ナノインデンターによるMEMS評価例

ナノインデンターによるMEMS評価の概要

MEMSは「Micro Electro Mechanical Systems」の略称で、シリコンやガラスなどの基板上に電子回路と微小動作(駆動)する機械要素部品を集積したデバイスです。圧力センサー、加速度センサー、マイクロミラー、RF-MEMSスイッチ等、幅広い産業で利用されています。微小荷重(負荷)と微小変位の検出・制御が可能なナノインデンターを利用することでMEMS内で使用されている機械要素部品の曲げ試験や疲労試験が可能になります。以下に、その評価例を紹介させていただきます。

IC検査プローブの評価例


この検査プローブは数十μmの大きさで、検査対象であるICに接触して電気的な特性を
  検査する為に使用されます。接触によりプローブには垂直方向の荷重が印加されます。
  また、検査中にICが水平方向へ移動するためプローブは水平方向にも負荷を受けます。
  そこで、ナノインデンターの押込み試験機能とスクラッチ試験機能を利用して、垂直方向と
  水平方向に対する負荷を与え、それぞれの応答を評価しました。


評価試料の概要

①押し込み試験による垂直方向の機械特性評価


試験のモデル

ICプローブに印加する負荷

ICプローブ部に圧子を押し当て、負荷(荷重)を印加します。負荷は段階的に増加させます。印加した負荷に対する変位のプロットは以下のようになりました。


荷重変位曲線


約800nmまでは負荷時と除荷時の変形は、ほぼ一致していました。この変形量までは線形弾性変形だったと考えられます。線形領域の荷重-変位グラフの傾きから、この領域での剛性は約280N/mであることが判りました。
800nm以上の変形ではプローブの形状は、ほぼ回復するものの、負荷時と除荷時の変形にヒステリシスがあり、線形でないことが判りました。同一試料に対して再実験を行った結果を以下に示します。


赤線が再試験の結果で、以下の点で同じ傾向のあることが判ります。

  • 800nm程度までは線形弾性変形領域であった
  • 800nm以上の変形に対してはヒステリシスがあるが、変形はほぼ回復した。

ナノインデンターによる押込み試験により、微小部品の線形動作範囲と、その動作範囲での剛性が判りました。

②スクラッチ試験による水平方向の機械特性

次に、プローブが水平方向から負荷を受けた際の応答を評価します。この評価にはナノインデンターのスクラッチ機能を利用します。スクラッチ機能では水平力の検出が可能です。そこで、水平方向から負荷を受けた際に、プローブが破壊又は折れてしまう負荷の値を評価しました。


試験のモデル

試験は25ヶ所(25本のプローブ)に対して実施しました。試験結果の抜粋を以下に示します。


2ヶ所の試験結果の重ね書き


横軸をスクラッチ長、縦軸をスクラッチの際にインデンター圧子が検出した水平力としてグラフを作成しました。スクラッチ長が50μmを越えた位置で水平力が急激に上昇します。水平力の上昇は圧子がプローブに接触した事を示しています。
水平力は0.5mN近辺で最大値に達し、その後急激に低下しています。水平力の低下はプローブが折れてしまった事を示していると考えられます。
試験前後のCCD画像の比較からも、この試験によりプローブが折れてしまった事が確認できました。以下にCCD画像の抜粋を示します。


      試験前のCCD画像   試験後のCCD画像

25ヶ所の試験結果からプローブが折れてしまう直前の荷重が0.49±0.04mNという結果が得られました。

加速度センサー用ダイヤフラムの評価例

評価試料は同じ構造・外観を持つ2種類の加速度センサー用ダイヤフラムです。これらの試料の機械特性比較が評価の目的です。

試験には先端の丸い圧子を使用しました。試料中心の島の部分に、この圧子を押し当てて、周囲の薄膜を変形させる事で薄膜自体の剛性を評価しました。加速度センサーは実際には、振動状態で動作することから、準静的な荷重にAC荷重を重畳することで静的剛性と動的剛性を同時に計測しました。

薄膜が線形に変形する領域で荷重を印加する事により、荷重-変位グラフの傾きから、静的剛性を算出しました。2試料の静的剛性には違いがある事が判りました。
     緑データの静的剛性:645N/m
     青データの静的剛性:496N/m

上図の試験荷重には試料を微小振動させるためのAC荷重が重畳されており、そのAC荷重の応答から動的剛性を算出しました。その結果を以下に示します。

45Hzで計測した動的剛性の結果が上図になります。
静的剛性同様に、2つの試料には動的剛性にも差のあることが判りました。
     緑のデータの動的剛性:616N/m
     青のデータの動的剛性:432N/m

尚、動的剛性の算出に用いたAC荷重を重畳する手法は連続剛性測定法を使用しました。

In-SEMインデンター

一般的なナノインデンターでは、試験結果と試験前後のCCD画像を用いてMEMS部品の破壊や回復を確認しています。しかし、In-SEM インデンターを使用すれば、試験中の圧子と試料の接触状態をSEM画像として確認可能です。評価試料の変形や破壊状態がリアルタイムで直接観察できるだけでなく、SEM画像・動画とナノインデンターの試験結果をリンクさせる事も可能です。 

 
In-SEM インデンターの観察例

まとめ

  

ナノインデンターによるMEMS評価には以下のような利点があります。

  • 微小な機械要素部品に直接負荷を印加して機械特性試験が可能です。
  • 準静的な機械特性だけでなく動的な機械特性も試験可能です。
  • In-SEMインデンターを利用すると負荷の印加による機械要素部品の変形がリアルタイムで観察できるだけでなく、インデンターによるデータとSEM画像をリンクさせることも可能です。