ようやく動き出した洋上風力発電事業。先頭を走るコスモエコパワーの取り組みとは
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脱炭素に向けた世界の動きが加速しています。脱炭素社会を実現するためのソリューションの一つが再生可能エネルギーの普及で、太陽光、風力、水力、バイオマス、地熱といったことばも頻繁に聞かれるようになりました。また、2021年10月22日に政府が閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、2030年度の電源構成に占める再生可能エネルギーの割合を36~38%程度まで引き上げることが目標として掲げられています。このうち、陸上風力発電量は約3.3%、洋上風力発電量は約1.7%と示されており、今後の導入拡大が期待されます。
風力発電のパイオニア企業で、大型商用として国内初の洋上風力発電に資本参画しているコスモエコパワー株式会社の取締役、新井憲法氏と高橋孝輔氏に、国内外で注目を集める洋上風力発電についてお話を伺いました。
コスモエコパワーと風力発電
事業概要や風力発電への関わりについてお聞かせください。
新井:1997年設立の弊社は、風力発電専業では日本初となる企業です。商用発電としての風車を1基も建てていないところからスタートしました。現在は、陸上では23地域にて、設備容量約30万kW(2021年9月末時点)の風力発電所を操業しております。風車の発電事業を“専業”で行っているので、これを拡大していくことが事業の目的となります。
今回のエネルギー基本計画では陸上風力を今後も増やしていく旨が示されているので、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の入札制度も含めながら、陸上風力発電事業のさらなる展開を考えています。
洋上風力発電への取り組みはいかがでしょうか?
新井:洋上風力も大型商用発電としては日本で最初の施設(秋田洋上風力発電株式会社)に資本参画しています。洋上風力発電は、1区域の施設だけでも弊社が現有する陸上風力発電の全実績と同程度かそれ以上になるので、ぜひとも取り組んでいきたいと思います。
高橋:当社は発電実績という点では、現時点ではまだ陸上風力だけで、洋上風力は建設中の案件に出資しているのが現状です。ただし、これから先は公募を経て事業者に選定されるように全力で取り組み、エネルギー基本計画で示された洋上風力の導入見通しについていけるような、事業規模を目指したいと考えています。
洋上風力発電の施設設置の公募要件では、一番安く電気を生み出すことといった定量的なものと、事業がきちんとでき地元の理解を得られるかといった定性的なもの、この二点が求められます。これらが両立しなければ事業者には選定されないので、どちらも等しく力を入れていきます。
日本初の風力専業企業として、風力のバリューチェーンについては全てのリソースを持っています。地元とのコミュニケーション、EPC(設計・調達・建設)、運転、メンテナンスに至るまで、これら多様な財産を洋上風力へも展開していけるのは弊社の強みだと思います。
なぜいま洋上風力発電なのか
日本で洋上風力の開発が注目され始めた理由を教えてください。
新井:洋上風力発電は、2011年の東日本大震災による原子力発電所事故、脱炭素を視野に入れた世界のエネルギー政策の転換、そして、2050年のカーボンニュートラル実現を日本政府が決断し大きく動き出したこと、これらの要素が基本にあって、日本でも注目されるようになってきました。
一方で世界を見渡すと、洋上風力開発の起点はもう少し前にあるようです。ヨーロッパでは以前から、最近では台湾などでも洋上風力に取り組んでおり、大手エネルギー会社が参入し、開発を推進しています。陸上風力発電の開発は既にかなり進んでいますが、発電規模の大きさを求めていくと、陸上よりも広大で、より風況が安定している洋上へと向かうこととなり、それがいま本格化してきたというのが理由です。
陸上風力と洋上風力、発電における違いは何ですか?日本での開発状況はいかがですか?
