技術資料
サイクリックボルタンメトリー(CV)測定の手順
目次
I はじめに
サイクリックボルタンメトリー(CV)は電極表面で起こる酸化還元反応に基づく電流の変化を観測する方法です。CV 測定は簡便で汎用性が高く、電気化学反応の初期診断方法としてとても有用な手法で、様々な分野で用いられています。電気化学測定を初めて行う場合、教科書や参考書による理論的な学習に加え、測定装置や実験器具、電極類の取り扱い方法をしっかりと理解することは、信頼性の高い良好なデータを得るために非常に重要です。 本トピックでは、電気化学測定の教科書で得られた基礎的な知識を元にフェロシアン化カリウム溶液のCV測定の具体的な実験手順を紹介します。
図1. 典型的なサイクリックボルタモグラム
II実験目的
フェロシアン化カリウム溶液のCV 測定行い、電流-電位曲線(サイクリックボルタモグラム)から酸化還元電位の解析を行う。
III 試験装置、器具、試薬
実験には以下の装置、電極と試薬を使用します(図2)。
■試験装置: Bio-Logic社製電気化学測定システム ポテンショ/ガルバノスタット SP-50e
■各種電極:図2参照
■試薬:フェロシアン化カリウム K4[Fe(CN)6]、 塩化カリウム KCl、蒸留水
図2. 試験装置、器具、試薬
IV 試薬調整と測定前の電極前処理
1). サンプル溶液を調整します。
測定対象物質:1 mM フェロシアン化カリウム
支持電解質:1 M 塩化カリウム
2). 蒸留水で湿らせた研磨パッドに研磨用アルミナを軽く振盪して数滴滴下し、作用電極を垂直に
パッドに押し当てて、軽い力で数分間研磨します。研磨後、蒸留水をかけて電極をよく洗浄します(図3)。参照電極、対電極も同様に蒸留水で洗浄後、必要に応じてサンプル溶液で共洗いします。
図3. 電極研磨の様子
3). ボルタンメトリーセルに作用電極、対電極、参照電極をセットし、電極の先端部が浸かる程度にサンプル溶液を入れます。次に溶存酸素の影響を除くため、パージ用チューブからサンプル溶液に窒素などの不活性ガスを5分から10分間バブリングし、溶存酸素を除去します。なお、初めてのサンプル測定(酸化・還元ピークの確認)の場合には、バックグラウンド測定(溶媒と支持電解質)をはじめに行い、使用する溶媒と電極の組み合わせでの電位窓の確認や不純物によるピークがないか確認を行います。
4). 測定装置を起動します。電極とセルケーブルの接続方法については、図4の通りです。
図4. セルケーブルの接続方法
V 測定条件の設定
1). Bio-Logic社製電気化学測定システム専用の制御ソフトウェアを用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を設定します。
2). CVは、時間軸に対して電位をスキャンする三角波を用います(図5参照)。Ei(スタート電位)は測定対象サンプルの酸化・還元状態に応じて設定します。今回は、サンプルの初期状態である還元状態から酸化状態への様子を観測したいため、Eiはサンプルの酸化反応が起こりにくいE1と同じ還元側の電位の-0.1 V vs. Refとします。酸化側のE2に向け電位をスキャンします。Eiを自然電位からスタートする場合もあります。その場合には、Ei vs. Eoc を選び、0 Vとし、Efにチェックマークを入れEiと同じ-0.1 Vとします。
初期電位 Ei:-0.1 V,E1:-0,1 V,E2:0.6 V Ef:-0.1 V (図5.(a)参照)
スキャンレート(dE/dt):50 mV/s
図5. (a)時間軸に対して電位をスキャンする三角波、(b)EC-Lab設定画面
3). 試験条件の入力が完了したら、測定を開始します。
VI EC-Labを用いた測定データの解析
1). グラフ表示の種類を「I vs. Ewe」とし、サイクリックボルタモグラムを表示します。赤枠のCursorをクリックすると任意の場所の電位と電流値を確認及び矢印にて表示することが可能です(図6)。酸化・還元電位の確認に使用可能です。電荷移動速度が速い電極反応の場合、酸化・還元ピーク電位の差は、60 mVから70 mV程度になります。
図6. 測定したサイクリックボルタモグラム
2). 酸化還元ピーク電流値やピーク面積の解析は、EC-Labソフトウェアで行えます。解析が必要なピーク範囲を選択し、ピーク電流値および電荷量を算出することが可能です。詳しくは、電気化学測定ラボ(本ページ)のサポートページ内にあるマニュアル「アプリケーション別測定および解析例」をご覧ください。
※「電気化学測定ラボ」サポートページをご覧いただくには、ご登録は必要です。
VII 測定後の電極片付け方法について
測定が終了したら、各種電極はセルケーブルから取り外し蒸留水で洗浄します。作用電極は、測定開始時と同様に研磨パッドで研磨後保管します。参照電極は、電極に添付されたマニュアルに従い適切に保管すること、保存液の水分の蒸発には十分注意することが必要です。
VIII 別コラム:上手く測定ができない時について
■ノイズが乗る時のチェックポイント
●電源コンセント(アース付きに接続)
●ファラデーケージの使用
●参照電極の液洛部の抵抗大
●セルケーブルの断線、測定中の振動
■ボルタモグラムに不明なピークが出る
●溶媒と支持電解質のみでバックグランド測定
●参照電極の電位チェック
●作用電極の汚れ、溶媒の精製、脱酸素
■ボルタモグラムのピークが明瞭に出ない
●サンプル濃度が薄い<>br
●作用電極の研磨不足(図7)
●支持電解質の濃度が薄い
●掃引速度を10 mV/s程度に遅くする
●電位窓の外側で反応が起こっていないかチェック
●参照電極の電位チェック
【電極研磨の有無によるボルタモグラムの違いの一例】
青線(図7):IV-2)で示した方法により研磨したガラス状カーボン電極
赤線(図7):購入した状態でそのまま使用
図7. 研磨有無のサイクリックボルタモグラム比較例(青線:研磨あり、赤線:研磨なし)
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