FAQ
【燃料電池】燃料電池評価に関するFAQ
Q 固体高分子形燃料電池(PEFC)の発電に必要な燃料ガス流量は?
A
PEFCの発電に必要な理論上の燃料ガス流量は「Q=mFz」の式から求められます。
Q:電荷量[C]=電流[A]×時間[sec]
m:モル数[mol]
F:ファラデー定数(=96500 [C/mol])
z:イオン価数
例えば、MEAの面積が1 cm2の燃料電池を1 A/cm2の電流密度で1分間通電したときに必要な水素の量は以下のようになります。 (ただし、水素分子は理想気体、体積は標準状態換算)
水素[L]=22.4[L/mol]×1[cm2]×1[A/cm2]×60[sec]×1/96500[C-1mol]
×1/2(価数)=0.006963・・・[L]=6.96 [mL]
つまり、1cm2の面積の燃料電池で、1A/cm2の電流を1分間保持するための水素量は、水素が100%反応すると仮定した場合、約7 mL/minとなります。
ただし、一般には100%反応させることは難しいので、通常は最低必要量よりも多い燃料を流します。
この時の流量の指標として、“燃料利用率:反応する燃料量/供給する燃料量”があります。
25cm2の燃料電池で1A/cm2の発電の際に、燃料利用率50%で発電させるとすると、
水素[L/min]=7[mL/(min・cm2)]×25[cm2]×(100/50[%])=350[mL/min]
スタックセルの場合は更にスタック数を掛けると、必要な水素量を算出できます。
カソード側の酸素(空気)量は考え方次第ですが、少なくとも反応する水素量と100%反応するだけの酸素量が必要になります。
Q 直接形メタノール燃料電池(DMFC)での発電に必要な燃料流量は?
A
セルの面積と使用するメタノール水溶液の濃度によって変わります。高濃度・小面積セルなら低流量、低濃度・大面積セルなら流量が多くなります。
DMFCでの反応式は以下のようになります。
CH3OH + H2O → 3H2 + CO2
つまり、1molの純メタノールから3molの水素が得られる計算になります。
よって、100mL/minに相当する水素(4.46×10-3mol/min)を得るには、1.49×10-3mol/minの純メタノー ル=4.77×10-2g/minが必要です。これに転化率10%、比重0.791を考慮して、メタノール水溶液の濃度を10%とすれば、必要なメタノー ル水溶液(純メタノール:10vol%、水:90vol%)の量は6.0mL/minとなります。
DMFCの発電電流量や使用するメタノール水溶液濃度、燃料利用率等から最大・最小流量を換算して考慮する必要があります。また中間生成物によるロスなども考えられます。
Q 燃料ガスへの加湿の必要性
A
イオン交換膜の種類によっては、水分の有無が発電効率に大きな影響を及ぼします。
弊社取扱いのエレクトロケム社製燃料電池セル(MEAにナフィオン膜使用)で、セル温度80℃に対し、燃料の露点を80℃、70℃、60℃と変えることでセル内の相対湿度を変化させた時のI-V測定の比較です。相対湿度が高い程、発電効率がよいことが分かります。
加湿の必要がないイオン交換膜や実用化を見越しての無加湿運転を目的とすれば、加湿する必要はありません。
Q 電流遮断法によるセル抵抗測定と低抵抗計の測定結果が違うのはなぜ?
