VCカーブ(Vibration Criterion Curve)=振動評価曲線/振動基準曲線 を用いた床振動計測

① VCカーブの重要性

EUVリソグラフィや極精密なエッチング・成膜技術によって推進される半導体デバイスの微細化は、プロセス各工程における寸法許容差を2nm以下の領域にまで押し下げています。こうした厳しい要求下において、環境由来の外乱、特に1~100 Hzの低周波微小振動は、装置性能の時空間的な安定性を脅かす重要なノイズ源となっています。

とりわけ、先端露光装置における高速ウェハステージ、干渉計ベースの計測系、EUVマスクといった構成要素は、ナノメートルレベルでの長時間安定性を前提としており、床構造を通じて伝達される微小振動が、製造歩留まりや露光精度に深刻な影響を及ぼします。この問題への対処として広く採用されているのが、VCカーブ(Vibration Criterion Curve)です。VCカーブは、1/3オクターブバンドの速度スペクトル(RMS)として定義され、測定された環境振動スペクトルとの比較により、対象場所が装置の振動許容範囲に適合しているかを定量的に評価するための基準です。

VCカーブは、VC-A(汎用実験装置向け)からVC-G(量子・ナノレベル装置向け)まで段階的に設けられており、現在では特にVC-D以下の振動レベルが、EUVステッパーやALD装置、極低温検査装置などにおいて事実上の標準要求仕様となっています。

これらの評価には、1 µm/s RMS以下の振動を正確に検出できる高感度・広帯域な計測器が必要です。たとえば、PCB Piezotronics社の393B31型加速度計は、0.000001 g rmsという低ノイズ性能を有し、微小振動の安定した取得を可能にします。

こうした計測技術は、単なる適合性の確認にとどまらず、粘弾性係数計測による構造ダンピング設計へのフィードバック、アイソレーション機構の最適化、建屋・フロア設計の段階での評価指針としても活用可能です。今後、2 nm以下のノードを見据えた製造装置とファシリティの融合において、VC評価に基づく振動制御は、新規ファブ構築はもとより、既存装置更新においても不可欠な要素であり続けるでしょう。

② VCカーブとは?

床や建物の微小振動のレベルを評価するための基準曲線です。とくに以下のような用途で使われます:
  • 半導体製造装置の設置場所の評価
  • 電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)の設置環境
  • 超精密測定機器が正常に動作できるかの確認
具体的には、以下のようなグラフであらわされます。
横軸:1/3オクターブ周波数(Hz)
縦軸:速度振動レベル(mm/s)

振動速度のRMS(実効値)で表されることが多いです。
ランク 振動速度RMS(µm/s) 適用例
VC-A 50 一般的な電子顕微鏡
VC-B 25 精密計測装置
VC-C 12.5 半導体露光装置など
VC-D 6.3 ナノテク装置、AFM
VC-E 3.1 最先端ナノ加工、干渉計
VC-F/G 1.5 / 0.75 最先端の量子・極微細分野の研究環境など

https://colingordon.com/research/evolving-criteria-for-research-facilities-vibration(外部リンク)

③ 測定方法

VCカーブ測定のための試験は、以下のような手順で行います。
1. 加速度データの取得: 高感度な地震計や低ノイズ加速度計で床振動を測定
2. FFTアナライザで振動速度スペクトルを解析: 取得した加速度データを時間で積分します。積分は、加速度を速度に変換するための数学的な操作です。例えば、加速度 a(t) を時間 t で積分すると、速度 v(t) が得られます。

3. 結果をVCカーブと比較して評価: 解析結果をVC曲線と比較して評価します。VC曲線は、装置の振動許容範囲を示す基準であり、測定された振動スペクトルがこの基準内に収まっているかを確認することで、装置の設置場所が適切であるかどうかを判断します。

④ なぜVCカーブの測定が必要なのか

VCカーブの測定は、精密機器の性能を最大限に引き出すために不可欠です。たとえば、VC-D以下の振動レベルが達成できなければ、最先端の半導体露光装置は所定の精度を維持することができません。また、VC-F/Gレベルは、量子コンピュータや干渉計測といった超高精度分野においては基本的な設置要件となります。 仮に建屋の剛性が十分であったとしても、VC-DやVC-Eレベルの振動環境を実現するためには、一般的に以下のような追加対策が推奨されます:

