【 コラム / 森貴洋 博士、更田裕司 博士 】(1)大規模集積量子コンピュータの実現に向けた シリコン集積デバイス工学の開拓

更なるコンピューティングの性能向上のため、新しい原理に基づく量子コンピュータの開発が様々なアプローチから活発に進められています。量子コンピュータの中心的な部品となる量子デバイスの開発における、集積技術に優れるシリコン量子集積デバイスとその読み出し速度の高速化に寄与する極低温動作回路開発について、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、産総研) 先端半導体研究センターの森貴洋博士と更田裕司博士に詳しくお話を伺いました。
*ご所属・肩書は取材当時のものです。

向かって左:森貴洋博士 向かって右 更田裕司博士

森貴洋博士:大規模集積量子コンピュータの実現に向けたシリコン集積デバイス工学の開拓

目次

Chapter1:シリコン量子集積化研究のプロジェクト

--担当されている量子コンピュータにかかわるシリコン量子集積化の研究プロジェクトについてご紹介いただけませんでしょうか?

私は文部科学省の光・量子飛躍フラグシッププログラム(Q-LEAP)でシリコン量子集積に関する研究課題の研究代表者を勤めています。このプログラムは産総研の他に、理化学研究所の大野博士、東京工業大学の小寺先生、帝京大学の棚本先生、東京電機大学の森山先生(個人名はお名前順)らとのグループで担当しております。
また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の量子統合プロジェクトにおける量子古典インタフェース回路の研究開発リーダーも勤めています。こちらは産総研の他には、日本電気株式会社、金沢工業大学の井田先生、東京大学の高木先生、帝京大学の棚本先生、東京大学の平本先生(個人名はお名前順)らとのグループで担当しております。
それぞれ、文部科学省のQ-LEAPは量子ビットそのものの研究でNEDOの量子統合プロジェクトはその量子ビットを制御するための制御回路の研究ですが、共にシリコンデバイスの技術開発です。
これら2つのプロジェクトを外部の方々と共に担当させていただいているので、産総研の私たちのチームは総勢20名強のメンバーで構成され、今回のお話の後半を担当する更田博士はこのチームで制御回路開発のリーダーです。なお、この後半についてはQ-LEAPにおける研究成果になります。

Chapter2:量子コンピュータとシリコン集積化技術

--量子コンピュータの概要、また量子コンピュータとシリコン集積化技術との繋がりについて教えていただけませんでしょうか?

コンピューター性能の進化

出展:Koomeyet al.,IEEE Ann. Hist. Comput. 2011

量子コンピュータもコンピュータですから日本語では“計算機”です。この計算機には長い歴史があります。
最初の計算機とも言われるのが”タリー・スティック”という木や骨の棒です。当時はこれに傷をつけて数字を記録したり、カウントしたりしていたのだと思います。
算盤は紀元前から使われていたと言われ、日本では1970年代に電卓が普及するまで広く使われてきた計算機です。
機械式計算機は、例えば古代では天文学に使われた”アストロラーベ”があり、その後欧州などで色々な物が発明されました。
近代日本では、大正時代にゼンマイで動く”タイガー計算器”という日本の名機と言われる機械式計算機が開発されています。この計算機は1970年代に電卓が普及するまで色々な場面で難しい計算をするために使われ続けました。
現代の計算機は電子式計算機で、これはリレーを使った物から始まって、真空管、トランジスタと進化しています。このように計算機というのは、私たちの科学技術の進展の基礎を支えるものであり、次の時代のコンピュータとして量子コンピュータが大変高い関心を集めています。