A
電流遮断測定機能については、890シリーズの機能説明をご参照ください。
低抵抗計は機種により固定の周波数(1kHzや10kHz)でインピーダンス測定を行う計測器で、電流遮断測定と同じくセルの直列抵抗成分の測定を目的として使用されています。これはセルのRC並列回路成分はより低周波域になるため、高周波域であればほぼ直列抵抗成分であろうという考え方に基づいていますが、セルの周波数特性によっては直列抵抗成分以外を測定している可能性もあるため、電気化学インピーダンス解析(EIS)を実施して、周波数が適切かを確認してから低抵抗計を使用することを推奨します。
注意が必要なのは”低抵抗計は負荷発電中には使用してはいけない”ということです。負荷発電中に低抵抗計を接続して測定していると、低抵抗計から見るとセルと電子負荷装置の並列回路を測定することになるためです。大電流時ほどセルの抵抗も電子負荷装置自身の抵抗も小さくなりますので、並列の抵抗値の足し算となって、低抵抗計では実際のセルの抵抗より低い抵抗値として計測されます。そのため電子負荷装置で行われる電流遮断測定の計測結果とはズレが生じます。
上記の理由から、低抵抗計の使いどころはOCV状態(負荷発電の開始前)のみとなります。となると、負荷発電中に低抵抗計で測定することが間違っているため、負荷発電中にしか測定できない電流遮断測定の結果と比べること自体が間違いであることは自明の理となります。
これら2つの測定結果を比べると、まず低抵抗計の測定結果の方が抵抗が小さい=セルの性能が良いということもあって、ユーザーは低抵抗計の数値を信じてしまいがちなので要注意です。
大電流の負荷発電中に低抵抗計が使えないとなると、簡易にセル抵抗を測定できる機種は限られてきます。
東陽テクニカでは、電流遮断測定機能を標準装備し、FRAオプションでEISも実施できるScribner社製890シリーズ(50Aモデル~最大1000Aモデル)を燃料電池評価システムへの搭載機種として提案しています。
Q 加湿方式について
A
加湿器にはバブラー式、インジェクション式、シャワー式、分流式など多くの方式があります。
バブラー式は温度を制御した水にガスをくぐらせて加湿する方式で、水の温度を変えて露点を制御します。水温の変化に少し時間がかかりますが、一定露点を保持する安定性や再現性に優れます。加湿器からセルまでのガス圧力を上げる事で露点を100℃以上に上げることも可能です。バブラーの場合、露点精度よく加湿するにはガス流量に応じた水量が必要になります。水量を多く(加湿容器を大きく)すれば大流量に対応できますが、低流量時に遅延が生じたり、水温変化の 応答性が悪くなったりといったデメリットも生じます。
インジェクション式は、乾燥したガスに蒸気を付加する“スチームインジェクション”方式と、水滴を注入後気化させる“リキッドインジェクション”方式があります。露点変化の応答性に優れますが、付加する蒸気(水分)の量の調整が敏感で、少流量のガスへの加湿や低加湿を行う際の精度の調整が難しくなります。
また“スチームインジェクション”方式は100℃以上の露点を制御するのは難しく、“リキッドインジェクション”方式はガスライン中で水滴が気化して急激にガスの体積が変わることにより、ガス圧力が変化する可能性があります。
シャワー式はバブラー式とは逆にガス中に水を噴霧して加湿を行います。
また加湿したガスとドライガスを混合して露点制御の応答性を高める“分流”方式もありますが、各ガスの流量バランス調整が重要になります。
Q 高電流密度になると電流が伸びなくなるのはなぜ?
A
まず電子負荷装置の測定の設定として「下限電圧」の設定をしていないことを確認してください。セル保護のために低電圧にならない設定をしていると、その制限により電流密度を上げられなくなる場合があります。
設定制御上の下限が設定されていない場合は次を参考にしてください。
一般的な電子負荷装置には、”低電圧動作特性(最低動作電圧)”という仕様があります。これはその電子負荷装置で”最大電流を測定するために必要な電子負荷装置側の電流端子間電圧”を示すものです。「1.5V@100A」というような表記で記載され、この場合は100Aの測定を行うには電子負荷装置の電流端子間電圧が1.5V以上必要だという意味になります。この限界ラインは0A/0Vからの直線で存在し、同じ装置の場合50Aの測定には0.75V以上が必要ということになります。
当社システムで標準搭載している電子負荷890eシリーズでは燃料電池単セル(max 1.2V前後)の測定をするため「0.1V@50A」というように、かなり低い電圧まで測定できる設計になっています。