  • 振動アイソレーションを考慮した追加設計:機器の配置や配管の取り回しにおいて、振動源との機械的結合を避ける工夫。
  • 重量物の再配置・分散配置:床にかかる荷重の偏りを調整し、不要な応力や局所的なたわみを低減。
  • 建屋外からの振動源(道路・鉄道など)からの遮断対策:振動源との間に緩衝地帯やダンパー壁を設けるなど、外乱の物理的遮断を図る。
  • 電源・空調などのインフラ設備からの振動抑制:ファン、コンプレッサ、ポンプ類の防振・静音対策や、別室設置による隔離。
これらの対策とVCカーブの定量的な測定を組み合わせることで、最先端研究開発や製造環境にふさわしい振動制御が実現可能となります。

⑤ VCカーブの歴史

VCカーブ(Vibration Criteria Curve)は、1980年代初頭にエリック・ウンガー(Eric Ungar)氏とコリン・ゴードン(Colin Gordon)氏によって開発された、微細振動に対する評価基準です。当初は「BBN基準」として知られ、微細振動に敏感な機器の設置環境を評価するための指標として登場しました。1990年代以降、VCカーブは国際的に広く採用されるようになり、Institute of Environmental Sciences and Technology(IEST)などの組織によって推奨される基準となりました。また、より厳しい振動環境が求められる用途に対応するため、VC-E、VC-F、VC-Gといった追加のカーブが導入されました。これらのカーブは、ナノテクノロジーや高精度計測機器の設置環境評価にも適用されています。

当時、電子顕微鏡や半導体製造装置といった極めて高精度な機器の性能が、設置環境の微細振動によって大きく影響を受けることが問題視されていましたが、当時は高価なFFT機材の入手が困難であったため、安価だった1/3オクターブ分析可能な解析装置を使用した解析方法が提案されたとされております。 考案された当初は VC-A ~ VC-Dまでしかありませんでしたが、技術進歩とともに、より厳しいVC-E、VC-F、VC-Gが提案されるようになりました。

今日においても、VCカーブは以下のような現場で使われています:
  • EUV露光装置の設置(VC-D以下が求められる)
  • 高NA光学系の研究施設
  • 干渉計測装置、AFM、原子操作顕微鏡
  • 大学・研究所のナノ加工ルーム設計
  • 冷却された実験室(量子コンピュータ)など

⑥ 推奨センサ

VCカーブは、ナノスケールの精度が求められる機器の設置環境において、微細な振動レベルを定量的に評価するための重要な指標です。このような微小振動を正確に測定するには、使用するセンサの特性が極めて重要となります。
その中でも**圧電型加速度計(Piezoelectric Accelerometer)**は、VCカーブ測定において信頼性が高く、広く採用されているセンサのひとつです。

タイプ 特徴 代表機種例
圧電型加速度計 高感度・広帯域 PCB 393B31(微振動用)
ノイズフロアの小さいモデルが必要です。

Model 393B31
Sensitivity: (±5%)10.0 V/g (1.02 V/(m/s²))
Broadband Resolution: 0.000001 g rms (0.000009 m/s² rms)

 

■ 高感度・低ノイズ特性

圧電型加速度計は、広帯域かつ低ノイズでの測定が可能であり、VC-DやVC-Eレベルといった微小振動の領域でも安定した計測が行えます。特に1~80 Hz帯域での感度は、他方式と比較して非常に優れています。さらにアンプ内蔵型ICP(IEPE)加速度計を用いれば、外来ノイズによるS/N比の低下を防止できます。
 

■グランドループ・EMI・RFIノイズ耐性、固体・空間伝搬ノイズ防御

ケース絶縁方式は通常、グランドループを回避するのに役立ちます。トランスデューサは地面から絶縁され、EMI/RFIを避けるためにケージで囲まれています。測定チェーン全体が1点(DAQの入力部)のみで接地されます。シールドはグランド接続されており、センサのハウジングのどの部分に触れても、信号グランドにショートすることはありません。
 

■ 周波数特性の広さ

0.1 to 200 Hzの範囲をカバーし、共振周波数も測定対象外の高域にあるため、周波数応答の歪みが少なくなります。

⑦ 参照