新井:陸上に比べて洋上風力発電のほうが風車を大きくできる。これが一番の違いです。日本の陸上風力発電においては、1基あたりの出力が4,000kWクラスの風車が建設されるようになってきましたが、今後洋上では1万kW以上のクラスの風車が主流になると考えます。風車の大型化に伴って大容量の発電が見込めることなどから、今後さらに陸上から洋上へ、という動きに変わっていくだろうと思います。
国内での商用の大型洋上風力発電は、秋田港・能代港(ともに秋田県)の港湾区域での建設が始まったばかりです。弊社を含めた共同事業会社「秋田洋上風力発電株式会社」が取り組む事業として、2021年中に基礎部分の工事が終わり、2022年に両港湾合わせて33基の風車を設置し、2023年頃から運用を始める計画となっています。
洋上風力発電の難しさはどのような点がありますか?
新井:秋田港・能代港での洋上風力発電施設は、大型の商用としては日本初のものなので未知のことも少なくありません。海底の地盤で風車を支える着床式の洋上風力発電なので、ボーリング調査や音波探査などを駆使して海底形状をしっかり調べることは大事な点です。陸上風力発電の建設と比べると難しい作業になるのは確かです。
日本の洋上での風況は、海外、特にヨーロッパと少し違っていて台風の影響を受けます。風が不規則に変化する乱流が起こるので、風車自体により厳しい設計が求められます。ただ、そのような設計に耐えうる風車が各メーカーから製造されるため、実装上では大きな問題はないでしょう。
大型の洋上風力発電施設を建設する際には、100mを超える高さのタワーを支えるための基礎設計が重要であり、その設計のためには地盤の詳細な調査が必要です。構造物の高さと重さ、風や波などの外力、各要素に対する十分な強度を持たせることも必要となってきます。
洋上では施工一つとっても難しいことが多々あります。建設・設置に用いられる作業船も、海面で揺動しないよう、海底に4本の足を伸ばしジャッキアップして船体を固定する機能が求められます。基礎を設置するにはそのような特殊船を用いる必要があります。
また、日本海は特に冬場に吹きつける強風の影響で波が高くなりがちで、どうしても作業可能な日数が限られてしまいます。陸上だと積雪のある北海道など一部を除いて継続して作業できますが、洋上の工事だと気象・海象状況に左右されることが多く、どうしても陸上風力に比べて工程が延びる傾向にあります。
国内における洋上風力発電の現状
日本での洋上風力発電の進捗状況や計画されているエリアなどを、具体的に教えてください。
高橋:洋上風力発電施設の設置・運用事業者は、政府が出した公募占用指針を基に応募した企業の中から決まる仕組みになっています。設置する場所も企業が勝手に決めることはできません。自治体や漁業関係者などの理解が得られた地域が促進区域に指定され、その中で企業が公募に応札することになります。現在のところ、促進区域は5ヵ所指定されています。
今取り組んでいる秋田港・能代港の案件ですが、実は政府がルール(註:2019年4月1日施行 再エネ海域利用法)を作る前から地元と交渉をしていた場所なのです。東北では、秋田港・能代港の案件以外の3ヵ所でプロジェクトを進めていますが、これらもみな日本海側になります。一部を除くと、太平洋側は洋上風力の適地が少ないと言われています。そのため、指定される区域の多くが風況の良い日本海側になっています。
今後目指していく発電量としては、10月に発表された第6次エネルギー基本計画では、2030年度に洋上風力の容量は3.7GWと示されています。ちなみに、2040年には洋上風力発電を30~45GWへという目標も示されています。
洋上風力発電で先行する諸外国との違いはどこにあるのか教えてください。
新井:一番の違いは、海域の深さだと思います。洋上風力発電が盛んな北海沿岸は遠浅な地形です。着床式の洋上風力発電では基礎を海底に築いてタワーを伸ばし風車を載せますが、北海沿岸などのヨーロッパでは遠浅な海が広がっているので比較的安価で実績のある着床式基礎で建設できます。そこが普及している一因ではないかと思います。
一方、日本では沿岸からすぐ深くなるところが多いので、技術やコストの面からも当面は着床式から普及していくと思いますが、浮体式洋上風力発電の技術開発も同時に急ぐ必要があるように感じます。浮体式洋上風力が確立されれば、海に囲まれた場所柄、国内の洋上風力のポテンシャルは高いといえるでしょう。将来的に30~45GWの発電容量を目指すのなら、浮体式洋上風力発電に向かうことは必然だと考えています。ただし、揺れをどう抑えるかなど、技術的な課題は少なくありません。地震に対しては着床式より有利に働くかもしれませんが。
技術面から見た洋上風力発電施設の建設と運用
建設地の調査に必要なデータは何ですか?計測器はどのようなものを使いますか?
