ラウドネスメータの基本原理

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. 概要
  2. K特性フィルタ(周波数重み付け)
  3. 二乗平均 (セグメント化とオーバーラップ)
  4. チャンネル重み付け
  5. 瞬時ラウドネス値の算出
  6. ゲーティング
  7. 平均ラウドネス値の算出

テレビを視聴していて、CMに入った途端に音量が大きく感じられたり、逆に映画などを見ていると台詞が聞き取りづらかったりしたことはないでしょうか?これは、音声や音楽の電気的な信号の大きさと人間が感じる音の大きさ(=ラウドネス)が一致していないことに起因しています。こうした問題を解決する一つの手段として、ラウドネスを定量的に測定できるラウドネスメータ(ITU-R BS.1770-2(※1)準拠)が、最近、放送業界を中心に話題になっています。ここでは、このラウドネスメータの基本原理および計算方法についてご説明いたします。

1. 概要

ラウドネスメータは、人が感じる音の大きさを疑似的に計算して数値化するメータです。

図1がラウドネス測定アルゴリズムのブロックダイアグラムです。5チャンネルの入力があり、サブウーファー(0.1)を除いた5.1チャンネルサラウンドのラウドネスの測定が可能です。全入力チャンネルへ信号を印加する必要はなく、ステレオ音声の場合は2チャンネル、モノラルの場合は1チャンネルだけ信号を印加すれば、それに応じたラウドネス値を求めることができます。最終的に計算される値を平均ラウドネスと呼び、一つの番組やCMに対して一つの値が求められます。この値を統一することで、番組間や放送局間の音量差を減らすことができると見込まれています。

図1:ラウドネス測定アルゴリズムのブロックダイアグラム(ITU-R BS.1770-2より引用)

2. K特性フィルタ(周波数重み付け)

はじめに、入力された信号にはK特性と呼ばれる特性を持つフィルタ(K特性フィルタ)が適用されます(図2参照)。一般的に、人間の耳へ到達する音は、頭部の影響を受けて周波数特性が変化します。また、こうして耳へ到達した音を人間は知覚しますが、人間の耳の感度は周波数によって異なります。これらの特性を模擬したものがK特性です。

図2:K 特性の対周波数曲線

3. 二乗平均 (セグメント化とオーバーラップ)

400ミリ秒幅のセグメント(ゲーティングブロックとも呼びます)を75%オーバーラップしながら作成します(図3参照)。このセグメントに対して、信号のパワーを求めるために、式1に従って二乗平均を行います。 また、セグメントはラウドネス計算の最小単位であり、セグメントごとのラウドネス値を瞬時ラウドネスなどと呼びます。なお、測定終了時に400ミリ秒に満たないセグメントは破棄します。

図3:セグメント及びオーバーラップの概念図

4. チャンネル重み付け

人間が知覚する音の大きさは、到来方向(耳に対する音の入射角)によって変化します。これをラウドネスへ反映させるために、各チャンネルの二乗平均後のセグメントにチャンネルごとの重み係数 Gi を乗じます。この値はBS.1770-2では、L/C/Rチャンネルが0dB(×1)、sL/sRチャンネルが1.5dB(×1.41)と規定されています。

5. 瞬時ラウドネス値の算出

前項の処理を行った各チャンネルを合算し、それをデシベル(dB)へ変換して瞬時ラウドネス値を求めます(式2参照)。単位は、LKFSと決められています。式中の定数-0.691 は、K特性フィルタの利得を補正する値です。正弦波, 1kHz, ステレオ信号X[dBFS(※2)]を入力したときにX[LKFS]が得られるように決められています。

式2:ラウドネス計算式 ITU-R BS.1770-2より引用

6. ゲーティング

人間の感覚は、音の大きな部分の音量に支配される傾向があります。そのため、測定区間に無音部分や音の小さい部分が含まれると、計算される平均ラウドネス値が、人間が実際に感じる主観ラウドネス値と比べて小さくなってしまいます。そこで、平均ラウドネス値をより人間の聴感に近づけるために、無音部分や音の小さい部分を取り除く「ゲーティング」と呼ぶ処理を行います。ゲーティング処理は、無音部分を取り除く絶対ゲーティングと、音の小さい部分を取り除く相対ゲーティングからなります。絶対ゲーティングでは、瞬時ラウドネスが規定の閾値(BS.1770-2では、-70LKFS)以下であるものを取り除く処理を行います。相対ゲーティングでは、絶対ゲーティング後の平均値を求め、その平均値から10dB以上低い部分を取り除く処理を行います。

7. 平均ラウドネス値の算出

ゲーティング後の残ったセグメントに対して、再度式2を適用することで平均ラウドネス値が求められます。

当社技術部では、製品をお買い上げいただいたお客様へ、素早く、きめ細やかなアフターサポートを提供するために、このような計測器の原理を十分理解したエンジニアが製品のサポートを行っています。今後も製品をお客様に安心してお使いいただけるよう日々取り組んでまいります。

※1 ITU-R BS.1770-2:デジタル音声信号からラウドネス値を計算する方法を規定した勧告書です。

※2 dBFS:FSはFull Scaleの略で、デジタル信号で表現できる最大値が0dBFS( 基準値)です。単位はデシベルです。