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術後1ヵ月での社会復帰を目指す 膝の機能を残して変形性膝関節症を治療する骨切り術の可能性

医療法人社団 新東京石心会 横浜石心会病院 関節外科センター センター長 竹内 良平氏

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目次
  1. 膝に痛みを引き起こす変形性膝関節症とはどんな病気か
  2. 治療法は患者さんが何を重視するかで検討。膝関節を温存できる膝周囲骨切り術の特長と適応基準
  3. 術後1ヵ月で社会復帰できる骨切りを目指す―手術手技の進歩と早期社会復帰への工夫
  4. 現在の日本の手術状況―高度な技術と豊富な選択肢で最先端を行く
  5. 膝周囲骨切り術の早期の社会復帰と膝関節の再建に貢献したい

術後1ヵ月での社会復帰を目指す 膝の機能を残して変形性膝関節症を治療する骨切り術の可能性

変形性膝関節症は、加齢、肥満、外傷などが原因で関節の軟骨がすり減り、慢性的な炎症や変形、痛みを引き起こす病気です。治療の目的に応じて、手術方法はいくつか存在します。代表的なものとして「膝周囲骨切り術」と「人工関節置換術」が挙げられます。

今回は、変形性膝関節症治療の第一線で活躍されている、医療法人社団 新東京石心会 横浜石心会病院 関節外科センター センター長 竹内 良平先生に、残された膝関節の機能を最大限に活用するための手術である「膝周囲骨切り術」の現状と技術の発展、今後の可能性についてお話を伺いました。

医療法人社団 新東京石心会 横浜石心会病院 ロゴ

膝に痛みを引き起こす変形性膝関節症とはどんな病気か

竹内 良平氏

竹内先生が所属されている横浜石心会病院 関節外科センターについて教えてください

横浜石心会病院 関節外科センターでは、主に膝関節の診療を専門にしています。特に、変形性膝関節症の治療に注力しており、膝関節を温存する「膝周囲骨切り術」と、痛みや変形を改善する「人工関節置換術」の手術をメインに行っています。当院ではどちらの手術も同じくらいの件数を扱っています。

当院で膝関節の手術を受ける患者さんの平均年齢は60代後半で、女性の患者さんが男性の約1.5倍と多くなっています。

変形性膝関節症とはどんな病気でしょうか。主な症状はどのようなものですか

変形性膝関節症は、膝関節を覆う軟骨がすり減り、慢性的な炎症や変形、痛みを引き起こす病気です。軟骨の表面が荒れてすり減ると、膝関節の間でクッションの役割を果たす半月板が切れてしまうこともあります。逆に、半月板が切れることで軟骨にダメージが及ぶこともあります。

膝関節のしくみ

膝関節のしくみ(提供:横浜石心会病院 竹内良平氏)

加齢とともに症状は進行しやすく、特に女性の場合はホルモンの変化が影響し、閉経後にリスクが高まります。また、もともとO脚である方や、骨粗しょう症でO脚が悪化した方、体重が増えてしまった方は特に注意が必要です。体重が膝の内側に集中しやすくなり、膝の内側における半月板や軟骨の劣化が進行しやすくなります。

レントゲン写真

(左)正常な膝関節 (右)変形性膝関節症
変形性膝関節症では内側関節裂隙の狭小化、骨棘形成、骨硬化像などがみられる。
(提供:横浜石心会病院 竹内良平氏)

変形性膝関節症の主な症状には以下のようなものがあります。

膝の痛み:初期には動作時に痛みが出ることが多い。進行すると安静時にも痛みが生じる。
膝の腫れ:痛みとともに膝に水がたまり、腫れることがある。膝が熱を帯びることもある。
膝の可動域の制限:膝の曲げ伸ばしが困難になり、階段の上り下りや立ち上がり動作が制限される。
特に膝がまっすぐ伸びなくなることを拘縮と言うが、拘縮がひどくなると膝周囲骨切り術はできなくなる。

治療法は患者さんが何を重視するかで検討。膝関節を温存できる膝周囲骨切り術の特長と適応基準

竹内 良平氏

変形性膝関節症の治療法にはどのようなものがありますか

変形性膝関節症の治療には、大きく分けて3つの手段があります。

1. 薬物療法
痛みを緩和させることが目的。ヒアルロン酸注射や痛み止めなど。
2. 膝周囲骨切り術
膝関節の下部である脛骨(けいこつ)または上部の大腿骨、もしくは両方で骨切りを行い、変形した膝関節の形を矯正する手術。膝関節の機能を温存させる。
3. 人工膝関節置換術
膝関節を人工のインプラントに置き換える手術。症状が重度の方にも適応できる。

