加速する電動化に貢献 モータ性能をワンストップで評価 モータトルク試験ベンチ「TSBシリーズ」
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はじめに
2023年夏、日本の平均気温は統計を開始して以来最高を記録し、私たちは地球温暖化を目の当たりにしました。2015年に国連気候変動枠組条約締約国会議で合意されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことが目標として掲げられており、地球温暖化をはじめとした環境問題は世界共通の課題となっています。
その対策の一つとして、近年、自動車、航空宇宙、ロボット、家電、農機、建機などさまざまな産業で電動化が進んでおり、モータの需要が高まっています。一方で、世界の電力消費量の約40~50%はモータが消費していると言われます1)。省エネルギーに向けて、世界各国でモータ効率規制が進んでおり、モータの高効率化が期待されています。本稿ではまず、モータとは何か、その種類や用途をご説明し、東陽テクニカが開発したワンストップのモータ性能評価ソリューションをご紹介いたします。
1)一般社団法人日本電機工業会「地球環境保護・省エネルギーのために トップランナーモータ」2021年版より
モータとは?その種類と使い分け
モータとは、電気エネルギーを機械エネルギー(回転する力)に変える装置のことです。モータは電源や構造、制御の種類などによって分類され、用途によって使い分けられています。
まず電源の種類で分けると直流モータと交流モータに分けられます。直流モータ(DCモータ)はその名の通り直流の電源で動作し、プラスとマイナスの極が常に一定で構造がシンプルです。小型機器などに幅広く使用されています。一方、交流モータ(ACモータ)は交流電源で動作し、周期的に極が入れ替わります。固定子(ステータ)が磁界を回転させることで、回転子(ロータ)に影響を与えて回転します。産業用途や高出力な機器で多く使用されます。
交流モータは、同期モータと誘導モータに分けられます。このうち、三相誘導モータは産業用途として幅広く使われています。この消費電力を削減することは省エネに大きく貢献することから、機器などのエネルギー消費効率に関する基準を国が定めた「トップランナー制度」の特定機器としても指定されています。0.75kWから375kWの出力範囲で適用され、効率クラスIE3(プレミアム効率)相当が求められています。最近、欧州や中国では、効率規制の適用範囲が0.75kW以下の小型モータにも拡大され、求められる効率クラスも年々高くなっています。
また、高効率を追求するために、モータのロータに永久磁石を使用し、永久磁石の発生する磁石磁界を利用した永久磁石同期モータの採用が進んでいます。小型・軽量で出力密度の高い永久磁石同期モータですが、コギングトルクやトルクリップルといったトルク変動が発生し、騒音や振動を引き起こす問題があり、これらの低減が課題とされています。モータが高温になることもあるため、広い温度安定性を確保するために、材料や構造、制御の最適化などの研究も行われています。
さらに、永久磁石の材料となるネオジウム(Nd)をはじめとしたレアアースは、安定調達やコスト面で課題があります。そこで、レアアースを使わないリラクタンスモータの開発なども行われています。
東陽テクニカのモータ性能評価ソリューション
オールインワンモータトルク試験ベンチ「TSB(Toyo Smart Bench)シリーズ」
モータに求められることとして、高効率、小型・軽量、低コスト、安定品質などが挙げられ、さまざまな面から研究のアプローチがされております。
その中でも効率面での性能を評価するためには、トルク計測、回転数計測、電流計測、電圧計測、温度計測のような試験を行う必要があります。特に新たに電動市場に参入する企業にとって、モータ性能評価を取り入れるには、その設備の複雑さやモータ計測に関する知見不足、予算獲得、納期など、導入にはさまざまな課題が挙げられます。