現在のコンピュータの主要部品というとCentral Processing Unit (CPU)が頭に浮かぶ方も多いと思いますが、実際はCPUにアクセラレータと言われるコンピュータの性能をより高めるためのハードウェアが組み合わさって使用されることが多いです。このアクセラレータはどのような物かと言うと、1番有名なのはGraphics Processing Unit (GPU)です。元々はグラフィックス機能の処理がCPUだけでは限界ということで使われ始めましたが、現在はGeneral-Purpose Computing on GPU (GPGPU)と呼ばれるグラフィックス以外の機能へも応用されています。これは特にArtificial Intelligence (AI:人工知能)ととても相性が良い技術です。そのためAIの活用・進化が進んでいる昨今は店頭からGPUが品薄になることもあります。
さらに、GPUよりもAIに特化したアクセラレータも使われるようになってきました。例えば、スマートフォンなどの顔認証でもAIがもちろん使われていて、そこには AIや機械学習プログラムでの計算に特化したNeural Processing Unit (NPU)と呼ばれる大規模集積回路(Large Scale Integration:LSI)も使われ始めています。よって、CPUとこれを支えるアクセラレータと言われるLSIが一緒に動いているというのが現代のコンピュータになります。
更に、私たちのコンピュータは大多数がネットワークで繋がっていますので、ネットワークの向こうにもまた多くのCPU・GPU・NPUなどが存在し、例えばデータセンターになりますが、それらがそこでまた色々な計算をして、ネットワークを介してデータが戻ってくるというのが今の時代です。
量子コンピュータも、コンピュータである以上はこのネットワークのどこかに入ってくるのですが、まずは量子コンピュータが最初に入る場所はデータセンターだと言われています。GPUは画像処理とかAIの計算などをサポートし、NPUは画像認識などをサポートしているのと同様、量子コンピュータもある特定の問題の計算に強みを発揮するCPUの新しい助っ人として位置づけられるでしょう。量子コンピュータを個人で所有できるようになるとしても、それはかなり遠い未来の話だと思われ、その実現には技術的にも多くの難題が存在します。

量子コンピューター時代の幕開け

現在、量子コンピュータは大きく分けてゲート型とアニーリング型の2種類があり、アニーリング型が量子コンピュータブームの先駆けとなりました。2011年にD-WAVEという会社が作った量子アニーリング型の量子コンピュータが市販品として登場しましたが、今中心的に研究開発がなされているのはゲート型量子コンピュータです。ゲート型には超伝導、イオントラップ、冷却原子等の量子ビット(Qbit)の実現方式があり、これらは規模こそ小さいのですが既に実用化されています。そして、私たちが提案するシリコン方式は、これらの後を追う立場にあります。

量子アニーリングマシン

量子コンピュータはどのような問題の計算が得意かというと、量子アニーリングマシンの場合は組合せ最適化問題です。
組合せ最適化問題は私たちの身の回りにたくさんあります。身近な物の一つはカーナビです。乗り換え検索も組合せ最適化問題の一つと言えます。カーナビの場合、道を細かく交差点で分割していき、それらをどのように選択するかという組み合わせを最適化しています。乗り換え案内も同様で、電車の路線をどのように組み合わせていけば1番いいのかを教えてくれます。
ただ、現在のコンピュータで解けることには限界があります。例えば、カーナビは「ある場所から別のある場所に最短時間で行きたい」と入力すると、みんな同じような経路を出してしまうので、そのルートが非常に混雑してしまい、実際は最短時間ではなくなってしまうことがあります。他にも、例えば大きな遊園地に遊びに行くとすると、それぞれ異なる家から出発するのですが、その遊園地の近くに行くとみんな特定の道を使いだしてしまうため、その道が非常に混んでしまうということが起きることになります。
これを解決するにはどうしたらよいか?と言いますと、例えば400台の車がある一つの目的地に向かっているとしたら、その400台を全部制御すれば色々な経路にうまく分散させることができるはずです。目的地である遊園地付近でも、入口が5つ程あったとしてもやたらと混んでしまう特定の入口が発生することもありますが、これもナビゲーションで分散することができたら、みんなもっとスムーズに入園することができるのですが、現在はそれが非常に難しく、これが現在使用しているコンピュータの限界です。このようなより複雑な最適化問題が解けるというのが、量子コンピュータに期待される役割の1つです。

ゲート型量子コンピューター

ゲート型量子コンピュータは量子アニーリングマシン機能を内包するので組合せ最適化問題を解くことの他にも、これはコンピューティングのお話になりますが、機械学習にも使用できます。なかでも一番期待されているのは量子化学計算と言われるもので、具体的には材料開発に関する計算です。
世の中には色々な材料があふれていますが、もっと性能が良い材料を見つけるために量子化学計算が活用されています。例えば固体材料であれば電池の構造材料です。今はリチウムイオンバッテリーがよく使われていますが、ポストリチウムイオンバッテリーも最近色々研究されており、この分野の研究でも量子化学計算を使うといち早く良さそうな材料の予測ができます。もっとも、最後は実験して性能を確認してみないといけないのですが、その実験候補を絞り込むために使われています。

