「SYNESIS」開発までの軌跡とワン・テクノロジーズ・カンパニーのこれから

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目次
  1. はじめに
  2. 情報通信ビジネスの幕開け LANアナライザの歴史が始まる
  3. ベストセラーのLANアナライザ「スニファー」 開発力を育てる礎に
  4. クリアサイト社設立 「ネットワークタイムマシン」開発に主導的な立場で参加
  5. 東陽テクニカ製「SYNESIS」の開発・発売
  6. ワン・テクノロジーズ・カンパニーの未来

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はじめに

1953年9月4日、東京都中央区日本橋の地に、東陽テクニカの前身となる社員数35名の小さな会社が誕生しました。当社は設立以来、海外の電子計測機器の輸入販売を通じて、長年にわたり多様な分野で最新の計測技術やノウハウ・知見を蓄積し、またこれらを活かして自社製品の開発にも積極的に取り組んできました。2017年には、世界に通用するオンリーワン・ナンバーワンの革新的な新製品の開発を行うための社内カンパニー「ワン・テクノロジーズ・カンパニー」を設立し、現在は主にEMCやバイオサイエンス、情報通信分野において、国内外のパートナーと共に自社製品の開発と販売を行っています。

自社製品の開発には、それぞれに歴史があります。本稿では、ワン・テクノロジーズ・カンパニー設立のきっかけの一つとも言える、情報通信分野の大容量パケットキャプチャ/解析システム「SYNESIS」の開発に焦点をあてました。「SYNESIS」開発に至るまでに、当社がどのように情報通信ビジネスを進めてきたか、その中でどのように自社開発のノウハウを蓄積してきたか、当時を振り返るコメントと共にご紹介いたします。また、ワン・テクノロジーズ・カンパニーの今後の展望について、ジェネラルマネージャの伊藤朋行が語りました。

情報通信ビジネスの幕開け LANアナライザの歴史が始まる

情報通信(ICT)革命が急速に進んだのは1980年代半ば以降ですが、エレクトロニクス分野への展開を意図していた東陽テクニカは、1970年代から積極的に関連機器の販売への取り組みを開始しました。この頃、スペクトロン社の「プロトコルアナライザD600」を、客先の要望により販売開始したことから、東陽テクニカのLANアナライザの歴史が始まります。

スペクトロン社「プロトコルアナライザD600」
通信回線をモニターすることで障害を検知解析する製品。

1987年には、展示会での出会いをきっかけに、フランスのエキスパデータ社という小さな会社とのやり取りを開始しました。

エキスパデータ社「トランシーバテスター」
イーサネット回線試験(トランシーバや通信ケーブルなどの評価)製品。

この頃、新たな製品を見つける方法は、客先の要望でメーカーに直接コンタクトするか、すでに取引のあるメーカーからの紹介が多かったのですが、エキスパデータ社から紹介されたメーカーの一社が、ネットコムシステムズ社でした。ネットワークでやり取りされるデータ量が急速に増え、トラフィックのスピードも速くなったことで、ネットワーク機器であるルーターやスイッチの性能計測の必要性が高まり、ネットワークに疑似的な負荷をかける負荷試験機の需要が出てきた頃です。

ネットコムシステムズ社 負荷試験機(パフォーマンステスター)
のちに業界標準ツールとなるSmartBits(スマートビッツ)の前身となる、
ネットワークデバイス(ルーターやスイッチ)のパフォーマンスを評価する
トラフィックジェネレータ(疑似データ生成ツール)。

当時を振り返るコメント ~重くて取り扱いが難しい測定器や分厚いマニュアルの和訳~

測定器は20kg超と非常に大きくて重かったのですが、レンタカーの利用が認められていない時代は、デモンストレーションのためにタクシーで客先まで運んでいました。雨の日は特に大変でしたね。海外製品は、日本の湿気で基盤を差し込むところが接触不良を起こすこともあり、自分で修理するため必ず工具も持参したものです。現地でふたをあけて基盤を差し込んだりたたいたり、どうにかして動かしたのも懐かしいですね。

ワン・テクノロジーズ・カンパニー プレジデント 五味勝

レンタカーが認められるようになった後も、運転が荒い先輩と一緒に客先に向かうと、振動で基盤が緩み接触不良を起こすなんてこともあり、やはり工具は必須でした。

製品のトレーニングを海外で直接受けられる機会も今ほどなく、自分でマニュアルを読んで実際に操作して使い方を覚えました。英文マニュアル(長いものだと300ページ)やカタログの日本語訳も自分でワープロを使って作成し、お客様に提供していました。営業の人数も少なく分業されていなかったので、とにかく営業活動にかかわるものは全て自分で行う時代でしたね。

