二次電池評価の常識を打ち破る効率化・高速化・コスト削減を実現

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部 係長 北出 崇二

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目次
  1. はじめに
  2. 二次電池開発に必要な試験 ― 充放電試験とインピーダンス測定
  3. 「BCSシリーズ」で二次電池の評価を効率化・高速化
  4. おわりに

はじめに

リチウムイオン二次電池が実用化され、多くの新しい産業が生まれて社会はより便利になりました。リチウムイオン電池は携帯電話やスマートフォンの普及に大きく貢献しましたが、将来は自動車がガソリンを全く使用せず電池だけで駆動するなど、数年前は想像もできなかった社会が訪れるかもしれません。近年、多くの企業がSDGsに沿った活動指針を明示し、脱炭素化の実現に向けた企業活動を推進しています。これにより、二次電池の新たなニーズも生まれ、安全に長時間使用できるもの、車を動かせるほど大電流を流せるもの、軽くて小さいものなど、電池に求められる要件は年々ハードルが高くなっています。

本稿では、今後より一層の開発が進められる二次電池を効率よく評価するためのシステム、BioLogic(バイオロジック)社の「BCSシリーズ」について、当社製ソフトウェアを含めたソリューションをご紹介します。

二次電池開発に必要な試験 ― 充放電試験とインピーダンス測定

バイオロジック社は1983年にフランス・グルノーブルにて創業し、高品質かつ高精度な電気化学測定機器、充放電装置を供給する世界最高峰のメーカーです。当社は、2016年10月よりバイオロジック社の日本における総代理店として電気化学ソリューションの販売、技術サポートを行っており、新機能追加、製品開発にも積極的に取り組んでいます。今回ご紹介する「BCSシリーズ」は、インピーダンス測定機能を搭載した最新型の充放電システムです。

「BCSシリーズ」の製品ページ
https://www.toyo.co.jp/material/products/detail/BCS-805.html

現在、国内外を問わず多くの研究機関、大学、民間企業が新しい二次電池の開発を進めていますが、二次電池の研究開発において欠かせない試験の一つが充放電試験です。文字通り、電池を充電/放電させて何サイクルまで容量を維持できるか確認する電池の寿命試験です。しかし、この充放電試験は非常に長い時間を必要とするだけでなく、これだけでは劣化の過程が分かりにくいという欠点もあります。

そこで、劣化過程を詳細に把握するために、電気化学インピーダンス測定法が広く用いられています。インピーダンス測定は、外部から微小な交流信号を入力して電池内部の劣化状態を評価する非破壊試験です。充放電試験にて充電/放電を繰り返した二次電池に対して、定期的にインピーダンス測定を実行することで、電池内部の劣化状態を解析することができます。多くの研究者は「充放電装置」を用いて充放電試験を実施し、「電気化学測定装置」を用いてインピーダンス測定を実施しています。しかし、この方法では充放電試験を実施後、二次電池を充放電システムの配線から取り外し、インピーダンス測定を実行するための電気化学測定システムへ配線変更しなければいけません。また、インピーダンス測定後は、再度電気化学測定システムから充放電システムへ配線変更をする必要があり、これらの配線替えは作業工数を必要とするだけでなく、作業者が配線を間違える、接触抵抗の再現性が取れないなどの問題を誘発します。結果として、電池の研究開発期間の遅れや余分なコストが発生し、競争力の低下につながります。

「BCSシリーズ」で二次電池の評価を効率化・高速化

バイオロジック社の「BCSシリーズ」は充放電装置にインピーダンス測定機能を搭載した新世代の充放電システムで、充放電試験とインピーダンス測定の配線替えが不要です。当社では、恒温槽の温度制御を自動化するソフトウェアや、大量のインピーダンスデータを自動で処理・解析するソフトウェアを自社開発し、「BCSシリーズ」と組み合わせて評価を高速化するソリューションを提供しています。

充放電試験をシステム化することで、三つの新しい付加価値の提案が可能になりました。

1.配線替えの工数削減・待ち時間削減

「BCSシリーズ」の導入により、配線替えが不要となり、当社ソフトウェアと組み合わせることで温度制御も自動化できるので、工数と待ち時間を削減できます。

ここで、「200回充電/放電を繰り返す試験を行い、5回の充放電が終わるごとにインピーダンス測定を実施する試験」を想定し、必要工数を単純計算で比較します。従来の方式では所定の条件の充放電試験終了後に作業者が配線替えを行い、電気化学測定用の温度制御を行ってからインピーダンス測定を実施します。そして、インピーダンス測定終了後、再度充放電システムに配線し、温度制御を行った後、充放電試験を再開します。

