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モバイルのアプリケーションデータ通信の向上
― アプリケーション・レイヤ・データ・スループット・ テストシステム ―

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部 無線通信計測グループ 池口 孝一

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目次
  1. LTE - Long Term Evolutionの導入
  2. LTEの必要性
  3. 【LTE仕様 ‒ 3GPP 】
  4. データ通信の課題
  5. 1. ユーザーエクスペリエンス
  6. 2. データ通信速度の向上
  7. 3. ネットワークリソースの効率化
  8. データスループットテスト
  9. 3GPP TR 37.901の焦点
  10. TR 37.901の代表的な試験
  11. Spirent Communications社製 8100アプリケーション・レイヤ・データ・スループット・テストシステム
  12. 今後にむけて

LTE - Long Term Evolutionの導入

Long Term Evolution(LTE、ロング・ターム・エボリューション)は、現行第三世代の携帯電話(3G)の技術を発展させた無線技術で、2010年頃から世界各国の携帯電話オペレータでサービスが開始されています。日本においてもNTTドコモが2010年12月にサービスを開始したのを始め、au(KDDI)、ソフトバンク、イーモバイルもサービスを予定しており、携帯電話業界で注目されている技術です。LTEは、標準化団体3GPP(3rd Generation Partnership Project)においてRelease8として規定されました。またLTEをさらに進化したLTE-Advancedも標準団体等で協議が始まっています。

LTEの必要性

まずLTEの特徴は,モバイル通信でありながら現在の光ファイバー並みの数十Mbpsの実効速度を実現すると言われています。現行の第三世代携帯電話において、既にデータ通信を使った様々なアプリケーションサービスが日々生まれています。特にスマートフォンが世の中に普及したことでアプリケーションサービスも著しく増加しました。スマートフォンの日本市場での普及は2011年で2000万台以上、2014年には5000万台以上の普及が見込まれております。またデータ通信量(トラフィック)においては、スマートフォンユーザー1人あたりのトラフィックはフィーチャーフォン1人あたりの十数倍以上あります。今後のモバイル通信は、データ通信の高速化や効率化が必須で、それによって新たなモバイルビジネスの可能性が期待され、それはモバイルユーザーにとっての満足度の向上に繋がると考えられます。ただ一方モバイルネットワークにとってはトラフィックが増えることで処理が増え、ネットワーク自身に非常に負荷がかかることになり、現行第三世代の携帯電話の体制では今後益々増えるサービスへの対応が限界に達すると予想されています。LTEはこの課題を克服するために様々な技術を使ってモバイルのデータ通信の高速化、効率化を実現するために必要な技術として導入され始めています。

【LTE仕様 ‒ 3GPP 】

LTE基地局⇔LTE端末間のDownlinkはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access 直交周波数分割多元接続)、UplinkはSC-FDMA (Single Carrier Frequency Division Multiple Access シングルキャリア周波数分割多元接続)を採用し、帯域幅20MHz使用時において、ピークデータレートが下り方向100Mbps以上、上り方向50Mbps以上の通信速度を要求条件とした仕様になっています。データの伝送方法においては、パケット通信のみをサポートし、音声の通信については、VoIPがサポートされる仕様になっています。周波数帯域は3Gと同じ帯域を使用、帯域幅は1.4, 3, 5, 10, 15, 20MHzを選択して使用可能で、変調方式は、QPSK・16QAM・64QAM(Uplinkは64QAMはオプション)が定義されています。また伝送遅延、待ち受けからの通信状態への遅延(接続遅延)を現行3Gの通信規格に比較して低減するような技術が盛り込まれています。