新井:海底は平らではありません。岩が出ているところなどでは、それが障害物になりえますので、海底地盤の把握はとても大切です。基本的にはソナーを使って音波探査で海底地盤を調査しますが、最終的には人間が潜って確認することもしています。海底面の探査が今より効率よく、また安全でより安価に行えるようになればいいなと感じています。
着床式の洋上風力発電の場合、基礎を造るために必要な地盤の確認も必須です。その際に必要となるのがボーリング調査。海底地盤のボーリング調査では、洋上に櫓を建ててその上にボーリング・マシーンを設置し、海底地盤を突き抜けて100m以上掘削する場合もあります。地中の構造物を測定できるセンサーもあるのですが、もっと精度が上がると設計の効率化が図れると考えます。櫓を運んで組み立てて…となると、費用も莫大で日数もそれなりにかかります。このあたりが短縮できると工程がスムーズになるので、計測器に能力アップを求めたいところです。
高橋:建設扡の漁業関係者様と話をする中で気づいたことですが、高性能の魚群探知機があると漁業への貢献になります。リアルタイムで気軽に海の状態が把握できるトータルな仕組みがあると、まさにソリューションになるのではないかと思います。
設備を建設する際に必要となるデータや計測器はいかがですか?
新井:風力発電なので、風況を正確に測定することは重要なテーマです。大型なものだと風車の中心部が海面から100mを超える高さになるので、高所の風況をいかに正確に測定できるのかが重要となります。計測できる装置も少しずつ出てきましたが、もっと簡単に測れるようになるといいですね。
高橋:岸から数キロ離れた高所の風速や風の乱れを正確に測定するのは大変です。正確に測定するには風車と同じ位置に計測器を据える必要がありますが、コストが億単位になるなどかなり厳しい。これがもう少し気軽に測定できればいいなと感じています。
新井:水中ドローンのような機器を使って、人が潜水することなくリアルタイムで海中の構造物に異常がないかなど、無人で確認できるようになると効率も安全性も高まると思います。設備の保全面から人間が直に確認しなければならない場所はまだまだ多く、水中や高所など危険な場所でもあるので、人が行かなくても計測できる装置がぜひ欲しいですね。また、地元地域へ貢献できるような計測機器も待ち望んでいます。特に、スマート漁業を推進するような計測機器があると助かりますね。
洋上風力発電との今後の関わりについて
洋上風力発電の普及・発展にどのように関わっていきたいとお考えですか?
高橋:事業者として世界の流れである脱炭素に貢献でき、その中で一定の規模として業界をリードするうちの一社となれるよう事業を進めてきたいと思います。
洋上風力発電では、認定された事業者はその区域を30年間使ってよいことになっています。長きにわたってその地域で事業をすることになるので、地元の皆さまのご理解を得てご協力を得ながら進めていきたいと思っています。そのためには地域や漁業者様へ貢献できるようきちんと取り組んでいき、地元ファーストで事業を進めていきます。
洋上風力発電は設備や機器の部品が多く、事業規模もかなり大きなものなので、経済波及効果が高いと言われています。このような発電事業を推進することによって、国内で産業振興ができ、サプライチェーンが整う、その一助になりたいと考えています。