マルチビーム音響測深装置の動作原理
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海底を高精度に計測するにあたって、マルチビーム測深は欠くことのできない技術です。音波を扇形状に送受信することにより、海底を効率よく高精細に計測することが可能となりました。ここでは、マルチビーム音響測深システムの計測技術について、動作原理、計測上の留意点を紹介します。
音響測深機
水などの媒質中においては、光や電波といった電磁波は減衰が大きいため、水中での計測にはその媒質の振動(音波)を利用します。 船から水中へ音を発し、その音がまるで「やまびこ」のように海底から反射して船に戻ってくるまでの時間を計測することで、海底までの距離を計算します。 空気中では音波はおよそ340m/sの速さで伝搬しますが、水中でははるかに早く、およそ1500m/s程度です。 音波も距離によって減衰しますが、周波数(振動数)を下げることにより、その減衰率を低減させることができます。 一般的に1万メートル以上の深海の計測では12kHz程度、一方浅海で高精度の深度を計測したいような場合には数百kHz程度の周波数が利用されます。 このように一つの音波を発信/反射波を受信する装置を「音響測深機」または、後述する「マルチビーム音響測深機」に対して「シングルビーム音響測深機」と呼びます。
マルチビーム音響測深機
前述のシングルビーム音響測深機では、一回の音波発信/反射波受信で得られる深度は一点しか無いため、広域の水深計測には非効率です。そのため、一度に広範囲を計測できるマルチビーム音響測深機が開発されました。以下に、その模式的な様子を示します。
マルチビーム音響測深機の原理
図1のように、音波を左右方向の扇形に発信(送波ファンビーム)し、これをスリット(受波ファンビーム)に分割して受信することで、その交点のデータを算出して、細い多数のビームを一度に送受信したように計測できます。元々はオーストラリアのBelnard Millsによってアンテナアレイでの使用のため考案された方法で、これを「クロスファンビーム方式」または「Mills Cross法」と呼びます。
アレイによるファンビームの形成
単音源からの音波は、通常球面状に全方位にわたって伝搬します。
ここで単一周波数の音を出す同じ音源を一列に並べ、その音波を非常に遠くで受信する場合を考えてみます。
図2内の2つの丸が音源です。
各音源間隔dに対して非常に遠くで音波を受信する場合、各音源と受信点との距離差rd は以下の式で表すことができます。
各音源から位相も周波数も同じ連続した音波を発射した場合、この距離差rd が音波の半波長λの偶数倍に一致していると、各音が合成されて音の強さが最大となります。
逆にこの距離差rd が音波の半波長λ/2の奇数倍に一致していると、各音は打ち消しあうため、音の強さは最小となります。ここで[式2]におけるdの値を意図的に「λ/2」とすると、音波の強めあうθの値が、0°および180°だけとなります。逆に、音波の打ち消しあうθの値が90°および270°となります。つまり2つの音源を配置した軸に対して、平行な方向には全く音が聞こえず、2つの音源の中間の垂直な方向には2倍の大きさの音が聞こえる、ということになります。
この音波の伝搬パターンを360°表示したものが以下の図になります。縦軸の値は最大出力時を「0dB」としたデシベル値です。音源が1つの場合、音波は全方位に伝搬しますが、並べて配置した場合には、合成波は軸に垂直な方向にしか伝搬しません。
更に音源の数を増やして同様の計算を行うと、その出力パターンは以下の図のようになります。
このように同じ音源を一列に配置することにより、特定の方向にだけ最大出力を送信できるようになります。
図1のような船の場合、前後方向に発信素子を並べ、船の左右方向に広がった音波を送信します。(①)
受信素子は船の左右方向に配置して、受信した音波の位相を計算機で合成することにより、前後方向のスリット(②)を通して受信したようなビームの形成が可能となります。(③)
その他計測機器との組み合わせ
海上の船は、水面という拘束条件があるものの、基本的には位置の3軸と回転の3軸に対する自由度があります。そのため、海底を面的に捉えることが可能なマルチビーム測深機を使用するには、同時に発信側(船)の位置も正確につかんでおく必要があります。
これらの計測には、「衛星測位装置(GPS)」「方位センサー」「動揺センサー」を同時に組み合わせて使用します。また、水中の音速は温度や圧力により変動するため、音速度の計測も重要なファクターとなります。
マルチビーム測深機は、測深システムの中心ではあるものの、一部分にすぎません。当社技術部では、これら各機器の特性や計測原理を理解して、迅速かつ的確な運用支援、高精度な海洋計測ソリューションの提供を行っています。