そこで東陽テクニカは、モータ性能評価に活用できるソリューションとして、オールインワンモータトルク試験ベンチ「TSBシリーズ」を開発し、提供しています。「TSBシリーズ」は、モータの性能評価に必要なトルク計、負荷ブレーキ、負荷制御計測ソフトウェア、ベンチ治具一式を備えた、オールインワンのモータトルク試験ベンチシステムです。当社がモータトルク試験市場で長年培ってきた経験を活かして、ベンチ設計をしました。評価するモータの種類に制限はなく、仕様が合えばどのモータにも適用可能です。
特長①モータトルク計測に必要なアイテムを全てセット。すぐにモータ性能試験が可能
「TSBシリーズ」は、モータ性能評価に必要な要素を全て網羅し、試験装置をお持ちでない方でも、この一式でモータ性能評価に取り掛かることが可能です。
特長②高精度なトルク計測回転数計測が可能
トルク計や負荷ブレーキには、Magtrol社製品を使用しています。Magtrol社は、スイスと米国を本拠とするモータトルク試験装置の専門メーカーで、モータトルク試験市場で世界をリードしている会社です。
Magtrol社のトルク計「TSシリーズ」はトルク計測精度が定格トルクの±0.1%と高精度で、A/B/Z相の360パルス/回転の高分解能なエンコーダも標準搭載されています。また、ノイズが小さく安定したトルクを発生することができる、負荷ブレーキのヒステリシスブレーキを組み合わせています。そのため、モータの効率を高精度に、そして負荷が安定した状態で計測することができます。
特長③自社開発のモータ計測ソフトウェアによってデータ解析をサポート
負荷制御と計測には、自社開発のモータ計測ソフトウェア「TMT(Toyo Motor Test system)」を使用して、お客様のさまざまなご要望に応えてきました。「TMT」ソフトウェアは日本国内メーカーの電力計との接続が可能で、モータの入力電力と同期して、正確にモータ効率を計測できます。温度ロガーとの接続も可能で、モータの温特性も併せて計測することができます。
負荷ブレーキの制御に関しても、負荷制御モード(オープンループ制御/トルク制御/回転数制御/出力制御)が用意され、ユーザーが任意に負荷を変えることができます。
また、モータの定格出力で一定負荷を印可して、モータが熱飽和した後に各動作点の効率を自動測定するようなパターン運転により、モータの規格試験などに沿った形での試験も可能です。「TMT」により、負荷制御から計測まで統合してモータ効率計測が可能です。
モータ効率は、回転数やトルクにより変化するため、モータ設計や制御設計の評価を行う際、実測データからの動作点の効率マップを描画することは有益です。通常、効率マップ描画には結果の整理や計算に時間を要しますが、東陽テクニカは、実測データから簡単に効率マップを描画することができるツール「モータ特性解析ソフトウェアTMCA(Toyo Motor Characteristic Analysis)」を開発しました。各動作点での銅損や鉄損+機械損の損失マップも描画することができます。計測項目やデータ量が増えてきている中で、データの後解析の工数を減らすサポートをしております。
おわりに
モータの高効率化に伴って、モータの電磁加振力が増大する傾向にあり、騒音や振動への対策の重要度も高まっています。当社では、Magtrol社の高速応答(5kHz)のトルク計「両軸型回転式トルクセンサー TMシリーズ」やOROS社のFFTアナライザ「O4 プラグアンドプレイ 4chFFT アナライザ」などのオプションも用意しており、これらの計測機器を組み合わせることで、モータの動特性を詳細解析する計測システムの提案も行っています。
また、モータ計測や設備に関する要求も複雑化している中で、大学の先生やさまざまなメーカーにご協力いただき、「高効率モータの設計や制御手法及びその計測」や「モータ音振動の計測」など技術セミナーを定期的に開催しております。こうしたセミナーを通じて、最新のモータ計測に関する情報を発信し、今後も研究開発の支援をしていきます。
脱炭素社会の推進に向けて、省エネ製品の開発やさらなる普及が求められており、モータはその鍵を握っています。東陽テクニカは今後も高性能なモータ開発に貢献するためのモータ性能評価装置の提供を通じて、持続可能な社会の実現に貢献していきます。