当時、情報通信部門所属の富田治
※現在はワン・テクノロジーズ・カンパニー SYNESISビジネスユニットに所属

ベストセラーのLANアナライザ「スニファー」 開発力を育てる礎に

エキスパデータ社が紹介してくれた会社で、ネットワークジェネラル社というベンチャー企業があります。この会社こそが、ベストセラーとなったLANアナライザ「スニファー」を開発した会社です。

ネットワークジェネラル社「スニファー」
従来のアナライザがOSI参照モデルによって定義された機能の7層のうち3層までが
解析対象であったのに対し、7層全てを解析でき、
パソコンベースで操作可能なネットワークアナライザ。
のちにパケットキャプチャの代名詞となる。

当初は海外製のコンピューターに「スニファー」のソフトウェアを搭載して販売していましたが、その後ネットワークジェネラル社より、日本製のラップトップに搭載して販売すること、日本語化することについて承認を取ることができました。社内にソフトを日本語化するノウハウを蓄積できたことは大きな意味のある経験となりました。

当時を振り返るコメント ~シリコンバレーで半年間の開発作業~

1997年に、ソフトウェア・サポートチーム、開発部、情報通信の営業部メンバーの計4名が集まり、米国カリフォルニア州メンローパークのネットワークジェネラル社に行って日本語化を行いました。まずは世界中で使えるようネットワークジェネラル社の開発チームとともに国際化を行い、日本語化を行うというプロセスです。アパートを借りて半年くらい現地に滞在していたのですが、たまに日本から応援に来る上司が食事に連れて行ってくれたのがとても思い出深いです(あの時のメキシコレストランが今でも忘れられません!)。

「スニファー」は、シリコンバレーで開発された素晴らしい製品です。日本語化が目的ではありましたが、その過程(国際化)で、世界中に販売できる製品の開発ノウハウを学ぶことができました。このような製品の開発に参加できたことが、世界に向けて自社製品を開発していくことに役立っています。

また、当時出会ったエンジニア仲間たちが、実は現在の開発作業にも携わっています。その時からの付き合いが今のビジネスにもつながっているのは、感慨深いですね。

当時、開発部所属の伊藤朋行、情報通信部門営業の齊藤美之
※二名とも現在はワン・テクノロジーズ・カンパニー所属

クリアサイト社設立 「ネットワークタイムマシン」開発に主導的な立場で参加

「スニファー」で培った開発ノウハウをどこかで活かそうと考えていたとき、2002年にネットワークジェネラル社の関係者から紹介されたのがアップダンサー社でした。よりユーザーが使いやすい解析機能に優れており、2003年に同社を買収して東陽テクニカの100%子会社クリアサイト社を設立し、開発を進めることにしたのです。製品名を「クリアサイトアナライザ」として米国で発売し、日本語化して日本でも販売開始しました。

2005年には、パケットキャプチャ機能、解析機能、データを保存するストレージを1台に備えた「ネットワークタイムマシン」を開発・発売しました。ネットワークからキャプチャしたパケットを付属の大容量のハードディスクに書き込み、解析するものです。「過去のデータを見ることで、未来のネットワーク構築も検討できる」ことが製品名の由来となりました。ここで、ハードウェアもソフトウェアも含めて一から開発し、製造からサポートまでを手掛ける自社開発品を世の中に提供するプロセスが完成しました。

クリアサイト社「ネットワークタイムマシン」
大容量データキャプチャと、効率的なデータ解析を可能にした製品。

当時を振り返るコメント ~ほんのちょっとした会話が画期的な製品開発のはじまり~

もともとはラックマウント型のみの展開でしたが、持ち運んで解析のできるポータブル型への要望は常にありました。営業部メンバーの一人から、「持ち運びできるものを作れないか?」と聞かれたので、「ディスクがたくさん搭載できるPCがあれば開発できる」と軽く返事をしました。するとすぐに、「ネットで見つけた」と多くのディスクを搭載できるPCのカタログを持ってきたので、とてもできないとは言えませんでした。そんな経緯があり、ポータブル版が完成しました。この「できるかな?」「できるよ!」というちょっとした会話から、いまの「SYNESIS」につながる製品が完成したのです。もともと60kgもあった製品が、ポータブルになったのは画期的でした。

ワン・テクノロジーズ・カンパニー SYNESISビジネスユニット 高須俊介

東陽テクニカ製「SYNESIS」の開発・発売

「SYNESIS」開発のきっかけは、クリアサイト社で100G対応製品の実現が困難だったことにあります。しかしその頃、日本ではすでに100G対応ネットワークの実用化がせまっており、今を逃したら100Gマーケットに入れないとの危機感がありました。そこで、自社で開発することに決めたのです。

