技術資料
参照電極の正しい保管と定期的なチェックは必須
I はじめに
電気化学反応のエネルギー源となる電圧をポテンショスタットにて正確に電位をコントロールし、再現性の良い結果を得るためには、安定した参照電極が必須となります。本記事では、3電極測定で使用する参照電極に関して、正しい使用法と保管、およびチェック方法をご紹介します。例えば、Aと言う物質の標準酸化還元電位が、文献値で+0.408 mV vs. NHE の場合、銀/塩化銀参照電極では、どこに酸化還元ピークが出てくるでしょうか? 答えは、+200 mV vs. Ag/AgClです。これは、銀/塩化銀参照電極がNHEに対して、+208 mV (3 mol / L KCl 25℃)の電位を持っているからです。物質の酸化・還元電位は、どのような参照電極に対する電位かしっかりと確認して、実験を行うようにする必要があります。
II 参照電極について
参照電極の選定は、大別して水系用と非水系用となります。水系では、あらゆる参照電極の基準となる標準水素電極(NHE)があります。ただし、NHEは電極を維持するために水素ガスが必要で、運用が複雑となります。一般的には銀塩化銀電極(Ag/AgCl)が用いられます。水銀と塩化水銀を用いた飽和カロメル電極(SCE)も電位安定性に優れますが、水銀を含みます。環境問題や廃棄方法に関して事前に確認が必要です。また、参照電極の先端部分の液絡の素材に関しても注意が必要です。バイコール®で知られるイオン透過性ガラスは、アルカリ液中で溶解しやすいため、セラミック素材を選定する必要があります。 非水系溶媒では、銀/銀イオン電極(Ag/Ag+)を使用します。この電極は、10~100 mM程度の硝酸銀、0.1 M程度の支持電解質濃度となるように使用する有機溶媒で電極内部液を作製し、先端に液絡が付いたガラス管内に銀線を入れて使用します。銀/銀イオン電極は、電位の安定性が水系の参照電極ほど優れないため、測定溶液に内部標準試薬を添加し、電位補正作業を行うことがあります。これは測定終了後に、測定溶液にフェロセンを添加し、フェロセンの酸化還元電位を基準(0V)として補正します。この場合、X軸の電位はV vs. FC/FC+ と言う表記を用います。なお、非水系溶媒に水系の参照極を使用することは自体は可能です。ただし、測定溶液への水の混入(汚染)を防ぐために、塩橋やダブルジャンクションの参照電極等を用いて、非水溶媒と参照電極中の水溶液を隔てる必要があります。また、液洛部の内外でイオン強度や溶液種が異なるとジャンクション電位が発生することがあり、コントロールしたい電位に一定の電圧が加味されることがあります。
III 装置との接続と各種参照電極の紹介
図1. セルケーブル接続イメージ図
Bio-Logic社製品のポテンショスタットは、3電極測定が可能であり、図1のようにセルケーブルを接続して使用します。セルケーブル等の詳細はこちらから動画で説明しております。 この図では、白色のRef2の参照極に対して、赤色のRef1の作用極の電位(EWE)を制御します。また、Bio-Logic社製品のポテンショスタットは青色のRef3の対極の参照電極に対する電位(ECE)をモニタリングする機能もあります。この機能は3電極系で電池や電解関連等の測定時に、正極及び負極のインピーダンス、電位変化を同時に分離して計測することが可能です。
銀/塩化銀参照電極は、現在水系の3電極測定でもっともよく使用されている参照電極です。 参照電極の管内では、下記の右向き(還元)と左向き(酸化)の反応速度が平衡状態に保たれることでNHEに対して、+0.208 Vの電位を維持しています。ただし、Cl-の濃度変化や温度、銀塩化銀メッキ部分の劣化等で電位が変わることがあります。保管時は、マニュアルに指定されたCl-イオン濃度を含む保存液に入れ、冷暗所で保管します。正しく保管しても経年劣化はありますので、定期的な電位チェックが必要となります。
IV 参照電極のチェック方法
図2. 参照電極チェック時の接続イメージ図
前述の通り、ポテンショスタットは参照電極の平衡電位を0V基準として挙動します。正しい値を示す新参照電極と使用中の参照電極を右記のように接続し、自然電位(OCV:open circuit voltage)を測定してください。理論上は2電極間の電位差は0 mVを示しますが実運用時には同じにならないケースが発生します。数mV以下なら問題はありませんが、10 mV以上であれば新しい参照電極に交換をお勧めします。
V 非水溶媒での参照電極の補正方法
アセトニトリル(AN)、ジメチルフォルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒を用いる測定では、銀/銀イオン電極(Ag/Ag+)を使用します。この電極は、参照電極として最も重要な平衡電位が環境や溶媒によって電位シフトする問題があります。このような状況では、サンプルの酸化・還元電位を再現性良く正確に捉えることができません。この場合は内部標準添加としてフェロセンをサンプルに加え、FC/FC+を0 V 基準としてX軸の電圧を補正します。Bio-Logic社のポテンショスタットを制御するソフトウェアEC-Labでは、測定データをフェロセンの酸化還元電位で補正して表示する機能があります。補正データはテキストファイルでも保管することができます。フェロセンは添加し過ぎると、綺麗なピークが得られないため、数mlの溶液であれば、数滴程度入れて、サンプルのピークと同じ程度になるまで少しずつ入れて調整します。 図3のボルタモグラムを示すサンプルで、銀/銀イオン電極(Ag/Ag+)を用いた場合の酸化・還元電位は、各ピーク電位(741 mVと661 mV)の中点の701 mV vs. Ag/Ag+となります。
図3. 銀/銀イオン電極(Ag/Ag+)を用いたサイクリックボルタモグラム
フェロセン電位で補正を行う場合には、測定液にフェロセンを極少量添加して測定を行い、フェロセンの酸化還元電位を0 VになるようにX軸の補正をします。
図4. フェロセン添加後の赤いボルタモグラムとの比較
フェロセン添加後の赤いボルタモグラムの左側ピークがフェロセンの酸化・還元を示しています(図4)。この酸化・還元ピークの位置がvs. Ag/Ag+の場合、0.2 Vなので、EC-LabのGraph properties のCustom Graph StyleからTitleやProcessにチェックを入れ(図5)、数学演算部はX軸から0.2をマイナスにして補正したグラフが上記(図4)となります。よって、フェロセンの酸化・還元を基準とした場合、サンプルの酸化還元電位は、501 mV vs. FC/FC+と言う表記となります。
図5. EC-Lab設定画面
VI まとめ
ポテンショスタットは参照電極に対する作用電極の電位はコントロールできますが、参照電極が正しい電位を保持しているかの判断はできません。そのため、測定に用いる参照電極は常にマニュアルに従った適切な方法で保管し、定期的に新しい(測定には使用せずチェック用)電極との電位差を確認してから使用するよう必要があります。標準水素電極(NHE)やRHE(可逆水素電極)に関しては、別のトピックでご紹介します。
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