バイポテンショスタットの適用と回転リング-ディスク電極(RRDE)を用いた実験
バイポテンショスタットの適用と回転リング-ディスク電極(RRDE)
を用いた実験
本内容はBiologic社が発行するApplication note #7を2022年12月時点で翻訳したものです。
今後、原文が改訂され内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。
Ⅰ-導入
本文書では、マルチチャネルポテンショスタット(VSP-300、BP-300、VMP-3、VMP300)が回転リング-ディスク電極システムで実験を行うための原理と方法を紹介します。
SP-300、SP-150e、BP-300(現在販売終了)は、2スロットのポテンショスタット/ガルバノスタットであり、特にバイポテンショスタットとして機能するように設計されています。バイポテンショスタットは、主に、対流ボルタンメトリーに於いて2つの作用電極を用いた電気化学測定に使用されます。電極は、回転ローテーターユニットによって対流がコントロールされます。電気化学セル内の作用電極は、一般的に、一つのディスクまたはリング-ディスク電極のいずれかから構成されます。回転リング-ディスク電極(RRDE)は、1959年にFrumkinとNekrasovによって開発されました。また、回転リング‐ディスク電極での電気化学的な対流の理論的記述は1971年に発表されました[1]。回転リング-ディスク電極の応用は、電気化学分析の分野、特に反応機構研究において多数あります。その他、回転電極は、短寿命の反応中間種の検出のためにもしばしば使用されます。
Ⅱ-説明および原則
リング‐ディスク電極は二つの電気的に絶縁した電極表面で構成されます。各電極は、白金、金、銀、銅またはグラッシーカーボンなどの導電性材料から作製されます。また、リング及びディスク電極の材料は、異なる材料を使用することができ、PTFEまたはPEEKなどの絶縁材料によって分離されています。
電極表面近くの電気化学的な対流は、電極表面の中央から外周に向けらせんを描きます。そのため、電気化学的な活性種はディスクからリング電極に流れます。
リング-ディスク電極で使用される場合、リング及びディスク電極は、通常、バイポテンショスタットの両方のチャンネルを使用して、異なる電位(ER及びED)に分極されます。例えば、EDは酸化電位、ERは還元電位です。印加電位に従って電極表面上で起こり得る電気化学反応は、以下のように定義することができます。
ディスク電極上に生成されたY化合物は、拡散および対流によってリング電極に移動し、そこで電気化学的に検出され解析することができます。一つの実験例としては、ディスク電極上の電位を還元電位から酸化電位に掃引し、ディスク上で生成された種をアンペロメトリーによって検出するためにリング電極を還元電位に固定する実験です。
この実験のための電気化学セルは、2つの作用電極に共通である参照電極および対電極から構成されます。考慮しなければならない特性値は、リング電極の捕捉効率である N = -IR / ID です。
この捕捉率はRRDE電極の各作用電極サイズで特徴付けらます。
Ⅲ-実験パート
電気化学セルは、2つの作用電極(リング‐ディスク電極)、1つのPt対電極および1つの銀/塩化銀電極を参照電極として持つ4つの電極系から構成されます。
支持電解質としてKCl(0.5 mol/L)を用いて[Fe(CN)6]4-(5.10 mol/L)を用いて調製しました。
使用する装置は、EC-Labソフトウェアバージョン11.21のVMP-3です。使用するセルケーブルの接続モードは、共通の参照電極1つと共通の対電極1つを持つ「CE to Ground」モードです。
以下の図1には、3つのバイポテンショスタットのテクニックが示されています
図1:バイポテンショスタットテクニック(ウィンドウ「Insert Techniques」)。
この実験では、サイクリックボルタンメトリーおよびクロノアンペロメトリーのテクニック(CV-CA)が使用されています。バイポテンショスタットのテクニックには、2つのチャンネルが必要です。すなわち、作用電極であるディスク、リングに1つずつです。「Edit」->「Group/Synch/Stack/Bipot」(図2)に進むことで、どのチャネルがどの電極に接続されるかを選択することができます。
図2:「Group/Synch/Stack/Bipot」ウィンドウ
実験のパラメータを次の図3に示します。
図3:実験のパラメータ
Ⅳ-結果
VMP-3は、バイポテンショスタットとして使用されます。Fe(II)をFe(III)に酸化するために、ディスク電極を0V/ Eocから1V/Eocまで電位スキャンします(2000 rpmにて)。ディスク電極上で生成したFe(III)を還元するために、リング電極に接続したチャネルは、0V/Eocを定電位モードで印加します。得られたボルタモグラムを次の図4に示します。
図4:ディスク(青色)とリング(赤色)電極上で同時に得られた、ボルタモグラムの重ね書き。(I vs. Edisk (V / REF))
ディスク電極上で電位掃引が開始されたと同時に、リング電極上に一定電位を印加するため、2つのデータを重ね書き表示しています。2つのボルタモグラムは、ディスク電極の酸化過程に生成されたFe(III)がリング電極上で部分的に還元されることを明確に示しています。Fe(III)の生成と共にリング電極上ではその還元反応により電流が増加している事が分かります。
前述のボルタモグラム(図4)によって、ディスク電極およびリング電極上の拡散限界電流が得られ、捕捉率を得ることができます。
N = -IRing / IDisk = 0.405
ボルタモグラムから得られる捕集効率は40.5%でした。
理論的な捕捉率は、参考文献[2]に与えられた式を使用して計算され、42.5%となります。これは、ボルタモグラムから計算されたものよりもわずかに高いですが、近似しています。
Ⅴ-結論
回転リング-ディスク電極は、バイポテンショスタットと共に使用することで、溶液の電気化学メカニズムを効果的に研究できる強力なツールです。回転電極システムでの2電極同時測定の有用性は、このアプリケーションノートで明確に実証されました。また、2つの作用電極(リング+ディスク)を使用した本実験では、参考文献によって定義されるのと同様の捕捉率を得られました。
※【EC-Lab®ユーザー向け】本アプリケーションノートのデータファイルは下記フォルダに保存しています。
C:\Users\xxx\Documents\ECLab\Data\Samples\Fundamental Electrochemistry\AN7_KCl_Fe(CN)64-2
参考文献
- W.J.Albery and M.L.Hitchman,Clarendon press Oxford,(1971).
- W.J.Albery and S.Bruckenstein,Trans.Faraday Soc.,62(1966)1920.
2019年08月改訂
2022年12月翻訳
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