「膝周囲骨切り術」と「人工膝関節置換術」の選択はどのように考えたら良いでしょうか

多くの情報を得て、自分の膝関節の機能を温存できる膝周囲骨切り術を希望する患者さんが来院されます。しかし、骨切り術の効果が期待できるのは、変形性膝関節症の症状が初期から中程度の方や、スポーツなど活動性を重視する方です。

症状がかなり進行している方、そして痛みをなくすことが主な目的である方には、人工膝関節置換術を勧めています。骨切り術はどうしても症例によっては、または進行度によっては痛みがゼロにはならないのです。

また、年齢によっても手術の適応が異なります。70歳以上の方には、骨切りを行った部位の骨癒合が遅くなることなどを考えると、人工膝関節置換術を勧めることが多いです。しかし、ご高齢の方でも、スポーツを優先する方には骨切り術を行うこともあります。

最も重要なのは、患者さんが何に主眼を置いているかです。活動を維持したいのか、痛みを取ることを優先するのかによって治療法を相談しながら選択します。

今後、骨切り術と人工関節置換術を、どのような症状の場合にどちらが適応するかを整理していく必要があります。実は線引きがまだまだ曖昧な状況です。

膝周囲骨切り術の最大のメリットは何でしょうか

膝関節を温存できることですね。人工膝関節置換術は、膝の機能を全てインプラントに任せることになります。自分の膝関節が残っているということは、機能的にはインプラントよりもはるかに上で、安定しますし、激しいスポーツや正座なども可能となることもあります。

両者のメリット・デメリット

両者のメリット・デメリットの表

竹内 良平氏

膝周囲骨切り術にも種類があるのですか

元々骨切り術は1965年に米国で報告された手術方法で、それを日本の先生方が学び持ち帰ってきたのが始まりです。その当時は「クローズドウェッジ(Closed Wedge HTO)」 という、脛骨の外側と腓骨の一部を切って金属で固定する方法でした。

最近では「オープンウェッジ(Open Wedge HTO)」という脛骨の内側を切って開き、その隙間に人工骨を入れて、金属で固定する方法が全体の半数ほどで、一般的となっています。

従来の高位脛骨骨切り術(Closed Wedge HTO)

レントゲン写真

(左)術前 (右)術後
黒線が骨切り線。
骨片を除去して整復すると外側骨皮質同士は階段状となり荷重に対して不安定となる。
(提供:横浜石心会病院 竹内良平氏)

内側開大型高位脛骨骨切り術(Open Wedge HTO)

レントゲン写真

(左)術前 (右)術後
内側から外側に向かって斜め骨切りを行い、内側を開大する。
開大部に人工骨を充填することで荷重ストレスの分散効果がある。
(提供:横浜石心会病院 竹内良平氏)

ただ、オープンウェッジは矯正角度に限度があり、膝関節症の進行度や変形の度合いが軽度の方が対象となります。クローズドウェッジはより重度の方にも適応が可能です。

また、私が開発に携わったハイブリッドクローズドウェッジ (Hybrid Closed Wedge HTO)という方法では、従来のクローズドウェッジに比べて少ない骨切りの量で矯正ができます。

患者さんの年齢や症状の程度によって、同じ骨切り術でも方法を選択していきます。

ハイブリッドクローズドウェッジ高位脛骨骨切り術
(Hybrid Closed Wedge HTO)

レントゲン写真

骨切り線は外側から内側近位に向かう斜め骨切り。近位骨切り線上にヒンジポイントを設定して外側より骨片を除去した後にヒンジポイントを中心に外側を閉じて矯正する。内側は開大し外側は骨片同士が接する。外側の骨皮質同士が接触することが望ましい。脛骨粗面部は前方および近位方向へ移動し、遠位骨片は近位に対して内旋する。結果的に膝蓋大腿関節の適合性が改善する。
(提供:横浜石心会病院 竹内良平氏)

遺伝子が変形性膝関節症の進行に関わっていると聞きますが、治療法の選択にも関係してくるのでしょうか

最近の研究では、変形性膝関節症の進行に関わる遺伝子が発見されており、遺伝子的に発現が高い人は病気が進行しやすいことがわかってきました。進行するグループには、どんなに綺麗な手術をしても関節症が進行するため、膝周囲骨切り術ではなく人工膝関節置換術を勧めます。今後、遺伝子診断でわかるようになれば、そこで適応が決められる可能性もあります。

しかし、スポーツ愛好家など特定の患者さんには、進行リスクがあっても骨切り術を選択することがあります。この場合、病気が進行した後に人工関節に移行することで、初めから人工関節を入れるよりも、患者さんにとってライフスタイルを維持することで良い結果が得られることがあります。そのため、特に若い患者さんにはいろいろな選択肢があることをお伝えしています。

