省電力・再生エネルギー技術への貢献を目指して
― 半導体物性測定システム ―
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- 目次
Siの性能を超える次世代半導体
現在、日本だけでなく地球規模で低炭素社会を目指し、省エネルギー化や再生エネルギー活用の為の取り組みが求められています。省エネルギー化に関しては電力変換時における電力ロスの低減が効果的であると言われており、そこで注目されるのがパワー半導体です。パワー半導体は自動車、汎用インバータ、CPU電源、電力機器、鉄道など様々な分野で使用されています。現在用いられているSiパワーデバイスは材料の物性限界近くで動作しており、今後大幅な性能改善は期待できないことから、Siに代わる新材料が求められています。
この新材料としてSiC、GaN、ダイヤモンドがあり活発に研究が行われています。Siパワーデバイスを全てSiCデバイスに置き換えると電力損失を50%以下に削減できると言われています。
下記にSiとSiCのパワー半導体の比較(図1)を示します。図1の物性比が示すように、SiCはSiより優れており更なる性能改善が期待されています。
また石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料への依存率を下げ、発電時にCO2を排出しない且つ資源の枯渇が心配されない再生エネルギー源が必要とされ、太陽光発電(太陽電池)に対する期待がますます高まっています。しかし太陽電池の技術課題は、発電効率を上げる事、Siに代わる新材料を使用する事が上げられています。現在Siを原料とする太陽電池が市場の約90%を占めており、単結晶Si太陽電池の発電効率は約25%ですが30%以上に高める事はできないと言われています。発電効率:40%以上を目指すためには新材料(化合物半導体等)を使用した太陽電池が求められます。
これらの半導体デバイスを開発する為には、先ず半導体の基礎物性評価を必ず行う必要があります。
市場ニーズに応える開発力
半導体デバイスの基礎物性であるキャリア輸送機構を知るために、キャリア濃度、キャリア移動度を調べる事が不可欠です。このキャリア濃度及び移動度はホール測定装置により調べる事ができます。
ホール測定装置は半導体サンプルに一定磁場(DC磁場)と、磁場に垂直方向に電流を印加する事により生じるホール起電圧を測定する装置です。このホール起電圧より、半導体の性質を決める基本量であるキャリア濃度・移動度が求まります。
当社は1984年、最初のホール測定装置を開発しており、多くの半導体材料の評価に使用されてきました。しかし1995年頃にダイヤモンド半導体等のワイドバンドギャップ半導体(パワー半導体、発光デバイス等)が注目される様になりましたが、ワイドバンドギャップ半導体のホール起電圧は小さくノイズに埋もれてしまい、今までのホール測定装置(DC磁場)では測定が出来ませんでした。
当社はこの問題を解決する為にAC(交流)ホール測定法(特許取得)を2000年に開発しました。ACホール測定法とは、磁場の向きと大きさを一定の周期(sin波)で変化させ、それと同期してサンプルに現れる純粋なホール起電圧のみを検出し、DC不平衡電圧、高周波ノイズの影響を除いて測定する測定法です。このACホール測定法を採用したResiTest8300型は、今までのDC磁場ホール測定装置よりもホール起電圧測定感度が100倍以上向上しました。 ResiTest8300型を使用しダイヤモンド半導体のHall測定を行った事例を次のCOLUMNでご紹介します。
(産業技術総合研究所 小倉政彦 氏 ご提供)
低コスト化が期待される有機半導体
Siに代表される無機半導体には無い特性を持つ有機半導体の研究が盛んに行われています。有機半導体は無機半導体と比べ低温で作製する事ができるため、プラステック基板等に成形可能である事からフレキシブルディスプレイに応用が可能です。また有機半導体デバイスはインクジェットプリンターの様に印刷プロセスが適用可能な事から、大画面化と低コスト化が可能であるとみられています。その他にも有機ELディスプレイ、電子ペーパー、RFID(Radio Frequency Identifi cation)タグ等、様々な分野で活用が期待されています。
しかし有機半導体にはまだ技術的課題があります。キャリア移動度が低い事、キャリアのドーピングの制御が難しい等、これらの課題を解決させるためにも基本物性の研究が不可欠です。
有機半導体の移動度は無機半導体に比べ低く、ResiTest8300型(AC磁場法)でもホール起電圧の測定が困難になります。
今後の展望
有機半導体などキャリア移動度が低い半導体についての想定ニーズが高まってきていますので、当社ではより高感度なホール測定装置の開発に取りかかりました。電圧の測定感度を従来機モデルより100倍よくすることを目指しています。さらに、ゲートバイアスを印加しながら、ホール測定ができる機能も持たせる予定です。
Column ダイヤモンド半導体薄膜のHall効果測定
ダイヤモンドはその並外れた物性から次世代の半導体として嘱望されており、高耐圧・低損失・省スペースな電力変換素子や、医療・食品・生活における殺菌用途の紫外線発光素子(波長 235 nm)などへの応用に向けて研究が進められている。また高温動作可能な素子としても期待され、500℃を超える温度でも紫外線発光ダイオードとして動作することを確認している。
Hall効果測定では半導体中のキャリア濃度やキャリア移動度がわかり、その温度特性からはキャリアを補償する欠陥や結晶中でのキャリアの散乱についての情報が得られる。また移動度それ自体が半導体層の品質評価の指標の一つとなる。