データ通信の課題

現在使われている3G(HSPAーHigh Speed Packet Access方式)やLTEの無線通信方式は、モバイルネットワーク上で非常に大きなデータ伝送容量を必要とします。例えば膨大なデータ伝送を必要とするストリーミングなどアプリケーションが増えるにつれて、モバイルネットワークには負荷がかかり、それはユーザー個々に対しても十分なサービスが提供出来なく恐れがあります。これはネットワークの効率化や携帯電話(端末)性能に起因するところがあります。端末が適切に受信状況をネットワークにレポートせずに実際に必要としない過度なデータ伝送をネットワークに要求すると、ネットワークは端末の要求に対応するために負荷がかかり、またネットワークに負荷がかかった分、端末で受ける受信状況は悪化して更なるデータ伝送を要求するといった悪循環に陥ります。このような状態は、ユーザー1人あたりのサービス利用時のデータスループット(1秒あたりのデータ通信量)が落ち、それはユーザーの満足度を得れないばかりではなく、サービスからのユーザー離れによってオペレータにとっても収益に大きな影響を及ぼします。これらの改善するために次の3つの点において、着目すべきと考えます。

1. ユーザーエクスペリエンス

ユーザーエクスペリエンス、つまりユーザーにとっての端末を利用する上での満足度が一番重要な点と考えられます。ユーザーの視点でみた場合、端末で新しいアプリケーションの利用において、以下に示すような様々なファクターのコンビネーション・相互作用により、端末に性能差が生じます。例えば、考えられる問題として、大容量のデータ通信を必要とするアプリケーションまたは複数のアプリケーションの同時起動すると、端末の処理能力に対して負荷を与えます。それは結果として端末の性能、例えばユーザーインターフェイスの使い勝手などを低下させる恐れがあります。

図1:ユーザーエクスペリエンスに影響を与えるファクター

2. データ通信速度の向上

ユーザーエクスペリエンスを向上させるために、オペレータや端末ベンダーが把握する必要があるものとして、データ通信速度の向上が挙げられます。データ通信速度の向上は、LTEなどを使う上で避けることの出来ない課題です。米国では「データスループット」として端末のベンチマーク評価を取り上げる機会が多く、米国誌「SIGNALS Ahead」においては、複数の端末またはチップのデータスループットのベンチマーク評価を取りまとめており、非常に注目されています。今後も益々競争が激化するモバイルビジネスにおいて、オペレータや端末ベンダーが端末のデータ通信速度を保証していくことはビジネスの成功において必須アイテムであると考えます。

3. ネットワークリソースの効率化

端末は無線環境のチャネル品質を示すCQI(Channel Quality Indicator)を測定して定期的に無線の受信状況(RSSIやBER-Bit Error Rate)をネットワークへレポートし、ネットワークはそれを受けて個々の端末に対して最適なResource Block(周波数スケジューリングを行う無線リソースの最小単位)などを割り当てています。もし性能の悪い端末が誤ったCQIレポートを送るとネットワークでは実際に必要でないResource Blockを割り当てます。過度のResource Blockを割り当てた場合、それはネットワークにとって負荷がかかり他の端末の通信にも影響を与えかねません。これは端末に対して受信精度を高めると共にネットワークとの接続性を評価する必要があります。

データスループットテスト

3G(HSPA方式)やLTEサービスをより信頼性を高めて普及していくために、もちろん様々な試験が考えられますが、端末のデータスループット評価についてご紹介します。現行の3Gまでデータスループット試験は主にラボ内での3GPPコンフォーマンス試験やフィールド試験等が実施されてきました。コンフォーマンス評価については試験条件が限定的で比較的難易度が低く、またフィールド試験は実環境での試験のため試験結果は信頼性がある一方、試験条件が不透明で再現性がありません。これらの試験はUEの性能を評価する上でベストなアプローチではありませんでした。