注意が必要なのは、4端子測定の場合、セル電圧がこの下限電圧以上あっても電流測定系ではケーブルの抵抗による電圧降下が起こり、計測器側の端子間電圧は下限電圧に到達することがあることです。オームの法則により高電流密度(大電流)になるほど電圧降下は大きくなり、低電圧域での測定は困難になっていきます。
例えばケーブルの抵抗が1mΩあった場合、1A発電時の電圧降下は1mVで殆ど気になりませんが、100Aでは100mV=0.1V低下します。面積の大きいPEFC単セルで1000Aの発電を同じケーブルで行うと1V低下することになるため、起電圧自体が1V程度のPEFCでは現実的に測定不可能という事態になるわけです。
この状況になっていると思われる場合は、電子負荷装置側の端子間電圧をテスター等で測定し、電子負荷装置の下限電圧に到達していないかを確認してください。
このケーブル抵抗による電圧降下を小さくするには、ケーブルを太く・短くして抵抗を小さくするしかありません。しかし、太くするとケーブルが曲がらず取り回しが難しくなり、短くすると融通が利きませんので、ある程度妥協が必要となります。
この電子負荷装置の最小動作電圧(低電圧通電特性)の問題を無視できるタイプとして、「ゼロV対応電子負荷」と呼ばれるモデルを販売しているメーカーもあります。弊社で取り扱っているScribner社製 890ZV型もその一つです。
このゼロV対応電子負荷は、内部に電圧降下分を相殺するための直流電源を搭載したような構造になっており、装置の端子間電圧がゼロVになっても高電流の発電測定が可能となっています。
ここで注意が必要なのは、補助電源によってセル電圧がゼロVになっても大電流が流せてしまうことです。補助電源に頼ってI-V測定を行うと、0V/50Aといった状態まで測定される場合があります。この時の発電電力は”0V×50A=0W”となりますから、明らかに不自然な状態になっていると言えます。ゼロV対応負荷は便利ですが、注意点も把握して使用しましょう。
なお、大容量の電子負荷装置ではゼロV対応のモデルはまずありません。なぜなら最大電流と同じだけの出力を出せる電源を内蔵する必要があるためで、それだけ大容量の電源を電子負荷装置に内蔵することは価格的にナンセンスだからです。
その点で数100A以上の出力の燃料電池単セルの測定がFC評価装置で最も難易度が高く、価格的にも高価になる可能性があります。なぜならスタックセルにすると電圧が稼げるため、電圧降下相殺用の直流電源が不要になる可能性があるからです。
なお、ゼロV対応電子負荷装置と同じようにゼロVまで測定できる計測器として、電子負荷装置ではなくバイポーラ電源を搭載しているメーカーもあります。
バイポーラ電源の場合、制御の主体は電源になりますので、燃料電池に電源から電流/電圧を流し、FCは無理矢理その”場”に馴染むように動作する、という構図になります。バイポーラ電源は正負跨いで電流・電圧を印加できるため、FC自身の性能を超えてしまう場合があります。ゼロVラインを跨いだI-V曲線(一部メーカーでは”過負荷試験”と呼ばれています)などがその例で、こういう状態では通常の発電反応では起き得ない反応現象が起こっていますから、故意でなければ要注意となります。
自分の使用している電子負荷装置(または機能的に類する機器)の仕様をよく把握して測定することをお奨めします。
Q 燃料ガスの“露点”と“相対湿度”の違い
A
PEFCの発電評価では、試験条件としてセルの加湿状態の管理が重要であるため、供給ガスへの加湿水分量の規定が重要になります。
よく「相対湿度〇%で負荷発電」と言った記述がありますが、相対湿度から水分量を算出するには、その時のガスの温度が何度だったかの情報が必要になります。”25℃で相対湿度100%”と”80℃で相対湿度100%”では加湿水分量として非常に大きな違いがあります。そのため、相対湿度を0~100%まで制御したいと言っても、対象環境のガス温度が指定されなければ加湿水分量が決まらないわけです。
東陽テクニカのFC評価装置では、加湿水分量は「露点」で制御します。“露点”はそのガスに含まれた水分が飽和して結露を始める温度で、温度による飽和水蒸気量は飽和水蒸気圧曲線などで確認することができます。“相対湿度”はあるガス温度での飽和水蒸気量に対する実際に含まれている水蒸気量の比です。
露点はガス温度に依存せず加湿量を規定できますが、相対湿度は「加湿露点/セル温度」の関係から算出されます。
例えば露点80℃の加湿ガスが80℃のセルに入れば相対湿度100%、露点60℃の加湿ガスが80℃のセルに入れば相対湿度42%という形になります。
ちなみに、100℃以上で相対湿度100%、または露点100℃以上を達成するには、露点も100℃以上にする必要があり、セルや配管をそれに応じた温度まで昇温する必要があり、加湿器の水温も100℃以上にするために加圧が必要になります。
Q 電子負荷器での測定電圧とテスターで測定したセル電圧がズレるのはなぜ?
