エル・テールと東陽テクニカの技術を融合させ、共に目指す水素社会の実現

株式会社エル・テール 取締役 笠井 貴彦氏

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目次
  1. エル・テールとはどんな会社か
  2. 独自技術とワンストップでの対応
  3. 計測技術の東陽テクニカと、流体制御技術のエル・テールの融合
  4. 今後の展望

エル・テールと東陽テクニカの技術を融合させ、共に目指す水素社会の実現

兵庫県川西市に拠点を置き、流体制御の試験装置やガス供給設備の開発を手掛けている株式会社エル・テール。2024年3月に、東陽テクニカのグループ会社となりました。

現在、2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、クリーンなエネルギーである水素が注目されていますが、エル・テールはこの水素の流体制御に関して高い技術力を有しています。エル・テールの流体制御技術や将来的な水素ビジネスの展望、東陽テクニカグループの一員となったことへの期待など、エル・テールの取締役 笠井 貴彦氏に詳しく話を伺いました。

エル・テール ロゴ

エル・テールとはどんな会社か

エル・テール社屋

エル・テール社屋

まずは、エル・テールの創業について教えてください

1985年、先代社長により長尾製作所として創業しました。長尾製作所はもともとエネルギー、化学、産業プラント現場の配管施工や、ユニットの組み立てを行う会社でした。日々の業務において、お客様からの信頼を得るようになり、次第に開発要素の高いシステムの製作依頼をいただくようになりました。以降、現在の燃料電池評価装置の元となる蒸気発生装置や、ガスの流量や圧力を制御する装置などを手掛けるようになりました。そして業務拡大に伴い、1997年に株式会社エル・テールが設立されました。

笠井 貴彦氏 写真

事業内容はどのようなものですか

主に大手企業の研究開発向けに、試験装置やガス供給設備を製造しています。液体や気体などの流体を供給するシステムがメインとなり、具体的には流体の流量や温度、圧力を制御する流体制御装置を取り扱っています。

仕事のフローとしては、お客様から「こんな装置が作れないか」という相談を受け、当社の技術者がヒアリングを行い、お客様がイメージした通りのガスの流れを実現できる配管構造と電装制御を設計し、図面に書き起こします。そこから、最適な制御システムを検討し、解決策を提案します。

流量や温度、圧力に加え、機械強度や耐腐食性、必要電力など、試験装置やガス供給設備がお客様の想定する仕様を十分に満たすと判断されると、製造に入ります。完成後は、お客様の拠点に運び、工場の電気配線およびガスや液体配管との接続まで、当社が一貫して請け負います。

どのような業種のお客様が多いですか

家電など電気関係やガス関係のお客様が多いです。世の中の流れだと思いますが、最近は水素関係が多く、燃料電池評価装置のご依頼をいただくことが増えています。ほかにも、天然ガスから水素を取り出すために用いる、メタンの水蒸気改質装置の気体搬送や制御装置の製造依頼もあります。

エル・テールの社員はどんな方が多いですか

一人で何役もこなせる人材が多いですね。社員数20名弱と小さな会社ですので、技術営業から設計、電気工事、溶接までマルチにこなす必要があります。一人一人の技術力が高く、対応できる範囲も広いので、一致団結すると非常に心強いですね。

独自技術とワンストップでの対応

流体制御について詳しく教えてください

流体制御とは、流体(液体・気体)の供給量や温度、湿度、圧力を制御することです。水素を燃料電池に供給する際に、水素ガスは高圧ボンベに入っていますが、このまま供給すると圧力が高すぎて機器類が壊れてしまいます。このため、まずはボンベ中の高圧ガスを制御しやすいように減圧してから流します。そして、低圧になったガスの流量や温度、湿度を制御し、圧力も変えられるようにすることで、最も適したガスの状態を作り上げて供給します。このように燃料電池内部に供給するガスの温度や湿度を精密に制御することで、高効率化を実現しています。流体制御は、燃料電池の性能向上に欠かせない要素となっています。

