高周波計測器のISO/IEC17025認定校正

本記事の内容は、発行日現在の情報です。
製品名や組織名など最新情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。

ログイン・新規会員登録して
PDFダウンロード
目次
  1. 機械式スイッチの使用
  2. RF同軸ケーブルによる接続
  3. 温度管理
  4. 電波障害

計測器は国家標準に対してトレーサビリティをとり、保証された性能を維持するために定期校正が必要です。最新の校正では、この校正で得られた測定値そのものに加え、測定値の信頼性を定量的に表す「不確かさ(uncertainty)」というパラメータの重要性が増しています。この「不確かさ」の考え方と表記はGuide to the Expression of Uncertainty in Measurement(GUM)で統一されており、「測定結果に付随した合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」として定義されています。一般的には「不確かさが小さい校正機関は校正能力も高い」と評価されますが、不確かさの大小に加えて対象計測器の内部構成や測定原理を深く理解し、どのように不確かさを分析・評価するかが最も重要です。

当社では、不確かさを分析、評価し信頼性の高い校正を実現するために、本社内にキャリブレーション・ラボラトリーを設置するとともに、国際標準規格「ISO/IEC17025」に適合する校正機関認定を取得し、信頼性の高い高周波計測器の校正をおこなっています。

高周波計測器の校正では、高い信頼性を得るためにさらに考慮しなければならないポイントがいくつかあります。当社キャリブレーション・ラボラトリーで取り組んでいる例を以下に紹介します。

機械式スイッチの使用

高周波計測器の中には、その内部に機械式スイッチを採用するものがあります。便利な反面、これが不確かさを悪くする要因の一つになります。スイッチ内部の導体端子間には絶えず衝撃がおこり、徐々に摩耗が広がります。時間が経過すると、磨耗した塵がほこりや汚れと一緒に端子の先端部分に堆積します。その結果、時間が経つにつれて接触抵抗が大きくなり、挿入損失が増加してしまいます。

これは、スイッチが挿入損失の仕様範囲内にあるかどうかに関係なく、スイッチの挿入損失の再現性に大きな影響を及ぼします。このようなスイッチは再現性を低下させたり、障害が間欠的に発生させたりします。性能劣化は製造時期や使用頻度によって左右されるため、過去データを使ったり、代表値を使ったりして不確かさを算出すると正確なばらつき評価にはなりません。このため、校正される機器を繰り返し測定し、そのばらつきを評価することが重要です。

RF同軸ケーブルによる接続

各計測器はRF同軸ケーブルを使って接続しますが、このとき使用するケーブルにも十分注意が必要です。

同軸コネクタの脱着を続けることで測定の信頼性を損なうことがないように、定期的に同軸コネクタの機械的寸法やケーブルのインサーションロスをチェックしなければなりません。

また、ケーブルの接続によって形成された伝送線路は、反射係数の異なる線路を接続した場合に不整合損失 Muが生じます。

高周波信号は接続点のコネクタの締め方によって、反射係数が影響を受けて不整合損失が変化してしまいます。

これも不確かさを大きくする要因の一つです。

同軸コネクタは高い周波数帯域になると、その波長によって外形寸法も小さくなり、コンタクトピンも繊細になってきます。

壊さないように細心の注意を払って脱着し、適切なトルクレンチを使って締付トルクを管理することで、不整合損失のばらつきを可能な限り小さくする必要があります。

温度管理

温度管理は周波数/レベルの安定性を求める上では、非常に重要なポイントです。

例えば、高周波信号のパワー測定にかかせないパワーセンサは高周波電力が入力されると、内蔵されている変換器(熱電対型とダイオード型など)により直流電圧に変換されます。

熱電対型のパワーセンサは高周波電力を熱に一度変換し、直流電圧に変換するタイプです。

ダイオード型でさえも、熱によって直線性に影響が現われ、急激でかつ部分的な温度変化には追従できない場合があります。

また、校正エンジニアが手で保持すると部分的な温度変化をパワーセンサに与えてしまうことになります。これを防ぐためには、パワーセンサに体温が伝わらないように作業を行ったり、伝わってしまった熱で変化した測定値が安定した状態に戻るまで「待つ」ことが必要になります。

電波障害

私たちの身の回りに増える電波にも注意が必要です。

携帯電話、スマートフォン、無線/有線LANなど、そのコミュニケーションには広帯域信号が使われます。校正周波数が提供サービスの周波数帯域内の場合、測定システムのダイナミックレンジに影響を与えてしまいます。高周波計測器内部のノイズより周辺の電波放射レベルが高い場合、校正できないということも起こります。

当社キャリブレーション・ラボラトリーは、このようなポイントを十分理解した校正エンジニアが実作業にあたることで、高い信頼性を実現しています。今後も校正した製品がお客様に安心してお使いいただけるよう日々取り組んでまいります。

当社キャリブレーション・ラボラトリーは2005年にA2LA(※1)から、国際標準規格「ISO/IEC17025」に適合する校正機関認定を取得しています。

(※1)A2LA(The American Association for Laboratory Accreditation)米国校正・試験所認定協会