大容量パケットキャプチャ/解析システム「SYNESIS」

当時を振り返るコメント ~自社開発は一夜にしてならず~

開発チームや関係者に100Gアナライザ開発のことを相談したところ、これまでのノウハウ、部品メーカーや国内外の開発者とのつながりをフル活用すれば、東陽テクニカの開発部で作れる!と言ってもらい、自社で進めることになりました。製品開発はある日突然できるものではありません。脈々とした歴史の中で、さまざまな出会いや出来事があって「SYNESIS」という製品を作って世界に販売できるようになりました。メーカーやエンジニアとの付き合いの中で築いた信頼関係、社員それぞれが積んできた経験、開発部や営業部の互いのサポート、ちょっとした一言がきっかけで作った製品、これら一つ一つの大切な歴史があって、今につながっていると思います。

【取材協力】
ワン・テクノロジーズ・カンパニー
五味勝、高須俊介、伊藤朋行、齊藤美之、富田治、橋本健作

ワン・テクノロジーズ・カンパニーの未来

多くのメーカーとの信頼関係や、培ってきた経験と技術力のうえに完成した「SYNESIS」が2015年に発売されました。その当時、EMC分野の製品も大きなビジネスとなっており、またすでにいくつかの製品開発が進行していました。そうして自社開発製品の企画、製造を手掛ける社内カンパニー「ワン・テクノロジーズ・カンパニー」が2017年に設立されました。ここからは、ワン・テクノロジーズ・カンパニーの今後の展望について、ジェネラルマネージャの伊藤朋行が語ります。

https://www.toyo.co.jp/onetech/

ワン・テクノロジーズ・カンパニーのミッション

ワン・テクノロジーズ・カンパニーの最重要ミッションは「自社オリジナル新製品の開発と事業化を進める」ことで、事業を進めていくうえで大きく二つの方針があります。まず、既存の「SYNESIS」やEMC計測ソフトウェアのビジネスを持続的に発展させていくこと。そしてもう一つが、中長期的に新しいことにチャレンジし、新しい製品で大きく成長戦略に貢献することです。

既存事業の2本の柱-「SYNESIS」とEMCビジネスの持続的な発展

「SYNESIS」は国内での販売が順調に進んでおり、またEMC計測ソフトウェアも国内トップシェアを持つ製品を展開しています。

次の展開として、「SYNESIS」は海外での販売拡大を目指しています。現在の代理店との緊密なパートナーシップはもちろんのこと、常に販路や販売エリアの拡大を目指してM&Aの可能性も視野に入れて活動しています。また、現在は国内外ともに主要な顧客である通信事業者やキャリアのR&D向け販売に加え、一般的な企業向けにも展開すべく活動中です。

EMC分野の製品は、実は私自身、東陽テクニカに入社して3年目の頃に、開発部でEMC計測ソフトウェアを開発した経験があり、思い入れがあります(EMC計測ソフトウェアを開発後に、先ほど話に出てきた「スニファー」開発に携わりました)。ワン・テクノロジーズ・カンパニーとして開発・販売している「EMINT」は、EMI1)測定のデータをAIで解析し業務支援をするソフトウェアで、継続して改善を行いリリースしています。こちらも今後の展開にご期待ください。

1)Electromagnetic Interference(電磁障害):電子機器などが周囲に不要な電磁波ノイズを放出すること。

新しい分野-バイオサイエンスへのチャレンジ

3本目の柱として動き出しているのがバイオサイエンスです。理化学研究所と共同開発した「AGM™ 試薬キット」を2023年1月に発売しますので、今まさに発売前の最後の準備に追われているところです。

もともとバイオサイエンス分野でいくつかアイディアは持ち合わせおり、開発をしてみたいと考えていたのですが、何をどうすれば進められるかわからない状態でした。そこで理化学研究所に相談したところ、共同研究を開始することになりました。その中で紹介してもらったのが、今回「AGM™ 試薬キット」を共同開発することになった光量子工学研究センターの山形豊氏、青木弘良氏のチームだったのです。一緒に研究を進める中で、出てきたのが「AGM™ 試薬キット」の商品化の話でした。

「AGM™ 試薬キット」は1細胞ゲノム解析に使用するもので、これまでは高額な装置が必要だったものを、手が届く価格で簡便に実行できることが特徴です。多くの研究者の方に使っていただけると考えています。今は微生物が対象ですが、次のステップとして、対象を動物やヒトの細胞に拡大することを計画しています。“はかる”技術で社会に貢献するだけでなく、がん研究への応用など社会や人にもっと直接的に貢献できるようになることも期待しています。

東陽テクニカが自社開発を進めるうえで大きな力となっているのは、世界に通用する“はかる”技術のノウハウはもちろんですが、もう一つ重要なのが、オープンイノベーションを念頭に開発を行っていることです。国内外のメーカーや大学、研究機関などと積極的に協業し、製品を世の中に出すことを目指して開発を進めています。「SYNESIS」もEMCも、このバイオサイエンス分野へのチャレンジも、オープンイノベーションから生まれたもので、これからも、いただいたつながりを大切にしていきたいと思います。そして、世界でオンリーワン・ナンバーワンの革新的な製品やソリューションを提供し続けてまいります。

製品・ソリューション紹介