エル・テールの強みを教えていただけますか

流体制御装置の技術開発、設計、配管から、電気制御盤やそれに対する制御システムの製造まで全て請け負っています。社内で設計からお客様先での設置、装置立ち上げまでワンストップで対応できる、というのは当社独自の強みです。例えば配管ユニットメーカーや制御盤メーカーは多くありますが、その二つをまとめて製造している会社は少なく、制御システムの電気制御盤までまとめて作っている会社となると、さらに少なくなります。

試験装置やガス供給設備に関する全ての業務を請け負うことができるので、仕様変更などお客様のご要望に迅速かつ柔軟に対応できることが大きな強みであり、これが多くのお客様から長い間ご愛顧をいただけている所以です。また、当社では技術者が営業も行っており、お客様と直接技術的な話ができるので、気軽にお声がけいただくことも多いと考えています。

技術面で得意としていることは何ですか

精密な配管加工と機器の性能を最大限に発揮する制御技術です。半導体関連の装置など、配管に溶接不良があると、不良箇所に不純物が蓄積することがあり、ガスによっては配管の腐食進行の原因となることがあります。

エル・テールでは、なるべくシンプルな配管設計を行うと同時に、職人の技術で、お客様のご要望通りに水素やその他のガスを流せる配管を作っています。また、人間の手で行うと不均一になるものは、自動溶接機を使ってできる限り誤差の小さい精密な配管を組み上げます。これにより、配管に余分なテンションがかからないうえ、シンプルな流路になり流体制御もしやすくなります。

当社では長年にわたり半導体設備の製造や配管工事を手掛けていますが、自動溶接に関しては、半導体製造装置のガイドライン「SEMI規格」1)に沿って一部配管施工(溶接基準や検査方法)に取り入れています。

1) 半導体業界の自主規格。SEMI規格の基準に適合する製品は安全性や品質の目安となっている

いくら高性能な機器を使用しても、良い装置ができるとは限りません。エル・テールには、あらゆる分野で制御を行ってきた経験から、機器の性能を最大限に発揮する制御技術があり、お客様の要求仕様を満たす提案をしています。

配管の溶接作業

配管の溶接作業
※取材のため特別に撮影しています

燃料電池評価システムの構成部品

配管を溶接してできた燃料電池評価システムの構成部品。
装置の性能を左右する心臓部

特殊な技術を扱うために、皆さんどのような資格や免許をお持ちでしょうか

ガス溶接はステンレスやアルミなどを含めてさまざまな種類があり、高い技術が必要なので、溶接関係の資格を取得しています。ほかにも、電気工事士の資格は電気計装を行う際に必須となります。どちらも、高度な技術を支える大事な資格ですね。

燃料電池評価システム内の電装品配線の作業

燃料電池評価システム内の電装品配線の作業

計測技術の東陽テクニカと、流体制御技術のエル・テールの融合

東陽テクニカが燃料電池評価システムを製造するにあたり、燃料(水素)を供給し、その流量を制御できる技術が必要ということで、エル・テールと協業してきました。今回、東陽テクニカグループの一員となったことについて考えをお聞かせください

東陽テクニカと当社は20年来の付き合いがありますので、よく知っている社員もいましたし、皆さん知識や経験が豊富なことはわかっていました。ですが、会社の規模があまりにも違うので、子会社化の話を初めて聞いたときは驚きました。我々は小さな町工場から始まっていますので、全員の目の行き届く範囲で仕事ができていますが、それが今後どうなるのだろうという不安も正直ありましたね。

東陽テクニカから出向してきた現エル・テール社長の水田が思い描く将来のビジネスの青写真を聞いて、グループ会社となることに納得しました。

それは、東陽テクニカが、我々が持たない計測機器の高い技術を持ち、逆に我々が東陽テクニカにはない流体制御技術やガス供給装置の製造技術を持っているので、両社が一緒になることでお互いの強みを掛け合わせてより高みを目指すことができる、ということです。

「料理で言えば素材がよくてもシェフがいなければいい料理は作れないし、腕のいいシェフがいても素材が悪いと良い料理は作れない。私たちの関係は素材(東陽テクニカ)とシェフ(エル・テール)の関係です」との話もありました。

