次世代の自動車開発をラボで実現
東陽テクニカグループRototest社の技術
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近年の自動車開発では、電気自動車(EV)、自動運転(AD)/先進運転支援システム(ADAS)、コネクテッドカーといった技術革新が急速に進んでおり、それに伴い自動車システムがより高度化・複雑化しています。このため、効率的な評価手法の確立が課題となっています。
東陽テクニカでは、実路走行試験を実験室(ラボ)で行う統合コントローラシステム「ドライビング&モーションテストシステム(DMTS®)」を自社開発し、先進的な自動車開発を支えています。「DMTS®」の構成要素の一つ、ハブダイナモメーター「ROTOTEST® Energy™」の開発・製造を手掛けるスウェーデンのRototest International AB(以下、Rototest社)が、2023年、東陽テクニカのグループ会社となりました。
AD/ADASの技術開発が進む中、「ROTOTEST® Energy™」が貢献できることや今後の製品開発、東陽テクニカグループの一員としての今後の展望など、Rototest社のCEO、Christian Engström氏にお聞きしました。
Rototest社とは
Rototest社の創業はいつですか
1988年、私の父とエンジニア仲間が創業しました。父はそれまで自動車会社でパワートレインの開発に携わっていましたが、1984年に仲間と共に世界初のハブダイナモメーター1)を開発し、特許を取得しました。この革新的な技術が創業のきっかけとなりました。
1) ハブに直接装着し、車の実走行を再現して車両性能を評価するシステム
事業内容を教えてください
ハブダイナモメーターの開発、製造に注力しています。創業当初はラリーカーなどのレース車両向け、現在は乗用車向けの製品を開発しています。近年はEVやADASなど新しい技術を使った自動車に向けて、より実際の走行に近い状態を再現するための機能改善を進めています。このようなRototest社の事業内容の将来性と拡張性が高く評価され、2013年には、スウェーデン政府系ベンチャーキャピタルがグローバルに活躍する企業を支援する、投資対象企業として選ばれました。
Engströmさんのご経歴を教えてください
1995年にRototest社に入社し、初めはエンジニアとして主にソフトウェア開発に携わっていました。2003年から営業担当となり、自動車メーカーや部品メーカーとの緊密なコミュニケーションを通じて、当社製品を効果的に活用していただく方法を提案してきました。そして、2014年、CEOに就任しました。
次世代の自動車開発をラボで実現する「ROTOTEST® Energy™」の強み
先進技術の開発に伴い、自動車開発はどのように変化していますか
従来は「V字プロセス」と呼ばれる手法が一般的でした。シミュレーションを用いた設計から始め、部品やシステムの試作・評価、そして車両の実走行試験へと段階的に進める方法です。実走行試験で問題が見つかると、設計段階に戻って開発をやり直すこととなり、エンジニアの労力や費用が大きな負担となりました。特に、車両の製造や、実走行試験そのものに多額の費用がかかることも課題です。このため、より効率的な開発プロセスが求められていました。
現在は、ソフトウェア業界で広く導入されている「アジャイル開発」の手法が主流となっています。自動車においてソフトウェアの役割がますます大きくなり、モデルベース開発(MBD)やSDV(Software Defined Vehicle)といったコンセプトが注目されています。この方法では、実際のハードウェアとシミュレーションを組み合わせた試験(HIL:Hardware in the Loop)と、実車とシミュレーションを組み合わせた試験(VIL:Vehicle in the Loop)を導入することで、開発の早い段階で問題点を発見して修正することができます。これにより、実走行試験をより完成度の高い状態で実施することが可能となり、開発期間の短縮やコスト削減につながります。
「ROTOTEST® Energy™」はどのような製品ですか
ハブダイナモメーター「ROTOTEST® Energy™」は、実車試験を実験室で行う“Road to Lab”というコンセプトに基づき開発されています。テストコースや実路で行うのは難しい試験を、安定した屋内の環境で再現性高く行うことが可能です。
例えば、実路で行うことが危険なシナリオを、さまざまな条件で繰り返しシミュレーションできます。また、実路での試験は天候の影響を受けやすく、特に雨の日には路面が濡れていることから正確な結果が出ませんが、VIL試験であれば天候に左右されることもありません。
VIL試験で使用されるダイナモメーターには、従来型のローラー式と、「ROTOTEST® Energy™」のようなハブ式がありますが、どのような点で異なりますか