術後1ヵ月で社会復帰できる骨切りを目指す―手術手技の進歩と早期社会復帰への工夫

先生には、整形外科デジタルプランニングツール「mediCAD」1)をご利用いただいております。シミュレーションソフトにより術前計画はどのように変化しましたか

変形性膝関節症の治療における膝周囲骨切り術は、膝のアライメント(整列)を適切に矯正することが成功の鍵となります。このアライメントは、膝の負荷が術前と術後でどのように変わるかを示す重要な指標であり、手術の結果を大きく左右します。

撮影した患者さんのレントゲン画像を「mediCAD」で読み込むと、手術前後のアライメントが簡単に表示できます。かつてはレントゲン画像を上から紙に模写し、切り貼りしながら角度を変えてアライメントのラインを引いていました。15~20分はかかり、失敗すればやり直しも必要でした。

しかし、現在では「mediCAD」の導入により、手術前の計画が格段に効率化され、わずか5分で完了します。はるかに楽になったと実感しています。デジタルプランニングツールを使用することで、手術の準備が簡略化され、術者の負担が軽減されます。これから他施設にも浸透し、活用されるのを期待しています。

1) 医療機器販売名:整形外科デジタルプランニングツール mediCAD/医療機器認証番号:303ADBZX00010000

竹内 良平氏

「mediCAD」でのシミュレーション画面を見ながらお話しくださる竹内先生

広く普及している膝周囲骨切り術ですが、どのような課題があるとお考えでしょうか

膝周囲骨切り術の最大の課題は、骨が完全に付くまで3ヵ月程度かかるため、社会復帰までの期間が長いことです。人工膝関節置換術と遜色ないくらい社会復帰を早めることが求められます。

人工膝関節置換術は膝関節を丸ごと交換するため、ギプス固定も不要で、アメリカでは手術が日帰りで行われる場合もあります。日本ではリハビリを含めて社会復帰まで約1ヵ月程度であり、リハビリが不要な場合は2週間で復帰できる方もいます。

変形性膝関節症の初期や中期の患者さんは、仕事をしている年代の方が多いです。とにかく早く社会復帰したいというニーズがあります。また、ご高齢の方でも、長い入院は避けたいと考えています。

膝周囲骨切り術後の早期社会復帰のために先生が取り組まれていることがありましたら教えてください

私が取り組んでいる最新のトピックスは、手術で切り取った箇所に人工骨とともに自分の骨を移植して、骨癒合を促進させることです。腸骨(ちょうこつ)と呼ばれる骨盤の上部にあたる腰骨付近から骨を採取し、それを砕いて人工骨と骨切り部のすき間を埋めるように入れます。

人工骨を入れるだけでは骨切りをして開大した部分に空間ができます。翌日から体重をかけても問題なく、1週間で歩けるようになりますが、骨が完全に癒合するにはどうしても3ヵ月かかります。しかし、腸骨から取ってきた骨を移植することで、1ヵ月で骨が癒合します。

腸骨は非常に良質な骨で、骨髄移植の際にも利用されるほど幹細胞など再生系の細胞が豊富です。年齢が高い方でもここの骨は良い状態で残っています。

腸骨から骨を採取するのは大がかりなイメージがありますが、どのように行うのですか

腸骨から骨を採取して移植する方法は、かつては敬遠されていました。理由は、時間がかかり、手術が大変で、骨盤部の変形のリスクがあるためです。そこで私は円柱状の道具を使い、直径8mm、長さ20mmの骨を2~3箇所くり抜く方法を行っています。これにより、骨の採取が非常に簡便になりました。手術中、私が膝関節鏡手術を行っている間に、助手の先生に採取してもらいますので、手術時間も延びません。

また、採取した骨の穴に人工骨を詰めることで、すぐに骨が形成されます。また、出血が最小限に抑えられ、術後の腫れも防げます。傷口も1.5cm程度で、1~2年後にはほとんど目立たなくなります。

術後の痛みも少なく、ほとんどの患者さんは大体1週間以内で痛みが全くなくなります。患者さんに説明をしても、今まで嫌がられることはありませんでした。骨を採取して移植するのはタブーではなく、非常にメリットが大きい方法なので、ぜひ積極的に取り入れてもらえるとよいと思っています。

竹内 良平氏

写真左側にうつるのが腸骨の模型

腸骨を移植することで、実際にどれほど社会復帰が早まりますか

先日も60代の女性に、膝周囲骨切り術を行いました。大腿骨と脛骨の両方の骨を切り取る手術でしたが、5週間で立ち仕事に復帰できています。

この患者さんには、腸骨を移植することに加え、最近新たな試みとして始めた、小さなプレートを大腿骨の補強に追加しました。

従来のプレートを入れる場所と同じ箇所からアプローチできるため、他に傷をつくる必要がなく、非常に手軽に行えます。もちろん大きなプレートの方が固定力はありますが、別の傷が必要になるため、患者さんの負担が増えてしまいます。