燃料電池評価システム「AutoPEM型」

燃料電池評価システム「AutoPEM型」
東陽テクニカの計測技術とエル・テールの流体制御技術を組み合わせて製造

今後、東陽グループとしてやっていきたいことや、期待することなどありますか

我々のこれまでのリソースだけでは、できることが限られていましたが、今後範囲を広げていけたらと考えています。これまでの東陽テクニカとの関係では、東陽テクニカのお客様向けの製品をエル・テールが製造することが主でしたが、逆に当社のお客様向けの製品に、東陽テクニカの計測器を組み合わせるなど、両社のタイアップを通してお互いにさらに良い関係になることを期待しています。

エル・テールの「伸びしろ」はどういったところにありますか

先ほども述べた通り、当社の社員は一人一人の技術や知識のレベルは高いのですが、それを活かしきれていない部分があります。単独での仕事はできていますが、今後さらに高いレベルの流体制御装置を求められたときに、組織を意識した業務を進める必要があると考えています。一人一人が組織の中で自分の役割を明確にしていけば、組織としてより難易度の高いことに挑戦できるはずですし、お客様にも良いものを提供できると考えています。

企業として成長をするうえで、どのように意識を変えていく必要があると思いますか

これまでは必要最低限、作業に必要な資格を取得すればよいという考え方でした。しかし、私自身の経験からも「この知識があればもっと理解が深まる」と思うことが多々あります。製品に自分たちの考えを反映していくためにも、関連する資格を取得して、いま製造しているものに対する理解を深めることが必要と思います。例えば、高圧ガスの製造、管理、ガスの性状に関する資格などを取得できるとよいと考えています。

今後の展望

笠井 貴彦氏 写真

日本政府が2023年6月に水素基本戦略を改定しました。現在の水素市場についてどのようにお考えですか

日本政府は2050年にカーボンニュートラル達成を目指す、とのことですので、化石燃料の代替燃料となるグリーン水素は今後需要が伸びていくと考えています。実際、産業界ではエネルギー源を化石燃料からグリーン水素へ変更する流れがあり、現場にいると流体制御技術の需要が高まっていることを肌で感じます。

エル・テールとして、水素ビジネスへのかかわりはどのようになりますか

水素ビジネスでは流体制御は将来的にも需要がある分野です。当社の持つ流体制御技術を装置に組み込むことで反応ガスの繊細な制御が可能になり、効率を最適化できます。メタンの水蒸気改質を例にとると、メタンガスや一酸化炭素ガス、水蒸気の流量や温度、圧力制御、さらには反応後の水素や二酸化炭素の回収など、我々の流体制御技術が活かせるポイントがいくつもあります。

エル・テールで製造している燃料電池評価装置は好評で、多く引き合いをいただいています。燃料電池のみならず、その排熱を利用し、エネルギー消費量の削減につながるシステムの仕事も出てきており、これから水素に関連する仕事がさらに増えていくと考えています。今後は海外も視野に入ってくるでしょう。

最後に一言お願いします

日々業務を行う中では、いま自分たちが何を作っているのか見えづらい部分はありますが、世界的にカーボンニュートラルの流れが進み、我々の持つ流体制御技術が少しでも役に立ち、水素が生活の身近なところで活用されるようになると思うと気が引き締まりますね。今後、両社の技術を融合して、水素事業の拡大に向けて共に進んでいけること、ひいては水素社会の実現につながることを、大きく期待しています。今後ともお客様に愛されるエル・テールを目指してまいります。

プロフィール

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株式会社エル・テール 取締役

笠井 貴彦氏

1975年 大阪府泉大津市生まれ。1998年 長尾製作所入社(エル・テール前身)。入社後はものづくりの現場で学び、後にその経験を踏まえ、設計業務に携わる。燃料電池評価システムにおいては、加湿器の急冷や低露点化の設計、開発に従事。2019年にエル・テール代表取締役を経て今に至る。

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