MEMS方式加速度計入門
はじめに
MEMSはMicro Electro Mechanical Systemの略であり、半導体の微細加工技術によって製造されたセンサを意味します(この技術によりシリコン上に顕微鏡サイズの機械的センシング構造を作ります。超小型電子回路と組み合わせることによって、MEMSセンサは加速度のような物理パラメータを測ることに使用できます。ICP®加速度計と異なり、MEMSセンサは0Hzまでの周波数(静的加速度またはDC加速度)を測定できます)。PCB®は、静電容量型(以降DC応答加速度計)とピエゾ抵抗素子型(以降MEMS方式衝撃加速度計)の2種類のMEMS加速度計を製造しています。DC応答加速度計は、構造モニタリング、等加速度測定に使われる低レンジ、高感度デバイスで、MEMS方式衝撃加速度計は、衝撃、爆発のアプリケーションで使われる高レンジ、低感度デバイスです。
PCB®のDC応答加速度計は、モデル3711、3713、3741です。PCB®のMEMS方式衝撃加速度計は、モデル3501、3503、3641、3651、3991です。
DC応答加速度計の構造
DC応答加速度計の受感素子は、2枚の平行プレートとその間に下げられた小型のおもりで構成されます。このおもりはリングフレームからのびている片持ち梁の先端に取付けられています。これによりおもりと上下のプレートは2つのエアギャップのコンデンサ構造を形成します。加速度によっておもりが上下に揺れると、1つのエアギャップは狭く、もう1つのエアギャップは広くなり、加速度に比例した容量の変化が生じます。
上下のプレートは、おもりのある受感素子にガラスボンドではりつけられています。これにより、おもりに対して機械的に絶縁されます。また、受感素子全体を密封し保護します。
おもりのサスペンションの堅さを変更することで測定レンジを変更することができます。軽量のおもりと堅いサスペンションを組み合せることで、高い共振周波数が得られます。おもりの動きを制限するメカニカルストップ構造により耐久性を向上させています。
受感素子には、機械的オーバーロードの原因となる高周波共振入力を軽減するために、スクイーズフィルムガスダンピングを使います。これは、おもりが振動による変位量の制限を超える時に発生します。ダンピングによって共振による振幅を減少させることにより、オーバーロードを起こりにくくし、広い周波数に渡って平坦な応答を実現させることができます。ガスダンピングは、温度変化の影響をほとんど受けません。
受感素子は、加速度計の中でブリッジ回路として他の電子回路に接続されています。これにより、コモンモードエラーを抑えられ、線型性が向上します。PCB®のすべてのDC応答加速度計は、高感度出力を供給するコンディショニング回路を含んでいます。この集積回路も、温度によるゼロバイアスと感度誤差を補正します。図1に、DC応答加速度計の構造を示します。一般的に受感素子は、チタンまたはアルミニウムのハウジング内の回路基板にマウントされています。
DC応答加速度計の特徴と使い方
DC応答加速度計のDC応答を活用するためには、収録装置はDCカップリングに設定する必要があります。シグナルコンディショナを電源に使用する場合も、DCカップリングに設定する必要があります。設定の詳細については、製造メーカまたは製品のご確認ください。
DC応答加速度計は静的(等)加速度を測定できるので、加速度計を設置する方向によりDCオフセット電圧は地球の重力の影響を受けます。加速度計の受感軸が重力と同じ方向/向きでないと、出力はPCB®の校正証明書のゼロオフセット電圧と等しくなります。加速度計の受感軸が重力と同じ方向/向きで、出力はバイアス電圧+1gと等しくなります。図2、3に、センサの向きの例を示します。
DC応答加速度計内の電子回路には、電圧レギュレータが入っています。これにより、センサに対して安定した電源を供給可能にします。PCB®は、DC応答加速度計の電源としてシグナルコンディショナ、モデル482C27(4チャンネル)、483C28(8チャンネル)を提供しています。その他の使用可能な電源としては、自動車/船舶のバッテリ、研究室仕様のDC電圧源、低電圧のPCボード電圧電源があります。
ケーブルのシールドは、グランドループ発生を確実に防ぐために片方の端を終端処理する必要があります。一般的に、ケーブルのシールドはセンサハウジングに接続します。絶縁パッド(またはその他の絶縁物)を使ってセンサを計測対象から離した状態で取り付けた場合、シールドはシグナルコンディショナまたはデータ収録器側の信号グランドに接続してかまいません。そうでない場合は、ケーブルのシールドは計測器側においてフローティング(接続しない)状態にすべきです。
これらの加速度計は重要な測定アプリケーションで使用されるため、使用時の測定感度が仕様内に収まっていることを検証されるべきです。加速度計に対する正確な静的校正は、加速度基準として地球の重力を使い実行されます。まず、加速度計を+1gの向きに設置します。具体的には加速度計のベースは取付面側(下側)、モデル番号は上を向くように置きます。(図3を参照)。加速度計は、この向きで+1gの加速度を検出します。DVM(デジタルボルトメータ)でDC出力電圧を記録します。次にセンサを180°反転します。加速度のモデル番号を下にして取付面と合わせます(加速度計の上部が取付け面に接しモデル番号は下をむきます)。この時センサは-1gの加速度を検出します。この状態でDC出力電圧を記録します。最終的に以下の式で加速度計の感度を計算します。