例として、絶縁体ダイヤモンド基板上にマイクロ波プラズマCVDによりホモエピタキシャル成長したホウ素添加p形ダイヤモンド薄膜の室温でのキャリア移動度を示す(図1)。薄膜成長時にプラズマに曝される部分がモリブデンむき出しのホルダに比べ、炭素からなるホルダではキャリア移動度が大きく、品質が向上することがわかる。なお現在では常温で1600 ㎠/Vs以上、-120℃で4500 ㎠/Vs程度のものが得られている(図2)。
産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門電力エネルギー基盤グループ 小倉政彦 氏
Column ユーザー様の声:ResiTest 8300導入事例 Ⅰ・Ⅱ
測定器として完成度の高いResiTest 8300
まずは、独立行政法人物質・材料研究機構(略称、NIMS) 環境・エネルギー材料部門 光・電子機能グループ(以下、光・電子機能グループ)における利用例です。 NIMSは、物質・材料科学技術に関する基礎研究および基盤的研究開発等の業務を総合的に研究している機関です。そのNIMSに属する光・電子機能グループはワイドギャップ半導体を主な研究課題としており、物質の物理的かつ化学的性質の解明をすすめ、正確な物性評価を行っています。高い機能を持った材料を開発すると同時にそれを用いた新しい光電機能素子を開発へと取り組んでいます。光・電子機能グループでは2005年にResiTest 8300を導入。酸化物半導体や窒化ホウ素などのホール測定を行うために利用しています。光・電子機能グループのリーダーを務める大橋氏は、正確かつ緻密に素材の評価を行う場合はResiTest 8300でのホール測定が必須だと説明します。
「ご存じのように、インジウム・錫酸化物(通称、ITO)や酸化亜鉛といった素材に関して、電気的特性の評価を行う中でホール測定は欠かせません。日々、大量の素材の評価を行う中で、通常はDC磁場ホール測定で済ませる場合も多いのですが、より高い感度で正確な特性の変化を調べたいとき、またはDC磁場ホール測定では測定できない素材を評価するときには、 ResiTest 8300のACホール測定を行いデータを分析しています」(大橋氏)。
これまで長年にわたり様々な測定装置を利用してきたという大橋氏。ResiTest 8300の評価ポイントは、測定器としての使い勝手と完成度だと説明します。
「ResiTest 8300で測定を行う際の操作はPCの画面でいくつかのボタンをクリックするだけ。すごくシンプルで誰でも簡単に使えるようになっていますが、よい意味でブラックボックス化されておらず、実際に各機器のボタンを押しているような感覚で測定ができます。そのため、安心して測定作業を行うことができます。
また、簡単に緻密な測定ができるよう信頼性の高い測定方法が採用されており、各装置と操作をする研究者とのインターフェースを上手にソフトウェアが制御してくれるので、測定結果の信頼度が高く測定システムとしての完成度が高いと思います」(大橋氏)。
Siでは実現できない光透過性を持った酸化物半導体の研究を推進する光・電子機能グループにとって、ResiTest 8300は欠かすことのできない測定器の一つとなっています。
また大橋氏のホール効果測定へのこだわりは、J. Mater. Res.誌の 23巻2293頁に掲載されたホール測定の論文からもうかがい知れます。
材料開発の効率化とスピードアップを実現
次に紹介する事例は、東京工業大学 応用セラミックス研究所 細野・神谷研究室(以下、細野・神谷研)における利用例です。細野・神谷研は、金属酸化物を中心として社会に役立つ「新しい材料」を研究しており、酸化物による電子デバイス開発という新領域を開拓してきたパイオニアとして知られています。その中でも2004年にNature誌で発表された新素材IGZOは透明アモルファス酸化物半導体としてすでに実用化レベルにあり、2011年4月には国内トップの液晶ディスプレイメーカーが中小型パネルのTFT(薄膜トランジスタ)として採用すると発表しました。既存のアモルファスシリコン用生産工程に大きな投資をすることなく、IGZO液晶の生産ラインへと改良できることから、コスト競争力の面でもメリットがあると言われ、またスイッチング素子としての性能が高いことからディスプレイの消費電力を大幅に低減する効果も期待されています。
ResiTest 8300は、そんなIGZOの研究にも利用され大きな成果を上げることができたと、東京工業大学 細野・神谷研 野村 研二氏は語ります。
「特に基礎研究の段階では、どのくらい低いキャリア濃度を測定できるかが重要なポイントになります。ResiTest 8300は、他のホール測定システムでは測ることが難しい低移動度材料のキャリア濃度を測定することができました。新しくサンプルを製造したら必ず測定する必要があったため、しばらくは毎日のようにResiTest 8300を利用していました。」という野村氏。「自動で温度をスイープさせながら測定する機能」や「メンテナンスがほとんど不要」なことが、材料開発の効率化とスピードアップに貢献したと説明します。
「温度依存性を測定するとき、帰宅する前に温度スイープを設定して測定を開始しておけば、自動でResiTest 8300が温度の変化に合わせたキャリア濃度を測定してくれるので、翌朝すぐに測定結果を分析できます。またメンテナンスもほとんど不要なので、測定器の都合で測定ができないようなこともありませんでした。そのため、効率的に測定作業を行い、時間を有効に使いながら材料の分析や評価を行うことができました」(野村氏)。
さらに野村氏は、測定用の材料サンプルを破壊することなくホール測定ができること。そして、操作がシンプルなので誰でも簡単に正確な測定ができることも高く評価しています。
諸外国に先んじて新素材を次々に開発している細野・神谷研究室。ここでも研究の進展にResiTest 8300は大きく貢献していました。