一方で、同じ試験をBCSソリューションで実施する場合、ソフトウェアで設定し実行するだけで、その後の作業は不要となります。作業者の勤務時間を月曜日から金曜日の9:00~17:00とした場合、作業回数と評価時間の比較を図1に示します。

図1:従来の方法とBCSソリューションの作業時間・回数の比較

「BCSシリーズ」を導入することで、作業回数は1回で済み、評価時間が1/3程度短縮できることがわかります。

2.インピーダンスデータによる劣化解析の情報量増加

これまで述べてきた、配線替えの煩わしさ、長い評価時間、解析時間確保の難しさなど、さまざまな理由でインピーダンス測定の運用回数を減らす、または運用されていないケースがあります。しかしながら、インピーダンス測定回数を減らすと劣化の過程を正しく評価できない可能性があります。

インピーダンス測定自体は、設定にもよりますが1~2分程度で完了します。BCSソリューションでは、配線替えが不要ですので、多くの測定を実施しても測定時間に大きな影響を与えません。同等の評価時間で多くのデータを得ることができるうえ、従来の評価よりもサンプルの特性・劣化過程について詳細に把握できるようになります。

図2:データ取得の比較イメージ

3.インピーダンス測定結果の解析も自動フィッティング

インピーダンス測定結果の解析は、一般的に専用の解析ソフトウェアで、複素非線形最小二乗法を用いて等価回路フィッティングを行います。当社では米国Scribner Associates(スクリブナーアソシエイツ)社の交流解析ソフトウェア「ZView」を取り扱っていますが、インピーダンス測定の回数が増えると必然的に等価回路解析を行う回数も増えます。

この課題を解決するため、当社ではインピーダンスデータの一括フィッティングソフトウェア「Z-FIT-Analysis」を開発しました。交流解析ソフトウェア「ZView」で行うフィッティング解析を自動で制御することにより、大量のインピーダンスデータの解析を自動化でき、短時間で等価回路解析を行えるようになりました。その結果、インピーダンス解析の手間と工数を削減でき、電池開発スピードの短縮に貢献しています。

図3:解析工数の比較イメージ

おわりに

本稿では「BCSシリーズ」導入によるメリットを三つご紹介しました。これまで慣例的に行われていた二次電池の評価方法に対し、バイオロジック社の製品と自社開発ソフトウェアを組み合わせることで、評価の効率化・高速化・コスト削減を可能としています。東陽テクニカは、今後も価値あるソリューションを提供し続け、豊かな社会、人と地球に優しい環境創りに貢献してまいります。

筆者紹介

株式会社東陽テクニカ 理化学計測部 係長

北出 崇二

2013年、東陽テクニカに入社。
入社以来、電気化学測定システムや充放電システムの営業に従事。
2016年より大阪支店に所属し、電気化学測定システムに加えて半導体評価や物性値評価装置も担当。最近の悩みは子供がなつかないこと。

製品・ソリューション紹介

BCS-8XXシリーズ モジュール式充放電測定システム(8ch/1モジュール)

BCS-8XXシリーズは、150mA(BCS-805)、1.5A(BCS-810)、15A(BCS-815)の3種類のモジュールから選択でき、1台のPCから複数モジュールの制御ができる充放電装置です。各モジュールは充放電試験に加えて、サイクリックボルタンメトリにも対応しており、またFRAオプション搭載モデルの場合は周波数範囲 10mHz~10kHzまでのインピーダンス測定を行うことができます。

  • 注目製品

ZView 等価回路解析ソフトウェア

ZViewは、インピーダンス測定の等価回路解析を行うためのソフトウェアです。ノースカロライナ大学 Prof. J.Ross Macdnaldにより開発されたCNLS(Complex Nonlinear Least Squares:複素非線形最小二乗法)による、高度な等価回路フィッティングを行うことができます。また、CPE(Constant Phase Element)やワールブルグインピーダンスといった、電気化学に特有の非線形パラメータも解析することができます。

  • 注目製品

Z-FIT-Analysis ZViewフィッティング制御ソフトウェア

Z-FIT-Analysisは、インピーダンスデータの一括フィッティングを行うためのソフトウェアです。ZViewを自動制御することにより、大量のインピーダンスデータを短時間で等価回路解析することができます。Z-3D(3Dインピーダンス解析ソフトウェア)の出力データとも連動し、インピーダンス解析の作業を効率化します。

  • 注目製品