技術資料
白金(プラチナ)の活性界面の計算
Ⅰ- はじめに
電極表面の状態は、実施する実験によって非常に重要になります。副反応を回避するため、常に可能な限り手入れの行き届いた状態にしなければなりません。また、電極の形状もできるだけ平滑にする必要があり、平面電極を例にとると、表面を顕微鏡スケールで可能な限り平面にします。適切な条件下では、所与の材料の表面単位における吸着部位数といった特性値を特定できます。
本チュートリアルの目的は、電流 vs.電圧のボルタンメトリ波形から電極の活性界面を特定する方法を示すことです。
Ⅱ- 実験条件
- 作用電極: プラチナのRDE(回転ディスク電極)、有効面積: 0.0314cm2
- 対電極: プラチナ線
- 参照電極: 飽和カロメル電極
- 溶液: H2SO4(0.25M)
III- 手順の説明
作用電極を、アルミナで研磨した後、メタノールおよび蒸留水ですすぎます。
その溶液をアルゴンパージした後、15分間撹拌(Ω = 4000rpm)してから、実験を開始します。測定中は電極の回転を停止します。
EC-Labソフトウェアで使用する測定項目は、サイクリック・ボルタンメトリです。パラメータの設定値を図1に示します。
図1:サイクリック・ボルタンメトリの[Parameters Settings]ウィンドウ
E Rangeを調整した後で電位制御分解能(スパン)を広げることが重要です。
本実験の場合は、[-5; 5] Vの範囲内でE Rangeを調整した後、電位ステップの最小の高さを300~200μV [1]の範囲内で調整しました。
得られた曲線を図2に示します。その形状は、文献[2]に掲載されている曲線と同等です。
本曲線のさまざまなサイクルは、関連するデータ・ファイルを処理して切り分けたものです。
図2:酸性溶液中のプラチナに対するサイクリック・ボルタンメトリによって得られた電流-電圧のボルタンメトリ曲線
図3: プラチナの酸化還元特性を持つ曲線から分離された10番目のサイクル
IV- 活性界面の計算
プラチナの還元中は、電極の表面に酸性溶液からプロトン(H+)が吸着されます。酸化中、水素のそれらの原子は、次の電気化学反応に従って脱着します。
Had → H+ + e-
低電位におけるプラチナの酸化中に遊離した電子の数を測定すると、脱着した水素原子の数がわかり、電極の表面に存在する吸着部位の数がわかります。これにより、電極の活性界面が定義されます。
水素脱着に対応する全電荷は、原子が脱着する所定期間の電位における曲線の積分に関連付けることができます。曲線の該当部分を図4に示します。
図4:低電位での酸化を示す図3の曲線を拡大したもの。赤色の領域は、水素の脱着に対応。オレンジ色の領域は、二重層の容量に起因する容量性電流に対応。
脱着の全電荷を式で表すと、次のように表現できます。
ここに、vbは掃印速度です。この積分は、EC-Labソフトウェアの積分グラフ・ツールで計算できます。ただし、二重層の容量に起因する容量性電流が考慮されていないため、EC-Labソフトウェアによって求めた積分結果から対応する面積を差し引く必要があります。
EC-Labソフトウェアの積分グラフ・ツールから次のような結果が得られます。
図5:EC-Labソフトウェアの積分分析ツール
二重層に起因する面積は、手作業で計算する必要があります。すべての電位に対し容量性電流が一定の場合は、積分に使用する電位の時間長を乗算するだけで済みます。
本実験の場合、容量性電流は2μAであり、該当する電位時間に渡って一定です(340mV)。
二重層に対応する面積は、次のとおりです。
2x10-3 x 0.34 = 6.8x10-4 mA.V.
そのため、脱着に対応する面積は次のようになります。
(2.69 – 0.68)x10-3 = 2.01x10-3 mA.V.
水素の脱着に対応する電荷値を求めるには、直前の結果を掃印速度vbで割って表面単位当たりの電荷値を求め、それを電極表面積で除算する必要があります。
2.01÷0.2 = 10.05 μC Q = 10.05÷0.0314 = 320 μC/cm2
文献[3]によると、水素の単分子層吸着に関連する電荷は一般的に、210μC /cm2[3]です。すぐ前で得られた結果は、少し大きめですが、その説明はつきます。その理論値は、平面の電極用のものだからです。本実験用に作用電極が研磨されているとはいえ、良好な顕微鏡で見ると、表面全体がまったくの平面であるとは言えず、表面積は理論値より大きいのです。つまり、水素原子の吸着部位が増えるため、実験結果のようになることを部分的に説明することはできます。
注: 吸着された陽子の数および吸着部位の数は、最終結果を陽子の電荷(1.6x10-19C)で割ると特定できます。
参考文献
[1] Bio-Logic Technical Note #8 (http://www.bio-logic.info)
[2] M. Chatenet, M. Aurousseau, R. Durand, and F. Andolfatto, J. Electrochem.Soc., 2003, 150 (3), D47-D55.
[3] S.-A. Sheppard, S.A. Campbell, J.R.Smith, G.W.Lloyd, T.R.Ralph, and F.C.Walsh, Analyst, 1998, 123, 1923-1929.
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