3GPP TR 37.901の焦点

このような背景の中、GCF(Global Certifi cate Forum)では、ユーザーエクスペリエンスに視点をおいたモバイルネットワーク擬似環境下での端末のアプリケーションレイヤデータスループット評価で今まで定義されていないパフォーマンス評価に着目して、3GPP RAN5に対して必要なテスト手法・手順の作成の要請を行いました。RAN5ではその要請を受けて3GPP TR 37.901(Technical Report)が立上がりました。TR 37.901のStudy itemは、 HSPA及びLTEに特化した端末アプリケーション・レイヤ・データ・スループットのテスト手法の取り決めることを対象にしています。ラボ内でモバイルネットワークのシミュレータなどを使って構築した擬似環境上で定めたテスト手法を実施して、ユーザーの視点に最も近いFTP, UDPアプリケーションレイヤでのデータスループットの測定結果を取りまとめます。テストの擬似環境を構築する上で重要になってくるものは、実環境に近いネットワークスケジューリングやDownlinkの無線環境条件を定義することが挙げられます。初期の段階ではHSPAやLTEなどStandardを参照して、実環境に近い最適なネットワークスケジューリングや無線環境の組み合わせを定義します。

TR 37.901の代表的な試験

TR 37.901で考えられている代表的なテスト項目は以下のとおりです。

データ転送シナリオ

・FTP転送(Downlink/Uplink、または双方向)
・UDP転送(Downlink/Uplink、または双方向)

様々なApplication Layerシナリオにわたる端末パフォーマンス評価

・FTP Downlink パフォーマンス
・UDP Downlink パフォーマンス
・FTP Uplink パフォーマンス
・UDP Uplink パフォーマンス
・負荷試験 パフォーマンス
・UDP Power Sweep パフォーマンス

Spirent Communications社製 8100アプリケーション・レイヤ・データ・スループット・テストシステム

米国Spirent Communications社 ではこのTR 37.901の試験環境を実現するために、8100アプリケーション・レイヤ・データ・スループット・テストシステムを提供しています。本システムは、実環境のような刻一刻と変化する環境を擬似させるためにリアルタイム性を持った複数のシミュレータで構成され、様々な試験条件を容易に作成出来るUIを提案しています。

図2:Spirent 8100 テストシステム構成図

まず実環境ではスタティックな環境は存在しません。刻一刻と変動する無線環境(マルチパス、フェージング、ノイズ、遅延)や端末のCQIレポートに応じて、最適なデータ伝送を確保するためにネットワークのResource Blockなどの環境条件がダイナミックに変化していきます。これら実環境を擬似するためには、リアルタイム性は非常に重要な機能になります。 TR37.901を実施する上で、無線環境を定義する必要があり、3GPPからいくつかのフェージングプロファイル(HSPA : Static, PB3, PA3, VA3, VA30, VA120 / LTE : Static, EPA5, EVA5, EVA70, ETU70, ETU300, HST)を参照して、各フェージングプロファイルにおいて端末の性能をテストします。図3~5はHSPAになりますが、同じ試験条件下での端末の性能を比較したものになります。ご覧のとおり、端末によってスループット性能に大きな差が見られます。

図3:2種類の端末のデータスループット/CQI分布の比較
(フェージングモデル PB3-Pedestrian B 3km/h時)

図4:2種類の端末のPower Sweep パフォーマンステストの比較
(フェージングモデルVA120 - Vehicle A 120km/h時)

図5:6種類の端末のデータ・スループット・ベンチマーク
(PhysicalチャネルHS-PDSCH変更時)

8100アプリケーション・データ・スループット・テストシステムは、様々な試験環境をカスタマイズし、お客様のベンチマークをサポートします。Spirent社では、引き続き端末の性能評価に着目してソリューションを提供し続けることをお約束致します。

今後にむけて

当社は20年以上にわたり携帯電話の計測器を日本のお客様へご紹介して参りまいた。引き続き、お客様と最新テクノロジーのインターフェイスになれるように世界のモバイル動向をいち早くキャッチして新しい計測器やソリューションを提供し続けます。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 情報通信システム 営業第1部 無線通信計測グループ

池口 孝一

2001年東陽テクニカ入社以来、無線通信分野の計測器の営業を担当。国内・海外キャリア向け携帯電話評価関連計測器、ソリューションが専門。