電気化学ソリューションマガジン Vol.05

電気化学測定法-CV(サイクリックボルタンメトリー)2.測定結果

平素は弊社製品をご愛顧いただき誠にありがとうございます。
理化学計測部 電気化学チーム マーケティング担当です。

在宅勤務など普段と異なる働き方によるストレスを抱えている方や、せっかくのゴールデンウィークもあまり楽しめなかったという方もおそらく多くいらっしゃることと思います。
本メールマガジンがみなさまの気分転換の一助になれば幸いです。

今回は、電気化学計測の汎用テクニックであるCV(サイクリックボルタンメトリー)に関する連載の第2回をお届けします。 普段何気なくCVを使用されている方にとっても、これを機に幅広い分野で使用されているこの測定法を改めて見つめ直すきっかけとなれば嬉しく思います。

1.電気化学測定法-CV(サイクリックボルタンメトリー)2.測定結果

前号では電気化学計測で一番よく使用されているであろう、CV 測定の概要について解説いたしました。

CV測定は電位を時間に対して変化させ、その順方向で起こる電極反応の生成物を、ある折り返し電位からの逆掃引により評価することができる簡便な方法です。
主にCV測定によって対象としている電気化学系の概要がわかります。具体的には、

  • 反応物の酸化/還元する電位
  • 電極反応の速さ
  • 電極反応により生じた生成物の安定性
  • 拡散係数

などがあります。

しかし、その詳細な解釈は決して容易なものではありません。
そこで今回は、CV 測定の細かい理論的な解析(拡散係数の算出など)は省き、その測定によって得られる、I(電流)-V(電位)曲線(ボルタモグラム)から、対象がどのような反応系(大きく分けて3種)であるかを推定する方法に焦点を当ててご説明します。

得られたボルタモグラムで特に着目するのは、他の分析機器でも同じようにピークの部分です。つまり電気化学の場合だと、ピーク電位(Epa:アノード, Epc:カソード)およびその電位差|Epa-Epc|、また対応するピーク電流値(ipa:アノード, ipc:カソード)になります。
これらの情報から、測定サンプルの電極反応(電子授受)が速いか遅いかを、推定することができます。
以下反応系別にまとめます。

≪可逆系≫

可逆と呼ばれるのは、基本的には電極反応(電子移動)が充分に速い反応系であり、厳密には電気化学反応に関与する酸化体 Ox と還元体 Red の電極近傍での濃度がネルンスト式に従う系のことです。
ここでは、便宜的に 25℃の条件下での式/値を使用します。
E=E°+0.059log([Ox]/[Red]) …正確には Ox, Red の濃度ではなく活量。

この可逆系と呼ばれる反応系には、拡散種と吸着種の 2 タイプを挙げることができます

  • 拡散種(反応物がバルク(測定溶液)内にある場合)
    <特徴>
    • ピーク電流値 ip は、ip=2.69*10^5*n^(3/2)*A*C*v^(1/2)*D^(1/2)
      (n:反応電子数、A:電極面積、C:濃度、v:掃引速度、D:拡散係数)
    • ピーク電流値は掃引速度 v^(1/2)に比例
    • ピーク電流値 ipa/ipc≒1
    • ピーク電位差|Epa-Epc|は約 59 mV/n
    • ピーク電位は掃引速度によらない
      ※実際の実験系では電極の表面状態や溶液抵抗ほかの原因により、計算通りのピーク電位差にはならない。 1 電子反応の場合で 60~70mV 程度。
  • 拡散種(反応物がバルク(測定溶液)内にある場合)
    <特徴>
    • ピーク電流値 ip は、ip=2.69*10^5*n^(3/2)*A*C*v^(1/2)*D^(1/2)
      (n:反応電子数、A:電極面積、C:濃度、v:掃引速度、D:拡散係数)
    • ピーク電流値は掃引速度 v^(1/2)に比例
    • ピーク電流値 ipa/ipc≒1
    • ピーク電位差|Epa-Epc|は約 59 mV/n
    • ピーク電位は掃引速度によらない
      ※実際の実験系では電極の表面状態や溶液抵抗ほかの原因により、計算通りのピーク電位差にはならない。 1 電子反応の場合で 60~70mV 程度。

