技術資料
パルスボルタンメトリーの原理と使用する利点
I はじめに
パルスボルタンメトリーは、サイクリックボルタンメトリーに比べて、ファラデー電流による現象を優先的に捉えることができる測定手法であり、主に電気化学分析に使用されます。これは、電位ステップの後半に向かうにつれ、充電や放電に伴う電流の寄与が少なくなり、主にファラデー電流を抽出できるようになるためです。この特性を十分に生かすためには、電流取得範囲(パルス終了の黄色部分)を適切に設定することが重要となります。パルスボルタンメトリーでは、パルス前後の電流値である「I forward」と「I reverse」を測定します。
「I forward」および「I reverse」の測定においては、測定条件として、パルス波形および矩形波の各ステップの後半の電流取得範囲任意に設定することが可能です。デフォルトでは後半の20%になっております。図1を見ると電流の絶対値は小さくなりますが容量性電流がほぼゼロになるので、
電気化学反応のファラデー電流のみを捉えられることが分かります。DPV(Differential Pulse Voltammetry:微分パルスボルタンメトリー)、SWV(Square Wave Voltammetry:矩形波ボルタンメトリー)では電流応答が凸型のピークとなるため、定量分析に用いやすい手法です(図2)。また、溶媒のバックグラウンドとサンプルのピークが重なり、ピーク検出が難しい場合もパルス法を使用するとピークの分離能が高くなり、ピーク形状がはっきりとして見やすくなります。
図1. 電流応答の様子
図2. 各種パルス波形
II 実験目的
フェロシアン化カリウム溶液のDPV 測定行い、正規分布の計上に似たボルタモグラムを取得することです。実験に必要な機器や電極はCV(サイクリックボルタンメトリー)測定の場合と全く同じです。
III 試験装置、器具、試薬
実験には以下の装置と試薬を使用します。
■試験装置: Bio-Logic社製電気化学測定システム ポテンショ/ガルバノスタット SP-50e (図3)
■試薬:フェロシアン化カリウム K4[Fe(CN)6]、塩化カリウム KCl、蒸留水
図3. Bio-Logic社製電気化学測定システム ポテンショ/ガルバノスタット SP-50e
IV 試薬調整と測定前の電極の前処理
サンプル溶液を調製します。
測定対象物質:1 mM フェロシアン化カリウム
支持電解質:1 M 塩化カリウム
V 制御用ソフトウェアEC-Labの設定
1). 測定テクニックとして、DPV(Differential Pulse Voltammetry:微分パルスボルタンメトリー)を設定します。
2). DPVは、LSV法と同じように時間軸に対して電位掃引することに変わりありませんが、パルスを印加しつつ掃引し、パルスの前後の電流値を差し引いてプロットします。掃引速度はSH/ST(SH:step height / mV、ST:step time / ms)となります。今回は、サンプルの初期状態である還元状態から酸化状態への様子を観測したいため、Eiはサンプルの酸化反応が起こりにくい還元側の電位の-0.1 V vs. Refとします。酸化側の向け電位をスキャンします。Efにチェックマークを入れEvと同じ0.6 V vs. Refとしてください。パルスボルタンメトリーに於ける走査速度は、単位時間St当たりの電位増加量SHから算出することが可能です。この場合、5 mV/500 msで10 mV/sとなります。
図4. EC-Labソフトウェアの設定画面
VI 測定データの解析
1). 測定終了後、ボルタモグラムを表示します。
2). EC-Labソフトウェアから、ピーク電位やピーク面積の計算が可能です(図5)。一般的にはピーク高さや面積が濃度に依存します。準可逆反応の場合にはピークはブロードになっていきます。ピークトップはほぼ酸化還元電位に近い値になります。
図5. 測定したボルタモグラム
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