A
電子負荷装置には、電流と電圧を同じ測定端子で測定する二端子測定タイプと、電流と電圧を別の測定端子で測定する四端子測定タイプがあります。
二端子測定タイプの場合、計測される電圧は”計測器側の端子間電圧”になります。そのため、測定ケーブルを電流が流れる際にケーブルの抵抗によって発生する電圧降下の影響を受けてしまいます。例えばケーブルが1mΩの抵抗を持っていれば、燃料電池が仮に0.8V/10Aの発電をしている時、測定ケーブルでは”オームの法則”から10mVの電圧降下が起きるため、電子負荷装置で測定される電圧は10mV低い0.79Vとなるわけです。テスターではセル側の電圧を測定するため電圧降下の影響は受けないためズレが生じます。
燃料電池の発電評価ではこのケーブルによる電圧降下の影響を受けない四端子測定の機種を使用することが必須となります。
4端子測定でもズレが発生する場合は、別の原因が考えられますので、弊社までご相談ください。
なお、電流測定ケーブルでは抵抗による電圧降下は必ず起きており、別項目で解説する問題の原因になります。
Q 燃料ガスの加湿制御方法
A
最近のFC評価装置の加湿方式としては、大きく「全量バブリング方式」と「Dry/Wetガス混合方式」の2つが主流となっています。
「全量バブリング方式」とは、加湿する際にすべてのガスを加湿器に通して加湿する方法で、加湿器の水温によって加湿水分量を制御する方式です。
全量バブリング方式では全ガスがバブラー加湿器を通り均一に加湿されるため、安定性・再現性は有利になります。しかし、加湿条件を変える際にバブラー内の水温を変える必要があるため、応答性では不利になります。流量を変えても同じ加湿条件が維持されるため運用は容易です。一般的なバブラーでは加熱機能しかないため、室温より下の露点の加湿は不可能です。また流量に応じて加湿器のサイズも大きくなるため、流量フルスケールに対して著しく小さい流量域では、バランスが崩れて加湿制御精度が落ちたり、条件を変更時のバブラーの気相部分の条件が整うまでの応答性も悪くなります。
「Dry/Wetガス混同方式」はバブリング方式で一定に加湿したガスとDryガスを混合して加湿水分量を増減させる方式になります。ガスの流量比を変えるだけで加湿水分量を変化できるため、露点変更の応答性は有利になります。
しかし、Dry/Wetガス混合方式の場合、Dryガス用/Wetガス用でMFCが2倍必要になる他、想定通りの加湿制御ができているか確認するためにインラインに露点計を入れたりする場合もあり、ガス配管の構造が複雑になり、価格面では不利になります。
また同じ加湿量のままでガス流量を変える場合、WetガスとDryガスの流量比を維持したまま変化させる必要があり、制御する相対湿度によっては1台のMFCで制御できる2~100%FSの範囲では賄えず、より低流量レンジのMFCを用意する必要もでてきてコストUPに繋がります。
Wetガス側の比率が小さくなり、加湿器容積に対してガス流量が小さくなりすぎると、全量バブリング方式より応答性が不利になる場合もあります。
これらのことから、Dry/Wetガス混合方式は限られたガス流量制御範囲では応答性の面で有利ですが、流量制御範囲を広くすると不利な面が増えていく加湿方式と言えます。
Dry/Wetガス混合方式は、FCVの実用に近い段階のFC評価装置や、動的条件での評価を重視する装置に採用される手法です。
東陽テクニカのFC評価装置では露点制御がシンプルな全量バブリング方式を標準採用し、範囲を伴う露点保証を行っています。応答性で課題となっていた加湿器水温下降についても、「加湿器急冷機能」オプションを搭載することで、昇温とほぼ同等の応答性を持たせられます。
また急冷機能を発展させて室温以下の露点制御を可能にした「低露点加湿機能」や、その機能を搭載した加湿器をWetガス制御に使ってDry/Wetガス混合方式を行うことによる「マイナス露点制御」も実現しています。
Q 加湿器の水の変色やコンタミ対策は?