この小さなプレートは本来、異なる部位の骨折治療に使用されるプレートです。膝周囲骨切り術専用のものではありません。他のプレートを使用するというわずかな工夫が手術の効率を向上させ、患者さんの負担を減らし、早期社会復帰にもつながります。

竹内 良平氏

手術後のレントゲン写真。人工骨の隙間に腸骨を砕いたものを移植。
大腿骨の補強には小さなプレートを入れた

現在の日本の手術状況―高度な技術と豊富な選択肢で最先端を行く

世界的にも活躍されている竹内先生ですが、日本と世界の骨切り術の状況について教えてください

現在では、日本の骨切り術のバリエーションの多さと手術の丁寧さが際立っています。世界で多く使用されるプレートは、ドイツの医師たちと共同で開発したものです。今、日本で使われているのは、ほとんどが日本で日本人の骨格や体型に合わせて開発されたプレートです。ヨーロッパの手術では、人工骨を使用しないため、体重をかけて歩くまでに数週間かかります。一方、日本では1週間で歩けることを示したら、海外のメンバーはみんな驚いていました。

この背景には、ヨーロッパでは良い人工骨が手に入らないことが挙げられます。そのため人工骨を使用するという発想がなく、人工物は感染のリスクがあると考えられています。海外では手術数をこなすことが重視されているため、術式が単純です。

しかし、日本には高度な人工骨を作る技術があり、手術が丁寧なため、感染のリスクも少ないです。また、日本の大きな特徴として、術式のバリエーションが多く、患者さんのニーズに合わせた治療が可能なことです。私が開発に携わったハイブリッドクローズドウェッジはその一例です。

膝周囲骨切り術の早期の社会復帰と膝関節の再建に貢献したい

イメージ

竹内先生が骨切り術に携わることになった経緯を教えてください

研修医を終えて、横浜市立大学付属病院の整形外科に入局したときに、そこにいた教授が日本の骨切り術の第一人者の腰野 富久先生でした。腰野先生から学び、そこから私のキャリアが始まりました。骨切り術を始めて30数年になりますが、骨切り術のノウハウは良いことも悪いことも全て把握できていると思います。それなりの手技が必要な手術となりますので、経験則はとても大事で、若い先生たちにも伝えていきたいですね。人工関節置換術と骨切り術、どちらも学ぶことが大事だと思っています。

竹内先生の夢や今後の挑戦などをお聞かせください

私の今後の目標は、膝周囲骨切り術を受けた患者さんが人工関節と同じくらい早く社会復帰できるようにしたい。そしてそれが皆に知られて、骨切り術がさらに世の中に認められてほしいです。

そのためには、さらに骨が癒合しやすいようなインプラントの開発も非常に大事になります。先ほど例にあげた、異なる部位向けのインプラントが良い効果を生んでいるように、まだまだ改良の余地が残っています。

さらに、これからのテーマとして、軟骨再生や半月板の修復・再建が挙げられます。半月板は膝関節を守る大事なクッションであり、これがなくなると非常に困ります。切れた半月板をいかに修復するか、すり減った軟骨をどのように再生させるかが、今後の鍵となります。

そのベースには膝周囲骨切り術があり、半月板や軟骨を守る土台を作りながら、軟骨再生、半月板修復・再建、これらが全て整うことで、本当の意味での膝の再生手術が現実となります。今後このような時代が来るだろうなと予想しています。

そして、スポーツを諦めていた人が再挑戦できるようにしてあげたい。やはりスポーツは健康寿命を長くするのに必要です。膝周囲骨切り術は膝関節の機能が残るため、術後の運動制限がありません。この制限がないことが最も重要であり、より多くの方の膝関節の機能を温存させること、膝関節を残して再起再生させることが、私の夢です。

プロフィール

竹内 良平氏 写真

医療法人社団 新東京石心会
横浜石心会病院 関節外科センター
センター長

竹内 良平氏

1984年に山形大学医学部卒業後、東京逓信病院第一外科にて初期研修。1986年、横浜市立大学病院整形外科に入局、2002年に同助教授。2006~2019年AO財団Knee Expert Groupメンバー。2011年、横須賀市立市民病院関節外科・人工関節センター長。2019年11月、さいわい鶴見病院(現横浜石心会病院)関節外科 関節外科センター長。日本Knee Osteotomy and Joint Preservation 研究会 会長を務める。

事業紹介