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技術資料
ACホール測定の原理
DC ホール測定法
一般的に行われているDCホール測定法では、DC磁場(B)中に置かれた半導体サンプルに一定電流を流します。この時、サンプルの端には、ホール起電圧(VH)が発生します。この起電圧(VH)を測定することで、半導体としての重要な基本的特性である移動度、キャリア濃度を測定することができます。
DC ホール測定法の限界
次世代半導体材料のように移動度が小さく高抵抗のサンプルでは、磁場を印加しなくてもノイズが発生しています。これは、サンプルの幾何学的、電気的な非対称性やサンプル電極の状態、サンプルの厚みの不均一性、測定系の電気的なノイズなどが要因となっています。ここでは、不均一なサンプルを考えてみます。DCホール測定では、サンプルの4端子の1つの対角線に電流を流してDC磁場を印加し、直交する対角線側の端子でホール電圧を測定します。これらの4つの端子が直交していれば、磁場を印加しない状態でも電圧端子の両端は、同電位となり、電圧は発生しません。
しかし、下図に示す不均一なサンプルの場合、電極の対角線が直交していない、電極の大きさが違う、等により電流が流れる経路が不均等となります。そして、電圧端子の間では電位差が発生して不平衡電圧が生じます。この不平衡電圧よりホール起電圧が大きければ、DCホール測定で測定可能ですが、これよりも小さければ、測定は不可能になります。このような不均一なサンプルは、よくみられるものです。
AC ホール測定法
ACホール測定法では、AC 磁場(B)中に置かれた半導体サンプルに定電流を印加して、サンプルの電圧端子に発生するホール起電圧(VH)を測定します。印加したAC周波数に対応した電圧をロックインアンプにて位相検波して測定するため、ノイズに埋もれたホール起電圧の信号を測定することができます。
AC ホール測定 計測系
ACホール測定の測定系を下図に示します。サンプルは、定電流源から一定の電流が印加され、電磁石の磁極間に設置されます。単一周波数のサイン信号により電磁石電源からAC 磁場が印加されます。このとき、サンプルの電圧端子には、ACホール起電圧(VH)が発生しますが、バッファアンプを介してロックインアンプにより位相検波され測定されます。
AC ホール測定 ベクトル演算
測定されたACホール電圧は、そのままでは誤差を含んでいるため、ホール測定解析に用いることはできません。測定データにベクトル演算を行うことにより、ユーザーがDCホール測定と同じ測定値として扱うことが可能になります。このベクトル演算の方法を以下に説明します。
測定されるホール起電圧VHALLに含まれる信号の主な成分は、以下の3つからなります。
ホール電圧成分 :VHALL
電磁誘導成分 :VB
熱起電力成分 :VT
下左図に示すように、測定電圧端子VHとVLの間の電位差が測定値Vとなります。しかし、それには、VHALL以外に誘導成分VBと熱起電力成分VT のノイズが重畳しています。
V=VH – VL = VHALL + VB + VT
磁場Bに対する各信号の時間軸波形を下図に示しました。ホール電圧VHALLは、磁場Bと同相の信号になります。電磁誘導成分VBは、VHALLとは位相が異なっています。
下図では、複素平面上で各信号成分をベクトルで表示しています。また、印加電流を正、負に反転した場合を表示しています。ホール電圧VHALLは、印加電流の極性により、方向が反転していますが、誘導成分VBのベクトルは、常に同じ方向となっています。
下図では、正負の電流を印加しときの測定値をベクトルとして引き算をして、VBを除去しています。さらに、平均化処理することで、純粋なホール電圧VHALLを検出することができます。
AC ホール測定の優位性
DCホール測定法と比較して、ACホール測定法では、ホール起電圧の検出限界を飛躍的に高めて、測定データの信頼性を著しく改善することができます。従来の方法では、測定が困難であった次世代半導体など高抵抗で低移動度サンプルの測定が可能となり、当社が初めて開発した手法であることから特許を取得しています。
さらに、このACホール測定法は、米国 Lake Shore 社と共同で開発した次世代の8400型シリーズ ホール測定システムにも採用され、当社の技術力の高さと先見性が世界に証明されました。
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株式会社東陽テクニカ 理化学計測部
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