感度= [(+1g) – (-1g)] / 2
MEMS方式衝撃加速度計の構造
MEMSセンサの受感素子は、上下のウエハに挟まれたミドルウエハ上の片持ち梁で構成されています。(図5)これらの片持ち梁のたわみにより加速度に比例した抵抗値変化を起こします。フレキシャまたは慣性マスの剛性を変更することでフルスケールの測定レンジを変更することができます。
上下のウエハは、真ん中のウエハにガラスボンドを使ってラミネートされています。これによりオーバーレンジを防ぐためのメカニカルストップ機能と受感素子を密封する構造を実現しています。MEMS方式衝撃加速度計が大きな衝撃のアプリケーションで使用される場合は、ガスダンピングによって共振の振幅が抑えられます。ダンピングは高周波数成分に対する応答を抑えます。熱の影響を抑えるため、液体ではなく空気が使われます。
受感素子は、ホイートストンブリッジで構成されます。ブリッジ(図6)では、入力された加速度または力が大きくなると2つの抵抗は増加し、もう2つの抵抗は低下します。これらは、それぞれにテンションゲージ、コンプレッションゲージと呼ばれます。これらの出力ラインの電圧差は、励起される電圧に比例します。使用される励起電圧は、校正手順で使用される値と同じであるべきです。
受感素子は、通常チタンまたはアルミニウムのハウジング内の回路基板に取り付けられています。表面に取り付けられているものもあります。表面取付のMEMSセンサは通常、次の組立工程ではんだ付けまたはエポキシで、取り付けられます。図7、8、9は以上の製品例です。
図7. チタンハウジングタイプのMEMS方式衝撃加速度計
図8. アルミニウムハウジングタイプのMEMS方式衝撃加速度計
図9. リードレスチップキャリアによる表面取付MEMS方式衝撃加速度計
MEMS方式衝撃加速度計の特徴と使い方
MEMS方式衝撃加速度計を活用するためには、収録装置はDCカップリングに設定する必要があります。シグナルコンディショナを電源に使用する場合も、DCカップリングに設定する必要があります。設定の詳細については、製造メーカまたは製品のご確認ください。感度は励起電圧に比例するため、MEMS方式衝撃加速度計には定電圧源で電源電力を供給する必要があります。校正された感度値を得るには、校正証明書に記載されている励起電圧を使うことがお勧めです。電源の詳細については、それぞれの製品マニュアルでご確認ください。MEMS方式衝撃加速度計の電源としては、PCB®のシグナルコンディショナ、482C27と482C28が使用できます。
ほとんどのチタンパッケージチタン製のMEMS方式衝撃加速度計は、受感素子に接続された一体型ケーブルが付属しています。ケーブル先端はピグテイル処理されており、ブリッジコンディショナ接続用に仕上がっています。 ケーブル先端はブリッジコンディショナ接続用にピグテイル処理されいます。(図10を参照)。グランド線とケーブルシールドは、グランドループしないように機器側で適切に接続する必要があります。内部アイソレータは、受感素子をハウジングおよび取付面から電気的に絶縁します。
図10. ピグテイール処理された一体型統合ケーブルが付いたMEMS方式衝撃加速度計
MEMS方式衝撃加速度計の検証
MEMS方式衝撃加速度計は、重要な測定アプリケーションに使用されるためのものです。MEMS方式衝撃加速度計の状態に問題かないかどうかは出力オフセット電圧とブリッジ抵抗を調べることで検証されます/確認できます。
出力オフセット電圧の確認方法としては、まず+Excと-Excのリード線を適切な電源に接続します。+Sigと-Sigのリード線は、VDC(直流電圧)に設定した電圧計に接続します。そしてセンサを平坦で水平そして安定した表面に確実にしっかり載るように、加速度計を1gの向きにマウントします。このとき、センサをできるだけ水平で安定した表面上に平坦に載せます(オリジナル修正案)。センサの差動電圧出力を測定します。校正証明書の値と測定されたオフセット電圧を検証します。校正証明書の値に基づき、測定されたオフセット電圧を評価します。
ブリッジ抵抗の検証には抵抗計または抵抗測定に設定したデジタルマルチメータを使用します。センサを平坦で水平な面に載せます。この検証では、励起電圧を印加する必要はありません。入力抵抗は、+Excと-Exc線間で測定されます。出力抵抗は、+Sigと-Sig線間で測定します。校正証明書の値と測定された抵抗値を検証します。校正証明書の値に基づき、測定された抵抗値を評価します。
比較
DC応答加速度計 | MEMS方式衝撃加速度計 | |
---|---|---|
センシング技術 | -超小型のコンデンサ素子 -チタンまたはアルミニウムのハウジング |
-超小型の抵抗素子 -チタンまたはアルミニウムのハウジング -表面取付パッケージ表面取り付けが可能 |
PCB® モデル・シリーズ | 3711 – 構造モニタリング、操縦安定性、グランド振動テスト 3713 – 構造モニタリング、操縦安定性、グランド振動テスト 3741 – 構造モニタリング、操縦安定性、グランド振動テスト |
3501 – 高重力加速度の衝撃/爆破 3503 – 高重力加速度の衝撃/爆破 3991 – 高重力加速度の衝撃/爆破 3641 – 衝突試験 3651 – 衝突試験 |
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