他にはバイオや創薬分野です。COVID-19でワクチン開発が大きな話題になったのは皆さんの記憶にも新しいかと思いますが、このような薬品を作っていく課程でも計算で候補を絞り込んでいく時に使用されています。薬品や電池の他にも我々の身近なところではタイヤ開発などでも使用されます。より安全性の高いタイヤ作りのための材料探索ですね。 このように量子化学計算は幅広い応用がなされ、私達は意識せずに生活していますが、実際は私たちの日常に密接に関わっています。この材料探索のための計算は現在のスーパーコンピュータにとって最も重要な利用方法で、私の想像だと5~6割程度がこのような材料計算に使われているのではないでしょうか。
元々、ゲート型量子コンピュータは、このような材料をきちんと計算していくモチベーションから発想が生まれているところもあるので、この材料計算がとても得意です。実際、早い段階からゲート型量子コンピュータに興味を持ったアーリーアダプターの企業には材料・医薬品関連の企業が多いです。組合せ最適化だと金融系の企業も含まれます。金融商品をどのように組み合わせて売り買いすると一番儲かるかという話になるので、これも組合せ最適化問題です。このような私たちの生活にやや間接的に係わる部類の問題解決に特化して、データセンターのコンピュータやスーパーコンピュータを助けるというのが量子コンピュータに現在期待されている役割です。

とは言いながら、現在の量子コンピュータでは、まだまだ実用に十分な性能がありません。
IBM社が以前公開していたロードマップは超伝導デバイスの量子コンピュータでした。現在、約1000QbitのIBM社製の量子コンピュータはできているのですが、1000Qbitでは十分ではないためにまだまだ実用に足る計算ができません。現状は試しに使ってみるとか、どのような事が量子コンピュータでできるのかをそれを使うソフト開発の人達が模索している状況です。そのため、量子コンピュータを使用することで、今すぐに次世代電池や病気の特効薬ができるとか、新しい金融ポートフォリオが生み出せる段階ではなく、実現にはまだまだ時間がかかります。
それでは、量子コンピュータの実用化に向けてどのようなことが必要かと言うと、とにかくQbit数を増やすということです。もちろん、そのQbit自体の性能も良くないといけないのですが、一番になさなければならないのは「とにかく数を増やす」ことだと考えられています。

シリコンスピン量子ビットへの期待

その中で、私たちが開発しているシリコンQbitに高い期待が寄せられています。ご存知のようにシリコンデバイスの集積化技術は長い歴史を持っていて、今のコンピュータを実現させた重要な技術です。例えば少し前の世代のスマートフォンでもCPUにどれぐらいのトランジスタが載っているかというと100億近い数になります。このようなコンパクトなものにそれだけの数を詰め込める技術、集積化技術をシリコンデバイスは既に持っています。そうなると、Qbit数を増やしたいと言う話になれば、「やっぱりシリコンでしょう」と思いませんか?シリコンは集積技術に長けていますので、非常に注目度が高まっています。

