技術資料

電気計測-今さら聞けない5つの落とし穴-

Kevin Carmichael/東陽テクニカ

1.電圧/電流計も電気回路の一部品である

ある教授が「初めての授業でその教科内容を正しく理解するということは実際ないだろう。2回目の授業で、1回目の授業で何が理解できていなかったかに気づく。そして3回目の授業で初めて自分のものにすることが出来るものだ。」と言っていたことが、今も私はよく思い出してなるほどと思う。
このように、単純な回路での学習だけでは実際に不十分だということを皆さんに理解してもらうために、これから5つの盲点となる例についていっしょに考えて理解を深めていきましょう。

被測定物(DUT)に測定器をつなげば、測定器自身もDUTの電気回路を構成する部品の一つになります。

下図のように被測定物DUTはA,B 2つの異なる直流回路であらわされます。回路Aでは、電流が印加され、生じた電圧が測定されます。回路Bでは、電圧が印加され、生じた電流が測定されます。ほとんどのDUT(単純抵抗)の場合、どちらの回路でもほぼ同じ答えが得られます。しかし、DUTの抵抗値が極端な値だと話が変わります。

DUTの抵抗値が非常に高い場合には、電圧計の入力抵抗はDUTの抵抗と並列になっているのでDUTの電圧を直接測定することが問題となります。つまり印可する電流の一部が電圧計を通過するためDUT中を流れる電流が減少し、結果として電圧誤差が生じます。

回路Bで測定をするとこの問題は解決されますが、高いDUT抵抗を流れる電流値は非常に小さいため、特に高感度な電流計が必要になる場合があります。それを避ける実用策の一つとして、交流AC電圧源と1/fノイズを除去するロックインアンプを組合わせた回路に変更する手があります。

逆にDUT抵抗値が小さい場合の測定もあります。この場合も回路Bを使用できますが、電圧降下を制御可能なレベルまで高くするには大きな電流値が必要になります。これによりDUT内での熱発生が大きくなると、困ったことに抵抗値が変化してしまいます。そこでこのような低抵抗DUTの測定の場合は回路Aを使用する方が良いでしょう。

2.交流 (AC) 回路はリークする

電圧源と電流源とではまったく異なる。

この落とし穴は2つの別々の現象の組合せで起きます。
これはケーブルの寄生(浮遊)容量を介したACリーク(漏れ)電流の影響、および印可電圧と印可電流の間に生じる差です。

リーク(漏れ)電流は、回路内の意図しない経路を通ってグラウンドに流れる電流です。直流DC回路の場合、一般的に使用されているBNCケーブルの接地(グラウンド)までのインピーダンスは十分な高いので、DCリークは数十ナノアンペア(電圧にもよるが)以下に抑えられます。しかし交流AC回路の場合、ケーブルによる浮遊容量を通して接地(グラウンド)へのリーク回路が付加されます。
ある程度以上の高い周波数ではケーブルの容量性インピーダンス[Xc = 1/(2πfC)]が小さくなって、グラウンドへ一定のリーク電流が流れてしまいます。普通の長さ6フィートのBNCケーブルで浮遊容量が30pF/ftだとして10Hz、100kHzで動作する場合を考えると、

Xc(10Hz)~108Ω = 100 MΩ
Xc(100kHz)~104Ω = 10 kΩ

になります。
これは無視できません。電圧10Vの信号を扱っている場合なら漏れ電流が100nAと1mAの差になります。この漏れ電流は最終的にはシールドを通って電源に戻るため、本当に消えてしまうわけではありません。ただACの、電圧源を使用している場合と電流源を使用している場合とは区別して考えないといけません。つまりさまざまな印可条件による影響を考慮しましょう。

電圧源は常に出力電流を調整して、電圧をユーザーが設定した通りの一定値になるよう維持します。したがってもしある程度のリーク電流がある場合は、電圧源が出力する合計の電流値はこのリーク分を自動的に補ぎなって、DUTを流れる電流は規定の電圧降下値になるよう維持され、期待通りの状態になります。

