技術資料
SECMおよびac-SECM測定にic (intermittent contact: 間欠接触)を使用する利点: 腐食における2つの例
I– はじめに
M470はic-SECM (intermittent contact-Scanning ElectroChemical Microscopy: 間欠接触走査型電気化学顕微鏡)能力を搭載する市場で唯一の市販走査型電気化学顕微鏡です。ウォーリック大学1,2と共同で開発された革新的な手法によってSECMまたはac-SECM測定の間にサンプルのトポグラフィを追跡でき、これによってプローブ先端で測定された電気化学反応へのトポグラフィの影響を取り除くことができます。この手法についての詳細は、Bio-Logicウェブサイト3のチュートリアルまたは紹介映像4を参照してください。
本書はM470ソフトウェアでic-SECMが動作する方法についてさらなる洞察を与え、等高SECMと比較してic-SECMを使用した際の大きな恩恵を示す結果をいくつか紹介します。
II – 原則
本書を最大限に活用するために、ic-SECM1-4に関するチュートリアルおよび出版物を読むことを強く推奨します。しかしながら、手法の簡単な説明が以下に記述されています。ic-SECMは、プローブが不連続な方法で実際に表面と接触するタッピングモードにあるAFMと似ています。ic-SECMは、機械的方法が表面のトポグラフィを記録、追跡するのに使用されているせん断力SECMに似ています。
それが機械的である(そして定電流SECMのように電気化学的ではない)という事実によって、どんな電気化学反応の変化もトポグラフィ測定に影響しないこと、およびその逆が保証されます。
II-1 セットアップの説明
SECMはUME (Ultra Micro Electrode: 超微小電極)ディスクで、図1に示されるホルダにしっかりと保持されています。
プローブホルダ
ピエゾドライバ
歪みゲージセンサ
Ultra Micro Electrode (超微小電極)
図1: ic-SECMセットアップ
2つの共鳴周波数を見ることができます。1つは450Hzで、高い方は535Hzです。実験の間にプローブが動いて共鳴周波数が少し変化することがあるので、高い周波数を使用しないことを推奨します。実験時は振動周波数が変化しないので、その時に周波数が高すぎると共鳴しなくなります。共鳴が低くても(低い振幅)ピークが緩やかなほうを選択すると、共鳴が劇的に失われることはありませんが、感度が低下します。ピークよりも数ヘルツ低い周波数を使用することを推奨します。例えば緩やかなピークを選択した場合、445 Hzにします。
II-2 間欠接触はどのように行われるか?
ic-SECMでは、プローブは常に振動し、振動の振幅が常に測定されます。プローブが振幅Δzfで振動しているとします。プローブをサンプルのほうに接近させていくと振動が抑制され、振幅はユーザが定義した特定の設定値Δzsetまで減少します。
PID (Proportional Integral Derivative: 比例積分偏差)ループは、プローブの高さで作動することで値Δzsetで歪みゲージによって測定された振動の値を常に維持します。
フランス、38640 クレ、ヨーロッパ通り1、Bio-Logic Science Instruments
電話: +33 476 98 68 31 – Fax: +33 476 98 69 09 www.bio-logic.info
変わりやすいトポグラフィを持つサンプルの上でプローブがスキャンすると、PID ループはZスキャニングヘッドに作用し、測定された振幅が常に設定値Δzsetになるようにプローブの高さを変更します。
これはSECM測定について以下の2つの結果をもたらします。 i) 電気化学反応についてトポグラフィの影響はない、ii) 間欠接触を行っているプローブがサンプルに極力近接しているので電気化学反応で最高のダイナミクスが保証される。
III – 作業
III-1 ac特性化