従来型のローラー式は、車のタイヤをローラーの上で回転させて試験を行います。大規模で据え付け型の設備となるため、設置場所が限られ、移動はできません。また、トランスミッションやパワートレインの評価をする場合には、ホイールからローラーへの動力伝達においてロスが発生すること、車両の動きが制限されること、測定値が変動しやすく正確な結果を得るのが難しいこと、などが課題となります。
一方、ハブ式の「ROTOTEST® Energy™」は、車のホイールを取り外し、直接ハブダイナモメーターをつなげますので、設置に必要なのは固くて平らな床のみで、建物の2階以上にも設置することができます。また、ハブ直結のため4輪を独立して制御することが可能で、車の動力を直接計測できるため、より正確な結果が得られます。さらに、従来のローラー式では実現できなかった試験中のステアリング操作により、操舵を含めたさまざまな実路走行状態を再現できることに加え、フル加速・緊急ブレーキなどの動きも実現できるため、AD/ADASのあらゆる試験に対応できます。
ローラー式とハブ式の用途は、どのように考えればよいでしょうか
従来からローラー式は、車の排出ガス量や燃費を計測するために使用されています。近年では、標準的な走行試験から、AD/ADASなど次世代の自動車開発試験にも対応できるシステムとして、ハブ式が活用されています。ハブ式では、eAxle(電動車向けの駆動ユニット)などのサブシステムの試験から完成車の試験まで、すべて同じ設備で行うことができます。
Rototest社の製品は、競合のハブ式の製品と比べてどのようなメリットがありますか
市場に出ている製品の多くは、ハブダイナモメーターが床に固定された「リグタイプ」です。また、取り付ける車両に合わせてハブダイナモメーターの位置を調整する必要があり、作業に数時間から数日かかることもあります。
一方、Rototest社の製品はハブダイナモメーターを台車の上に載せており、床に固定されない「フローティング・ソリューション」であるため、調整に手間がかからず20分で準備が完了します。
また、試験に必要な車両モデルとして、汎用的な車両モデルを用意しています。主要な諸元データを入力するだけで必要最低限の評価ができますので、簡単に使うことができてお客様からは好評です。
東陽テクニカと共に見据える今後のVIL開発
東陽テクニカとの出会いはいつだったのでしょうか
最初の出会いは2012年、Rototest社が日本での販売代理店を探していたときです。スウェーデン大使館経由で東陽テクニカにコンタクトし、協業の可能性を探りましたが、その時は残念ながら契約には至りませんでした。その後、2015年に中国で開催された展示会で再会し、代理店契約を結びました。
約8年間にわたり東陽テクニカとはパートナーとして協業してきましたが、東陽テクニカが独自のソリューション「DMTS®」を今後さらに展開していくというビジョンに共感してグループ会社となることを決めました。当社にとっても世界市場に販路を拡大する機会になりますし、今後の事業展開に大いに期待しています。
グループの一員となり、どういう変化がありますか
Rototest社がこれまで培ってきた他の代理店との関係はそのまま継続しており、独立している部分は尊重してもらいつつも、互いに能動的に関わって、グループの今後の戦略について共に検討できることはありがたいと感じています。
また、東陽テクニカの社員が定期的にスウェーデンに来て、製品開発や今後のRototest社の事業拡大について検討を進めています。私はこれまで何度も日本を訪れたことがありますが、今回はグループになって初めての来日でした。東陽テクニカ主催のVILに関するカンファレンスに合わせての来日でしたが、直接お客様やパートナー企業と話をすることができて、今後の事業展開にも期待が持てる1週間でした。今後は定期的に日本に来て、東陽テクニカの社員はもちろん、お客様ともコミュニケーションを取りたいですね。
Rototest社は今後の自動車開発にどのように関わっていきますか
自動車はますます複雑になりますので、各機能の評価など、より多くの試験を効率的に実施することが求められます。特に、安定した屋内環境での試験のニーズは高まり、ハブダイナモメーターは今後も重要な役割を担います。もちろん実路試験は今後も必須ですが、事前に屋内でより多くの試験を行うことができれば、完成車に近い形で実路試験に進むことができます。
我々としては、パートナー企業と協力してVILのソリューションを拡張していくことが必要と考えています。また、EMC分野への対応にも力を入れる予定です。加えて、これまで普通乗用車の試験用に注力していましたが、大型車への対応も考えています。
この30年間、Rototest社は市場でさまざまな挑戦をしてきました。主なミッションは変わらず、今後もハブダイナモメーターの技術を高め、新たな活用方法を見出していきます。ADASは今後ますます高度で複雑になり、自動車開発において開発期間やコストの削減はより重要になると予想されます。Rototest社は東陽テクニカと共に、今後も変化していく市場のニーズに対応したソリューションを提供し、お客様がより効率的に、競争力を持って開発ができるように支援していきます。