A
東陽テクニカ製の装置でも、2000年代前半までは加湿器内の水が赤茶色になる状況がありました。これは加湿器周辺の接水部材が腐食性の高い純水や水素に曝されることで起きる腐食が原因でしたが、その原因を究明し、製作工程の中で独自の対策を実施することで、2005年以降に製造した装置では加湿器内の水の変色や汚れはほぼ抑えられており、加湿水の汚れやそこからのコンタミが問題になったことはありません。
そのため、定期的に水を入れ替えるなどの対策を行う必要はありません。
ただし、長期間運転していない装置を運転再開する前には、純水自体の劣化がありうる点で加湿器内の水を入れ替えることを推奨しています。
Q 「露点」を測定するには?
A
燃料電池関連でよく使用される露点計には、鏡面冷却式と静電容量式があります。
鏡面冷却式露点計は、加熱/冷却を行える鏡面の上にガスを導入し、鏡面に結露が生じて曇る瞬間の温度から絶対露点を計測することができます。非常に高精度で、JIS-B-7920(湿度計性能試験法)で規定された標準湿度計ですが、一度結露させるという計測手法と露点計自身が高額なことから、主に露点の校正や確認の際に使用されます。
静電容量式露点計は、細孔のあるコンデンサーのようなものをセンサーとし(センサー構造は各メー カーによって異なります)、水分による静電容量の変化で露点を測定します。この露点計は比較的安価なため広く使用されていますが、相対湿度を用いて露点を算出するタイプの場合、燃料電池アプリケーションでの運用の際には、結露を避けるためにガス温度を露点より高くしがちですが、ガス温度と露点が離れると誤差が大きくなるため注意が必要です。また、センサー部が結露すると測定できなくなったり、故障の原因となったりするため、燃料電池のように高湿度のガスに使用する場合は注意が必要です。
Q 同じセル、同じ運転条件で測定してもデータが再現できないのは?
A
計測器の故障でない場合、考えられる大きな原因は5つあります。
1.セルの劣化
長期間運転したセルでは特性が違ってきます。
その変化を見極めるのがFC評価装置の1つの役割なので、これは全く問題になりません。
2.セルのセッティング
セルのセッティングに変更がないのに測定結果が変わる場合、計測機器の故障も疑わしいですが、念のためまずセルと測定ケーブルの固定状況(ネジの緩み等)を確認してみるとよいです。セルの付け外しがあった場合は特に確認が必要です。測定の設定以前の部分になるため、オペレータにとっては見落としがちな原因ですが、トラブルシュートの第一歩になります。
セルに測定ケーブルを取付けた際のネジ止めが甘いと接触不良が生じ、測定系側の抵抗値が大きくなったり、不安定になって測定結果に影響します。接触不良で抵抗値が大きくなった場合は前述の電圧降下が大きくなって測定も困難になります。最初から接続で接触不良があり、何かが振れた際に接触状態に変化が起きて測定結果が変わったという事例は過去数多くあります。
3.温度管理の不調
実験毎に出力が上下する場合、加湿が不安定な場合があります。またデータに定期的にピークが生じる場合は結露によるフラッディングが考えられ、セルや配管の温度管理が十分にできていないか、配管の構造に問題がある可能性があります。装置側/セル側のどちらに問題があるかで考えると、装置側の温度管理ができている場合はセル側に問題があるケースが多いです。
4.排気ラインの圧損
複数の装置を所有している際にその排気ラインを合流していて、その合流排気管の太さが十分ない場合、他の装置と同時に運転をしたりすると、装置の排気側に圧損がかかり、上流側の装置全体(セル)に想定外の圧力が掛かり、それが原因で発電状態に影響が出る場合があります。背圧の数字が大気圧時に0 kPaGまで下がらない場合などはこの状態が考えられ、他の装置の発電条件の変更や運転状況に応じて変化する場合は要注意です。