では、同じ回路内のAC電流源の場合を考えてみましょう。電流源は出力電圧を調整して、電流値が一定の設定値になるよう維持します。
しかしリーク電流とDUT内の電流は合流して電流源に戻るため、合計の電流(DUT+リーク)しかモニターできません。ここが落とし穴です。

さらに高い周波数(f > ~10kHz)領域でリーク電流が顕著になってくると、DUTを流れる電流が電源側から供給される(そして電源がモニターしている)値よりも少なくなります。この状態は直感的に理解しにくいけれど、決して見落としてはいけないポイントです。しかし幸いにもいったんそれに気づきさえすれば、三軸同軸(Tri-axial)コネクタとドリブンシールド(ガード) を使用することでこの影響は最小限に抑えることができます。

三軸同軸(Tri-axial)ケーブルでは、中心信号線と最外側のシールドとの間にさらにガード信号線が挟まれています。外側シールド線は通常のように接地されていますが、ガード信号線は独立した回路で中心信号線と同じ電位に駆動されています。ですから、ケーブルの浮遊容量は変わりませんが、この容量にかかる電圧は常にゼロ近くに維持されるので実質的に浮遊容量によるリーク電流をなくすことができます。

3.グランドループが生じています

電気回路のトラブル診断の際は、一度に多くの条件を変えてはいけません。

電子回路の授業で最初に教わるのが電流の流れる閉回路です。つまり流れ出した電流は、かならず電源にもどる帰り道(リターンパス)が必要だということです。この帰り道のことを漠然とアースと呼ぶことがよくありますが、実際に地面(アース)に接続されているかは不明です。この状態は、実験室内で複数の機器(複数の電源)が接続されているような場合にはますます不明確になります。2つ以上の機器が接続されている複数の異なる回路が別々に共通(コモン)グランドにつながっているような場合には、グランドループが発生し得ます。これらの複数の経路に電流が流れてさまざまな電圧が発生します。これらの電圧は、時には故障を引き起こすこともありますが、たいていは電源周波数(50または60Hz)のノイズとしてトラブルの原因になります。

理想的には、すべての接続回路に抵抗も浮遊容量も存在せず、すべてのアース電位は同じであるはずです。しかし現実にはこのような理想状態は存在しません。すべての配線は微小な抵抗があり浮遊容量も存在します。これらは、物理的に離れた接地点(アースポイント)間に一定の電圧降下とアース(接地)電流を発生させます。したがって、複数の電力線アース間に数ボルト程度の電位差が生じることは珍しくありません。
そのためアースへの複数の経路が存在する場合、この間の電圧差によって誘導ノイズの形で電流が発生します。このノイズは、原因不明のまま生じたり消えたりするようにも見えます。この「出たり消えたり」する性癖が、グランドループ・ノイズの診断を非常に困難にしています。

そこで電気系統のトラブルシューティングを行うときは、多くの状況や条件をいっぺんに変えてしまうことは避けて、しっかりした説明書類に従ってより方法論的なアプローチをすることが解決のキーです。

まず最初にグランドループの可能性を避けるため、接地(アース)ポイントを常に1点(通常は測定系のアース)にまとめるようにします。この実装は必ずしも現実的ではない (電気機器類の物理的な配置等を考慮すると)かもしれませんが、多くの問題を事前回避できる良い方針です。さらに、想定外のアース経路がないか目でよく見ることも重要です。

コンクリートの床に置かれた低温容器内に被測定物(DUT)があって、同じ床上の金属製テーブルの上にケースが設置されている計測器などが置かれている状況で、グランドループができてしまったことがあります。これは教科書に書かれたような「回路」ではないものの、多少は回路として機能します。
これはやっかいなグランドループ診断の課題例で、柔軟な頭で考えないといけません。

最後に、どれだけ誘惑に駆られてもすべてのアース接続を取り外してはいけません。これは測定系全体が巨大なアンテナになってノイズが激増するおそれがあります。また機器のケースには故障の際の安全接地という役目もあって異常な感電事故を防ぐ役目もあります。す。システムの接地方法を変更する場合は、必ず安全接地を確保してください。後悔のないように。

