M81型機能紹介① ロックインアンプとは
ロックインアンプの原理
ロックインアンプは、下図のように、入力信号に対して正弦波の参照信号をかけ合わせ、ローパスフィルタを通すことで、参照信号に同期した信号のみを検出する測定器です。
例えば、A sin(ωt)の信号の振幅Aを検出したい場合、参照信号としてsin(ωt)を掛け合わせると、
三角関数の積和の公式 sinα sinβ=(1 ⁄ 2){cos(α-β)-cos(α+β) } から、
A sin(ωt)×sin(ωt)=(A ⁄ 2){cos(0)-cos(2ωt) }
の信号が出力されます。
この信号をローパスフィルタに通し、cos(2ωt)の信号を除去すると、直流信号(A ⁄ 2) cos(0)、つまり入力信号の振幅Aを測定することができます。
図1 ロックインアンプのブロック図
実際の信号では、様々な周波数の信号がノイズとして入ってきます。上記の手法により、掛け算後の信号がDCとなるのは参照信号周波数と同じ周波数成分のみのため、それ以外のノイズ信号成分を除去して測定することが可能となります。
例えば、10Hzの信号に、1Hzと50Hzのノイズが入っていた場合、10Hzの参照信号を掛け合わせた結果は、1Hzのノイズ情報は9Hz(10-1)と11Hz(10+1)の信号として、50Hzのノイズ情報は40Hz(50-10)と60Hz(50+10)の信号として出力されます。ローパスフィルタにより、これらのノイズ信号は除去され、ローパスフィルタの出力には、直流信号となった10Hz信号の振幅情報のみが現れます。
これにより、ノイズに埋もれている信号の中から、特定の周波数(f=ω ⁄ 2π)の信号のみを測定することが可能となります。
位相差の測定
測定したい信号に参照信号との位相差φがある場合、測定したい信号はA sin(ωt+φ)となり、振幅とともに位相差も測定する必要があります。この信号を上述の回路で測定すると、A cos(φ)の値が検出されますが、この値だけでは位相差を算出することはできません。
位相差を測定するためには、入力信号に別途参照信号の直交信号cos(ωt)を掛け合わせます。これにより、積和の公式sinα cosβ=(1 ⁄ 2){sin(α-β)+sin(α+β) } から、A sin(φ)の値が検出されます。A cos(φ)の値とA sin(φ)の値から、以下の計算で振幅Aと位相差φを算出することができます。
図2 ロックインアンプによる位相差測定
ロックインアンプの主な設定項目
Time constant(時定数)ロックインアンプのローパスフィルタのカットオフ周波数(図3中赤)を決める設定値です。カットオフ周波数は、ローパスフィルタがどこまでの周波数を通すかという値になります。時定数の逆数がカットオフ周波数になります。 時定数の値を大きくすればするほど、カットオフ周波数は小さくなり、所望の周波数以外のノイズ成分が少なくなります。一方で、Settle time(測定値が安定するまでの時間)は長くなります。
Roll off(減衰傾度)ロックインアンプのローパスフィルタの傾き(図3中青)を決める設定値です。通常、単位はdB(/octave)です。 値を大きくすればするほど、傾きが大きくなり、「所望周波数に近いが微妙に異なる周波数のノイズ成分」をより除去できます。一方で、Settle time(測定値が安定するまでの時間)は長くなります。
図3 Time constant(時定数)とRoll off
ロックインアンプ製品:M81型
多ch同期 ロックインアンプ搭載 ソースメジャーユニット M81型
M81型は、従来のDC測定に加え ロックインアンプによる高感度 I-V抵抗測定、微分コンダクタンス測定(高調波)を行える 最新のソースメジャーユニットです。
電圧感度:nV、電流感度:10fA、6端子までの同期測定が可能です。ソフトウエアオプションにより 印加電圧/電流スイープや、温度、磁場制御も可能になります。半導体、超伝導、量子・スピン、二次元、熱電など 先端デバイスの評価に最適です。
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株式会社東陽テクニカ 脱炭素・エネルギー計測部