最初のステップは、ケーブルが接続され、プローブがホルダに取り付けられて溶液に浸されている時にピエゾのac反応を特性化することです。ac特性化の目的はピエゾ + プローブホルダ +先端 + ケーブルを合わせた共鳴周波数を見つけることで、これは作用振動として使用されます。図2は代表的なac反応を示しています。
図2: ピエゾ、プローブホルダ、溶液内のSECMプローブ、およびプローブに接続されているセルケーブルから構成されているシステムの代表的なac特性化
2つの共鳴周波数を見ることができます。1つは450Hzで、高い方は535Hzです。実験の間にプローブが動いて共鳴周波数が少し変化することがあるので、高い周波数を使用しないことを推奨します。実験時は振動周波数が変化しないので、その時に周波数が高すぎると共鳴しなくなります。共鳴が低くても(低い振幅)ピークが緩やかなほうを選択すると、共鳴が劇的に失われることはありませんが、感度が低下します。ピークよりも数ヘルツ低い周波数を使用することを推奨します。例えば緩やかなピークを選択した場合、445 Hzにします。
III-2 自動アプローチ
ic-SECMの重要な特徴の1つは、SECMやac-SECMで行われるようなアンペロメトリックまたはインピーダンスメトリックアプローチカーブを手動で行う必要がないことです。システムはバルク振幅の特定のパーセンテージまでの振動振幅の減少を測定し、表面を検出します。この値はxおよびy方向でのエリアスキャンの間、維持されます。
図3: ic-PID設定タブを持つ実験設定ウィンドウ
[ic-SECM Area Scan Experiment Configuration]ウィンドウ(図3)にある[ic-PID]タブを使用してパラメータを変更することができます。
ic-PID]タブではac特性化の後、使用された周波数、振幅Δzfおよび制御点が入力されますが、これは「自由な」振幅の特定のパーセンテージであり、制御振幅Δzsetを定義します。他のパラメータに関する詳細はマニュアルに記載されています。
[Approach Surface]をクリックするとアプローチが開始されます。[Approach Surface]をクリックせずに実験が開始されると、実験を開始する時にアプローチが自動的に行われます。
IV – 結果
IV-1 溶接スチール
図4: サンプルで使用されている溶接スチールの写真。溶接部の幅は6.4mm。分析エリアは白枠内
サンプルは商用大衆車のフロントサスペンションアームからサンプリングした溶接スチール片です(図4)。電解液は0.1mol/L NaOHです。このような環境でサンプルは腐食し、Fe2+を生成します。
プローブは0.6V vs. Ag/AgCl参考電極で二極化され、Fe2+をFe3+に酸化させます。
4.5×4.5 mm2のエリアが45μmステップで分析されました。各ラインについて、0.5sの遅延がありました。スキャンは45μm/sの速度でスキャンモードのステップで行われました。プローブの直径は25μmでした。
SECMでは、プローブでの反応が影響を受けるとわかるサンプル表面の近くにプローブが置かれる必要があります。勾配が大きくなりすぎてプローブの故障が避けられないので通常のSECMでは大きなエリアのスキャニングはほとんど不可能です。ic-SECMではプローブがサンプルのトポグラフィに従うので、図5でわかるように、そのような大きなエリアは容易にスキャンされます。
SECMプローブDC
Y位置(ミリメートル)
X位置(ミリメートル)
図5: 0.1mol/L NaOH、OCP (Open Circuit Potential: 開路電位)での溶接スチールのic-SECMスキャン。
プローブは0.6V/Ag/AgClで二極化
スキャンは左下から右上に行われます。活性はスキャンが行われると減少しますが、それはほとんどサンプルの表面に不活性錆層Fe(OH)3 が形成されたからです。2つの溶接サンプルがスキャンの最初に見られますが、2つの溶接部の中央に絶縁部も見られます。
電気化学活性と同時に、図6に示すようにトポグラフィが測定されます。示された値はプローブの高さなので、赤いエリアは青いエリアよりも高くなっています。トポグラフィの変化は約40μmです。溶接部および絶縁体が2つのサンプルの間に再度見られます。
SECMプローブトポロジ
Y位置(ミリメートル)