4.磁気誘導によるノイズを考えましょう

最良の結果を得るためには、ケーブル配線とシールドが重要です。

電場と磁場は似た点もありますが明確な相違があります。ある研究によると、電気工学を履修した多くの学生は、この二つの場の特性について基本的な誤解をしています。このことはケーブルの選択とシールド性に関してはっきりあらわれてきます。

信号ケーブルには多くの形態がありますが、たいていは以下のようなバリエーションになります。
よく用いられているシールド材は電場の減衰には有効ですが、磁場を遮蔽する効果はありません。

ミュー(Mu)メタルのシールドは磁場を減衰させることができますが特殊なものであり、ほとんどの研究室にはありません。したがってほとんどのケーブルは、磁場中に置かれると、シールドの有無にかかわらず誘導ノイズをひろいます。

誘導ノイズを最小にする鍵は、2導線(ペア)ケーブルを使用してこれら2つの導線に誘導される電気量が等しくなるようにすることです。そうすると各導線に誘導されるノイズがまったく等しいコモンモードノイズになり、計測器がもつコモンモード除去能力により効果的に除去されます。

以下は、2本の導線に生じる誘導ノイズが同レベルであることを確認するガイドラインです。

  • 接続ケーブルの長さを最小にします。ケーブルが短いほど誘導を受けにくくなります。
  • ケーブルの長すぎた部分をループしないこと。ケーブルがインダクタ(コイル)となり磁気誘導が増加します。
  • 磁気誘導によるノイズを抑える点で有効なツイストペア導線を使用する。
  • ケーブル端の接続部分でツイスト(ねじりあわせ)されていない部分を最小限に抑えます。この部分で、コモンモードノイズとして除去できない不均等な誘導が生じます。
  • 分かっている強磁界エリアがあれば、そこを遠まわりするようにケーブルを配線してください。ケーブル長が長くなることによるデメリットを補う効果がある場合もあります。

5.電圧源/電流源からのノイズ

つまりすべての電子機器はノイズの発生源になりうるということ

研究者は、使用する計測機器の性能を最大限に発揮させるためにその仕様の詳細にまで注意する必要があります。電気計測機器の性能には広いバリエーションがあり、すべての機器が研究用途に使えるわけではありません。
本テーマは、不適切な機器を使用していたら必ずしも好結果が得られないということです。

以下のグラフは、異なる2機種の電流源のノイズ特性を示しています。データは、100Ωの抵抗に 100mAの電流を印加する設定で、抵抗の両端の電圧をスペクトラム・アナライザで分析したものです。DC~100kHzの周波数を横軸に、ノイズスペクトルをdB単位でプロットしています。青色のスペクトルは明らかに高周波数のノイズ源の影響を受けています。

このノイズの原因は分からなかったが、明らかに~5kHzごとに生じる高調波が存在します。この種のノイズが測定に混入すると結果は予期できませんが、明らかな影響が少なくとも2つあります。1つ目はノイズによるばらつきが大きくなるため、測定結果の平均値を決定するためににより多数のデータ収集が必要になります。
2つ目は、ノイズスパイクはすべて正の向きであるため、平均値に余分なエネルギーが付加されることによるバイアス誤差が生じうるということです。ダイオードの一般的な電流-電圧(I-V)測定を考えると、順方向バイアスでは、最初はバイアス電圧が順方向電圧降下値に近づくまで電流は非常にゆっくりと増加します。それ以後は電流値が非線形的に急増します。

ダイオードの順方向の特性を測定するには、下図のようなI-V曲線をプロットできる電流源と電圧計を使用するのが一般的です。この場合、順方向電圧降下値に近づくにつれて、正のノイズ・スパイクが重なるとダイオードをそのぶん早くその「オン」領域に入るように働くので、I-V曲線をわずかに乱れさせてしまう可能性があります。

I-V特性の比較測定

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