その対抗馬となっているのが超伝導デバイスです。IBM社が以前公開していたロードマップは超伝導デバイスの量子コンピュータでした。イオントラップ方式も関心が高まっており、他にも冷却原子方式も話題になっており、量子コンピュータのハードウェアには実用化の可能性がある方式が色々と存在します。
シリコンデバイスは集積の観点で強みがありますが、それは50年以上の歴史を積み重ねて、ようやく今それができるようになっている訳です。なので、詰め込める技術があるからと言って、量子コンピュータ向けに同じように詰め込むのはなかなか簡単にできることではありません。実際、シリコン量子デバイスの開発では現時点ではIntel社の10Qbit強が最多で、Qbit数でもシリコン量子デバイスは超伝導量子デバイスを追いかけている状況です。ただ、それぞれの方式の技術的な可能性を考えると私はやっぱりシリコン量子デバイスがいいのではないかと思っています。できるだけ多くのQbitをよりコンパクトなデバイスに積むことが実用化には必要ですので、技術的な課題を解決したあかつきには、それを実現できるのではないかという点で高い期待が持てると考えています。
量子技術業界では、Intel社を始めとして半導体産業が参入してきていることが最近の1つの大きな動きです。有名なところでは、欧州企業ですとSTMicroelectronics社、Infineon社、Soitec社、半導体製造装置メーカからはApplied Materials(AMAT)社、ファウンドリではGlobal Foundries社、TSMC社、シミュレーション技術のSynopsys社などです。現在の半導体産業を支えている巨大企業が次々に量子技術に参入していることもあり、国際会議でも多くの発表がなされています。
半導体企業トップの講演も開催されるような3大国際会議というと、デバイスのIEDM、回路のISSCC、そしてその両方のVLSIシンポジウムですが、このような大きな会議でも、一昔前だと量子技術は見向きもされませんでした。ところが2015年に大きなスペシャルセッションが設けられて量子技術が大々的に取り上げられると、そこから一般講演の数がどんどん増えてきて、今も右肩上がりで増えています。最先端のLSIの議論がなされる、例えばIntel社などは新しいトランジスタを作ると必ずここで発表を行うような権威ある国際会議であるIEDMでも今は量子技術のセッションが組まれていて、どんどん発表が増えてきています。
そのような国際会議でどこが目立っているか、トップランナーかと言えば、欧州のCEA-LETIとIMECという国際的に有数の研究機関が1位グループなのですが、私たちの産総研(AIST)も3位グループにつけていて、これはアジアではトップで、この5件は全て私たちのグループから発表しております。後半の更田博士の研究もここで発表した1件です。

量子技術は集積デバイス工学へ

量子技術は集積デバイス工学へ

制御機能集積化の必要性

制御機能集積化の必要性

これまでお話してきましたように、今、量子技術では集積化技術が大変重要なキーワードになっており、量子技術は集積デバイス工学にこれからはなっていくのではないかと思っています。その中で私たちのグループは日本でも早くからこのキーワードに取り組んでいる研究グループです。現状、やはり億単位の素子を連動させることができている技術はシリコン集積技術以外ありませんので、その技術を活かした量子コンピュータ技術を作っていきたいと考えて活動しています。その他にも、量子デバイス作りやシミュレーション技術、評価技術まで幅広く研究を行っています。
これらの活動では極低温環境を作り出せる機器を使って、いかに早くデータを取っていくかというところがキーポイントの一つになのですが、そういった量子コンピュータに必要な物を作ることができる設備と設計するためのシミュレーション技術、評価するための技術、それから後半の更田博士の話である回路を作っていく技術、これらをトータルで取り扱っているのが私たちのプロジェクトです。

Chapter3:シリコンQbit素子とその開発

--シリコンQbitとはどのように動作するのでしょうか?
また開発ではどのような課題があるのでしょうか?

量子ビットの種類

シリコンQbitは大きく分けて2種類あり、電荷型とスピン型です。量子情報として何を持っているかが異なります。
電荷型Qbitは電子1個が量子情報を持っています。情報を電荷として持っている点では現在のメモリに近いです。左図の中央に”量子ドット”と言われる2つの島状の物があり、この島の左に電子がいるか、右に電子がいるかで1/0を表します。
もう1つがスピン型Qbitです。電子はスピンという物理量を持っています。スピンは磁石などの物理現象の根源でもあるのですが、そのスピンが上を向いている状態か(電子の右回り自転)下を向いている状態か(電子の左回り自転)で1/0を表します。
電荷型の方が今のコンピュータのフレームワーク、スキームに合致しやすく、設計などその他含めて敷居が低くなります。ところが、コヒーレンス時間と言われる量子情報の保持期間に難点があります。現在のコンピュータに使用されているDynamic Random Access Memory (DRAM)はご存じでしょうか?DRAMは電荷を利用して情報を記憶しておくメモリです。記憶している情報へのアクセススピードが速いのですが、放っておいて一定時間経過すると保持していた電荷が失われ情報が消えてしまいます。そのためコンピュータではリフレッシュと言われる作業が行われ、情報が消えてしまう前に再アクセスして電荷を充填しています。量子コンピュータの情報もこれに似ていて一定時間経つと失われてしまいます。この時間をコヒーレンス時間と呼んでいます。電荷型はこのコヒーレンス時間が短いという大きな欠点があり、これがかなり厄介で、この克服は相当に難しいと考えられています。

