技術資料

疑似容量(CPE)の計算

本内容はBiologic社が発行するApplication note #20を2020年7月時点で翻訳したものです。今後、原文が改訂され、内容が変更された場合には、改訂後の原文の内容を優先いたします。

1.導入

ある電気化学系においてナイキスト線図のプロットは、半円の中心が実数軸の下に位置し、つぶれた半円を描くことがあります。この特性は、電極の表面が荒い場合に起こります。
このつぶれた半円は、通常シミュレーションやフィッティングをする場合、R(Resistance)とC(Capacitance)の並列回路(R/C回路)の代わりにRとQ(constant-phase element, CPE)の並列回路(R/Q回路)を使用します。Cの代わりにQを使用する場合、疑似容量(Pseudo Capacitance)と呼ばれる等価容量を計算すると便利です(図1)。
この計算はR/Q回路のみ使用できます。また、キャパシタンスの値はR/Q回路を使ったフィッティングにより求められる半円頂点周波数から決定されます。この値は以下の式となります。

式(1)

α及びQはCPEパラメータ[1, 2]

図1

図1 等価電気回路R/QとR/Cと対応するインピーダンスプロット(ナイキスト線図)

2.実験

LiFePO4を正極とするリチウムイオン二次電池を例に解説していきます。インピーダンス測定の設定条件は図2の通りです。

図2

図2 PEISのパラメータ設定

周波数範囲は10kHz~10mHz、電圧振幅をVa=10mV、周波数変化後の待ち時間をpw=1、平均化回数をNa=1、drift correction(ドリフト補正)にチェックを入れています。インピーダンス測定結果は図3の通りです。
等価回路はL1+R1+Q2/R2+Q3(図4)とし、インピーダンス解析はZFit(EC-Labソフトウェアの解析機能)を用いてデータをフィッティングしました。※この回路はZFitの等価回路リストにないため、Editメニューを使用してこの回路を追加する必要があります。

図3

図3 LiFePO4バッテリーのナイキスト線図(青)およびL1+R1+Q2/R2+Q3等価回路でのフィッティング結果(赤)

図4

図4 L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路

Equivalent Circuit Editionでは図5に記載されているようにL1+R1+Q2/R2+Q3の等価回路を定義し追加ボタンを押すことにより、追加できます。(新しい回路は青色で表示されます。)

図5

図5 ZFitで新しい等価回路を追加する方法

ZFit等価回路解析の結果を図6に示します。図3に示した通り、測定結果と解析結果はよく一致しています。
等価回路解析を行うために用いた等価回路はR/Q回路を含んでおり、Pseudo Cボタンを選択すると図7に示すようなウィンドウが表示されます。

図6

図6 L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路で得られたインピーダンス解析結果

図7

図7 L1+R1+Q2/R2+Q3等価回路で得られた疑似容量計算結果

このようにEC-Lab®およびEC-Lab®ExpressのZFit等価回路解析機能を使用することにより、自動的に疑似容量を計算することができます。
しかしながら、図8に示すような等価回路(L1+R1+Q2/(R2+Q3))で等価回路解析をしても、図9に示す通り、測定結果と解析結果はよく一致します。各回路のパラメータは図10に示す通りです。
ただし、この等価回路(Q/(R+Q))では疑似容量を計算することはできません。疑似容量が計算するために必要なパターンはR/Qとなります。

図8

図8 1+R1+Q2/(R2+Q3)の等価回路

図9

図9 LiFePO4バッテリーのナイキスト線図(青)および L1+R1+Q2/(R2+Q3)等価回路でのフィッティング結果(赤)

図10

図10 L1+R1+Q2/(R2+Q3)等価回路で得られたインピーダンス解析結果

※図6と図10のχ2(カイ二乗分布)の値を考慮すると、2つの等価回路解析結果を区別することは不可能です。同様に図6と図10で得られたパラメータの値は非常に近いです。
今回、L1+R1+Q2/R2+Q3とL1+R1+Q2/(R2+Q3)の等価回路の解析結果に等価性がありましたが、これは稀なケースであることにご留意ください。

3.結論

このアプリケーションノートでは、EC-Labソフトウェアの機能であるZFit等価回路解析を使用して、R/Q回路の疑似容量を計算する方法を示しました。LiFePO4を正極に用いた電池のインピーダンス測定結果を使用し、等価回路の編集する方法を示しました。
この方法により、私たちは材料の不均一性を観察することができます。また、インピーダンス解析結果より、均一な表面を有した電気化学系に似せた計算(疑似容量の計算)も可能です。

参考文献

1) Handbook of EIS “Electrical circuits containing CPEs”
2) E. Barsoukov, J. Ross Mac Donald, Impedance spectroscopy, 2nd Edition, (2005).

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