寒冷地で排気ラインを屋外出しにしている場合などは、ガスに残っていた水分が排気管の出口で凍結し、排気管の出口を狭めたり塞いだりする場合もあります。
5.装置が異なる
異なる装置で同じ条件で測定したデータを比べた場合、OCVが10mV以上違うと気になりますが、数mVだと装置の”機差”という可能性があります。同じ仕様で装置を製作したとしても、個々の機能部品にも精度誤差があり、例えばMFCでは精度±1%FSの範囲内でも設定値に対して少し下の流量で安定したり、少し上で安定したりします。このような誤差の積み上げが機差として存在し、全く同じ結果を得るのは難しいです。
違う装置で測定されたデータを比較する場合は、機差があることを踏まえた上で比較をすることが重要です。同じ装置で測定したデータでも上記で紹介した違いなども生じるので、ハード的なセッティングから慎重に行うことを推奨します。
また100W級の装置で測定したセルを、1kW級の装置で100W級と同じ設定で測定した場合、同じ測定結果が得られる可能性は低くなります。
例えば電子負荷装置は、100W級と1kW級の装置で異なるレンジで測定すれば精度が違うはずです。レンジ変更などで同じレンジだったとしても、異なる測定ケーブルを使えば電圧降下などの影響が変わってきます。
特に影響が大きいのはガス供給装置で、同じ設定にしたつもりでもMFCのレンジ違いによる精度誤差や、配管の太さによる挙動の違いなどが必ず生じます。大レンジの装置で小レンジの測定を行うとその粗さが影響し、全く同じ測定結果を得ることはまず無理です。ガス供給装置に関しては”大は小を兼ねない”ということです。
このことから、10セルスタック評価用の装置で単セルの評価を行うことは精度の高い評価をするには相応しくないと言えます。またその結果を単セル用の装置で測定した結果と比べるのも意味がありません。自ら迷宮に入り込む行為となります。
条件が甘くなる装置での評価結果は、あくまで同じセルでの相対比較であれば参考になると言えます。
Q 背圧制御の「手動」と「自動」の違って?
A
背圧制御とは燃料電池セルの二次側のガスラインに背圧制御弁を配置して、水門のようにガスの流路を狭めて流れを一部堰き止め、セル部分のガス圧力を高める機能です。
セル内のガス圧力を上げると、その気圧に比例してガスの密度が上がります。単位体積中に含まれる水素分子(または酸素分子)の密度が増えると、FCの発電に必要な電気化学反応が発生しやすくなり、発電効率が上がります。実際の燃料電池自動車(FCV)では背圧を掛けた状態で発電をする場合が多いため、FCV用の燃料電池や材料評価用の装置では同じ状況を作るための機能として必須の機能となります。
背圧制御弁はガスの流量と弁の開度のバランスで圧力を調整します。
手動制御の場合はニードル弁などを用いて弁の開度を調整します。圧力表示器を見ながら調節するので、合わせ込むのはちょっと面倒です。また圧力調整弁を通過するガス流量が変化すると調整しなおしになります。そのため、MFCでガス流量を変更したり、ガス流量は一緒でもFCの発電量を変えたりすると、セル二次側の圧力調整弁に届くガス流量が変わるため、都度調整をする必要があります。試験条件次第ではオペレータは装置に付きっきりになる可能性があります。
対して、自動制御弁の場合は設定した圧力になるように自動で調整をしてくれますので、燃料利用率一定でのI-V試験などガス流量や発電量を変えるような測定をしても設定値に維持して測定できます。事前に制御ソフトで組んだ試験スケジュールで背圧を変更することができるため、人の手間を大幅に低減することができる機能となります。
自動背圧制御機能は最近ではほぼ必須の機能オプションとなっています。
Q PEFC/DMFC/SOFCの評価装置を1台にまとめられるか?