スピン型はこの情報保持に強く、情報が失われにくい特長があります。量子コンピュータで情報が失われてしまう原因はノイズで、電荷Qbitはそもそも情報が電荷であり、同様に電気由来であるノイズによって簡単に乱されてしまいます。スピン型の場合、情報はスピンなので電気とは異なった物理量です。そのため、多少は影響をうけますが、電気的なノイズに対して影響を受けにくくなります。このため、多くの開発者はスピンQbitが本命だと考えており、私たちも研究対象にしています。ただ、スピンという物理量を使う場合は、どうしても磁場という存在が関係してきてしまうので、作る上ではちょっと大変にはなるのですが、肝心なのは情報をできるだけ長く保持できることなので、世界中のほぼ全ての研究機関の多くの開発者がスピン型をターゲットにしています。

シリコン量子ビットの基本構造

次に、スピンQbitデバイス構造についてですが、今のトランジスタに大変似ています。中央イラストの水色の部分がシリコン層で、この上の緑とオレンジの層がゲート電極です。基本的なMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)の場合はシリコン層の上のゲート電極は1本ですが、これが量子ビットの場合は多数並びます。スピンによる磁場の関係もあって、磁石もその近くに置いたりするのはトランジスタからすると少し特殊です。ただ、基本はこのような構造なので、デバイスとしてはトランジスタの亜種になります。こういう説明をすると、「ただゲートが増えただけ」と思われるかもしれませんが、このゲート電極を多数作ることは簡単ではなく、どこも四苦八苦しているのが実情です。デバイスのスケールとしては、現代の先端トランジスタにかなり近い、ゲート長20nmとか30 nm というような極めて微小なゲート長を持つMOSゲートをたくさん並べており、いわゆる微細デバイスと同じようなレベルのデバイスになっています。

界面形成技術の重要性

界面欠陥由来のノイズ

測定:300mmプローバーの日本への導入

このようなデバイスを作成するためには、グループ内では岡博士らが担当しているゲート絶縁膜界面が大変重要で、具体的にはシリコンと絶縁膜の界面の品質が大変重要な役割を果たしているのではないかと考えています。これが重要であることを2020年のVLSIシンポジウムで我々の研究グループの岡博士が報告した(別ウィンドウ・外部リンク)のですが、おそらく世界初ではないかと思います。絶縁膜それ自身というよりも、むしろ絶縁膜を作った時にその界面処理がひとつ重要なカギを握っているのではないかと考えています。
ゲート絶縁膜はシリコン層とゲート電極の間にあります。先端トランジスタではこの絶縁膜はとにかく薄くしようとします。ただ、Qbitデバイスの場合は、絶縁膜は単に薄くすればいいってものではないと考えています。現在の一般的なトランジスタは絶縁膜を薄くするために実は界面の品質を大分犠牲にしています。しかしQbitデバイスの場合は、昔のトランジスタの絶縁膜に近いもの、つまり、普通のシリコン酸化膜を絶縁膜として、界面が綺麗で厚さも無理して薄くする必要は無く、ただし、単に厚くするのではなく程よくバランスが取れるポイントになっている、そんな絶縁膜が最適になるのではと考えています。このあたりはシミュレーションも使用して探っています。なお、界面の綺麗さは、単に平坦であればよいだけでなく、平坦性が確保されている上で界面の欠陥量をどれだけ低減できるかが重要です。
界面の欠陥量の評価手法はDeep Level Transient Spectroscopy (DLTS: 電気特性から評価する手法で静電容量の温度依存性を測定)、XPS(X線光電子分光)、AFM(原子間力顕微鏡)等色々ありますが界面の情報は埋もれてしまいやすいため、定常評価はこれらで可能なのですが、欠陥評価となると原子1個レベルでの評価なのでどの方式でも難しくなります。

● 取材協力

国立研究開発法人産業技術総合研究所 先端半導体研究センター
森 貴洋 博士、更田 裕司 博士

※ 所属・肩書は取材当時のものです

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