≪準可逆系≫

電荷移動速度が物質移動速度に比べ充分には速くない系。
多くの電気化学反応に当てはまる系。ネルンスト式ではなく、速度論的なパラメーターko(標準電極反応速度定数)や α(転移係数)を考慮した、バトラーボルマー式に従います。
I=‐nFA[kfCox(x=0),t‐kbCred(x=0),t]
ただし、kf= ko*exp[-αnF(E-Eo)/RT] 、 kb= ko*exp[(1-α)nF(E-Eo)/RT](kf、kb は還元反応と酸化反応の速度定数)
(Cox(x=0),t、Cred(x=0),t は時間 t 経過後の電極表面の酸化体と還元体の濃度)

  • <特徴>
    • ピーク電位差は 59mV より大きくなる(1 電子反応の場合)
    • k°が小さい(電極反応速度が遅い反応物)ほど、ピーク電位が可逆系に比べ掃引方向にずれ、電位掃引速度を上げるほど顕著に
      → これは電位掃引に電極表面の化学種の濃度変化が追い付かないため生じる現象だが、それゆえ、電位掃引を遅くすれば、可逆系と同様の取り扱いができる場合もあります。

ko(標準電極反応速度定数)や α(転移係数)については、イメージしづらい話かとは思います。
Bio-Logic 社の電気化学測定システム用のソフトウェア EC-Lab では、koやαが変わっていくと、どのようにボルタモグラムが変化するのかシミュレーションできる機能があります。
お持ちの方はお時間のある時に一度お試しいただければと思います。

≪非可逆系≫

  • 電荷移動がきわめて遅い反応系。
    <特徴>
    • ピーク電位が大きく離れている、もしくは一つのピークしか出ない。
      ただし、電荷移動が充分に速い可逆系の測定サンプルでも、非可逆系のような特徴のボルタモグラムが得られることがあります。 それは電極反応の後に後続化学反応がある場合です。例えばアスコルビン酸(ビタミン C)など、電極表面の電荷移動反応での生成物が、バルクで化学反応を起こし(EC 機構と呼ばれる)、化学反応によって生じた化学種が電極反応に関与しない場合、逆掃引でのピークはもちろん得られないことになってしまい、非可逆系であるかのような結果が得られることがあります。
      非可逆系か、EC 機構なのかを判断するには掃引速度を変えて評価を行うのが一つの手です。電荷移動の遅い系の場合、掃引速度を下げていけば、可逆系に近づくはずです。 EC 機構の場合、掃引速度を上げていくことで、逆掃引時のピークが得られることがあります

2.新製品 Bio-Logic 社 8ch ポテンショスタット VSP-3e のご案内

Bio-Logic 社の VSP-3e は、そんな時のご要望にお応えする待
e タイプポテンショ/ガルバノスタットボードを選択することで、最大 1A までの電流出力が可能となります。
また、FRA 内蔵の e タイプポテンショ/ガルバノスタットボードを選択した場合には、インピーダンス測定の信頼性評価を行うこともできるようになります。

Bio-Logicの優位性②

もちろん、他の Bio-Logic社製品と同様に、電流・電圧ブースター、微小電流測定モジュールにも対応しており、あらゆるアプリケーションでご使用いただけます。

製品詳細

3.【測定のコツが知りたい電気化学分析】個別相談室のご案内

本相談室では、初めて電気化学分析を行われる皆様を対象に、
「測定には何をどれだけ揃えれば良いのか?」
「作用電極のメンテナンスはどうしたら良いのか?」
「有機溶媒のCV測定は難しい?」
数え始めるときりのないこれらの疑問点やお悩み事をうかがったうえで、その測定に必要な測定機器と電極などをご紹介し測定に至るまでのご相談を承ります。

相談室申込ページ

4.あとがき

前号から引き続き CV(サイクリックボルタンメトリー)測定の基本についてご紹介させていただきました。
本メールマガジンでご紹介するのはとっつき易さを重視したあらましや要点の説明が中心ですので、物理化学としてのより詳細で正確な内容を学ばれたい方は、ぜひ書籍などもご覧いただくと良いかと思います。ご相談いただければオススメの本をご紹介させていただきます!
また、現在当社では積極的に Web 会議システムでのお打ち合わせやオンラインセミナーを実施しています。何かご要望がございましたらお気軽にご連絡ください!
次回は CV 測定のアプリケーション例についてご紹介する予定です。それでは、また次回号でお会いしましょう!!

理化学計測部メールマガジン
バックナンバー一覧

© 2021 TOYO Corporation.