A
物理的に機能切替式の兼用装置を製作することは可能ですが、お奨めはいたしません。
PEFC/DMFC兼用の装置としては、ご提案モデルとしてPEMTest8900-DMやAutoPEM-Dualというベースモデルがあります。これはPEFCとDMFCでは同じ構造のセルを使うことが多く、100℃以下の温度域で試験を行うという点で近い運用ができたことに起因します。実際にはガス供給と液体供給で切替を行う必要があり、それぞれを同時に行うことはできません。あくまで1chの装置で測定できるセルは1つが原則となります。
PEFCとSOFCでは、セルの温度域が違うだけで評価装置が行っている制御項目はほぼ一緒です。そのため兼用装置も製作可能ですが、セルの運転温度域の違いに伴うセル接続構造で運用面を考慮した違いが出てきます。とちらかの評価を便利にすると、他方では不便な部分が出てきてしまいます。
兼用の装置では同時には評価試験できません。PEFCとSOFCでは評価までの準備時間などが大きく異なりますので、装置の使用期間のマネジメントが難しくなります。
FC評価装置は”1装置1コンセプト”を推奨しています。
Q 単セルとスタックセルの発電評価を1台の評価装置で可能か?
A
まずは単セル試験から始めるけど、将来的にスタック評価もするつもりだから最初からスタック評価装置を入れたいという要望はよくあります。しかし、スタック評価装置で単セルの発電試験することはできますが、評価足り得るか試験ができるかで考えると推奨できません。
FC評価装置は基本的に最大流量に合わせて製作されるため、スタック評価のために製造された装置は、フルスケールが大きく単セルの試験では制御分解能が粗くなってしまいます。例えば、MFCの制御範囲は2~100%FSです。10セルスタック用でこの範囲をフルに使うとして、単セル時に単純に流量10分の1で試験をすると、スタック装置のMFCの0.2~10%FSの範囲で試験することになりますが、0.2~2%FSの領域はMFCが制御できません。対策としてMFCを多レンジ化したとしても、配管径や加湿器、背圧弁など多くの機能部品がスタック用の流量域に合わせて作られていますので、やはり装置全体のバランスが取れないのです。
計測器も場合は、大面積の場合と小面積の場合に同じことが言え、レンジ変更機能などが無ければ、大面積=大電流用の粗い分解能や精度で小面積=小電流の測定をすることになります。
このように、より詳細な評価をするべき単セルや小面積セルの評価が粗くなってしまうと、なかなかよい成果が得られません。実際将来を見越してスタック装置を導入したものの、最初の単セル評価で成果が得られず、スタックまで開発が進まなかったという事例は何度もありました。(弊社は単セル/スタック兼用装置の導入をお奨めしないため、このような導入失敗事例はありません)
装置全体のバランスや性能保証を考慮して使用に足る運用範囲の目安は、MFCと同じ2~100%FSと考えた方がよいでしょう。FC評価装置は”大”は”小”を兼ねませんので、サンプルのレンジに合わせて用意するのがベストです。
単セル/スタック兼用の装置にしたとしても、一度に評価できるサンプルは1台1つだけで、同じ並行に試験ができるわけではありませんので、試験スケジュールの管理も課題になります。
Q 1chの装置で複数セルの試験ができるか?
A
1chの装置は基本的に1セル分のガスラインと計測器しか装備していません。ガスラインの途中で分岐して複数のセルにガスを流すことは可能ですが、分岐後のガス流量は各分岐ラインの圧損に応じて分配されるため、均等に流れている保証はありません。そのため各セルの評価条件は不明になり、”評価”とは言えない状態になります。
また電子負荷装置などの計測器も1セル分しかフォローしていないので、複数台の評価には別途独立に計測器を追加する必要があります。
FC評価装置としては”1装置1セル”が原則となります。
Q 改質ガスを直接流した場合、評価が可能か?
