する上で、最も評価されるものの1つが、どの電位で化学反応が起こるかを調べることです。例えば、正極、負極それぞれの化学反応の電位を測定し、リチウムイオン二次電池の使用電圧を3~4Vと決定しています。また色素増感太陽電池や燃料電池では、どのように電極の電位を制御すればどれくらいの電流が流れるかを測定することができます。その測定の際に使用されるのが、ポテンショ/ガルバノスタットです。ポテンショ /ガルバノスタットは、サンプルに印加する電位や電流を制御し、その際の電位と電流を同時に測定します。そのため、どの電位で電流が流れるかを測定することができ、どの電位でどのような化学反応が生じているかを解析することが可能です。電気化学デバイスは、正極(プラス極)と負極(マイナス極)を持ちますがそれらの2つの電極のみで測定を行うと、それぞれの反応を合わせた形で測定してしまうため、解析が難しくなります。そこで、参照電極という基準となる電極を間に設置し、それを基準にどちらか一方のサンプルの電位を制御・測定を行うようにします。ポテンショ/ガルバノスタットはそのような正極、参照電極、負極の3つの電極を使用した測定に対応しています。

エネルギーデバイスを開発する上で、エネルギー密度や出力密度、寿命といった性能を評価することは非常に重要です。ポテンショ/ガルバノスタットは電圧や電流を一定にすることができるため、反応電位以外にも、電池の評価に必要なそれらの性能を測定することが可能です。また通常、電池の充放電試験を行う際には、電流や電圧の制御を行っていましたが、電力制御による充放電を行うことが可能なVersaSTAT-450やVersaSTAT-500といった新製品も開発されています。

電気化学インピーダンス測定

電気化学インピーダンス測定は、ポテンショ/ガルバノスタットでは測定できない電極の反応抵抗などを調べることができます。デバイスに組んだ状態でほぼ非破壊で正極と負極、電解液などの抵抗を分離することができ、各部材の性能や組み合わせの良し悪しを評価することができます。また、デバイスを使用していくと部材が劣化していきますが、電気化学インピーダンス測定を行うことで、どの部材が劣化しているかを測定することができます。

電気自動車や蓄電システムなどの大電流を流すことのできる二次電池は、インピーダンスの値がおよそ数mΩと非常に小さくなっています。このような高性能な電池で電気化学インピーダンス測定を行うと、電流が数10A~100Aと流れてしまい、従来の電気化学インピーダンスの測定システムでは測定を行うことが非常に困難でした。当社ではパワーブースターPBiシリーズを開発し、100A以上の大電流が流れる電気化学インピーダンス測定を可能といたしました。

燃料電池評価システム

当社では1999年からFCの性能評価用の各種機能をシステムアップし、「燃料電池評価システム」として販売を開始しました。 FCの性能は単セル(電池1個)として考えると、約1Vの開回路電圧を持ち、電流を取り出すにつれて電圧が1Vから下がる傾向を示します。この電流出力に対して、電圧降下が小さい程高い電力(=電流× 電圧)を出力できることになり、この電流-電圧のバランスを測定することがFC発電性能評価の初歩になります。

FCの発電性能はFC内の電解質膜の水素イオン導電率や、触媒層での水素や酸素のイオン化効率によりますが、これらのパラメータはFC自身の構成材料や構造だけでなく、FCの発電温度や内部の湿度条件や圧力、水素や酸素の供給量や濃度といった外部条件に大きく影響されます。そのため、FCの発電性能を明確に評価するには、各種外部条件(発電条件)を定義した上でFCの電流・電圧を測定する必要があります。

これらの発電条件の制御機能と電流・電圧の測定機能を一体としてまとめた装置を、当社で「燃料電池評価システム」として販売しています。 単に発電条件を整えられてもそれが発電効率がよい条件とは限らないため、当社の燃料電池評価システムは各種評価発電条件を広い範囲で制御できるようになっており、FCの運用限界条件や最適な運用条件の見極めに最適な装置になっています。

当社の燃料電池評価システムは、販売開始から2012年現在まで、構造の規格化によるコストダウンやシステムの全自動化を実施し、さらにFC研究開発の進展に伴い確立された新たな性能評価法や劣化加速法なども取り入れるなど機能・性能を向上させてきています。そして今後もFCの評価ニーズの進歩や変化に応じて成長していきます。

今後の展望

エネルギーデバイスである二次電池や太陽電池、燃料電池の研究開発は、今後ますます盛んに行われると考えられます。研究開発が行われていく中で、新しいタイプの電池が出てくることも考えられ、我々はその度に新しい測定法を開発し、電池の研究開発に貢献していきたいと考えております。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 営業第1部

松井 俊文

2010年東陽テクニカ入社以来、電気化学測定システムや物性測定の営業を担当。特に、バッテリーなどのエネルギー分野が専門。