スマートデバイスを使った設備の巡回点検と詳細分析
製品情報
設備を安定的に稼働させるためには、定期的なメンテナンスや交換が必須です。しかし、その一方で、コストがかかるため、できる限りメンテナンス周期を延ばすなどして、コストを抑えたいという衝動にかられます。そこで注目される手法が、振動計測を有効に活用することです。
振動計測は設備の状態を把握するのに最もバランスの良い手法の一つと考えられています。振動計測を用いて設備の状態を把握し、適切な処置を施すことで、設備の安定的な稼働を実現できます。
振動計測によって状態を把握するには、主に2つの手法があります。オンラインによる常時監視と、マニュアルで行う巡回点検です。
常時監視は、振動センサを設備に常設し、ある決められた計測方法を用いて常に設備を監視する手法です。一方、巡回点検は、エンジニアが設備の設置場所に赴き、その場で振動を計測して設備の状態を確認する手法です。これらの手法は、使われ方に違いはあるものの、両輪として機能すべきもので、どちらか一方だけでよい、ということではありません。
巡回点検について
今回は、巡回点検についてご紹介します。巡回点検は、エンジニアが現場に赴き必要な計測を行い、その取得データから設備の状態を判断するため、現場で手軽に持ち運びができて、かつ、使い勝手の良いツールが必要です。
当社では、振動センサから直接、振動の生データがデジタル信号で出力される The Modal Shop社製の Digiducerを取り扱っています。このセンサは iPhoneなどのスマートデバイスに直接接続ができるため、現場計測時は Digiducerとスマートデバイスを持っていくだけで計測が可能です。
USBデジタル加速度計 Digiducer:333D01
また、巡回点検に必要な機材を一つにまとめた設備振動解析キットをご用意しております。小型データ収録モジュール、振動センサ、オフライン解析ソフト、タブレット、専用ケースがセットになったキットです。小型データ収録モジュールは、ICP®型(アンプ内蔵型)センサを直結でき、USB端子から信号をデジタル出力してタブレットに転送します(タブレットによるデータ収録は、フリーアプリ「PCM録音」を利用)。測定したデータは、PCにインストールしたオフライン解析ソフトにて観察・解析できます。設備振動解析キット
ユースケースのご紹介
ここで、iTnnovate社が公開しているユースケースを使い、巡回点検における設備の振動解析の実例を紹介します。このケースでは、オーストラリアの Aurizon社の機関車で使われているオルタネータの巡回点検とその解析例が紹介されています。使用されたツールは、The Modal Shop社製のDigiducer:333D01と、iTnnovate社製の VibCloud™ です。
iTnnovate社製 VibCloud™は、Digiducerをサポートしており、一緒に使うと効果的です。 VibCloud™ はスマートデバイス向けアプリ(現場計測用)と PC向けのソフト(解析用)があります。VibCloud™のスマートデバイス向けアプリは、簡単にFFT解析結果などの計測データを確認したり、設備の振動を音として聞いたりすることができ、PC向けソフトでは、より詳細な分析をすることが可能です。さらに、2万個以上の軸受の損傷周波数の情報を搭載しており、軸受の損傷部位の特定に役立ちます。これらを併用して使うことで、手軽に、かつ、詳細な振動解析を行うことができます。
VibCloud™ スマートデバイス向けアプリ
解析の手順と結論は以下の通りです。
- オルタネータの回転周波数:443.1012rpm(7.38502Hz)
- PCにて試験手順を設定し、iPhoneにインストールされたVibCloud™ appにその手順をアップロード
- エンジニアが iPhoneと333D01を現場に持参し、手順通りに設備の振動を計測
- VibCloud™ appにて収録した振動を音として聞き、ゴロゴロ音があることを確認
- 収録された振動データを PC上の VibCloud™ にて詳細に分析
- 振動の生波形に周期的な衝撃があることを確認
- 収録した振動データに復調解析を実施。ハーモニックカーソルを使い、56.8Hzとその整数倍の周波数にピークがあることを確認し、軸受に損傷がある可能性が高いと判断。 続いて、側帯波カーソルを使用し、側帯波と基本成分との周波数差を計測。その周波数差が設備の回転周波数と同じであることを確認。この結果から、軸受の内輪に損傷がある可能性が高いと判断
- 収録された振動データにFFT解析を実施し、振動速度のFFT波形を確認。56.8Hzの高調波成分が高周波帯域でも存在していることが判明。この結果から、損傷は進行していると判断
- VibCloud™ に搭載されている軸受のデータベースから、損傷周波数のデータを確認。今回の軸受は Koy7330で、その内輪の損傷周波数は基準周波数の7.7倍であることがデータベースから確認。実際の復調解析の結果でも、基準周波数の7.7倍の56.8Hzにピークがあることが確認できているため、内輪に損傷があると結論付ける。
- 最終的に、当該ユニットの信頼性と健全性を保証するため、ベアリング交換を推奨
<当該ユースケースは、以下のURLよりダウンロードいただけます>
https://vib.cloud/assets/doc/AnalysingBearingConditionWithVibCloud.pdfこのように、詳細な振動解析を行うことで、設備の状態を把握し、適切な処置を施すことができます。常時監視は基本的に、簡略化した方法で振動データを確認することになるため、詳細分析と同じようなレベルで設備の状態を判断することは難しい場合がほとんどです。常時監視と巡回点検をミックスして、バランスよく設備の状態を判断することが重要です。