X位置(ミリメートル)
図6: 間欠接触で使用されるSECMで得られるトポグラフィマップ
IV-2 7075アルミニウム合金
この例では傷のついた7075アルミニウム合金が調べられました。このケースで明らかになるic-SECMの際だった利点は、勾配の大きなサンプルの調査ができることではなく、SECM測定で表面の粗さを説明できることです。
図7は調査中のサンプルと白枠で囲まれた分析エリアおよびその拡大写真(右下)を示しています。分析エリアは1 x 1 mm2でした。サンプルは0.1 mol/L KClに浸され、ac-SECMが行われました。直径15μmのSECMプローブが、OCPの周囲の周波数10kHzで10mVの正弦波ポテンシャル変調に置かれました。acアプローチが7075の傷のない部分において10μmのステップで行われました。acアプローチカーブは絶縁物質の代表的な形になっておりますが、これは水酸化物アルミナおよびアルミニウムの非常に安定した薄い層に覆われた傷のないアルミニウム合金のケースです(図8)。
図7: ic-SECM実験後の傷のある7075サンプルの写真。
白枠と拡大表示は分析エリアを示しているが、十字の傷がわかる
表面の局部伝導性の調査に使用する反応はプローブのインピーダンスなので、ac-SECMは媒介物質を使用せずにSECM測定を行うことを可能にします。詳細については、Bio-Logicウェブサイト5のチュートリアルを参照してください。しかし、ac-SECMはトポグラフィのプローブ反応への影響による、SECMと同じ障害を抱えています。図9に示すように、ic-SECMを使用するとこの障害を取り除くことができます。
Z実部
キロオーム
ミリメートル
図8: 傷のない7075合金のacアプローチカーブ。
反応は絶縁体の代表的な反応
a)は図7の枠内のエリアのac-SECMエリアマップを示しています。3DプロットがMIRAソフトウェアを使用して行われました。MIRAに関する詳細については、Bio-Logicウェブサイト6のアプリケーション・ノートを参照してください。
a)
icなし
ReZ/k0hm
y/μm
y/μm
b)
icあり
ReZ/k0hm
y/μm
y/μm
図9: 0.1mol/L KClでの傷のある7075サンプルのac-SECM写真:
a)間欠接触なし、b)間欠接触あり
z軸の値はインピーダンスReZ/kOhmの実部です。縦方向の傷は見えますが、横方向の傷は見えません。等高でスキャンしているプローブで縦方向の傷が見えるのはサンプルに溝を生成するからです横方向の傷の場合、溝は浅すぎます。
間欠接触のあるac-SECM(図9b)でスキャンされる同じエリアを考えてみると、両方の傷が見えます。コントラストがトポグラフィによるものではなく、暴露された基盤が酸化層よりも伝導性が高いという事実によるものだからです。さらに、ic-SECMの場合はずっと良好なコントラストになります。すなわちインピーダンス反応範囲が広くなります。
V – 結論
本書は腐食調査の分野でic-SECMをする利点を紹介し、説明しています。2つのシステムが調査されました。溶接スチールサンプルと傷のある7075アルミニウム合金です。
溶接スチールサンプルでは、ic-SECMの利点は広い表面が調査できることです。本書では約20mm2で、SECMプローブはサンプルにぶつかりません。
アルミニウムサンプルでは、ic-SECMの利点は反応度のコントラストがよりはっきりと明らかになり、トポグラフィの影響が取り除かれることです。
両方のケースでプローブがサンプルに近接しているために、先端の信号は最大化しています。
参考文献
- K. Mc Kelvey, M. A. Edwards, P. R. Unwin, Anal.Chem.2010, 82, 6334-6337
- K. Mc Kelvey, M. E. Snowden, M. Perulo, P. R. Unwin, Anal.Chem.2011, 83, 6447-6454
- ac-SECMチュートリアル
- ic-SECM紹介映像
- ac-SECMチュートリアル
- MIRAアプリケーション・ノート
製品情報
電気化学測定機器
総合カタログ