技術資料
鉄筋コンクリートの腐食
本内容はBiologic社が発行するApplication note #22を2022年8月時点で翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。
I– 導入
建物の金属構造は、その寿命の間、環境、特にCO2によって大きな影響を受けます。実際、鉄はコンクリート内部の塩基性媒体(pH=12~14)中で安定ですが、時間の経過と共に水に溶解した炭酸塩はコンクリートの中を通って金属下部構造に移動します。この現象は、金属構造の周囲に局在するpHの減少(酸性化)を意味します。このpHシフトは、図1のプールベ図(電位-pH図)[1]の矢印で表されます。この酸性pHでは、鉄は不動態域から腐食域の環境にさらされる事になり、腐食が進みます。これは、建物の強度が影響を受けることを意味します。例えば、1924年にヨーロッパで最初に鉄筋コンクリートで作られた建物であるグルノーブルの「Tour Perret(トゥール・ペレ)」(図2)は、このプロセスのために現在、崩壊しかかっています。
図1: 鉄のプールベ図[1]
図2: 鉄筋コンクリート製の最初の建物:グルノーブルの「Tour Perret(トゥール・ペレ)」。
これを背景に、鉄筋コンクリートに使用される鉄筋の近傍を塩基性条件[2-7]に保つための電気化学プロセスを開発しました。これを達成するために、保存する金属(この実験では陰極)を、電極を挿入された塩基性電解ペースト(K2CO3またはNa2CO3)に浸漬します(図3)。塩基性媒体中の電極での電気分解を通して行われる水の還元は、OH-を生成します。水酸化物イオンは鉄筋コンクリートに移動し、鉄筋の周囲に塩基性環境を作ります。(式(1))
H2O + e- → HOS- + 1/2H2 (1)
図3: 再塩基化法のスキーム
本稿では、コンクリートブロック中の鉄筋の腐食過程を調べました。再塩基化(塩基性媒体中での電気分解)を行い、処理の効果は、Cyclic Potentiodynamic Polarization (CPP)法によって確認しました。
II– 実験条件
調査は、NaCl(3%)またはNaOH溶液(0.4 mol.L-1)中でEC-Lab®ソフトウェアによって制御されるVMP3ポテンショ/ガルバノスタットを用いて行われます。測定を行う前に、コンクリートブロックを溶液に2日間浸漬します。
3電極設定を使用します
- 作用極:コンクリートブロック内部の鉄筋 表面積A=10 cm2 (図4)
- 参照電極:Ag/AgCl電極
- 対極:合金線
図4: 鉄筋コンクリートブロックのスキーム
III– 結果
III-1 分極抵抗の計算
まず、オーミックドロップ(RΩ)が、Tafel関係が適用できるような系の分極抵抗(Rp)と比較して、無視できるかを確認しなければなりません[8,9]。これら2つの特性は電気化学インピーダンス分光法(EIS)で決定することができます(図5)。Ω = 202 ΩはRp > 12,800 Ωに対して無視できます(図6)。従って、≪Tafel fit≫の条件は守られます。
図5: NaCl(3%)中で実施したpotentiostatic electrochemical impedance spectroscopy measurements (PEIS) の「パラメータ設定」画面
図6: コンクリートブロックのナイキスト図
Rpの決定は定常状態(非常に遅い走査速度、i.e. 2.5 mV.min-1)且つ狭い電位範囲(開回路電圧の周囲±10 mV、i.e. -547 mV vs. Ag/AgCl)でのボルタンメトリー測定を使用することでも可能です。電位-電流図と≪Rp fit≫が図7に表示され、Rp = 11,744 Ωとなります。
図7: NaCl(3%)中のブロックの電位-電流図と「Rp Fit」
III-2 再塩基化
再塩基化処理はNaOH (0.4 mol.L-1; pH = 13) 中でIs = -10 mAで66時間(図8)定電流測定法(CP)により実施します。電解中の電位と電荷変化を図9に示します。電解終了時において、-2.4 V vs. Ag/AgClの安定電位に達します。
図8: 定電流測定法(CP)の「パラメータ設定」画面
図9: 電気分解中の電位(青色曲線)および電荷(赤色曲線)のプロット
III-3 鉄筋の特性評価
再塩基化の効果を確認するために、CPP実験は、処理の前後に実施しました。これらの実験のパラメータを図10に示します。
図10: CPP実験の「パラメータ設定」ウィンドウ
再塩基化前後のCPPの比較(図11)は、鉄筋の還元による還元側へのシフトを示します。「Tafel Fit」分析は、両方の曲線について行われ、処理前と処理後に実行されたCPP測定で、それぞれEcorr = -616および -1077 mV vs. Ag/AgClとなります。 他のパラメータ(Icorr、βc、βa、および腐食速度)を計算します(図11および表)。腐食速度は式(2)で与えられます。
式(2)
ここではKは定数、EWは等量、dは密度、Aは電極の表面積です。鋼の場合、EWとdはそれぞれ18.616 g / eqと7.8です。これらのフィッティング結果は再塩基化後よりも未処理の方が腐食速度が50%大きいことを示しています。この腐食速度の低下は再塩基化過程の効果を実証しています。
図11: 鉄筋コンクリートの再塩基化前(赤)と後(青)のエバンス図(上)と「Tafel Fit」の結果(下)
表I:CPP調査のデータ
処理前 | 処理後 | |
---|---|---|
Ecorr / mV vs. Ag/AgCl | -616 | -1097 |
Icorr / µA | 404 | 272 |
βc / mV vs. Ag/AgCl | 646 | 240 |
βa / mV vs. Ag/AgCl | 670 | 325 |
腐食速度 / mmpy* | 0.315 | 0.213 |
*mmpy: mm/年
Ⅳ- 結論
本稿は、電気化学テクニックが再処理(電気分解)と建物の金属構造材の特性評価(CPP、インピーダンスとそれらの分析)が可能であることを実証しました。
土木工学分野への電気化学の寄与の良い例となります。
今回の参考データは、EC-Lab内の下記のディレクトリに保管されております。
C:\Users\xxx\Documents\ECLab\Data\Samples\Corrosion\PEIS_concrete_in_NaCl,
MP_concrete_in_NaCl,
CP_Realkalisation_NaOH,
CPP_Before_Realkalisation,
CPP_After_Realkalisation
参考文献
1) M. Pourbaix,in : Gauthier-Villars (Ed.) Atlas d'équilibreélectrochimiques, Paris (1963).
2) E. Cailleux, E.Marie-Victoire, in : L'actualité chimique, no312-313 (2007) 22.
3) http://www.novbeton.com/html/index5.html
4) N. Davison, G. Glass, A. Roberts, Transportation Research Board, 87th Annual Meeting (2008).
”Politehnica” de Bucarest (2002).
5) D. A. Koleva, K. van Breugel, J. H. W. de Wit, E. van Westing, N. Boshkov, A. L. A. Fraaij, J. Electrochem. Soc., 154 (2007) E45.
6) D. A. Koleva, J. H. W. de Wit, K. van Breugel, Z. F. Lodhi, E. van Westing, J. Electrochem. Soc., 154 (2007) P52.
7) D. A. Koleva, J. H. W. de Wit, K. van Breugel, Z. F. Lodhi, G. Ye, J. Electrochem. Soc., 154 (2007), C261.
8) M. Stern, A. L. Geary, J. Electrochem. Soc., 104 (1957) 56.
9) D. Landolt, Traité des Matériaux, Vol. 12, Presses Polytechniques et Universitaires Romandes, Lausanne (2003).
2019年08月改
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