A
改質されたガスの成分・流量が一定で、変更する必要がなければそのままセルに導入すればいいのですが、流量を制御しようとすると難しくなります。
燃料の流量を高精度に制御するために使用するMFCは、通常実際に流すガスで校正したものを使用しますが、改質されたガスは複数のガスからなる混合ガスであるため、MFCメーカーでその成分比のガスで校正を行っていない可能性が高いです。MFCの流量補正換算ができればいいのですが、換算係数がない場合は流量制御ができなくなってしまいます。
浮き子式(面積式)フローメータを使用すれば、目視レベルの精度では流量を制御できますが、やはり正確さや再現性に欠けてしまいます。
そこで弊社では、改質ガスの各成分ガスで校正されたMFCを用意し、その成分比となるように流量を制御した模擬改質ガスでの実験を提案していま す。各MFCの流量比率を揃えて変更することで精度の高い流量制御が可能になります。また各ガス流量の比率を変更することもできるため、成分比率の異なる 改質ガスを想定した実験も行えます。但し、模擬改質ガスでは中間生成物や不純物などを再現できないというデメリットもあります。
Q 長時間連続運転するには
A
発電状態が安定しているとすれば、一番問題になるのは加湿器の連続運転時間です。バブラー式加湿器の場合、加湿器中の水はガスの加湿に使用され、徐々に減っていきますので、やがてガス流量と水量のバランスが崩れて加湿精度が低下します。また、昇温しているときに水が無くなると“空焚き”になってしまい危険です。
よって加湿器内の水を補給する必要がありますが、運転中に加湿器を開いて給水するのは燃料となる水素ガスが漏れ出して大変危険です。
そこで水が減った分を自動的に給水する機構を組込むのがベストとなります。自動給水機構の組み込みは、長時間の連続運転を可能にするだけでなく、最適な水量を保ち続けるというメリットもあります。
但し、給水時に加湿器内の水温や圧力などの条件に影響を与えない工夫をしなければ、定期的な給水で水温が変わり露点が変化することで発電が乱れるなどといった現象が起きたりします。
尚、自動給水機構を組み込んだ場合、排気中の水分の除去器からの排水も自動化または全排出にする必要があります。
Q 計測器の校正や評価システム全体のメンテナンスについて
A
納品検収から1年間を保証期間としています。その後はご依頼に応じて点検やメンテナンスを実施しています。
電子負荷装置等の計測機器は年1回の校正を推奨しています。定額で行っており、お預かり期間は2週間以内が目安となります。
ガス装置の方は運用状況次第ですが、定期的な機能動作点検(1台1日)を実施して、発見された故障個所のみ別途対応するのが一般的です。バルブ類は使用回数で耐久性がある消耗品となります。セル入口出口のヒーター付フレキホースも取扱い方によるため消耗品扱いとなります。定期的な交換が推奨されます。
10年以上使用された装置に関しては、交換部品の供給状況によってメンテナンスが困難になる場合がありますのでご了承ください。
Q 1つの装置に複数ch分の評価機能を搭載できるか?
A
複数のセル評価chを1台のPCやPLCで管理する装置は幾つかの理由からお奨めしません。
まず1台のPCやソフトウェアで複数chの管理をするには、1ch当たりの管理情報量が多く、複数台分になると通信が圧迫されますし、1画面に表示できる情報量も限られてしまいます。
また1台のPLCで安全管理を行うことになるため、1つのchでインターロックが発生した場合に他のchも全て緊急停止になります。これは連続試験などを行う際に大きなデメリットとなります。
物理構造的に1ch分のガスラインや計測器の収納に必要なスペースは大きく変わらないため、1つの筐体に複数ch収納する場合、1ch独立筐体の装置を複数台よりは小さくはなりますが、1台の装置としてはかなり大きくなります。収納するch数が増えるほど搬送、搬入、設置場所に大きな制約を受けます。1筐体に必要な電源容量もほぼch数倍となります。
これらの理由から1筐体に複数chの収納することはメリットがほぼありません。弊社ではできる限り避けていただき、”1装置1ch”の装置にしていただくことを推奨しております。
1ch独立の装置の方が1台あたりの設置面積はコンパクトとなり、電源の容量も分散され、設置や運用、メンテナンス時の融通性も高くなります。
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